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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
はじめての実地戦
59/322

はじめての出撃

4月30日木曜日。

いつも通り、授業を受けているその最中、その時は訪れた。

不意に、校舎に鳴り響いた荘厳なBGM。

それと共に、1つの放送が入った。

『緊急! 緊急! ただいま、マルクト国軍事部から出動要請が入りました。必要隊数は2。チーム・ブローウィング、チーム・バーチャルスター、のメンバー及びサポートチームは出撃準備をお願いします。繰り返します……』

「こ、これは――――!?」

突然の放送に驚くスズメ。

スズメは慌てて、サリナとイザナへと顔を向けると、その2人は静かに頷く。

「出撃命令、ね――――サエズリ・スズメ、エレナ・ロン・サリナ、今の放送は聞いたわね? 3人はすぐに緊急エレベーターで地下のブリーフィングルームまで行きなさい」

「「「諒解!」」」

ウィンターリア・サヤカ先生の言葉に3人は頷く。

「緊急エレベーターの場所は分かるかしら?」

「あ、いえ――――初めてなので――――」

「SIDパッドあるでしょ? 出撃命令がかかったチームメンバーのSIDパッドには、最寄りの緊急エレベーターの場所が表示される。それを参考にすると良いわ」

「はい!」

「それじゃ――――気を付けて行って来なさい」

「わかりました!」

サヤカ先生の言葉にそう返すと、スズメとサリナはSIDパッドが示す緊急エレベーターへと足を進めた。

校舎の端に、その緊急エレベーターは存在していた。

扉のスイッチにSIDパッドをかざすと速やかにエレベーターが降りてきて、その扉が開かれた。

エレベーターに乗り込む2人。

2人はそのまま、ステラソフィアの地下へと降りていく。

扉が開いた先は、何処かへと続く通路が続いていた。

「この先がブリーフィングルーム、らしいわね」

サリナと共にその通路の先へと行くと、1つの開けた部屋へとたどり着いた。

「お、やっと来たな――――!」

そこにはもう既に、ブローウィングとバーチャルスターの先輩達の姿があった。

「すみません! 遅れてしまったみたいで――――」

「構わん。まだ余裕はある――――」

スズメの謝罪に答えたのは、眼鏡を掛けた赤髪の何処か鋭い眼差しをした女性だった。

「とりあえず、そこに座れサエズリ1年、エレナ1年」

その女性に促されるまま、スズメとサリナは椅子へと腰を下ろす。

すると、不意にグゥィィィイイイイインと駆動音が鳴り響き、その部屋が動き出した。

「な、なな、何ですか!?」

「部屋が――――動いてる……?」

「このブリーフィングルームは機関車になっている――――このまま地下の輸送ルートを通って学園都市の中央まで移動をする。そこから、作戦領域まで射出することになる。詳しいことは後で調べておけ」

「え? 射しゅ――――?」

「1年もいる事だし、名乗っておこう。ワタシは実地任務担当教師のチューリップ・フランデレン。フランと呼べ」

チューリップ・フランデレンと名乗った彼女はクイと眼鏡を上げながら、ブリーフィングルームに備え付けられたモニターへと何かを表示した。

「今回の作戦は緊急任務だ――――」

「緊急? 敵襲、って事ですか!?」

ソレイユが驚いたように、フラン先生へと問いかける。

それに、フラン先生は頷いた。

「そうだ。ミュンヘン市の南東部で、整備作業をしていたチームがロメニア皇国騎に襲われた」

「ロメニア皇国――――マルクトの南側にある国ですわね」

ティレニア海、アドリア海周辺を領地とし、隣国でありエーゲ海周辺を領地とするヘレーニア共和国と同盟を組む、反マルクトの体勢を持つマスティマ連邦派の国だ。

「元々護衛として付いてた国軍のお陰で整備チームの被害は少ないそうだが、相手は多数のゴーレムを使い魔として操る魔術使系のチームらしく、数の多さに手をこまねいているらしい。そこで、数の補充として我々に召集がかかった」

「それじゃあ、作戦は相手の全滅――――もしくは撤退、って所ですかね?」

「そうだな――――だが、間をおいて再襲撃されると厄介だ。可能な限り、使い魔を操ってると思われる敵指揮官騎は確実に撃破してもらいたい。それで、現時点で確認されてる敵装騎だが――」

モニターに表示されたのは二体のロメニア製機甲装騎。

「これは――――! SC5ミネルヴァ! それに、PS-Hヘルメシエルの元になったと言われる装騎の1つ、SC3メルクリウスですね!!」

魔術適性者でも無理なく魔術を行使できるように調整された、バランスの良い戦闘用装騎SC5ミネルヴァ。

そして、高機動軽装甲というPS-Hヘルメシエルとよく似た特徴を持つSC3メルクリウス。

マルクト国の装騎ヘルメシエルは、このロメニア皇国のメルクリウスと、隣国ヘレーニア共和国の装騎エルメスから着想を得て作られたと言う。

「と、言うことはゴーレムを操っているのはミネルヴァの方だと考えるのが妥当、ですよね!」

「そうだな。基本的な性能で言えば、我がマルクトが圧倒的だが、魔術騎は不条理なことをやらかしたりする――――くれぐれも注意をする事だ。メルクリウスの方も魔術使じゃないと言う保証は無いしな」

ガコン!

