偶然とはアクシデントなのかチャンスなのか
「風になるんですよぉぉおおおおおおおおおお」
木々を突っ切るカスアリウス・マッハの装騎チリペッパー。
「ふおっ!?」
不意に、その足元に向かって『ナニカ』が投げ込まれた。
装騎を跳ねさせ、なんとか回避するチリペッパー。
だが、宙を舞うチリペッパーの右足に、もう1つの『ナニカ』が投げ込まれる。
「うひぇあぁ!?」
チリペッパーの右足を絡めとる紐状の『ナニカ』。
それは、強力なワイヤーだった。
ワイヤーの先には、盾のようなものがくっついている。
「ふふん、捕まえたっ!」
チリペッパーの足を捕えたワイヤー。
それは、クラスタリアス・リコリッタの装騎ラヴァーズ・シックスが装備するワイヤーシールド・リコリスのワイヤーだった。
チリペッパーは体勢を崩し、地面に倒れ伏す。
「しまったんですよォ!!」
「貰った!」
チリペッペーが地面に倒れた隙に巻き取っていた最初に避けられたワイヤーシールド・リコリス。
ラヴァーズ・シックスはそれをチリペッパーに再び投げつける。
そのシールドの側面はウェーブ武器と同じように、僅かな振動を発し触れた物を切断できるようになっている。
鋭い牙を持ったシールドは、チリペッパーの首筋を狙い放たれる。
「甘いんですよぉ――!!」
ガギィイン!!
マッハの叫びと共に、チリペッパーは両腕をばねの様に使い跳ね起きる。
「させないっ――――!」
チリペッパーの体勢を崩そうとラヴァーズ・シックスはチリペッパーの右足に絡みついたワイヤーシールド・リコリスを右手で引っ張る――――だが、
「えっ!?」
「ふっふーん!」
ラヴァーズ・シックスが引っ張ったワイヤー――――だがそこにチリペッパーの重みは全く無い。
その隙にチリペッパーの蹴りが、チリペッパーに止めを刺そうと投げ放たれたワイヤーシールド・リコリスの腹を蹴り飛ばし、宙を舞わせる。
「これは、焼き切られてる!?」
チリペッパーの足に巻き付けたワイヤーシールド・リコリス――――そのワイヤーが何かに焼き切られたようになり千切れていた。
「お忘れですかぁ? マハのチリペッパーの足にはレーザーブレードが付いてやがってるんですよ!!」
そう、マッハの装騎チリペッパーの両足――その脛の部分にはキックブレードと呼ばれるレーザーブレードが装備されている。
レーザーブレードはほとんどの物を焼き切る事が出来る光学武器…………それは頑丈なワイヤーシールド・リコリスのワイヤーも例外ではない。
チリペッパーに焼き切られたラヴァーズ・シックスのワイヤーシールドは右腕から伸びていた物。
左腕ワイヤーシールド・リコリスは無事だが、早速に戦力を削られてしまった。
だが、リコリッタの表情に焦りは無い。
「ラヴァーズ・シックス――――各支援機能オフ。全エネルギーを戦闘機動に!」
リコリッタの言葉に従い、ラヴァーズ・シックスの支援機能がオフになる。
僚機データリンク――オフ。
ミニTPSビュー――オフ。
情報統合システム――オフ。
情報記録・発信システム――オフ。
精密スキャンシステム――オフ。
高速演算システム――オフ。
ラヴァーズ・シックス――――作戦モードから戦闘モードに移行。
「さぁ、本番です!」
「盾1枚で何ができやがるんですかっ!」
チリペッパーは腰のストックからショットガンを取り出し、両手に構える。
「オラオラァ!!」
そして、そのショットガンを右手左手と交互に打ち放つ。
弾ける弾丸の雨がラヴァーズ・シックスに襲い掛かる。
「この程度――――っ!」
ラヴァーズ・シックスは左手のワイヤーシールド・リコリスを軽く宙に頬り投げる。
すると、ワイヤーシールドの裏面に、取っ手のような物が現れた。
ラヴァーズ・シックスはその取っ手をつかみ取るとチリペッパーへと盾を構えた。
「そんなちみっこい盾でマハの散弾を防げるんですかァ~?」
「ふふん、ちみっこいですって? ――――ラヴァーズ・シックスのリコリスシールドの防御力は」
ガクォン!!
