フラッシュバック
「な――――こいつら1対1でやる気か!? ――――――へっ、上等だ!!」
正面から襲い来るヒンメルリヒト・ヒミコの装騎フリップフロップ。
ローラーを使用しながら、高速で接近するその装騎にワシミヤ・ツバサのスーパーセルは12mmバーストライフルを撃ち放った。
「甘い甘い! 実家の近所にある青いケーキを売ってるケーキ屋のケーキより甘いよぉ!!」
そう言いながら12mmバーストライフルの弾丸を電磁薙刀ライジンを回転させ弾き飛ばすヒミコ。
そしてそのまま、スーパーセルに急接近すると、電磁薙刀ライジンを素早く構え、スーパーセルを引き裂かんと振りかざす。
「うおっ、危ねっ!」
だが、その一撃をスーパーセルはいつの間にか手近な木に突き刺していたワイヤーアンカーを巻き取り、その力で回避する。
その間に、スーパーセルは12mmバーストライフルをチェーンブレードに持ち替えた。
スーパーセルのエネルギー供給を受けたチェーンブレードの刃が激しく叫ぶ。
そして、左手のワイヤーアンカーをフリップフロップに向けて撃ちだす。
「うわぁ!?」
そのワイヤーアンカーがフリップフロップの左手に絡みつく。
「捕まえたァ!!」
ワイヤーを引き寄せ、フリップフロップの体勢を崩す。
「そして――貰った!」
左手でフリップフロップを引き寄せながら、右手に握ったチェーンブレードを構えた。
その瞬間――――
「うわっ、うわわわわわわぁ!!??」
慌てたヒミコが装騎フリップフロップを滅茶苦茶に動かす。
左足が浮き上がり、スーパーセルに引き寄せられながら、フリップフロップは地面に接した右足のローラーが急駆動。
「んな――っ!? ちょ、おい、ヒミコァ!!」
右足を軸にはずみでクルリと半回転したフリップフロップ。
そして、同時にローラーでの加速によってスーパーセルが逆に引っ張られる。
「んなバカな!」
フリップフロップに振り回され、木々に突っ込むスーパーセル。
一方でフリップフロップ自身もスピンしながら同じく木々にその身を埋めた。
「アタシ等すっげー、カッコ悪ィ……」
「ワシミヤ・ツバサ、ゆるさーん!!!」
「知らねーよ!!」
互いに体勢を立て直し、立ち上がるスーパーセルとフリップフロップ。
そして、仕切りなおすように、2騎はそれぞれの武器を構えようとした瞬間。
「げっ、チェーンブレードが無い!? バーストライフルまで……!!」
「あーん、あたしの薙刀ぁ!!」
スーパーセルとフリップフロップが木々に突っ込んだその時の衝撃でそれぞれの武器が何処かへとふっとばされていた。
互いに丸腰となったスーパーセルとフリップフロップ。
2騎は周囲を見回し、それぞれの武器を探す。
「げっ――!」
「あぁ――!?」
それはスーパーセルとフリップフロップが相対する場所から、やや離れた位置に突き刺さっていた。
それも、チェーンブレードに電磁薙刀ライジン――その2つが同じ場所に、並び立つようにだ。
2人の間に走る一瞬の沈黙。
その沈黙の後――――
「渡してなるかっ!」
「負けてたまるかぁ!」
2騎同時に飛び出した。
ブースターを噴かせるスーパーセルに、ローラーを高速回転させるフリップフロップ。
その2騎が我先にと一点に向かって高速で駆けだす。
「へっ、スーパーセルにはワイヤーアンカーがあるんだ! それを使えば――」
スーパーセルを走らせながら、その腕のワイヤーアンカーをチェーンブレードに向ける。
「3、2、1――――射しゅ――――」
「させるかぁ!!」
「うおぁ!?」
ワイヤーアンカーを射出しようとしたスーパーセルに向かって、フリップフロップが体当たりをかましてくる。
「ヒミコ――テメエやりやがったな!?」
「これは勝負なのだよ! 妨害なんて当たり前じゃん!」
「ごもっとも!!」
そう言いながら、今度はスーパーセルがフリップフロップに肘鉄を食らわせる。
「ひゃあ!? やったなぁ!!」
それに反撃と言うように、フリップフロップがその拳をスーパーセルにぶつけた。
スーパーセルとフリップフロップが殴り合い、体をぶつけ合いながら武器に向かって駆ける。
ドガッ ガギィ バゴッ ガガッ ガスッ グヮッ
互いの装騎の装甲がへこみ、傷付き、潰れ、火を散らす。
「正直、今までお前と一緒に居て碌な事が無かったぜ! その落とし前、今キッチリ付けてやる!!」
「いーッだ! そのセリフ、そっくりストレートにリバースだよ! 」
気付けば、試合であると言う事も忘れ、互いが互いに本気の殴り合いに発展していた。
地面を転がりながら、互いに殴り合い、蹴り合う。
「ていうかお前、1年の時に貸した300ペニーゼ返せよな!!」
「いーじゃん! ツバサだってあたしのお菓子勝手に色々食べてたじゃん!!」