不意に、ブリーフィングルーム全体を揺れが遅い、その動きが止まった。

「中央についたか――――」

ブリーフィングルームを内包する地下鉄は、ステラソフィア学園都市中央――その地下へとたどり着いた。

「作戦内容の確認をする。今回の作戦は、襲撃を受けている環境整備チームの援護とゴーレムの殲滅。及び、ゴーレムを操っていると思われる2騎の装騎の撃破だ。作戦地域はまだ、シャダイコンピュータとの通信設備が完全には整えられてない為、装騎の稼働に支障は無いが、TPV機能のスキャン速度が遅くなる可能性がある。敵の総数も完全には把握し切れてない」

「つまり、あの2騎の装騎以外にも伏兵がいる可能性がある――って事ですか?」

「そうだ。警戒は怠るな」

「諒解!」

「それでは――――行くぞ」

スズメ達は、それぞれ自分の機甲装騎に乗りこみ、起動手順をこなす。

「騎使認証クリア、霊子伝達接続――正常、バッテリー残量――問題なし、霊子抽出開始――アズル・リアクター稼働――アズルの生成開始――――アズル出力安定――――――スパロー、異常なし!」

それぞれが異常の無いことを伝え、出撃の準備が整った事が全員に伝わる。

ふと、スズメはスパローのサブディスプレイに表示されたマップへと目を向けた。

「ここは――――中央公園の地下――――――ですか?」

そう、今、スズメたちがいるのは学園都市中央に存在する中央公園。

その地下だった。

「そうだよ。ここから目的地まで飛んで行くんだ」

「と、飛ぶ――――?」

「ああ――――なーに、すぐに分かるって」

出撃準備を済ませたスパロー、スーパーセル、スネグーラチカ、チリペッパー、セイクリッド、ロゼル、ミルキーウェイ、ラピスラズリ――――そして、フラン先生の装騎シュラークが弾丸のような形状をした輸送機クーゲルへと収納された。

「全騎収納完了――――ダーウィーズの稼働準備を急げ!」

「諒解――――ダーウィーズ、稼働準備します!」

フラン先生の言葉をオペレーターが復唱し、作業員達がダーウィーズと呼ばれるソレの稼働準備を始めた。

ダーウィーズ――それは聖書に登場する人物ダビデの名に因む、ステラソフィア学園都市中央公園のシンボル的存在である巨大な日時計の地下に設置された長距離輸送用の電磁誘導投射砲――――マスドライヴァーの名称である。

