事前情報・ミステリオーソ
「ついに、準決勝ですね……」
準決勝を目前にして、選手控室でいつものブリーフィングが始まっていた。
「ああ、ミステオリオーソ――こいつらを倒さないと決勝には行けない。そして、決勝で当たるであろうチーム・バーチャルスターにも勝てないだろうな」
「流石に緊張してきましたわ」
「気楽に行こうぜチャイカ。結局はアタシ等らしく戦うしかないんだしさ」
「そうなのですけど……」
「マハはやる気満々なんですよ!! 体もやっとホットになってきやがったですしね!」
「期待してるぞマッハちゃん」
「当たり前なんですよ!!」
「それじゃ、ミステリオーソの装騎をおさらいしとくか。まずはヒミコの装騎フリップフロップだな」
ツバサが端末にミステリオーソの装騎を表示する。
表示されたのは脚部にローラーが備えられ、オリエンタルな美しい紅と浅黄の装騎。
PS-Sh3シャムシエルをベースにした四年ヒンメルリヒト・ヒミコの装騎フリップフロップ。
「ヒミコがよく使う武装は電磁薙刀ライジンだな。薙刀だから剣とかよりも攻撃範囲が広いし、電撃攻撃が出来る厄介な武器だ」
「PS-Sh3シャムシエルってデフォで魔電霊子砲付いてませんでしたっけ?」
「ああ、あるぞ。胸部拡散魔電霊子砲ヒルメフラーレ――威力自体は低い方だが弾けるから地味に厄介なんだよなぁ」
「拡散霊子砲ですか……正面からやりあう時は注意しないといけないですね」
「ヒミコ自体は結構バカだから、そこを突ければなぁ」
「バ、バカなんですか……」
「バカっつーか、単純っつーか、抜けてるっつーか。1年の時なんて、自分で斬った木に押しつぶされて撃破だからな」
「それはひどい……まぁ、分からなくはないですけど」
スズメはさっきミステリオーソと会った時のことを思い出しながら苦笑交じりにそう言った。
「次はリコリッタの装騎ラヴァーズ・シックスだな」
両腕に装備したワイヤーシールド・リコリスが特徴的な、白をベースに、赤の装甲を纏った装騎。
PS-Ra3ラグエルをベースにした三年クラスタリアス・リコリッタの装騎ラヴァーズ・シックス。
「PS-Ra3ラグエルって確か偵察騎ですよね」
「そうだな。戦闘よりは周囲の状況把握や帰還能力の方が高い装騎だからな」
しかし、帰還能力が高いと言うことは、基本的な性能も十分に高いと言うことでもある。
「そういった偵察機能が豊富な代わりに、エネルギーを武器に裂くことが出来ないから火力は不足気味だけど――」
「格闘武器なら比較的少量のエネルギーで、銃器以上の威力が出ますからね――あのワイヤーシールドには注意、ってことですね」
「支援機能を切ればエネルギー全部を戦闘に回す事も出来るだろうが今までずっと味方のサポートに徹してきてるし、ある意味では未知の装騎だよ」
マルクト製装騎は、基本的に格闘武器と銃器では格闘武器の方がエネルギー消費は軽い。
そして、それらの格闘武器は命中さえすれば、装騎の装甲をほぼ確実に切断できる。
一方銃器は、電磁誘導を利用した投射様式が採用されており、その発射にかなりのエネルギーを使う。
その割には、装騎の装甲へのダメージ自体はそれほど高くは無い。
もっとも、かなりのエネルギーを消費するとは言っても、アズルリアクターの出力があれば余裕でまかなえるのだが。
魔電霊子砲が更にそれ以上の、アズルリアクターの莫大なエネルギー出力をもってしてもまかなえないと言うのは以前述べた通りだ。
「そして2年レインフォール・トーコの装騎ニューウェイか」
甲冑を纏った武士を思わせるような、何処か我風な趣のあるくすんだ黄土色をした装騎。
「これは――――なんですかこの装騎、初めて見ました」
