異常
「それで、何があったんだい?」
それぞれは、護衛対象であった輸送車の中に集まっていた。
「諸君にはコレを見てもらいたい」
そう言いながら、チューリップ・フランデレンはIDパッドを使い、その場にヴィジョンを表示させる。
それは、スズメ達がディープワンを撃破する少し前の戦闘記録。
フラン先生率いる3騎とロメニア皇国装騎2騎との交戦映像だ。
交差する、フラン先生の装騎シュラークの魔術と、敵ロメニア製装騎ミネルヴァの魔法。
そして、ロズの装騎ロゼルとサリナの装騎ラピスラズリの2騎を相手に善戦する装騎メルクリウス。
その2騎の動きは、装騎に関する技術力では世界一ともいわれるマルクトの装騎に負けずとも劣らない。
「オレ達の装騎が押し負けてる――――!?」
その様子に、ナイツ・ノートレスが思わずそんな声を上げた。
実際、今の今まで、少なくともロメニア皇国製の機甲装騎がこれほどの性能を引き出した例は過去に無く、これほどに苦戦を強いられた事は大敗北と呼ばれた約20年前の出来事以来1度もなかったことだった。
「ロメニアの装騎の性能もそうだが――――ワタシが気になるのはソコじゃない」
「なんだと?」
「ここだ」
フラン先生が、全員に注目を促したその場面。
それは丁度、ディープワンの撃破を確認したその時だった。
不意に、苦しむように、頭を抱え、身をよじらせる2騎のロメニア装騎。
刹那、その体の内から青黒い“ナニカ”が溢れ出し、その装騎を侵蝕していく。
そして、装騎の体はそのナニカに耐えられなかったかのように押し潰され、自壊し、そして、消失した。
騒然とするその場。
そんな中で、フラン先生は言葉をつづけた。
「消失、という点ではディープワンでも同じ現象が起きる」
「あ、そう言えば私たちが倒したディープワンも、その残骸などは残ってなかったですね……」
スズメの言葉にフラン先生はうなずく。
「ディープワンの場合は単純な蒸発にも似た現象が起きる、というのは記録にもあった。しかし、ロメニアの二騎に起こったような現象は記録にはなかった。少し、ここに注目してくれ」
そう言いながら、今度は“その現象”が起きた時の装騎シュラークのモニターの状態が表示される。
「コードD1――――これは、ディープワンを意味する識別コード……か」
「ああ。あの現象が起こった一瞬、2騎の識別コードがディープワンと同じ波長へと変化したんだ」
「つまり――どういうことだ?」
「知らん。そこは国のほうに報告して調査を頼むつもりだ。とりあえず、今回は今起きた事実としての情報の開示と共用ということで報告した」
フラン先生はそう告げると、IDパッドの映像を消し、しまった。
「もしかして、あの2騎が異常な強さを持っていたのも、あの青っぽいナンカの影響――――とかだったりすんのかな……?」
「そうかも知らんし、そうじゃないかも知らん。ワタシ個人的な意見としては、全て関係がある、と思うがな」
「全て、ですか――――?」
ポツリとソレイユが呟いた言葉にフラン先生がそう返した。
「うむ、ロメニア二騎の異常な性能、2騎の中から出てきた青黒いナニカ、そして、ディープワンの存在――――どう関係あるかは知らん。これからはああ言うイレギュラーな装騎が増える可能性も拭えないしな――――とりあえず、今は学園に帰還だ」
「諒解!」
それから、ノートレス騎使団長のチームと別れ、ステラソフィアへと足を進めることになった。
「ここからだと、装騎でミュンヘンまで戻って、そこからマスドライヴァーで帰るのが最短ルート、だな」
「うげぇー、やっぱりアレに乗らないといけないンですかァ!!」
「私は好きですけどねー。なんかアトラクションみたいで楽しいです!」
「まぁ、スズメちゃんはよく跳ねるしああいうの平気そうだよね……」
“ちょっとした”非日常から、また日常へと戻っていく彼女達。
明日からまた変わらぬ生活が待っているのだろう。
彼女たちはまだ知らない。
この世界に響き渡る、軋みが段々と大きくなっていっていることに。
オマケ
ステラソフィア・キャラクター名鑑
元ステラソフィア生:チーム・サザンクロス出身
ステラソフィア女学園機甲科講師
名前:Tulip Vlaanderen
読み:チューリップ・フランデレン
生年月日:聖歴138年9月11日
年齢:29歳(4月1日現在)
出身地:マルクト国神都カナン
身長:167
体重:65kg
使用装騎:PS-M-Z2S:Schlag(ベース騎PS-M-Z2:Zabaniya)
好みの武器:14mmマジックリボルバー・フラーメブリット・ロングバレルタイプ
ポジション:コマンダー
ステラソフィア高等部機甲科の第十一期生で、ステラソフィア実地訓練に於ける、監督講師。
クールでがさつでやや近寄りがたい所があるが、甘いものに目が無いと言う一面もある。
スズメちゃんの師匠であるプラモ屋のお姉さん、ブリュンヒルド・レミュールの親友であり、ニーベルング・レイニとも同期。
趣味は装騎の整備と手入れ。
個人的な声のイメージは井上喜久子さん。




