第54話:Pastýři a Strážci Svých Duší
Pastýři a Strážci Svých Duší
-魂の牧者であり、監督者-
『ワレ、はバラム……! 悪魔装騎、バラムである!』
細身の上半身にどっしりとした下半身。
ただし、両肩だけは大きく膨れたようになっており、なにか生き物を模したような装飾がされている。
「悪魔装騎バラム……行方をくらました司祭達の1人ね」
機能を停止したベロボーグ型装騎を背に、ローラの装騎スプレッドが悪魔装騎バラムと相対する。
「貴女の目的は何? 盗賊団と手を組んでステラソフィアを襲うなんて……預言者を倒したŠÁRKAに復讐でもしたいの?」
『否定する』
悪魔装騎バラムが両腕を交差させると、その肩が大きく盛り上がった。
瞬間、巨大な両肩が悪魔装騎バラムの元を離れ、装騎スプレッドに襲いかかる。
「風神城壁!!」
大きく口を開く悪魔装騎バラムの両肩が装騎スプレッドの張った魔力の壁のぶつかった。
『私が使命。新世界を継ぐことこそ。次なる道を探ることこそ!』
同時に悪魔装騎バラムの両目が紅く輝く。
と同時に、強烈な魔電霊子砲が装騎スプレッドの風神城壁を襲った。
「ふん、ぶっ飛ばしてやるんだから! プロスィーム?」
装騎スプレッドの風神城壁を襲う悪魔装騎バラムの肩を叩き落としたのは装騎ヴラシュトフカ。
「ローラさん、援護するのでありますよ!」
さらに装騎ブルースイングが霊子衝浪盾アズライトにアズルを溜め、風神城壁と重ねた。
「助かるわ。スズメは?」
「サエズリ・スズメ、スパロー4ce行きます!」
装騎ブルースイングが霊子衝浪盾アズライトのアズルの流れを僅かに逸らす。
そしてできた流れに乗るように、装騎スパロー4ceが悪魔装騎バラムの元に飛び込んだ。
「スィクルムーン・ストライク!」
『ぐぅ……!』
一撃は悪魔装騎バラムを捉えるが、まだ浅い。
『戦け、慄け、オノノケ!』
悪魔装騎バラムの瞳が一度二度三度瞬き、破壊の光を放つが装騎スパロー4ceには当たらない。
『牡牛よ、牡羊よ』
だが、それはフェイク。
悪魔装騎バラムの呼び掛けで、装騎スプレッドを襲っていた両肩が戻ってくる。
装騎スパロー4ceにその一撃をお見舞いせんとだ。
「そう簡単に……」
「当たらせないわ。プロスィーム!」
片方は装騎スパロー4ceが軽々と回避。
もう片方は装騎ヴラシュトフカがブーステッドハンマー・クシージェを打ち付け軌道を逸らす。
『チッ…………巨人』
悪魔装騎バラムが舌打ちと共に放った一言。
不意に、天を裂くような強烈な魔電霊子砲が降り注いだ。
「これは!?」
その一撃を放ったのは悪魔装騎バラムではない。
大きな足音、全身を震わせるような地響きと共に一騎の機甲装騎がゆっくりと近付いてくる。
「嘘でしょ……あの装騎は、マルクトの」
見上げるようなその巨体にローラは呆気に取られていた。
「超重装騎ヴィクター……でありますか」
マルクト神国製超重装騎ヴィクター。
スヴェト教団が戦力として使ってきたこともある超大型機甲装騎だ。
「ありえないわ。スヴェト教団が保有していたヴィクターは全て回収したはず」
「ありえないとか言っても、目の前にいるんだから仕方ないじゃない!」
「他にも隠してたんでしょうか……?」
「神国時代のデータで製造されたのは5騎。スヴェト教団が使用したのも含めてその全てを確かに回収した。したはずよ!」
「データそのものが間違ってるか……それか……」
「考えても仕方ナイっしょ!」
ワイヤーを引いた刃が超重装騎ヴィクターの腕に絡みつく。
それを巻き取る勢いで、一騎の装騎が超重装騎ヴィクターに向かっていった。
「ビェトカ!」
「とりあえず、このデカブツと悪魔装騎を倒せば解決ジャン!」
それは装騎ピトフーイ。
霊子鎖剣ドラクを巧みに操り、超重装騎ヴィクターの身体を登っていく。
「隊長とローラさんは超重装騎を。2人とも空中戦闘が得意だからね。大きい相手にはいいと思うんだ」
「そうですっ、悪魔装騎は、わたしたちに任せてくださいっ!」
「これだけ数がいれば平気でしょう。なんたってわたしたちはŠÁRKAですからね」