不意に、ワイヤーシールド・リコリスが割れるように、花開くように展開される。
そして、ラヴァーズ・シックスからエネルギーがワイヤーシールド・リコリスへと流れ込んでいく。
「――――世界一ィ!!!」
刹那――ワイヤーシールド・リコリスから溢れだす強力なエネルギー。
眩い赤光がシールドから漏れ出す――それは、霊子砲などと同じくアズルの輝き。
出力を抑えた魔電霊子を固定化し、盾として扱う霊子シールドだ。
「何ィ!?」
チリペッパーの放った散弾は、ワイヤーシールド・リコリスのエネルギーに阻まれ、防がれる。
その霊子シールドは、近接武器、射撃武器、霊子武器、ウェーブ武器、光学武器など殆どの攻撃を寄せ付けない最強の盾。
下手な魔力障壁よりも硬く、広い範囲を防ぐことができる。
もっとも、霊子シールドは霊子砲と同じくエネルギー使用量が莫大な為、ラヴァーズ・シックスに備わる支援機能にエネルギー容量が割かれる作戦モード時には使用が不可能であり、使用中はエネルギー容量ギリギリのエネルギーを使用するため機動力が大幅に低下すると言う弱点があるが。
「オララニャァァアアアアア」
「そんな攻撃無駄よ、無駄無駄……っ!」
ガンガンガンガンとラヴァーズ・シックスに向かって駆けながらショットガンを撃ち込むチリペッパー。
だが、その弾丸は全て虚しく霊子シールドに焼き消される。
いくらマッハと言えど、それが無駄な事なのは理解している。
チリペッパーの狙いはそこじゃなかった。
ラヴァーズ・シックスに肉薄したチリペッパーはキックブレードに光を灯すと、ラヴァーズ・シックスに正面から蹴りを入れようと――――
「来る――――いや」
したのはブラフだ。
素早く、クルリと装騎の体を捻らせると、ラヴァーズ・シックスの背後に回り込む。
そして、その右足のキックブレードでラヴァーズ・シックスを切り裂かんと蹴りを放った。
「チェストォオオオオ!!!」
魔力障壁などでも同じことだが、霊子を用いたバリアフィールドの防御範囲は広くて180度ほどしかカバー出来ない。
魔力障壁よりも出力などの調整で容易に防御範囲を大きく出来る霊子シールドでも360度を完全にカバーするのは不可能。従って、そのバリアフィールド後方のバリアは非常に薄くなり容易に突破できる。
それはワイヤーシールド・リコリスの霊子シールドでも同じことだ。
しかし、リコリッタはそれも予測済みだったのだろう。
手に構えたワイヤーシールド・リコリスを地面へと向ける。
「ふっ、リコリスシールド――――リヴァース!!」
瞬間、シールドを構築してたエネルギーが弾け、正面へと放たれた。
ワイヤーシールド・リコリスの霊子シールド・リヴァース。
霊子シールドを構成するバリアエネルギーを正面に向かって放出する事で攻撃へと転じさせる技だ。
言ってしまえばテレシコワ・チャイカの魔力衝撃と同じな為、ネタが被ってしまっている。
純粋なパワーで言えばワイヤーシールド・リコリスの霊子シールド・リヴァースの方が高いのだが、通常展開時だけでも大幅にエネルギーを削り取る霊子シールド――――そのエネルギーを放出するとあれば、使用後しばらくは霊子シールドの展開は不可能となる。
「何ですとォ!?」
激しく放出されたワイヤーシールド・リコリスのエネルギーに押し出され、ラヴァーズ・シックスの体が飛び上がる。
その下をチリペッパーの蹴りが空振りした。
「これで――――」
チリペッパーの蹴りを回避した事を確認すると、素早く霊子シールドをオフにする。
ラヴァーズ・シックスは丁度チリペッパーの背後へと着地を決める。
「止めよ――――」
そしてそのまま左手に握ったワイヤーシールド・リコリスのウェーブカッターに残ったエネルギーを注ぎ込むと――――チリペッパーへ突き立てようと―――――――
「うはぁぁあああああ!!???」
「はぁ!? ちょ、待ちなさいよ!!」
マッハの叫び声と、リコリッタの驚愕の声。
チリペッパーがラヴァーズ・シックスの背後に回り込み放った蹴り。
カスアリウス・マッハはその時の蹴りで勝利を確信していた。
マッハは、まさかこの蹴りが外れるとは思いもせず、その蹴りに全力全快を込めて放っていた。
空ぶったチリペッパーの蹴りは勢いよく空を切った。
その勢いは、マッハにも止められない程の勢いで、その勢いのまま左足を軸にしてチリペッパーの体がきりきり舞いをする。
左足が軸となった回転により、空ぶったチリペッパーの右足の蹴りが偶然にもチリペッパーへと向かってくるラヴァーズ・シックスの方へと向けられ――――
「――ラヴァーズ・シックスを止め――――――くぅ、間に合わない!!!」
チリペッパーの蹴りに自ら飛び込むような形になって、ラヴァーズ・シックスがキックブレードに――――――引き裂かれた。
「か……勝てやがっちゃったんですよ!」
「こんな間抜けなやられ方――――わたしのキャラじゃない!」
偶然が重なり掴み取ったカスアリウス・マッハの勝利。
「え、えっと――――勝利とは先に確信した人の所にもたらされるんですよッ!!」
オマケ
ステラソフィア・キャラクター名鑑
3年:チーム・ミステリオーソ所属
名前:Clusterias Lycoritta
読み:クラスタリアス・リコリッタ
生年月日:聖歴150年9月23日
年齢:17歳(4月1日現在)
出身地:マルクト国神都カナン
身長:163cm
体重:52kg
使用装騎:PS-Ra3S:Lovers6(ベース騎PS-Ra3:Raguel)
好みの武器:ワイヤーシールド・リコリス
ポジション:サポーター
公立ヘブンズフィールド中学出身。
装騎の事を勉強したく、ステラソフィアを一般入試で合格した。
多才だが、多芸は無芸と言うのかイマイチ恵まれ無い人。
趣味はラピッドピットというウサギキャラのグッズ集め。
個人的な声のイメージは早見沙織さん。




