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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
帰ってきた日常
313/322

第49話:Těsná Brána

Těsná Brána

-命に通じる門-

「目覚めよ。目覚めよ勇ニャよ……勇ニャスズメよ……悪の大ニャ王、ニャタンを倒すのだ…………」

ほのかに暖かい日差しが窓から差し込む中、スズメはそっと目を開いた。

瞳に映るのはよく見知ったチーム・ブローウィングの寮室。

そのリビングだ。

どうやら、いつの間にやら眠ってしまっていたようだった。

「おーやつおやつ♪ おやつをたーべよっ」

陽気な即興歌を口ずさみながら軽い足取りで現れたのはビェトカ。

ふと、ビェトカがもの珍しいものを見るような目をスズメに向けてきた。

「ビェトカ?」

ビェトカがゆっくりとスズメの元へ近づく。

その足取りは慎重で、まるでスズメがどこかに逃げ出すことを警戒しているようだ。

それだけではない。

「ビェト……!!!???」

スズメは声にならない叫びを上げる。

なぜならば、ビェトカが自分と比べてもものすごく大きかったからだ。

ビェトカはヒョイとスズメの体を持ち上げると言った。

「野良猫ぉ? どこかから迷い込んで来たのかなー? もしかして、フニャ猫のガールフレンドとか!?」

「猫……!?」

「ニャーだってかわいー! てかそもそもメスなの? ……せーべつチェーック」

「ギャァァァアアアア!」

突如股間をまさぐられ、スズメは思わずビェトカに肉球を叩きつける。

「いった! うわ、怒らせた! ゴメンてゴメンて」

「フ――――――!!!!」

「騒がしいぞ。何ごとだ」

ふと聞いたことの無い声が窓の外から聞こえてきた。

その声の主は器用にガラス戸を開けると部屋の中へと入ってくる。

「おっ、フニャ猫! このメス猫ってアンタのガールフレンド?」

「知らん」

恐らくビェトカに通じては無いだろうが、フニャトは律儀にそう言った。

「フニャちん!!」

「うわっ、なんだお前は! 引っ付くな!」

「あ、やっぱガールフレンドなんだぁ」

じゃれ合う猫2匹の様子を見てビェトカは勝手にそう判断する。

「フニャちん助けてフニャちーん!!」

「なんだフニャちんフニャちんと主人みたいなマヌケなあだ名で…………主人?」

その姿は完全に猫。

しかしよく見ると頭頂部に跳ねたアホ毛、癖のあるミルキーブロンドの毛並みとどこかで見たような特徴を持っていた。

「まさかお前、サエズリ・スズメか!?」

「そうですよー!!!!」

場所を変えて機甲科寮屋上。

フニャトお気に入りの場所その1に2匹はいた。

「主人、何故猫に」

単刀直入に聞いてくるフニャトに、スズメは頭を抱える。

「起きたらこんなになってたんですよー! そんなの分かるわけないじゃないですかー!!」

「因果応報と言うだろう。何か原因があっての結果だ。よく思い出すのだ主人よ」

「えっと、関係……あるかは分からないですけど、変な夢を見たような…………」

「夢?」

「目覚めよ、勇ニャスズメ、えっと、悪の大ニャ王を倒せ、みたいな?」

スズメはうろ覚えな夢の内容をたどたどしく口にした。

その内容を聞きフニャトと瞳が僅かにだが大きく開かれる。

「心当たりがあるんですか?」

「実はだな主人。最近、猫たちの中である噂が囁かれているのだ」

「猫たちの噂……」

「ああ、ステラソフィア機甲科寮の裏に猫たちの集会所があるのだが……」

「あ、知ってます! たまにこっそり覗きに行くんですよねー」

「そこに、選ばれし猫にしか抜けないと言う聖なる猫じゃらし……通称、選定の猫じゃらし(カリニャーン)が生えており、それを抜いたものは猫たちを救う勇ニャであると」

「選ばれし猫にしか抜けない猫じゃらし……あ」

「心当たりが?」

それは昨日の夕方。

暇を持て余したスズメは機甲科寮裏のビオトープ。

そこをさらに奥に進んだ場所にある野良猫たちの集会所に足を運んでいた。

そこでは、一本の猫じゃらしに交代ずつでじゃれつく猫たちの姿。

いや、じゃれついていると言うよりは……。

「抜こうとしている……?」