ピピの装騎ネフェルタリ、クラリカの装騎エルジェ、ズィズィの装騎ボウヂッツァも加勢し、悪魔装騎バラムに向かった。
「ちょっとアオノ! アタシもスズ姉のとこに行くわよ! 飛ばしなさい!!」
「仕方ないでありますねぇ。さぁ、乗るのでありますよ!」
「Hrá!!!」
『……厄介。だけど、順調』
「何が順調なのかなー、 Sweet Dream?」
装騎ボウヂッツァの格闘攻撃を凌いでいる悪魔装騎バラムの背後から唐突に現れた装騎アントイネッタ。
そう、ミス・ムーンライトだ。
『羽撃……』
悪魔装騎バラムが右腕を構えると、そこから翼を持つ、鳥のようなものが飛び出す。
それは遠隔操作型の攻撃端末。
嘴のように尖ったところから、霊子の波動を放ち装騎アントイネッタを襲った。
更に、悪魔装騎バラムのその両肩も独自に稼働し、装騎スプレッドと装騎ブルースイングの2騎と戦い始める。
「スズメ! デカブツの脳天に一発かますわよ!」
「分かりました。ビェトカ、おねがいします!」
装騎スパロー4ceが一気に飛び上がると、そこに装騎ピトフーイの放ったワイヤーが絡まった。
「っしゃあ、行くわよ!! ゴルディアス――」
装騎ピトフーイは敢えて超重装騎ヴィクターの身体から飛び降りる。
その勢いを利用し、ハンマーを振りかぶるようにワイヤーを引っ張った。
「ブレイク!!」
強烈な鉄槌となった装騎スパロー4ceの一撃が超重装騎ヴィクターの脳天を叩く。
まるで呻き声を上げるような重い音を立てながら、超重装騎ヴィクターが衝撃に怯んだ。
「ビェトカ、アタシも引っ張り上げなさい!!」
「はいはい」
「ストジェット!!」
更に追い打ち。
装騎ヴラシュトフカのブーステッドハンマー・クシージェの一撃が超重装騎ヴィクターに打ち込まれた。
『……巨人、諦めては、ダメ。恐怖を――見せなさい』
『Guuuuuuuuuuuuu!!!!!』
不意に、超重装騎ヴィクターが叫ぶような声を上げる。
その全身を包み込むのは、偽神装騎とよく似た波動。
「この感じ……まさかヴィクターの騎使代わりに偽神装騎を……?」
スズメの予想は当たっていた。
あの超重装騎ヴィクターは騎使を乗せる代わりに偽神装騎を取り込ませたことで疑似偽神装騎と化していた。
『Goooohhhhhhhhhhhh!!!!!!!』
超重装騎ヴィクターの全身が一瞬輝いたかと思ったその瞬間、強烈な衝撃が周囲を揺らす。
「今の一撃!! チッ!!」
その攻撃はその場にいる誰にもあたっていない。
そう、今の攻撃はスズメ達ŠÁRKAを狙った攻撃ではなかった。
ビェトカが睨む先にいるのはフランら多目的ホールから避難した生徒や保護者達だった。
「まさか今の一撃、避難した人を狙って!? フラン先生!!」
「大丈夫だ! 負傷者はいない!」
フランの持つPADを通してスズメ達に送られた言葉にスズメ達は安堵する。
だが、攻撃の跡は確かに避難した人々ギリギリの位置を抉り取っていた。
もしあと少しでもズレていたのならばそれは……。
「テメェら、絶対に許さないッ!!!!」
『良い感情。恐怖、怒り、戦け、慄け、オノノケ!』
悪魔装騎バラムの笑いが周囲に響き渡る。
『巨人、巨人、巨人、巨人!』
楽し気に超重装騎ヴィクターを何度も何度も呼び掛ける。
それに応えるように超重装騎ヴィクターはデタラメに魔電霊子砲を撃ちまくった。
「このままじゃ、ヘタすりゃみんなに当たるジャン!!」
「わたし達は防御に回りましょう。ヴィクターの魔電霊子砲は脅威です」
「その通りであります。クラリカさんもお願いするのであります!」
「もちろん、です! アルジュビェタさんのお友達、殺させはしませんっ」
装騎スプレッド、装騎ブルースイング、装騎エルジェのアズルシールド持ち装騎が避難した人々の援護に回る。
装騎ネフェルタリ、装騎アントイネッタ、装騎ボウヂッツァは引き続き悪魔装騎バラムと戦うが、遠隔攻撃端末である両肩と鳥型の連携に手をこまねいていた。
「かと言って、向こうからコッチに援護に来てもらう訳にはいかないですね」
