執念
テレシコワ・チャイカの装騎スネグーラチカの正面を阻んだのはレインフォール・トーコの装騎ニューウェイ。
「まさか、トーコちゃんが自分からウチを狙ってくるとは思いませんでしたわね」
「アンチマジックハンター――――チャイカ先輩……真剣勝負です!」
対エネルギー切断剣ミヅキリを構え、スネグーラチカに肉薄するニューウェイ。
ヒンメルリヒト・ヒミコの装騎フリップフロップによるヒルメフラーレでの撹乱に乗じて、スネグーラチカの懐に飛び込んで来たニューウェイ。
その手に持ったミヅキリが閃く。
「魔力障壁!!」
ギィィイイイイイ
スネグーラチカの放った時空の歪みがミヅキリの刃を受け止める。
「くぅ――通り、ませんね――――」
その空間の歪みとミヅキリが触れあった箇所に、僅かな振動が見えるが、ミヅキリではチャイカの魔力障壁を破る事が出来ない。
「魔力障壁――反転!」
そして、チャイカはニューウェイへ魔力衝撃を放とうと、その魔力の流れを変える。
「――――!!」
それに気づいたトーコはニューウェイの体を捻ると、スネグーラチカの脇へとニューウェイを滑り込ませる。
「魔力衝撃っ!!」
放たれた魔力衝撃は、だが、ニューウェイをとらえることは無く、空を切る。
その隙に、背後に回り込んだニューウェイのミヅキリがスネグーラチカを切り裂かんと――
「そう来るのは分かり切ってますわ! 魔力剣撃――――ですわ!」
不意に、その身を反転させたスネグーラチカ。
その右手と一体化したスナイパーライフル――そこに魔力が走る。
それは、スナイパーライフルから魔力弾を放つ為――では無い。
スナイパーライフルの銃身を魔力が包み込むと、その銃身を軸として魔力の両刃剣が作り出される。
スネグーラチカの右腕を覆った魔力の刃が、ニューウェイの放つミヅキリの刃と交差した。
「魔力の剣――ですか……面白い攻撃ですね」
「正直、接近戦は苦手なのですけど――――仕方ないのですわ」
激しく打ち合うスネグーラチカの魔力剣撃とニューウェイのミヅキリ。
刃を払い、打ち合い、突き、避け、刃が交差する度に、魔力の揺らぎと火花が散る。
不意にスネグーラチカがバックステップを踏み、ニューウェイと距離を空ける。
「魔力――銃撃!!」
スネグーラチカの右腕に魔力が走り、魔力を纏った弾丸がニューウェイに向かって駆けた。
「この程度なら――っ」
その銃撃をニューウェイはミヅキリで切り払う。
「まだまだですわ!」
だが、今のは牽制だ。
更に多くの魔力を、スナイパーライフルへと通す。
その魔力は鋭く――では無い。
もっと、もっと強く、激しいイメージ。
「魔力――――砲撃ッ!!」
刹那――――
グォオオオオオオオン!!!!
激しく吹き荒れる魔力の波。
1発の弾丸を起点にし、強力な魔力の波が、鉄砲水のように流れだす。
「こ――――この力は――――!?」
魔力は、膨大に注げば注ぐほどその攻撃力は上昇する反面、コントロールが困難となる。
チャイカは潜在魔力量や、魔術の力量は並の魔術適性よりも遥かに上で魔術適性BからAクラスに相当する。
しかし、それに生身での使用可能容量が追い付いていないため、補助装置が無くてはまともに魔術の使えないC級と言う判定を受けていた。
その圧倒的力量から放たれる濁流は、ニューウェイを飲み込まんと襲い掛かる。
「く――――この強力な魔力…………あの技が、あの技を使わないと――――――」
負ける。
トーコはそう直感した。
だが、トーコにはこの状況を脱しえるかもしれない1つの技についても心当たりがあった。
「でも、私にできるのでしょうか――――」
ニューウェイが静かにミヅキリを構えながらも、トーコの心の中に不安が過る。
気持ちを落ち着けようとトーコは深呼吸をする。
「天水流剣術奥義――――――」
迫りくる魔力の奔流。
それを切り裂くイメージ。
流れる水流――――激しく降り注ぐ雨――――それを――――切り裂くイメージ。
強く――強く――――――強く強く強く、切り裂く!
