ロゼッタネビュラ
「うおらぁぁああああ、ツミカワ・ミズナはマハがぶっ飛ばすんですよォ!」
「かかってくるのです、カスアリウス・マッハぁ!!」
木々を突き抜けながら、16mmファイティングショットガンと25mm粘着榴弾砲ブラウシュトゥルムを撃ち合うチリペッパーとミルキーウェイ。
そんな2騎を尻目に、ナイフを構えたスパローと、ロゼッタハルバートを構えたロゼルが相対する。
「ロズ先輩――お相手願います!」
「スズメちゃんが相手、ね。ゾクゾクするわ」
一瞬の静寂――――その静寂を切り裂くように、スパローとロゼルが同時に動いた。
ゴゥ! とカルテットブースターを吹かせ、大柄のロゼッタハルバートを横薙ぎに払うロゼル。
その襲い来る暴風のような一撃を、前転跳びをするようにして、回避したスパロー。
「そこですっ!」
そのまま、右手のナイフをクルリと逆手に持ち直すとバックハンドブローのような要領で、ロゼルの背中にナイフを突き立てようとする。
「ふふんっ」
だが、ロゼルはロゼッタハルバートを空ぶった勢いのまま、一回転。
「なっ――――早い!?」
ブースターによる加速と、重量のあるロゼッタハルバートの遠心力を利用して第2撃がスパローを襲う。
スパローのナイフの一撃と、ロゼルのロゼッタハルバートの1撃――――このまま行けばその一撃が相手を切り裂くのはほぼ同時。
「でも――――スパローの方が分が悪い!!」
機動力重視のスパローと、重装甲のロゼル。
攻撃力、耐久力共にスパローの方が下なのは目に見えている。
スズメは咄嗟に、スパローの体を逸らす。
体を逸らしたスパローの上をロゼッタハルバートが通り過ぎていく。
「へぇ、やるじゃない!」
そして、その勢いをつけたまま、ロゼッタハルバートを高く掲げた。
「レイ・エッジバースト!!」
不意に、スパローの体中から刃が現れスパロー・ブレードエッジが展開する。
そして、両腕のブレードを地面に突き刺すと、そのまま勢いに任せるようにレイ・エッジを吹きだす。
グォオオオオオオオ
出鱈目に吐き出されたスパロー・レイ・エッジが地面を押し、その勢いでスパローが弾ける。
チーム・ミステリオーソ戦で3年クラスタリアス・リコリッタの装騎ラヴァーズ・シックスが行った、リコリスシールド・リヴァース――それと似たような使い方だ。
その一瞬後、スパローが居た場所にロゼッタハルバートが叩き込まれ、地面を抉り取った。
「うわぅ……す、すごい迫力です――――!」
「スズメちゃん――――良いわね。お姉さん愉しくなってきたわ」
不意に、ロゼッタハルバートを手にした右腕をグッと伸ばし、体を沈み込ませるような構えを取るロゼル。
「行くわよロゼル――――」
十字のようなロゼルのカメラアイから蛍光色の光が放たれる。
それは、装騎を駆けるアズルの輝きがカメラアイから漏れ出しているのだ。
「この凄み――――必殺技が――来る!」
「ロゼッタ――――ネビュラ――――――!!!」
溢れだしたアズルが紅いロゼッタハルバートを蒼く染める。
そして、その手に構えられたロゼッタハルバートを弧を描くように体を捻り――――投げ放った。
蒼い輝きを纏ったロゼッタハルバートは、凄まじい回転をしながら、スパローを引き裂かんと襲い来る。
「投擲攻撃――――! でも、その程度なら――っ」
軽くその身を逸らし、襲い来るロゼッタハルバートを回避するスパロー。
そしてそのまま、武器の無くなったロゼルへとスパローは急接近。
「まぁ、そうくるわよね!」
不意に、ロゼルがその両手を突き出した。
「――――まさかっ」
アズルがその両手に集まる。