「寧ろ、規模が大きい分ヴィクターの方が撃破目標だもんね!」
「ほかの仲間にも連絡は入れてある。きっと来てくれるはずだよ」
一方、超重装騎ヴィクターの攻略もいまいち進みがはかどらない。
「タダでさえデカくてカタイってーのに、偽神装騎の力があるってーのは。ヤッカイだわ!!」
「ですけど、偽神クトゥルフや異界堕神ルドライエフみたいなもっとデカい敵には勝てたんです!」
「とーぜんよ! なんたってスズ姉は最強なんだから!!!!」
「ですけど――イマイチ手が足りないっていうのも確か、ですね」
一刻も早く超重装騎ヴィクターを破壊したいこの状況。
明確に目標を定めた攻撃であればまだしも、デタラメな攻撃を繰り返している超重装騎ヴィクターが、いつどんなところを攻撃するのか全く分からない。
となれば、避難した人々に対する危険だけではなく思いがけないところで大きな被害も出かねない。
それに気になるのは……。
「あとなんか露骨に変な光が強くなってるのヤバいっしょ!!」
「ですねぇ……ゲーム的に考えれば、あの光が最大になったらゲームオーバーですよねぇ」
「どーする!?」
「まぁ、どうするって言われても――ガンガン行くしか、ないんじゃないですかね」
「当然よ! 殴って殴って殴りまくるわよ!!」
「ああ、それなら手を貸そうかリーダー!」
『Go!!』
勢いをつけた鋭い一撃。
それは突撃槍ウィンを掲げたゲルダの装騎クリエムヒルダの一撃だった。
さの装騎クリエムヒルダがまるで馬のように跨るのはフニャトの装牙リグル。
「騎兵隊の参上だ」
「ゲルダさん、フニャちん!」
「やれやれ、卒業式なのに騒がしいわね」
「マルクト中央憲兵団です! スヴェト過激派残党――覚悟してください!」
片や唸りを上げる連鎖刃断頭剣を振りかざした漆黒の装騎。
片やアズルリボンを舞い踊らせる装騎。
カラスバ・リンの装騎コクヨクとアランディナ・モードことアラモードの装騎プティの2騎だ。
「カラスバ先輩にアラモード先輩まで――これならっ!」
加勢を受けてスズメ達に更なる気合が入る。
「みなさん、一気に決めましょう。ŠÁRKA、DO BOJE!!」
スズメの号令一下、激しい連続攻撃が超重装騎ヴィクターを襲った。
『Gaaarrrrrrrrrrrrrrrrrrr』
断末魔を上げるように超重装騎ヴィクターから激しく歪んだ駆動音が鳴り響く。
『巨人。機は熟した。役目は終わり。わたしも、あなたも』
足を崩し、地面に沈む超重装騎ヴィクターに、不意に悪魔装騎バラムが近づき、触れた。
瞬間、耳をつんざくような甲高い音が鳴り響く。
『人は、恐怖、し、敵は、わたしたち、狙う。それは、即ち――意思、統、一……呼ぶ、わた、し……は…………』
超重装騎ヴィクターが悪魔装騎バラムを取り込む。
それは悪魔装騎バラムが超重装騎ヴィクターを取り込んだようにも見えた。
互い互いが溶けあい、混ざり合い、一つになる。
互いが互いの身体を利用し合い、昇華し合い、そして一つの存在になる。
『オ、オオオオオオオオォォォォォォオオオオ』
その歪んだ力の感覚は偽神クトゥルフや異界堕神ルドライエフとよく似ていた。
それもその筈、その力の源は言うまでもなくその両者と同一のもの。
そして、その発生方法も両者を真似し、簡易化したものだった。
人々の恐怖や敵意を蓄えることで、自らの存在を強化する言うなれば簡易型異界堕神。
名付けるのであれば――――
『堕神、トルンガ……ッ!!!!』
「自己紹介乙乙ー! っつーこって、ぶっ飛ばす!!」
装騎ピトフーイは霊子鎖剣ドラクの先端に拳のようなアズルを纏う。
「荒れ狂う……」
鉄槌を下すようなその一撃は――
「毒蛇!!」
堕神トルンガの身体を激しく打ち付けた。
「どーよ!」
堕神トルンガの装甲が弾け飛び、崩れ落ちる。
その一撃に確かな手応えを感じたその瞬間、
「ひぁぅっ!!??」
装騎ピトフーイを激しい振動が襲った。
「ビェトカ、違う! アレは破壊したんじゃない――破壊させられたんです!!」
堕神トルンガはスズメの声に反応したように、装騎スパロー4ceへその頭を向ける。
(来る――!)