「ヒミコがアタシの部屋に置いて行くからだろ! 賞味期限切れちゃうじゃん!」
「賞味期限なんて1年や2年切れた所で問題ないよっ」
「いや……それはちょっと…………」
そんな事を言い合いながら、殴り合ってる間に、スーパーセルとフリップフロップは次第に互いの武器の所に近づいてきていた。
「くっそ、やってやる!!」
そんな殴り合いの最中、スーパーセルはワイヤーアンカーをチェーンブレードに向けた。
「あっ、しま――――」
「ふっ――こういう時はワイヤーアンカーのあるスーパーセルの方――――がッ!?」
1度あることは2度ある。
射出されたワイヤーアンカー、しかし、咄嗟にその射出を妨害しようとしたヒミコによって、狙いがずれる。
「てっめぇ!!」
「やったった!!!」
スーパーセルのワイヤーアンカーはチェーンブレードと電磁薙刀ライジンを巻き込み、引っ張り上げる。
「こうなったらこのまま――!!」
スーパーセルは自らが引き寄せたチェーンブレードを掴み上げる。
そして、同時に巻き取られた電磁薙刀ライジンをフリップフロップが掴み取った。
そのまま素早く、スーパーセルとフリップフロップは間合いを空けた。
「攻撃範囲はあたしの薙刀の方が上! さぁ、こいツバサぁ――――!!」
「いっくぜぇ!!」
ヒミコの挑戦を受けるように、スーパーセルの大型デュオブースターに火が灯る。
その瞬間、弾丸が撃ちだされるようにして、スーパーセルが弾けた。
「うっわぁお!!??」
ギィィィイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
スーパーセルのチェーンブレードと、フリップフロップの電磁薙刀ライジンがぶつかり合い、激しい火花と騒音が響き渡る。
ゴゥオア!! と蒼炎を噴くスーパーセルのブースター。
対して、ギュウルルルグググググゥと地面を踏みしめるフリップフロップのローラー。
互いの装騎は全力でぶつかり、1歩も譲らない。
その均衡を破ろうと、フリップフロップが電磁薙刀ライジンにエネルギーを流し込む。
その刃が段々と輝きを増していき、バチバチバチと電気が漏れ出す。
「ライジン・ストライク!!」
ズバヂャアァァアアアア
ヒミコの言葉に応え、電磁薙刀ライジンから電気の奔流が発せられる。
「危ないねぇ!」
しかし、ツバサはヒミコがそう来ることは予想済み。
ワイヤーアンカーをフリップフロップ背後の木に突き刺すと、ワイヤーを巻き取る。
それに加えてブースターの出力を最大まで振り絞り――加速する。
だが、交戦経験も多いその2人。
もちろんツバサの行動もヒミコは予想済みだった。
「甘い――!!」
フリップフロップはその電磁薙刀ライジンで、スーパーセルがワイヤーアンカーを突き刺した木を素早く切り裂いた。
「何ィ!!??」
スーパーセルはワイヤーアンカーを突き刺していた木が斬れたお蔭で空中でそのバランスを崩す。
「ふふふーん、スーパーセルが地面に這い蹲った時があたしの勝利の時ぃ!!」
勝ち誇るヒミコ――――だが、彼女は気付いていなかった。
スーパーセルの態勢を崩そうとフリップフロップが倒した木――――その木は当然ながらスーパーセルのワイヤーアンカーに引かれ、フリップフロップの居る方へと倒れてくる。
「へあ?」
それに気付いた時にはもう遅かった。
スーパーセルの重量を支えられるほどの立派な木。
それがフリップフロップを――――押しつぶした。
辛うじて機能停止は免れたフリップフロップだったが、木に挟まれ身動きが取れない。
「何だっけか、勝ち誇った時、そいつは既に敗北している――だかそんな感じの名言があったよな」
「そんなのあったね……あとは獲物を前に舌なめずりは三流のする事――――ってのもあったよ」
「――――そうだったな」
ツバサは静かにそう呟くと、チェーンブレードの刃をフリップフロップに突き刺した。
ヒンメルリヒト・ヒミコの装騎フリップフロップはその機能を停止した。
オマケ
ステラソフィア・キャラクター名鑑
4年:チーム・ミステリオーソ所属
名前:Himmellicht 日巫女
読み:ヒンメルリヒト・ヒミコ
生年月日:聖歴149年12月25日
年齢:18歳(4月1日現在)
出身地:マルクト国神都カナン
身長:155cm
体重:50kg
使用装騎:PS-Sh3S:Flip-Flop(ベース騎PS-Sh3:Shamsiel)
好みの武器:電磁薙刀ライジン
ポジション:リーダー・アタッカー
公立ヘブンズフィールド中学出身。
ステラソフィアに自己推薦を出したら合格した。
本人は自分の実力だと言ってはばからないが、周囲からは疑問の声も絶えない。
趣味は食べ歩きと食べ比べ。
個人的な声のイメージは杉本みくるさん。




