逆境に吹く風
「行きますわ――魔力、銃撃!!」
接近1発。
チャイカの装騎スネグーラチカの銃口が閃き、魔力を帯びた弾丸が放たれた。
ソレイユの装騎セイクリッドと、サリナの装騎ラピスラズリは軽々と魔力銃撃を回避すると、セイクリッドがオリエンタルブレードを構え、前に踏み込んでくる。
その1撃は、スネグーラチカを狙ってのものだ。
「行くぜぇ! 抜刀――――一閃!!!」
素早く、まるで光のように閃いたセイクリッドの持つオリエンタルブレード。
その刃はスネグーラチカを捕える――――より先に、それを受け止める影があった。
ツバサの装騎スーパーセル。
そのチェーンブレードだ。
ギギギギギィィィイイイイ
スーパーセルのチェーンブレードと、セイクリッドのオリエンタルブレードが激しく火花を散らしながら鍔迫り合いをする。
その隙に、後ろに下がったスネグーラチカが、スナイパーライフル・リディニークを構えた。
「行きますわ――――」
ダン! ダン!
激しく火花を散らしながら、斬り合いをするスーパーセルとセイクリッド。
そんな2人に向かって、スネグーラチカはスナイパーライフル・リディニークのその引き金を引いたのだ。
「何だとッ!?」
その弾丸は正確にセイクリッドの装甲を削る。
激しく動くセイクリッドを、同じく激しく動くスーパーセルの背後から正確に射撃してみせたのだ。
「必殺影撃ち――――なんちゃってですわ」
「サリナ――――!」
「分かってます!」
タタタタタタとラピスラズリの10mmストライダーライフルがスネグーラチカに向かって撃ち放たれる。
「来ましたわね!」
その銃弾を、魔力障壁で防ぐスネグーラチカ。
ラピスラズリはその隙に10mmストライダーライフルを左手に持ち直し、ウェーブシャムシールを右手に構えた。
ウェーブシャムシールにエネルギーが供給され、その刃が振動を始める。
ラピスラズリは左手で10mmストライダーライフルを撃ち放ちながら、その身を捻り、スネグーラチカの背後を狙う。
「行きます!!」
「魔力、剣撃!」
ガギィィイイイン
ラピスラズリのウェーブシャムシールと、スネグーラチカの魔力剣撃がぶつかり合う。
各所で、刃と刃がぶつかるような音が響く。
スーパーセルとセイクリッド、スネグーラチカとラピスラズリ。
その激しい剣戟が繰り広げられる。
そんな最中、不意にスーパーセルがその左腕をよそへと向けた。
「何をする気だ――?」
「へへっ、行くぞスーパーセル! 行くぞチャイカ!」
「諒解ですわ!」
スーパーセルの左腕のワイヤーアンカーがラピスラズリに向けて放たれる。
「ひぇ!? ソレイユ先輩っ」
そのワイヤーアンカーはスネグーラチカと交戦していたラピスラズリの右腕を絡めとる。
「いっけぇ! ラピスラズリブレイク! なんてな」
グッとラピスラズリはスーパーセルのワイヤーアンカーに引かれる。
そのラピスラズリはセイクリッドに向かって叩きつけられた。
「うげっ、そう来るのかよ!?」
ラピスラズリがセイクレッドに叩きつけられ、体勢を崩した瞬間、スーパーセルは右腕のワイヤーアンカーを手近な木に刺し、急速回避。
その瞬間――
「魔力、砲撃ですわ!!」
スネグーラチカのスナイパーライフル・リディニークから激しい魔力の波が撃ち放たれた。
「やったか!?」
「――――いえ、まだ、ですわ!!」
魔力砲撃の波が過ぎ去った後――――だが、そこにセイクリッドとラピスラズリの姿は健在だった。
ラピスラズリの左腕を一体化するかのように装備された霊子シールド・アズライト。
そこから霊子の力があふれ出し、バリアフィールドを形成していた。
「あぶねーな! ラピスラズリにシールドが無かったら即死だったぜ」
「死にはしませんけどね」
「サリナさ、ちょっとロズに似てきたか……?」
「ええ!? そんなこと無いです!! まぁ、ロズ先輩みたいになれるならそれはそれで……」
「お、おう……」
そんなことを言い交しながらも、素早く体勢を立て直すセイクリッドとラピスラズリ。
「流石にあの程度じゃ獲れねーか」
「流石はバーチャルスター――ってことですわね――」
「チャイカ――次、頼むぞ!」
「ええ――――魔力、散撃!!」
セイクリッドとラピスラズリに向かい、魔力を放つスネグーラチカ、
