奇襲
「すごい――――流石は国軍の騎使!」
ツバサ達の援護を受け、ギガスひしめく中央の戦線から離脱し、ナイツ・ノートレス率いる装騎チームの背後に着きながら、その戦い振りにスズメは思わず感嘆の声を漏した。
ナイツ・ノートレスのチームは、3騎編成で装騎ノートレスを先頭に逆V字型でギガスの群れの中を突っ切っていく。
先頭を行くノートレスがその手に持った超振動型両刃剣カリバーンでギガスのボディを一閃。
しかし、その鋭い攻撃でありながらも、ギガスは機能を失わない。
だが、ノートレスの1撃で抉り取られた胸部には、真紅の核が剥き出しになる。
そのコアを、後続の2騎が破壊。
コアが破壊された事で、ゴーレムを制御する魔力が解き放たれ、そのギガスはその機能を停止する。
それだけ、ナイツの護衛チームのチームワークは抜群だった。
「スズメちゃんはゴーレムと戦うのは初めてだよな?」
「は、はい――――!」
「ナイツ騎使隊長チームの戦い方を見てれば分かるが、ゴーレムは胸部中枢にある魔力塊を破壊しないと機能を停止させられない。ゴーレムの胸部装甲は特に硬ぇ上に、修復機能もあっから、ああいう連携攻撃が基本戦術になるんだぜ」
「なるほど……」
「そんじゃ、オレらも一丁やりますか!」
「は、はい! ソレイユ先輩!!」
魔力で造られ、ただ単純な目的を遂行するためだけに動く魔導式ゴーレム。
そのゴーレムはナニモノをも恐れない力と、そして、『弱点』以外であれば、どの部位を破壊しようとも周囲にある物質を利用して修復する驚異的なタフさを持っている。
その弱点が、胸部中枢に存在する真紅色の魔力の塊――――コアということだ。
ナイツチームに続きながら、スズメとソレイユも、ギガスへと攻撃を加える。
ソレイユの装騎セイクリッドが、オリエンタルブレードによる素早い斬撃で正面から来るギガス数体を一気に切り刻む。
そして、剥き出しになったコアを、スズメの装騎スパローがウェーブナイフの的確な1撃で、次々と沈めていく。
しかし、ギガスの数は一向に減る様子がない。
「クッソ、敵の装騎は2騎しか居ないんだろ!? それなのに、こんなにゴーレムを造れるなんて敵の魔力――――一体どうなってるんだ!?」
ソレイユの言う通り、敵の数に比べて、ゴーレムの数が異常に多い。
それも、そのゴーレムはどれもA級相当の上質なゴーレムだった。
それだけのゴーレムを、大量に造りだすにはそれだけ膨大な魔力と、集中力が必要となる。
特に、これだけ一気に製造すれば魔力がすぐにでも尽きていておかしくないのだが……。
「よし、そろそろ脇を抜けて敵を背後から叩くぜ」
「諒解です!」
「よし、そんじゃあスゥジィ! ルート情報を――――」
『あ、あ、そそれならコッチで考えておきましたよっ!!』
『えっ!?』
「ヒバリちゃん!?」
ソレイユが、自身のパートナーである技術科4年ファイブリル・スゥザンに、奇襲用のルートを出してもらおうとしたその時、スズメのパートナー、コクテンシ・ヒバリがそんなことを口にする。
『敵の索敵有効範囲外から尚且つ素早く回り込めるようなルートで行くのが良いんですよね! それなら大丈夫ですバッチリですガッツリです。今からルート情報送ります! えっと、今いるのはD地点ですね。ハイ送ります送りました!』
「あ、来た来た有難うヒバリちゃん!」
「本当だ、丁度今いる地点からだな。用意良いな……1年生だよな」
