決着、そして闖入者
「ちょっと待った! ――ですわっ」
突然、スパローの側面から強烈な輝きが放たれた。
その輝きはチリペッパーを切り裂かんと薙ぎ払ったスパローの右手を的確に撃ち抜く。
「しまった――!?」
続けて放たれる輝きに、慌ててバックステップを踏むスパロー。
「助かったんですよ!」
「どういたしまして、ですわ」
今まで姿を見せなかったテレシコワ・チャイカの機甲装騎。
少しくすんだ白色のボディに、純白の装甲を纏った、どこか優雅さを感じさせる装騎スネグーラチカだ。
その右腕と一体化しているかのように固定されたスナイパーライフル・リディニークと、通常の装騎よりも大きく肥大化したメインカメラが目をひく。
「狙撃型……てことはPS-G4? ううん、似てるけど、なんか違う」
マルクト製の狙撃型装騎と言えば最初に思い浮かぶのはPS-G4ガブリエルだ。
正確には狙撃型と言う区分は無く、狙撃装備を整えた装騎を狙撃型と俗称する。
狙撃型として使われる装騎の中で、スネグーラチカのように軽量型の装騎は望遠機能の精度が良い支援型装騎ガブリエルをベースにするのが一般的だ。
「スズメちゃん、今度はチャイカの相手を頼むよ」
「は、はいっ!」
ツバサはスズメにそう言うと、12mmバーストライフルをチリペッパーへ向けて吹かせる。
一方、スズメはスパローの太腿部から予備のナイフを取り出し、無事な左手で握った。
「見た所あの装騎の武装はスナイパーライフルだけ……なら」
グッと地面を踏み込み、勢いよくスパローをスネグーラチカの懐に潜り込ませる。
装騎スパローの瞬発力であれば一気に近付き、一気に叩く。
それが可能だと踏んだのだ。
閃く左腕のナイフ。
実際、並の装騎であれば、並の騎使であればこの一撃でけりをつけられただろう。
だが――
「させませんわ!」
「ピンポイントバリア!?」
閃いたナイフの切っ先を受け止めるように突き出されたスネグーラチカの左手。
その先から青白い揺らぎが放たれスパローのナイフを受け止める。
「まさかあの装騎――M-J3」
PS-M-J3ジブリール。
PS-Gの型式を持つガブリエル系列をベースに魔術適性者用に調整された機甲装騎だ。
「って事は――まさか、テレシコワ先輩は魔術使!?」
「補助装置が無いと魔術が使えないC級だけどな」
スズメの言葉を聞いたツバサが、マッハの相手をしながらもそんな通信を入れてくる。
「C級……」
マルクトに於いて魔術使とは非常に数が少ない。
スズメ自身、中学の頃に1人と出会ったことがあるくらいだ。
スズメもかつて魔術適性検査を受けたことがあるのだが、判定はノーマル。
魔術適性は無しだと診断された。
「ちなみにアタシは魔術適性は無いけど魔力が高いN+だぞ」
「聞いてませんよ!」
魔力を使って、ある一定方向に障壁を張る――それがチャイカの得意とする魔術の1つだった。
「守るだけではありませんですわ!」
スネグーラチカの左手が、グッと拳を固めたかと思うと、再び思い切り指を大きく開く。
「魔力――――衝撃!」
その瞬間、スパローの装騎を衝撃が走った。
障壁として使った魔力を、相手にぶつける事で攻撃に転用するというカウンター攻撃だ。
「くぅ……!」
衝撃にスパローが弾き飛ばされる。
スズメはなんとか踏ん張り体勢を立て直すが、その間にスネグーラチカは距離を取っていた。
「戦いは距離――――これで止め、ですわ! 魔力銃撃!」
スネグーラチカを冷気のように取り巻いた魔力が右腕に集まり、スナイパーライフル・リディニークへと燃え移る。
パシュン!