「来るぜ、サリナ!」
「はい!!」
「さて――――そろそろ本気を出してみる頃合い、かな?」
放たれた魔力は散弾のように弾け飛び、セイクリッドとラピスラズリを襲う。
そんな魔力の波を、セイクリッドはオリエンタルブレードを閃かせ、ラピスラズリは霊子シールド・アズライトのバリアフィールドで防ぎきる。
スネグーラチカの1撃が、一瞬相手の目を暗ましたその間に、スーパーセルはワイヤーアンカーを巧みに使い、素早く木々を移り渡り、セイクリッドとラピスラズリの背後へと回り込む。
閃くスーパーセルのチェーンブレード。
その動きにセイクリッドは全く反応する素振りは無かった――――が、
「何ッ!?」
「斬――――!!」
スーパーセルのチェーンブレードがセイクリッドを捕えんとする瞬間、不意に、くるりとセイクリッドを体ごと回転させると、オリエンタルブレードをスーパーセルへと閃かせた。
「カウンターかっ!!」
「貰ったぜェ!」
「危ないのですわっ!!」
セイクリッドの刃がスーパーセルを切り裂かんとした瞬間、スネグーラチカの銃口から魔力の奔流が放たれた。
それは、魔力を弾丸に乗せた銃撃魔術――――では無い。
スナイパーライフル・リディニークを起点にし、ただ出鱈目に魔力を放った魔力の暴風。
その、一撃はセイクリッド――――では無い。
スーパーセルに向かって向けられていた。
「ぐぉっ――――!!!」
魔力の暴風に吹き飛ばされ、その身を宙に浮かすスーパーセル。
その左腕がセイクリッドの刃によって引き裂かれ、僅かに火花を散らしている。
だが、チャイカのお蔭でセイクリッドの放つ刃の1撃によってその機能の停止から逃れる事ができた。
「サリナ!」
「もちろん! ――――抜刀、一閃!!」
しかし、その所為でスネグーラチカに隙が出来た。
ウェーブシャムシールを抜刀術のような構えで持ち直すと、ラピスラズリはスネグーラチカに肉薄。
刹那――――その鋭い閃きがスネグーラチカを引き裂いた。
「今のは――ソレイユさんのっ――――」
「後輩に技術を伝えるのも先輩の役目だぜ」
セイクリッドが先に見せたその技と、全く同じ鋭い抜刀技。
まだ、精度や速度はセイクリッドのそれには及ばない部分があるものの、十分な鋭さを持ってスネグーラチカを襲う。
「くぅぅうううっ!!!」
機能停止の間際、スネグーラチカのスナイパーライフル・リディニークがガスッとラピスラズリの装甲に突き立てられた。
「ええっ、まだ、動くなんて!?」
「そう簡単にやられはしませんわ――――!! 魔力、暴発――――」
そのスナイパーライフル・リディニークの銃口を伝って、過剰な魔力がラピスラズリへと流し込まれる。
そして、魔力が爆発を起こした――――。
「チャイカ――!! くっ、アタシを庇ったから――――!」
ワイヤーアンカーを木々に突き刺し、なんとか体勢を立て直したスーパーセル。
そのコクピットで、ツバサは歯噛みをした。
「全く――相変わらず無茶しやがるぜブローウィングのヤツら……!」
そう余裕ぶりながらも、内心冷や汗を流しながらそんなことを呟くソレイユ。
爆炎が明けた後――――そこには完全に機能停止したスネグーラチカと――
「しっかし、サリナ――――なんとか耐えたみたいだな」
「はい――――危なかったです……」
全身にダメージを受けながらも、何とか機能を維持しているラピスラズリの姿があった。
「止めは刺せず――ね……でもチャイカ、お前の行為は無駄にはしない! 行くぞ……GO、スーパーセル……」
スーパーセルはチェーンブレードを構える。
ツバサは意識を集中する。
もし仮に、1対1で万全な状態であれば互角の戦いはいけるだろう。
その自信はツバサにはあった。
それはツバサの実力がそれだけソレイユに拮抗しているから――というよりも、ゲームで、そして実戦で、長い間刃を交えたライバルとして大体の動きは読めるから――――というだけなのだが。
しかし今は、王者たるバーチャルスターを引っ張ってきたディアマン・ソレイユ相手に、数もこちらの方が不利。
加えて、こちらは手負いだ。
正直勝てない。
だが、これだけ敗北色の強い状況こそ――――
「GO!!!!」
燃える!!




