チーム・リリィワーズ
演習場の前――チーム・ブローウィングとチーム・リリィワーズが相対している。
「全く、貴女のとこの1年って何なの――――こんな場面まであんな武器隠してるし」
「あー、よく言われる……」
「ご、ごめんなさい……」
「別に謝る必要は全くもって無いわよ」
今は準決勝を控えた20分の休憩時間中だった。
その休憩時間に、ブローウィングの四人はリリィワーズの4人と合流してた。
「でも本当、スパローにあんな武器までついてるとは思わなかったな……」
「レイ・エッジですか?」
「そうそう、アレって魔電霊子砲か?」
「そうですよー」
機甲装騎の基本的な動力源となるアズルリアクター。
それは人の魔力や生命力を、ブルエシュトーネと呼ばれる特殊な魔石を用いて電力と結合させることで魔電霊子と呼ばれる特殊なエネルギーを取り出す機関だ。
スパローが用いたのは、そのアズルを加速し、射出する魔電霊子砲と言う武装だった。
アズルリアクターは通常では生み出せないような膨大なエネルギー量を取り出すことができる。
その為、装騎に於けるエネルギー切れなどの諸問題はほとんど起きない。
しかし、魔電霊子砲は威力は凄まじいものがあるがアズルリアクターの出力を持ってしても消費するエネルギーはあまりにも膨大で頻繁な使用は不可能。
そういう事情から、好んで使用する者は少ない武器の一つだ。
加えてスパローの魔電霊子砲レイ・エッジは、無理な小型化から消費エネルギーは更に膨大なものとなり、出力にもよるが連射などは到底かなわない。
その射程も比較的短く、どちらかと言うと、巨大なエネルギー剣と言った方がしっくりくるかもしれない。
「また無茶な装備を付けてるわね……」
あきれたようにそう言うライユ。
「こんくらい無茶しないと――――盛り上がりませんから!!!!」
スズメがそう言った瞬間、全員が一斉に笑い出した。
どうして笑われたのか理解していなかったものの、何か変な事を言ったのかと思いスズメの顔が真っ赤になる。
「な、な、な、何ですか!?」
「いや、まさか盛り上がるってくるとは思わなかったな」
「そうね……これからもステラソフィアを盛り上げてくれると良いわね」
「何なんですかぁ!!」
ライユがそう笑いながらスズメの頭をなでる。
「そういえばソッチの1年の装騎も凄かったな。ミサイルか……」
「よんだー?」
ツバサの言葉に、アルク・アン・トワイが反応する。
「呼んだ呼んだ」
「貴女のレーゲンボーゲンの話をしてたのよ」
「PS-Ca1カンヘル、でしたっけ?」
「そーそー、すごいよねミサイル! わたしも初めて見た時ビックリしちゃった」
「そう言えばさっきの戦いだとどうやってミサイルを誘導してたんですか?」
装騎レーゲンボーゲンが装備するミサイルは、レーゲンボーゲン碗部に備えられた照射機で誘導波を照射している先に向かって飛翔する。
しかし、先の戦いでスパローがレーゲンボーゲンと交戦したのは、終盤の1度のみ。
その時にも照射機でスパローをロックしている様子も無かった上に、それ以前からミサイルはスパローを目標にしていた。
「あー、あれはリラライラのダガー弾から誘導波を発して誘導してたんだよ」
「それってキラがスパローに投げたあのダガー弾のことですよね! そういう武器もあるんですか!?」
「そう。私が申請しておいたのよ。レーゲンボーゲンのミサイルは誘導波を相手に照射し続けないと誘導出来ないですからね」
そう、一見便利に見えるレーゲンボーゲンのミサイルだがその誘導波を対象に照射し続けないと誘導することが出来ないという欠点があった。
逆に言えば、誘導波を上手く使えば自由に軌道を変えたりし不意打ちを行ったりもできると言うことだが、木などの障害物に阻まれると相手まで届かないと言う大幅な弱点も存在する。
それを解消する為に、レーゲンボーゲンには照射機以外に、相手をマーキングする事で、ミサイルを常にその対象に誘導できると言うマーキング弾も装備されていた。
そのマーキング弾の技術を、リラライラが好んで使うダガー弾に応用したのがキラがスパローに投げ刺したダガー弾の正体だった。
「色んな武器があるんですねぇ……」
「ソレはわたしがいーたいよ……何なのあのレイ・エッジって……わたし聞いてない!」
「えへへへ、取って置きの切り札ですからね」
「なんてズルい装騎……」
逆間接にブレードエッジ、そして魔電霊子砲と言い盛り沢山なスパローにトワイが口をとがらせる。
「でも、ブレードエッジの所為でスッカスカだから耐久力は低いんですけどね……」
「ブレードエッジはスズメちゃんの希望で付いてるのー?」
「はい、そうです!」
「そりゃまた、なんで。けっこー派手だけど……」
「やっぱり、視覚的に映える変形とかってカッコイイし盛り上がるじゃないですか!!」
「あ、うん、そうだね。そうだったね」
「なんか反応薄くて傷つくんですけど!?」
「ていうか、スズメちゃんって『視覚的に映える』とか『盛り上がる』とか何を目指してるんだよ……いや、アタシもそう言うのは大事だと思うけどさ」
ツバサがふと尋ねたそんな言葉にスズメは言った。
「私はですね、装騎バトルと言うのはエンターテイメントだと思うんですよ!」
「スズメちゃんプロだな」
「本当、プロですね。エンターテイナーとしては、ですけど」
「エンターテイナーとしては?」
ライユの言葉にスズメが首をかしげる。
「新歓に関してはそういう意識で良いんじゃないかとは思うわ。だけど、私達の本当の戦場はゲームじゃない――――それだけは頭に入れときなさい」
「本当の――――戦場……」
「ライユはちょっと気張り過ぎだけどな。マルクトの技術は世界一、当分は他国に対しても圧倒的優位で居られるさ」
「もしかして、実地戦のこと、ですか?」
「そう――そこはゲームじゃない。本物の戦場よ。そして私達はエンターテイナーじゃない、兵士なの。それだけは忘れないで」
「つっても実地訓練で死傷者なんて1期生以来居ないんだろ?」
「全く、ツバサはいちいち煩いわね!」
「ライユも一緒じゃん!!!」
「なんですって!?」
「そーいえば、小耳にはさんだんだけどー、スズメちゃんってレンタルできるって聞いたんだけど本当?」
不意にアルク・アン・トワイがそんなことを口にする。
「それどこ情報ですか!!??」
「んーと、確かヘレネちゃん先輩辺りが言ってた気が」
「やっぱりウィリアムバトラーですか!!!! ていうか、誰得なんですか!?」
「なるほど、スズメちゃんをレンタルというビジネス――」
「ツバサ先輩何言ってるんですか!?」
「私達のチームでもレンタルしてみたいわね」
喧嘩しかけていたのも忘れ、ツバサもライユもそんなことを口走り始める。
「何か最近こんな感じの話ばっかりじゃないですか!!??」
「それだけスズメちゃんが人気ってことだろ」
「そうなんですか!?」
そんな話をしている間に、休憩時間の終了時刻は近づいてきていた。
「そろそろ時間じゃないのブローウィング」
「そうだな――準決勝か…………」
「次の相手はミステリオーソね――――勝てるの?」
「――――勝つさ。な、スズメちゃん」
「当然です!!」
「ふふ、それじゃ――――頑張りなさい」
「ああ!!」




