ゴルディアスブレイク
「まずいな、チャイカがライユにやられた――挟撃されるぞ」
「燃えてきたんですよ!!!」
「ま、こういう状況こそやる気が出るってのは確かだけど」
2騎同時でありながら、手負いのクレセントムーンを突破できないことに若干の焦りも感じえない。
キラの奇襲は怖いが、その2騎が合流すれば全力でスーパーセルとチリペッパーを潰しに来るだろう。
しかし、それでも状況は2対2、加えてクレセントムーンに隙が出来やすくなる。
そこを狙うというのも手だ。
「――が、やっぱりクレセントムーンとキラの2騎同時は面倒くさいか…………と、なれば。マッハちゃん」
「何なんですかぁー?」
「“アレ”、やるぞ」
「――――っ!!!!!!」
ツバサの言葉を聞いたマッハの顔が一気に青くなる。
「マッハちゃん速いの好きだろ!」
「マハは速いのは大好きでも、高いのは嫌いなんですよ!!!」
「高いっつったって、装騎に乗ってるんだから今更だろ!!!」
「アレはあの落下感が嫌なんですよっぉおおおおおお!!!」
「さっさとやるぞ!!!」
「うい…………」
スーパーセルとチリペッパーの2騎はクレセントムーンから距離を空けるようにひく。
そしてチリペッパーの後方にスーパーセルが控えた。
「――――?」
2騎の行動に首をかしげるクレス。
スーパーセルは右手のチェーンブレードをストックし、左手に12mmバーストライフルを構える。
「合図をしたら――行くぜ」
「りょ……りょうかい…………」
マッハの言葉を聞くと、スーパーセルが左手に構えたライフルを発砲する。
タタタタタタと銃声を轟かせ、クレセントムーンに放たれた。
それをチャクラム・アニュラーイクリプスで難無く防ぐクレセントムーン。
「GO! ブローウィングGO!!」
そのまま、ツバサはスーパーセルの設定を固定照準、自動射撃に切り替える。
このモードは、照準を合わせている相手に対し常にその銃口が自動で向けられ、加えて自動射撃がされるというモードだ。
通常はあまり使うメリットの無い機能だが、今回はクレセントムーンへの牽制として使用する。
そのままスーパーセルの大型デュエットブースターに火が灯り、スーパーセルが急加速。
クレセントムーンに向かって一直線に突っ込んで行く。
「マッハちゃん、やれぇぇええええええ!!」
そこでツバサの掛け声。
高速で移動するスーパーセルに向かって、チリペッパーが――跳んだ。
「!? ――――不可解」
何をするつもりなのか、理解できないクレス。
その目の前で、ブースターで加速したスーパーセルに押し出されるように、或はチリペッパーがスーパーセルの体を踏み台にするように――さらに高く飛翔する。
「うひぁぁあああああああああああ」
マッハは浮遊感に悲鳴を上げながら、装騎の体勢を調整する。
宙を舞うチリペッパーを、スーパーセルの右手のアンカーが絡みとり、それを掴むスーパーセル。
そして、勢いよくそのアンカーを引いた。
「いっけぇぇぇええええマッハちゃん!!」
「うぁぁああああああああああ、キックバンカーぁぁぁあああああああああ」
マッハの叫び声と共に、チリペッパーの足の裏に仕込まれたキックバンカーが作動する。
これは、相手に杭のような物を突き刺し――その突き刺した相手にエネルギーを叩き込むことで破壊すると言うチリペッパーの装備の一つ。
スーパーセルのアンカーに引かれたチリペッパーは、そのまま、飛び蹴りを放つようにクレセントムーンへと落下する。
「無茶苦茶――っ!?」
クレスがそう呟いた瞬間――チリペッパーのキックバンカーがクレセントムーンに突き刺さる。
そして、迸る奔流と共にエネルギーが爆発した。
「必殺、チリペッパー・ゴルディアスブレイク――――なんてな」
「し、死ぬかと思ったぁぁああぁああああああ」
揚々としたツバサに、脂汗でぐっしょり濡れているマッハ。
ステルス能力は驚異的だが、クレセントムーンも撃破した今、その能力を生かすのは難しい。
その反面、チリペッパーとスーパーセルも無茶な合体技により、装騎にダメージが残っていた。
「まさかクレセントムーンが落とされるなんて…………ですが、スーパーセルとチリペッパーも手負い、レーゲンボーゲンがスパローを落とせば勝機は有るわね」
チリペッパーはステルスを使用したまま、スーパーセルとチリペッパーの元へ駆ける。
多少間合いを誤魔化せる為、ステルス無しよりはマシと言う部分もあるからだろう。
「くるぞ、マッハちゃん!」
「行くんですよ!!!!」
スーパーセルがキラのいると思われる場所に向けて12mmバーストライフルを発砲する。
そんなスーパーセルを背にして、チリペッパーが駆け出した。
空気の揺らぎとして放たれる、装騎キラの戦闘鎌インコンシステント・ラヴ。
それを直感的に回避し、キックブレードによる蹴りを放つチリペッパー。
しかし、それもキラはやすやすと回避する。
そこにデュエットブースターを吹かせチェーンブレードを持ち切り掛かるスーパーセル。
それもキラは回避をした。
「やっぱり、ステルス状態だと間合いが読み辛いな……」
「さて、そろそろですね」
ライユがそう呟くと、キラがチリペッパーに戦闘鎌インコンシステント・ラヴを閃かせた。
「こんなのっ――」
回避しようと身をかわすチリペッパー。
だが、不意にインコンシステント・ラヴが可変した。
レの字型だった鎌がIの字型に変化する。
「うひゃ!?」
スーパーセルとチリペッパーの2騎をレの字の状態で相手にしていたキラ。
その間合いに慣れてきた頃を見計らい、レの字状態からIの字状態に可変させ、間合いを伸ばす。
武器や装騎の細かい挙動が分かりづらいステルス状態だからこそ効果的にこなせる不意打ちだった。
Iの字型に可変した戦闘鎌インコンシステント・ラヴの刃は、チリペッパーの体を引き裂く。
「そんな使い方も出来んのかよ」
そのまま、スーパーセルも引き裂かんとキラが動いた瞬間。
「レイ・エッジ!!」
光が閃いた。
済んでの所で回避はしたものの、キラのインコンシステント・ラヴが破壊される。
「スパロー!! と言うことはレーゲンボーゲンは……」
確認をするとレーゲンボーゲンは撃破されていた。
そして、今スパローが放った光。
「なるほど――――」
ライユは納得したようにそう頷くと、静かに口を開いた。
「――――降参です。参りました」
「おーっと、チーム・リリィワーズがサレンダー!! と言うことは準々決勝第2試合Bブロックは、チーム・ブローウィングの勝利だぁぁああ!!!!」