『敵の背後に回って奇襲するのがやっぱり妥当ですし横道に行きそうな地点を予測してその前後をAからJまで区域分けしてからそれぞれ有効的なルートを算出していたんですよ!』
「ほ、本当に用意周到だね……」
「スゥジィもこういう所は見習った方が良いかもな」
『うぅー』
『そそそそれで先輩方から見て何か指摘とかあればあればワタクシめに!』
「いや、これでイケそうだ。なぁスゥジィ」
『うん――――悔しいくらいよぉ……』
「それじゃあ、ソレイユ先輩!」
「ああ、行くぜスズメちゃん――――!」
スパローとセイクリッドは、装騎ノートレスの背後を離れると、ルートに沿って道を逸れた。
「ツバサ先輩達は大丈夫なんでしょうか……」
「大丈夫さ――――先生だってついてるしな」
一方、輸送車を護衛しているフラン先生率いるステラソフィア勢も順調にゴーレムの数を減らしていた。
「よっしゃ、行こうかぁ!」
「ひゃっはぁぁあああああ、蹴って蹴って、蹴りまくるんですよォ!!!!」
スズメとソレイユの援護を終えたツバサとマッハが、ゴーレムを背後から打倒しながら輸送車の護衛に戻ってくる。
ツバサの駆る装騎スーパーセルがその手に持ったチェーンブレードで、ギガスの胸部装甲を抉り取る。
そして、コアが剥き出しになった所にマッハの駆る装騎チリペッパーが頸部のレーザーブレードに光を灯し機能を停止させていく。
「あのヤローには負けないのですよっ!!」
張り切るマッハに負けじと、ミズナの装騎ミルキーウェイが走る。
「ロゼちゃん! サポートお願いするのですよ!」
「はいはい、分かったわよ」
ロゼはそう言うと、装騎ロゼルの手に構えたロゼッタハルバートを振り回し、複数のギガスの胸部を一気に抉り取る。
そして、そこにミズナの装騎ミルキーウェイが25mm炸薬砲ブラウシュトゥルムを撃ち込み、確実にギガスの数は減っていく。
輸送車を護衛しながら、サリナの装騎ラピスラズリが接近してきたゴーレムをウェーブシャムシールで切り裂き、その隙を狙ってチャイカの装騎スネグーラチカがスナイパーライフル・リディニークの魔力銃撃で的確に撃ち抜く。
そうしながら、ラピスラズリが他の装騎のサポートに入ったり、撃破し漏らしたギガスが修復を完了する前にスネグーラチカがスナイパーライフル・リディニークで撃ち抜き機能を停止させるなどと順調にことは進んで行っていた。
「ふむ、順調のようだな――――これで先行部隊が敵の装騎を撃破してくれれば問題ないが――――」
「フラン先生! 輸送車を背にして9時の方向から敵影ですわ!」
「何だと!?」
不意に、チャイカが告げたその言葉。
フラン先生がレーダーへと目を向けると、チャイカの言葉通り、側面から急速に接近する二騎の装騎の姿があった。
「テレシコワ・チャイカ! 接近する装騎の騎種は!?」
「――――|ロメニア皇国製機甲装騎のナンバー3とナンバー5――――標的のメルクリウス、ミネルヴァですわ!」
そう、側面から接近してくるのは、本来、標的とされていたロメニア皇国製の装騎、SC3メルクリウスと、SC5ミネルヴァの2騎だった。
「ナイツ達が向かった方に反応は?」
「有りますわ。騎種識別は出来ませんが、装騎の反応が2つ」
「と言うことはどちらかが伏兵――――? それ以前にヤツらは何故探知を逃れて――――いや、それよりも、何故こちらを狙ってきたか、か……」
一瞬、そう考える様な言葉を漏らすが、すぐに頭を振ると、フラン先生は告げた。