「中央公園周辺からの都市民の退避を確認! マスドライヴァー・ダーウィーズ――――起動します!」

日時計が真っ二つに割れ、その下から巨大は銃身が現れる。

「シャダイコンピュータより、飛行ルートのデータが送られてきました! インプットします!」

シャダイコンピュータの演算能力により、作戦地域までの的確な飛行ルートを算出。

それを受け、その砲身を空へと傾けたダーウィーズの弾倉に、計9騎の装騎を搭載したクーゲルが装填される。

「マスドライヴァー・ダーウィーズ――――クーゲルの射出準備完了」

「わかった。各自、衝撃に備えろ――――」

「諒解っ」

「クーゲル、射出します!」

瞬間――――マスドライヴァー・ダーウィーズの銃身に魔電霊子の迸りが走る。

その力によって、クーゲルが急激に加速――――――そして、撃ち放たれた。

撃ち放たれたクーゲルは放物線を描き、凄まじい速度で空を切り裂き目的地であるミュンヘン市南東部へその弾頭を向けた。

急激に上がった高度が、今度は急激に落ちていく。

400km程あるその距離を一気に詰め、ミュンヘン市上空を通過――――そして、その郊外にある交戦地区付近へとクーゲルは姿を現した。

「あれは――――増援!! 隊長! ステラソフィアからの増援です!」

「ステラソフィア――――? 学生か…………良いねぇ! なんて愛国心に溢れる子達なんだ!!!」

今回の護衛チームの隊長の男性――その名をナイツ・ノートレスと言った。

機甲装騎を操る腕と、国を愛する心は人一倍強いのだが、直情的で正義感溢れる言動から、上層部からは煙たがられている。

整備チームのものと思しき巨大な輸送車の周りを装騎より一回り大きいロメニア皇国のゴーレム――ギガス十数体が取り巻いている。

ナイツはPS-M5ミカエルをベースにした装騎ノートレスを駆りギガスを屠りながら、ステラソフィア生の増援に笑みを浮かべる。

不意に、クーゲルが空中でバラバラに弾け飛ぶ。

その中から、パラシュートパックを装備した9騎の装騎が飛び出し、傘を開いて大地に降り立った。

「ウェロロロロロォォオオオオオオオ!!!!!! ヤダ――――吐く、吐くんですよォ……」

「そ、そういえばマッハ先輩って浮遊感が嫌いでしたよね……」

「やぁ、我らがマルクトの愛国者パトリオット諸君!! よく来てくれたね」

「チッ――――護衛チームのリーダーはノートレスだったのか…………」

「そういう君はチューリップ・フランデレン! そうか、ステラソフィアは君の管轄だったな! いやぁ、心強い!」

「誰、ですか――――?」

親しげにフラン先生へと話しかけるナイツ。

その様子を聞きながら、スズメがツバサへと問いかけた。

「ああ、確かマルクト国軍のナイツ・ノートレス騎使隊長だ。以前、何かの実地戦で1,2回くらい会ったことがある。フラン先生とは古馴染らしいね」

マルクト国軍では下から、一般兵扱いとなる『下等騎使』、『上等騎使』。

チームリーダー以下を務める『騎使長』、隊長以下を務める『騎使隊長』、それよりも大きな組織を直接指揮する『騎使団長』。

それに軍部高官となる『御前騎使』、『四大騎使』の計7つの階級から構成される。

基本的には全ての決定権や作戦立案をシャダイコンピュータが持っている為、特に、実際の戦場に出ない御前騎使、四大騎使のような階級分けは必要としないが、形式上であったり、社会的な体裁として必要な為、そのような階級が設定されている。

ちなみに、ウィンターリア・サヤカやチューリップ・フランデレンと言ったステラソフィア講師は有事の際にステラソフィア生徒全体の指揮を執るために基本的に騎使団長の階級を持つものが多い。

「それじゃあ、ステラソフィアの諸君には整備チームの援護を頼むよ。その隙にオレ達が敵のリーダーを叩くからさ!」

「おいおい、お前らだけで大丈夫なのか? ワタシが着いて行ってやってもいいんだぞ」

ナイツの言葉を信用できないのか、フラン先生がそう尋ねるが、

「大丈夫大丈夫! 仮にもマルクトの騎使なんだぜ――――これ以上的を寄せ付けないさ」

「以上だ、ステラソフィア諸君聞いたな? 我々は一先ず整備チームの援護を行う――――が」

「が?」

「サエズリ・スズメ――お前は遊撃手コマンドーだったな?」

「え、あ、はい!」

「ディアマン・ソレイユと共にナイツ達の後を追い駆けろ――――敵に奇襲をかけてやれ」

「ええっ!?」

「『ええっ』は認めん。返事は『諒解』だ!」

「りょ、諒解!」

「なーに、ソレイユが一緒なら大丈夫さ――――スズメちゃん、行って来い!」

「大船に乗ったつもりでってな! 行くぜスズメちゃん!」

「よろしくお願いします!!!」

セイクリッドが先を行き、その背後をスパローが着いていく。

「よし、ワシミヤ・ツバサ、カスアリウス・マッハはサエズリ・スズメとディアマン・ソレイユの援護を」

「諒解!」

「ディアマン・ロズとツミカワ・ミズナ、エレナ・ロン・サリナはワタシと共に輸送車周辺でゴーレムを抑える。テレシコワ・チャイカは周辺の警戒と各騎のサポートを頼んだぞ」

「諒解っ」

遥か後方で、魔術使によって生み出され、その数をじわじわと増やしながら迫りくる複数のギガス。

そんなギガスの群れを目にして、フラン先生は呟いた。

「それでは――ミッション・スタートだ」

オマケ

ステラソフィア・キャラクター名鑑

挿絵(By みてみん)

3年:サポートチーム第3班所属

名前:Floresia Mallard

読み:フローレシア・マラード

生年月日:聖歴150年10月10日

年齢:17歳(4月1日現在)

出身地:マルクト国神都カナン

身長:155cm

体重:55kg

私立テレシコワ女学園出身。

テレシコワ女学園理事長の計らいで推薦を出してもらい、無事、技術科に合格した。

理事長の娘で、同期のテレシコワ・チャイカとは昔からの馴染み。

趣味は水泳。しかし、あまり泳ぎは得意じゃない。

個人的な声のイメージは遠藤綾さん。

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