魔力を乗せた弾丸が、スパローを撃ち抜かんと放たれた。
「スズメちゃん――!!」
スネグーラチカの放った弾丸――だがそれは、スパローを撃ち抜くより先に爆炎に紛れ消えた。
「ワシミヤ先輩!?」
それは、スパローを狙う弾丸の弾道上にツバサが投げ入れた12mmバーストライフルの破壊によって引き起こされたものだった。
「ギリギリセーフ!」
「た、助かりました! けど……カスアリウス先輩は?」
「ああ、ちょっとやり過ぎちゃってな……」
「落とされちまったですよー!!!」
悔しそうに泣き叫ぶマッハの声が通信で入ってきた。
苦笑しながらも、スズメはスパローの状態を素早くチェックする。
12mmバーストライフルが引き起こした爆発により多少のダメージを受けたものの、直撃弾を受けるよりは損傷は軽微。
「ここは引く? ――――ううん、行く!!」
まだ消えない爆風に紛れ、スズメはスパローをスネグーラチカが居るであろう正面に向かって跳躍させた。
「ここで突っ込むか!? 良いね、そういうの大好きだよ!」
ツバサは口元に笑みを浮かべ、ブースト機動でスパローとスネグーラチカの側面に回り込む。
「正面から来ましたの!?」
黒煙を切り裂き、飛び出してきたスパローの姿にチャイカは驚きを口にする。
「行きます――!」
左手に握ったナイフ。
それを逆手に持ち直し、殴り込むようにその刃をスネグーラチカへと閃かせた。
「効きませんわ――!」
しかし、先ほどの一撃と同様、スパローのナイフはスネグーラチカの魔力障壁に阻まれる。
そしてさっきと同じように、スネグーラチカはその拳をグッと固める。
障壁として放っている魔力を衝撃波として転用するカウンター攻撃の前兆だ。
「次こそ――仕留め、ますわ! 魔力――――衝撃ッ!!」
「二度も、同じ手は――食いません!」
衝撃が放たれる直前、スパローは思いっきり踏み込み――――跳躍した。
「――何ですの!?」
スパローの脚がしなり、スネグーラチカの遥か頭上をスパローが前転をしながら舞い跳んだ。
虚しく空に放たれた魔力衝撃に一瞬チャイカは茫然となる。
メインディスプレイに表示された頭上を示す警告にハッとして頭上へとメインカメラを向けようとしたその瞬間、ズヂャンと背後から響くスパローの着地音。
スネグーラチカと背中合わせになるように着地したスパローは、そのまま体を左に捻る。
体を捻った勢いのまま、鉄槌打ちをするように逆手に握ったナイフをスネグーラチカの脇腹へと突き立てた。
「そんな――!」
ピ――――――
スネグーラチカのメインディスプレイに表示される作戦続行不可能の文字。
そして、その試合終了を受けてグラウンドを囲む防護フィールドが解除された。
「あらら、負けちゃいましたわ」
「ふぅ……ありがとう、ございました」
スパローとスネグーラチカの勝負に決着がついた事を確認すると、スーパーセルとボロボロになったチリペッパーが2騎の周囲へと歩み寄ってくる。
「ちぇー、チャイカ先輩も負けちまったですかー」
「面目ありませんわ」
「まっ、後輩に花を持たせるのも先輩の仕事だ」
「そうですわね」
「今度はマハが勝つんですよ!」
楽しそうに笑いあう先輩達の姿に、スズメも釣られて笑みを浮かべる。
その時だ。
「うにゃぁぁああああ、ちょっと、ちょっとコレを止めて欲しいのですよォォォォオオオオ!!」
不意にブローウィングの誰からでも無い、1つの通信が入ってきた。
「うおっ、いきなりなんなんだですコノヤロー!」
突然響いた絶叫に驚き、叫び声を上げるマッハ。
レーダーを確認すると、高速で突っ込んでくる機甲装騎が一騎あった。
装騎の名はミルキーウェイ、騎使名はツミカワ・ミズナと登録されている。
「ツミカワ・ミズナ!? またアノヤローなんですかコノヤロー!!」
「その声はカスアリウス・マッハなのですかっ!? お前に言われたくないのですよォ!!!!」
姿を現した機甲装騎は、水色をベースに蒼い装甲を纏った装騎だった。
ブースターを上手く制御出来ていないのか、ロデオのように暴れまわるミルキーウェイ。
一瞬回ったその背後には、大型の筒のようなブースターの姿が見える。
「あの大筒ってPS-B2、ですよね」
「ああ、機甲科二年ツミカワ・ミズナ。PS-B2ベツレヘムをベースにした装騎ミルキーウェイの騎使だ」
大出力ながら、ブースト機動時の姿勢制御が難しいソロブースター搭載の装騎の中でも「大筒」の愛称で呼ばれる巨大なブースターを持つ装騎ベツレヘム。
「シャダイからの姿勢制御補助があれば、いくら制御の難しいソロブースターでもあそこまで暴走する事は無いはずなんですけど……」
「まぁ、アイツは色々設定を弄りまくった挙句に、ああなったらテンパって自分から状況を悪くするヤツだからなぁ……マッハちゃんに並んで面白い2年だよ」
「2年の先輩ってあんな人ばっかりなんですか……?」
「ちょっと聞き捨てならない事をいうんじゃねーですよスズメ後輩!」
「ご、ごめんなさい」
「そんな事より止めて欲しいのですよォォォオオオオオオ」
まるで、ダンスを踊る――いや、踊らされる操り人形のように、盛大にブースターを吹かしながらクルクル回り、跳ね飛び、地面を這いずりながら暴れまわるミルキーウェイ。
「はぁ、仕方ないよなぁ。今まともに動けるのはアタシとスズメちゃんだけだし……スズメちゃん良いか?」
「は、はい!」
「アタシがミルキーウェイの動きを抑える。動きが止まった隙にナイフでバッサリやってやれ」
「い、良いんですか?」
「大丈夫だ、問題無い!」
「りょ、諒解です!」
それから、スーパーセルが体当たりをかまして動きを止めている間に、スパローがミルキーウェイにナイフを突き立て何とかその場は収まったのだった。
オマケ
ステラソフィア・キャラクター名鑑
3年:チーム・ブローウィング所属
名前:Tereshkova Chaika
読み:テレシコワ・チャイカ
生年月日:聖歴150年12月22日
年齢:17歳(4月1日現在)
出身地:マルクト国神都カナン
身長:163cm
体重:55kg
使用装騎:PS-M-J3S:Snegurochka(ベース騎PS-M-J3:Jibril)
好みの武器:スナイパーライフル
ポジション:サポーター
国立ステラソフィア女学園中等部出身。
魔術適性に加え、騎使としての適性を国から認められステラソフィア女学園に中等部の頃から在籍。
趣味は3時に紅茶を飲むこと。
個人的な声のイメージは新谷良子さん。