「テレシコワ・チャイカ、周囲の魔力を感知してくれ」
「魔力を感知、ですか? ――――やってみますわ」
今回の、敵装騎の急接近は、いくら、シャダイコンピュータとのリンクが完全では無い辺境地域とはいえ、その探知を欺きここまで近付いてきたのは今まででは無かったことだった。
その事から、フラン先生は新入生歓迎大会でチーム・ウィリアムバトラーの2年モード・ヘレネが見せた『波力障壁』ような、魔力による探知波の無効化を行ったのではないかと考えた。
しかし、そういう魔術を使用したステルスは、探知波による波でのサーチは不可能なものの、魔術を使用する際は特殊な波紋が放出されるため、その波を受け取る事で魔術の使用を感知――――この場合は、魔術的なステルス技術を用いた敵の存在を伺い知る事が可能となる。
「12時の方向から魔力波の反応――――恐らく、このゴーレムを製造している敵の魔術使からですわね――――それ以外は、何も魔力の反応も無いですわ」
「と、言うことは今判明している4騎以外の伏兵は考えられない、か――――分かった。敵の装騎に対して迎撃に出る。ディアマン・ロズ、エレナ・ロン・サリナは私に続け」
「あたしもですか!?」
「ああ、お前もだエレナ・ロン・サリナ。正直、カスアリウス・マッハとツミカワ・ミズナは使えん」
「使えんって何だ――すかァ!!!」
「そうなのですよ! マッハはともかく私は使えるのですよ!!」
「とっとと行くぞ――――ここの指示はワシミヤ・ツバサに任せる」
「諒解!」
そして、フラン先生の装騎シュラークに続き、ロゼル、ラピスラズリが敵装騎の迎撃に出る。
「全く、初っ端の実地戦からこんなゴチャゴチャか――――」
未だに輸送車を狙い、侵攻してくるギガスを屠りながら、ツバサが呟いた。
「居たな――――ディアマン・ロズはメルクリウスを、ワタシはミネルヴァを抑える。エレナ・ロン・サリナは援護だ。いいな?」
「諒解っ!」
加速するロズの装騎ロゼルとフラン先生の装騎シュラーク。
その2騎が先頭を行くV字型の陣形を組み、敵、ロメニア皇国の装騎二騎と接触した。
「正面からマルクトの装騎が来ましたよ」
「おう、前情報によると――――リボルバーみたいな武器を持ってんのが教官騎、だっけか」
「そうだね。あの装騎は魔術騎だ。僕が行くよ」
「ああ、任せたぜ!」
「あとは手筈通りに」
ロゼルとシュラークを待ち構えるように、武器を構えるメルクリウスとミネルヴァ。
二騎がその手に持っているのは、ロメニア皇国軍の採用ライフル7mmレールライフル・カルカノ。
それに加え、メルクリウスは振動溶断型スパタを装備しているようだった。
「正面から戦う気なのか――――!?」
フラン先生が驚きの言葉を口にする。
だが、それも当たり前だ。
マルクト国の技術レベルは他国と比べ抜きんでており、装騎や銃器といった兵器製造技術はマルクトの方が上。
他国が使っているような銃器では、マルクト国の装騎の装甲を構成するセラドニウムには軽い傷しかつけられず、近接武器での攻撃であればダメージが見込めるが、機動性なども段違い。
子どもが大人を相手にするようなものだ。
そうでありながら、数的にも不利であるというのにロメニア皇国製装騎の二騎は正面から迎え撃とうとしているようだった。
「これは――――罠、なんですかね?」
「分からん――――が、奴らが強気なのは確かに気になるな。気を抜くな」
パパパパパ!!