そう思った一瞬後。
その巨体に似合わない驚異的な加速で堕神トルンガは装騎スパロー4ceに接近。
「スズメ先輩!!」
その拳を――装騎スパロー4ceの前に立ちはだかった装騎ブルースイングに打ち付けた。
「アオノちゃん!」
「へ、平気であります!」
超重装騎ヴィクターの持つ圧倒的な装甲を脱ぎ捨た堕神トルンガ、その素早さは想像以上のもの。
「全っ然、当たらないじゃない!!」
「当たられたとしても――有効打を打ちづらいね。こうも動き回られると」
「なんとか足止めができると良いのだが……リーダー、案はないか?」
「案、と言いっても……とりあえず、アオノちゃんとクラリカさんはアズルシールド、ローラさんは魔力障壁で相手の動きを抑えてください!」
「諒解!」
「アラモード先輩もアズルリボンでなんとか捕縛できませんか?」
「やるだけはやってみます」
「私も力を貸すわ。2騎のアズルを全力で注げば少しはもつかもしれないもの」
「お願いします、カラスバ先輩」
「んで、ワタシもワイヤー持ちだし捕縛に行った方がいいカンジ?」
「ビェトカは――待ってください。アレ、やりますよ」
「り! って、アレってナニ」
装騎ブルースイングとエルジェのアズルシールド。
装騎スプレッドの風神城壁。
さらに装騎プティとコクヨクが力を合わせたアズルリボンによる捕縛が始まる。
装騎クリエムヒルダ・リグルやネフェルタリ、アントイネッタにボウヂッツァの援護攻撃も加わり堕神トルンガの動きを抑え込む。
と言っても、さすがにサイズが違いすぎる。
「リーダー、このままでは捕縛班のアズルが足りなくなる。一撃を!」
「……なんとか、決めるしかなさそう、ですね」
攻撃を受け、動きを封じられながらも激しく暴れる堕神トルンガにスズメはやや不安があった。
「でも、やるしかないっしょ!」
「ツバメちゃん!」
スズメが意を決して、呼びかけた瞬間。
「ちょっと待つさ!!」
突如、堕神トルンガに負けずとも劣らない巨体が姿を現した。
「アレってまさか――」
「超重装騎相手にはお約束である!」
「アナマリアオオダコだよー」
それはアナマリアの装騎が纏う巨大アズルホログラム。
更に今回はナキリやタマラも協力し、さらに強力、尚且つ巨大になっていた。
「寧ろ、アナマリアオオダゴンさ!」
「うーん、その名前にいい覚えナイんだケド」
「オマケに色々連れてきたのである!」
『Nyyyyyyy!!』
『Urrrrrrrr!』
2騎の装牙が堕神トルンガの腕にかぶりつく。
片方は偽神クトゥルフとの戦いでも使われた動作試験用装牙ティグル。
「もう1騎は武装試験用のレフ!? 乗ってるのはもしかして――」
そう、ニャトカとゲルニャの2匹だ。
「ハーハッハッハッ! オマケ? いや、わたしこそ本命! わたしこそ天才! すなわちジーニアス!!」
「ったく、本当はやりたくないけど。仕方ないわ。だってこれは――とても効くもの!」
Dr.ジーニアスの装騎ジーニアスと、エルザの装騎イゾルデが持ってきたのは何やら巨大な機械。
スズメはそれに見覚えがあった。
悪い意味で。
「ポチッとな」
装騎ジーニアスに起動させられたその機械は、銃口のように飛び出た口から何やら液体を噴射し始めた。
甘ったるい匂いが周囲に充満していく。
「何だ!? これは、いや、嘘だろ……」
「ステラソフィアがチョコレート塗れになる事件があったとは聞いてたけど、ジョークじゃなくて本当だったの!?」