「水断刀!!」
刹那、ニューウェイのミヅキリが閃いた。
チャイカの放った魔力の奔流を切り裂かんと――――
「ぐ――――ぐぅぅぅぅうううううう」
「行くのですわぁあああああああ!」
激しくぶつかる、スネグーラチカの魔力砲撃と、ニューウェイの放つ奥義『水断刀』。
それはレインフォール家が東洋にて名もなき武使であった頃、1人の男が自ら鍛え作り上げた剣にて村を襲う濁流を切り裂いたという。
その逸話から『天水』の名を授けられ、その子孫が西洋に渡りレインフォールと名を変えた。
その濁流を切り裂いた剣は『水津斬』として、その濁流を切り裂いた技は『水断刀』として受け継がれてきたのだ。
しかし、トーコはその奥義を成功させたことは無い。
ミヅキリによって切り裂かれた魔力が周囲に飛び散る。
「行ける――――もっと、もっと強く、鋭く、鋭利に――――――――!」
ぐっと全身に力を込め、魔力砲撃の波に耐えるニューウェイ。
だが――――トーコの確信は、すぐさまその波に飲み込まれた。
「――――えっ!?」
不意に、魔力の輝きがトーコの視界を遮る。
「しまっ――――」
魔力に飲まれて弾き飛ばされるニューウェイ。
『水断刀』によって多少はダメージを防げたお蔭で、戦闘不能は免れたが、激しく全身を殴打し、装騎の体が悲鳴を上げる。
「そんな――――――水断刀が、成功したと思ったのに」
「チャンス――――ですわ!」
そんなニューウェイを目にして、チャイカは素早くスナイパーライフルの銃身を向ける。
魔力が走る――――勢いよく。
放たれた魔力銃撃に――――咄嗟にニューウェイはミヅキリの刃を閃かせていた。
「まだ動けるとは――――驚きましたわ」
「うちは負ける訳にはいかないんです! あの人が――――勝ってくれるために!」
対峙するスネグーラチカとニューウェイ。
片や、ダメージもほとんど無く、平然とたたずむスネグーラチカ。
片や、魔力砲撃によるダメージで、全身から火花を散らすニューウェイ。
状況はスネグーラチカの優勢なのは火を見るよりも明らかだ。
「うちは――――克つっ」
だが不意に、トーコの意思がニューウェイの体を仄かな赫奕として包み込む。
「――――っこれは!?」
それが何なのか――チャイカには分からなかった。
その輝きは、トーコの意思の輝き。
機甲装武には、カーマイン・システムと呼ばれる特殊な機能が備わっている。
それは、搭乗者の意思や士気に呼応して、その性能を上下させると言う機能。
その能力によって機甲装武は圧倒的な性能を発揮する事が出来る反面、搭乗者の精神状態によって性能が安定せず扱い辛いというデメリットも存在する。
だがその今、トーコの意思は高まり、その意思の高まりはニューウェイへと伝わっていた。
「不味いですわね」
それが何なのか分からなかったが、チャイカは直感的に不安を感じる。
素早く、スネグーラチカを退かせると、その右手のスナイパーライフルに魔力を込める。
「魔力消費が激しいのであまり連続で使いたくは無いのですが――――仕方ないですわ!」
チャイカは魔力砲撃を再び放つつもりだ。
対して、トーコのニューウェイは静かに剣を構えるだけで動かない。
「正面から――ぶつかるつもりなのですわね」
「負ける気が――――しない!」
一瞬の静寂――――――――
「魔力、砲撃っ!!」
「天水流剣術奥義――――――水断刀!!」
魔力砲撃の奔流と、水断刀の一閃がぶつかる。
――勝てる。
トーコにはその確信があった。
――勝てる。
どうしてそう思ったのかは分からない。
――勝たなくては。
同時に、そうも思っていた。
――勝たなくては。
その思いが――――装騎を伝わり、刀を伝わり、全身に――――伝わる。
刹那――――――――ミヅキリの刃が、魔力砲撃の魔力を――――――切り裂いた。
「な、なんですって!?」
「見えました!」
切り開かれた魔力の先に、スネグーラチカの姿が見える。
その姿に向かってニューウェイが駆ける。
力任せに、強く、強く駆ける。
「魔力衝撃ッ」
防御は間に合わないと感じたチャイカは、残った魔力を振り絞り、魔力のインパクトを起こす。
スネグーラチカから激しく放たれる魔力の波――――そして、それを力任せに押し切りながら突っ切るニューウェイ。
結果――――ニューウェイの刃はスネグーラチカを斬り裂き、行動不能にさせた。
「なんとか――――勝て、ました! そして――――――水断刀も、成功させた!」
だが、ニューウェイも辛うじて稼働しているという状態で、戦闘には勝利したものの、それ以上の作戦行動は不可能だった。
トーコは今にも機能を停止しそうなニューウェイに鞭を打つように動かすと、何処かを目指し、駆け出した。
オマケ
ステラソフィア・キャラクター名鑑
2年:チーム・ミステリオーソ所属
名前:Rainfall Tohko
読み:レインフォール・トーコ
生年月日:聖歴152年2月13日
年齢:16歳(4月1日現在)
出身地:マルクト国神都カナン
身長:160cm
体重:53kg
使用装騎:PS-B-T1S:ニューウェイ(ベース騎PS-B-T1:豊宇気毘売)
好みの武器:対エネルギー切断剣ミヅキリ
ポジション:アタッカー
公立ヘブンズフィールド中学出身。
巧みな剣術と装武に関する知識での自己推薦入学。
両親の意向でステラソフィアに推薦を出した。
趣味は紅茶とチーズケーキを嗜むこと。
個人的な声のイメージは明坂聡美さん。