メルクリウスとミネルヴァが7mmレールライフル・カルカノを撃ち放つ。
銃弾の雨が先頭を行くロゼルとシュラークの装甲を叩くが、軽い音を響かせて弾かれるだけ。
「ダメージは許容値――――だが、ダメージが今までの統計値と比べて高い……? 新型のリアクターでも搭載しているのか……?」
不意に、正面からぶつかろうとしていたメルクリウスとミネルヴァが素早い動きで、弾けるように二手に分かれた。
その2騎で、ステラソフィアの3騎の側面から襲うような形だ。
「早いっ!?」
ロズが驚きの声を漏らした。
「聖霊ミライフォルに我が意を奉る――――」
不意に、ミネルヴァの周囲に霊力の揺らぎが集まる。
「響け、響けよ――――『ムーロ・ディ・フォーコ』」
刹那、突き出したミネルヴァの左腕を起点とするように、揺らめく炎が放たれた。
「ロメニアの火炎魔導か――――ふん、魔力障壁だッ!」
強烈な広範囲攻撃火炎属性の上級魔法ムーロ・ディ・フォーコ。
魔導と言うものは厄介なもので、いくら強力なマルクトの装騎と言えど、魔力攻撃であれば大破してしまうこともある。
ことさら、上級魔法となると尚更だ。
しかし、フラン先生も魔術使。
魔術適性者用装騎PS-M-Z2ザバーニーヤをベースにした装騎シュラークが魔力の壁を放ち、燃える炎の壁を抑え付ける。
その瞬間を狙い、メルクリウスがその機動性を発揮し、振動溶断型スパタを構え斬りかかってきた。
「先生っ、危ない!」
その一撃を、ロゼルの手にしたロゼッタハルバートが受け止めた。
ロゼルが振り払ったロゼッタハルバートと、装騎ラピスラズリの援護射撃をメルクリウスが回避する。
「俺の一撃を防ぐ―――!? スマン、F2! しくじったぜ……」
「へえ――――L3がしくじる? 学生だからって甘く見過ぎたかもね」
そんな言葉をかわすロメニア勢に対し、ステラソフィア勢の間にも驚きの声が響いていた。
「何、今の動き――――ロメニアの装騎の動きじゃ、ないわ!」
「デ、データ解析――――あらゆる予測性能値がシャダイ・データベースの保存数値を上回っています。それに――――」
チームの援護をしながら敵騎のデータを収集していたサリナがその結果を報告する。
「どうした――――?」
「――――変な、ノイズが――――――」
「ノイズ、だと?」
「よく、分からないですけど……」
「そのデータも送っておけ」
「はいっ」
「次はコッチの番だ――――っ」
装騎シュラークが、右手に握った14mmマジックリボルバー・フラーメブリットに手をかける。
装弾数は少ないが、小型で小回りの利く旧型の回転弾倉式のハンドガンである14mmリボルバー――――その魔術適性者向けに魔力伝導効率を上げた銃に魔力を流す。
「第壱異能・炎花――――フォイア!!」
魔力が銃弾に封じられた術式を起動させる。
そして、魔力を帯びた弾丸が、赤い光を纏い――――放たれた。
テレシコワ・チャイカが普段使うような、銃弾を魔力の集中先として魔力攻撃を行う銃撃魔術と違って、丁寧に構築された技術としての魔術として使用される本物の銃撃魔術。
それは、力任せに魔力をぶつけるマルクトの魔術と違い、丁寧に編み出された他国の魔術の考えを基礎とした魔術だ。
チューリップ・フランデレンは、『本物の』魔術銃使だった。
「炎の魔術――――なら、聖霊リュクシェールに我が意を奉る――――鳴らせ、鳴らせよ――『カステーロ・ディ・アクア』」
だが、対するミネルヴァを駆る騎使も、魔術使――――いや、魔法使であった。
この世界に存在すると言われる4柱の上位存在である『創世の聖霊』から力を借り、その力を持って異能の力を発揮する技術――魔法。
その技術を行使するのが魔法使と呼ばれる存在だった。
「何っ、水属性の魔導――――!?」
シュラークが放った炎の弾丸が、まるで城のように聳え出でた水に阻まれる。
「ヤツ――二重適性者か――――」
「うおー、F2スゲー!!! 二つの属性に適性を持ってる魔導使は稀だかんなぁ! 敵もきっと驚いてるぜ!!」
「わかったからL3もさっさと他の2騎潰してよね――――そろそろ時間切れだしさ」
「おっと、そうだったな――――行くぜェ!!!!!」