「Sweet Dream!!」
さすがにあのチョコ製造機を始めて見たゲルダやローラ、ミス・ムーンライトは困惑が隠せない。
「うわぁ……一生分のチョコが食べられそう……」
「クラリカ、まぁ、そうですけど……」
「あのジーニアスとか言う子、絶対にアイアンガールズですよね!?」
「チーム・アイアンガールズの伝統ね。いいことじゃない」
「いいことなんですかぁ?」
やがて、堕神トルンガの身体に絡みついたチョコが一気に硬化をはじめる。
チョコ地雷と同じ性質を持っているようだ。
「アルジュビェタ、今よ!」
「ツバメちゃん!」
「フラート!!」
スズメの号令で、装騎ヴラシュトフカはブーステッドハンマー・クシージェを構える。
「スパロー!」
「ヴラシュトフカ!」
「「ブレードブリット!!」」
装騎ヴラシュトフカが大きく振りかぶったブーステッドハンマー・クシージェをカタパルトがわりに、強烈な弾丸となった装騎スパロー4ceが堕神トルンガへ体当たりをかます。
「スパロー!」
「ピトフーイ!」
そこへ装騎ピトフーイはワイヤーを伸ばし装騎スパロー4ceを掴み取った。
2騎のアズルが共鳴しあい、炎のように燃え上がる。
「「不死鳥の炎!!」」
堕神トルンガを挟み撃ちにするように、2羽の火の鳥が堕神トルンガの身体を打ち砕いた。
「これで第23回ステラソフィア機甲科卒業式を終了する」
堕神トルンガも倒され、バタフライ盗賊団一味も再逮捕され、無事にステラソフィアの卒業式が終了した。
「よくもまぁ、こんな状態で卒業式終わらせられたわね……」
多目的ホールが破壊された代わりに装騎用グラウンドを使っての卒業式。
「ま、ステラソフィアらしーんじゃない?」
ビェトカのお気楽な言葉にエルザはため息をつく。
実際、保護者の多くは困惑の表情だったが、当の機甲科卒業生の多くは何ら変わらぬ様子で卒業式を滞りなく済ませていた。
「ビェトカ、エルザ先輩、卒業おめでとうございます!」
「ナンかほとんど学校行ってない気がするけどね! まっ、それでも卒業は卒業かぁ」
「確かにね。半年以上は学校来てないのによく卒業できたわね」
「ŠÁRKAの隠れ家で学園長が講義開いてたからなぁ。あとはまぁ、ステラソフィアのシステム」
「で、就職はどうするんですか?」
「今まで通りニートよニート。昔稼いだ金はあるし、旅にでも出よっかなー」
ビェトカの言葉にスズメはどこか寂しさを感じる。
「危ないことだけはしないでくださいよ」
「2人で散々危ないことしたばかりジャン? んまっ、スズメが呼べば駆けつけるわ。スズメの為なら、タダで力を貸しちゃう!」
「忘れないでくださいよ?」
なぜかビェトカの背筋に走る悪寒。
「あ、やっぱ――」
今の言葉を取り消そうとするビェトカだが、
「卒業式は終わっても、しばらくはステラソフィアに居れるんだからそんな恥ずかしいお別れしちゃっていいのかしら?」
エルザのそんな言葉でかき消される。
「スズメ――」
「今日はお祝いをするのでありますよね!」
「ねぇさっきの――」
「ふん、割と良い店を予約してるみたいじゃないの。楽しみにしてあげてもいいわよ」
「てか人が喋って――」
「もちろんですよ。ŠÁRKAのみんなも呼んでるのでいっぱい楽しみましょう!」
「スズメー!!」
「ビェトカ、あとで誓約書作っときますからね」
「スーズーメー!!!!」