電流の迸りのように、その両手に閃きが走る。
「ブルーム・ローズ!」
ヴァリリリィィィィィイ
電撃のようなアズルがその両手から吹き出し、ネットを投げ掛けるようにスパローへと襲い掛かってきた。
「ロズ先輩も霊子技を――――!?」
咄嗟にバックステップを踏むスパロー――――だが、それだけでロゼルの攻撃が終わるはずは無かった。
先ほど投げ放たれたロゼッタハルバート。
「――――っ!!!」
それがいつの間にかブーメランのように戻ってきていた。
「ロゼッタネビュラは――2度咲くのよ」
「なっ――――」
そして――――そのロゼッタハルバートがスパローの身を引き裂く――――その瞬間に、スパローはバク転宙返りの容量でそのロゼッタハルバートの第2撃すら回避していた。
「まさか――――ロゼッタネビュラを回避するなんてね――――」
「投擲攻撃に使われた斧が、ブーメランみたいに戻ってくるのはロボットもののお約束ですからね!」
「なるほどね――――」
昨夜の合体技考案会議時に読んだ漫画や見たアニメでのワンシーン。
それがスズメにそういう発想を生み出しており、そしてそれは見事に的中した。
戻ってきたロゼッタハルバートを掴み取り、構えなおしながらロズはコクピットで静かに笑みを浮かべる。
一方、スズメも興奮に頬を上気させ、その瞳に輝きが宿っている。
そして再び、2騎が同時に駆け出し――――ぶつかる。
互い互いの攻撃が交差する瞬間に、スパローとロゼルが互いに相手の攻撃から身をかわすように身を捻り、2騎の機動で地面に円を描く。
振り払われたロゼッタハルバートをスパローはしゃがみ、避ける。
そしてそのまま、起き上がる勢いのままに、ナイフをロゼルのボディへと突き出す。
その1撃は、だが、ロゼルが身を逸らした為、その装甲を僅かに削り取ったのみ。
そして、振り子のようにして戻ってきたロゼッタハルバートの柄がスパローの体を打ちのめさんと振り払われる。
その柄を掴み取り、その勢いを利用して、ロゼッタハルバートの柄を飛び越えた。
「いっけぇぇぇえええ!!!」
ロゼッタハルバートの2撃目を振り切った後の隙を目がけて、再びスパローがナイフを突き立てんと構えた。
「――――はっ!!」
だが、その1撃が閃く直前に、スズメは何かに気付いた。
それは、振り切ったロゼッタハルバートを掴み取っているのがロゼルの右腕のみだと言う事実。
その事実に気付いたスズメは咄嗟にスパローの身を避けようとする。
ガォン!!!
「ひゃうあ――――!?」
そこに叩き込まれたロゼルの左手。
激しい衝撃がスパローを襲い、スパローは殴り飛ばされた。
殴り飛ばされた衝撃で、後ろに吹っ飛ばされるスパローは、その瞬間に、左手に持っていたナイフをロゼルへと投げつける。
「何――!?」
投げられたナイフは、ロゼルの右肩に突き刺さった。
「はぁ――はぁ、はぁ、んぐぅ…………」
激しい衝撃に頭を揺らされながらも、スズメは意識を保っていた。
「なかなか――――効きますね――!」
そして、あまつさえ「ふっ」と笑みすら浮かべて見せる。
それは、ロゼルの打撃に土壇場で気付き、咄嗟に防御反応を取れたからであり、まともに食らっていたのなら危なかったかもしれない。
スズメは、そう言った勝負の分かれ目――――その一瞬を乗り切ったことに対する笑みを浮かべているのかもしれなかった。
「久々ね――――――久々に全力の戦いを実感してるわ! もっと、もっと感じさせてちょうだい!!」
スズメとロズ――――その2人は互いに一種のエクスタシーに身を震わせて対峙する。
そして、何度目かの打合いを再び始めた。