「トーコちゃんの装騎ニューウェイ。正確には『機甲装騎』じゃないんだ」
「機甲装騎じゃ、無い、ですか……」
「ああ、遥か極東で戦いに使われていたと言う機甲装騎――『機甲装武』だ」
「機甲、装武……!?」
「トーコちゃんは機甲装武を操る東洋の騎使――武使の血を引いてるんだとさ」
極東の地で戦いに使われていると言う機甲装騎とよく似た甲冑『機甲装武』。
トーコの装騎ニューウェイは、その『装武』の技術と『装騎』の技術を混合した『雑種』と呼ばれるタイプの装騎だった。
「マルクトではPS-B-T1トヨウケビメとして登録されてるな。武器は剣だけなんだが――」
「この武器も見たいこと無いですね――これも装武の、なんですかね」
「名前はミヅキリでアンチマジック武器らしいが」
「アンチマジック――対エネルギー兵装ですね……それだとチャイカ先輩はニューウェイと交戦しない方が良さそうですね」
「あ、それなら――」
「ウチは大丈夫ですわ。ウチの魔力障壁は固いのが取り柄――並のアンチマジック武器は効かないですわ」
「そうなんですか!?」
「これでもアンチマジックハンターとか言われてるからな……まぁ、魔力障壁の弱点突かれたら意味無いけど」
「リーダー、一言多いのですわ!」
対エネルギー切断剣ミヅキリ。
レインフォール家に代々伝わり、常に修復を繰り返しながら使われているアンチマジック武器だ。
このミヅキリを作ったトーコの先祖が、その剣で水流を切り裂いたと言う逸話があるため、水を斬る――ミヅキリと呼ばれるようになったとか。
「ニューウェイはこのミヅキリ以外の武器を使ってることはあまり無いな。おそらくは今回もそうだろうが、ストライダーライフルくらいは警戒しといた方が良いな」
「諒解です!」
「で、最後に1年ヒラサカ・イザナの装騎か……」
「装騎アイロニィですね」
細身の体に14mmサブマシンガン・レッカ、9mmシールドナインライフル、隠しナイフ・クサナギ、そしてボムや煙幕を纏った灰色の装騎。
PS-H2ヘルメシエルをベースにした1年ヒラサカ・イザナの装騎アイロニィ。
「身軽で細身なヘルメシエルを生かした柔軟な戦い方――イザナさんの圧倒的センスが一番の脅威ですね」
「そうだな。武装自体はかなりベーシックなんだけどね。ヒラサカの強さは今まで見てきたから分かるだろうから説明は省くが――――」
「あの、ツバサ先輩――」
不意にスズメが何かを決心したように表情を引き締め、口を開いた。
「どうしたスズメちゃん?」
「次のミステリオーソとの戦い、ですけど…………その、私――――私一人でヒラサカ・イザナと戦わせてください! 戦いたいんです、イザナさんと――どうしても!」
ヒラサカ・イザナの実力は驚異的。
正直、スズメ1人で彼女の相手をするのは辛い――のかもしれない。
だが、それでもスズメは彼女とタイでケリを付けたかった。
「スズメちゃんは――勝てるか? ヒラサカに」
「そ、それは――――」
自信は無かった。
ヒラサカ・イザナの迫力に完全に圧倒されてしまっていた。
「言い方が悪かったな――――――スズメちゃんは、勝ちたいか?」
スズメは――だが、同時に強い思いもその内に秘めていた。
「私――――勝ちたいです。イザナさんに!」
「上、等ッ!!」
ツバサはにぃと笑みを浮かべると、スズメの頭にポフと手を置いた。
「聞いたなお前ら?」
「もちろんですわ」
「当たり前なんですよ!」
「それじゃ、今回の作戦はそういうことだな――良いなスズメちゃん」
「え?」
「ヒラサカ・イザナを――――切り刻んでやれ!!」
「――――っ! はいっ!!!」