スズメはそっと猫たちに近づきその様子を観察する。

たしかに猫たちはじゃれている、と言うよりはその猫じゃらしを口でくわえたり、前足をかざしたりしながら引き抜こうとしているようだった。

「ちょっと手伝ってあげよー」

そんな軽い気持ちでスズメは猫じゃらしに手を伸ばし――ブチッという音と共に引き抜いた。

「あの時、周りにいた猫が驚いたような顔をしてすぐ逃げてっちゃったんだけど……もしかして、アレ?」

「ソレだな」

ソレだった。

「して主人よ。カリニャーンはどうしたのだ?」

「えーっと、そこに置いてきちゃった」

所変わって機甲科寮裏の猫の集会所。

スズメとフニャトはカリニャーンが生えていたと思しき辺りを散策していた。

「確かこの辺りだったはずですけどねぇ……誰か持ってっちゃったんですかね?」

「また面倒な」

その時、野良にしては綺麗な銀色の毛並みをした猫がスズメの目に入る。

銀猫は何やら必死に地面にしがみつき、食いつき、前足と後ろ足をバタつかせていた。

「主人、あの猫の口元を見ろ」

「あれは……」

フニャトの示す先には一本の猫じゃらし。

銀猫はその猫じゃらしを持ち上げようとしているようだった。

「ナンで……ナンで持ち上がらないのよ! このカリニャーンを手に入れてッ、あのニャタンに復讐しないといけないのにッ!」

それからも何度となくカリニャーンを持ち上げようとする銀猫だったが、結局持ち上がらない。

ついぞヘトヘトになった銀猫がその場にうずくまった時、スズメたちに気づいた。

「ナニ、アンタたちも挑戦者ァ?」

「挑戦者と言いますか……それ、私のっぽいので」

「ナニ言ってんのアンタ。このカリニャーンは選ばれた猫しか手にでき……な…………」

軽々とカリニャーンを持ち上げるスズメに銀猫は開いた口が塞がらない。

「どうやら、本当に主人が選ばれし勇ニャみたいだな」

「フニャちん持ってみて」

「手渡すな! せめて地面に置け!!」

「まさか、コンナやつらが選ばれし勇ニャ!? ふざけんじゃないわよ!」

カリニャーンで遊び始めるスズメとフニャトを目に、銀猫の怒りが爆発。

「うわっ、襲ってきた!」

銀猫の鋭い猫パンチがスズメを襲う。

「ちょっと待ってください! アナタは大ニャ王ニャタンを倒したいんですよね!?」

「そうよ! その為に、ワタシは、カリニャーンがっ、必要なのッ!!」

「ならば私たちと一緒に来ませんか? 私たちにはニャタンの情報が必要です! ニャタンのことをよく知ってるアナタが来てくれれば……」

スズメの言葉に銀猫は攻撃をやめた。

スズメが一安心したのもつかの間。

「ならばワタシに力を見せてみなさい! ニャタンを倒せるだけの力を!」

再び銀猫が襲い来る。

「主人、カリニャーンを使え!」

「だけど、あの猫さんを傷つけるわけには……」

「忘れたか、カリニャーンは猫じゃらしだ! 猫じゃらしをどう使うかは――主人ならよくわかっているはずだ!」

「猫じゃらし……そうでした! 行きますよ、カリニャーン!!」

スズメは銀猫の目の前でカリニャーンを揺らす。

その軽快さに銀猫は思わずカリニャーンに手を伸ばしてしまった。

「ほれほれほれ」

「んにゃぁ〜ん、にゃあぁ…………ハッ!?」

ひとしきりじゃれた後、銀猫は正気を取り戻す。

「これが……全ての猫をじゃらしてしまう聖猫じゃらしカリニャーンの力……負けたわ。アンタ、名は?」

「私はスズメです。こっちはフニャち――」

「フニャトだ」

「アナタの名前は?」

「ワタシに名前はないわ。復讐猫、とでも呼べばいいわ」

「えー、名前がないのは不便だよ。じゃあ、ニャトカ! アナタの名前はニャトカです」

「なっ、勝手に名前を付けんじゃないわよ!」

そう言いながらも、ニャトカはどこか嬉しそうだった。

「元人間ねー、どうりで勝手に名前を付けるワケだわ」

「勝手に名前も付けるが、勝手にあだ名も付けるぞ」

「えー、かわいいじゃないですかー。フニャちん」

「主人よ、前々から言いたかったのだが……」

不意に視界の端に黒い影がチラつく。

それはスズメたちの行く手を阻むよう壁だった。

「おい、おめーか聖なる猫じゃらしカリニャーンを抜いたってのは!」

いや、壁のように立ちはだかる3匹の黒猫たちだ。

「ほれほれ」

「「「んにゃぁぁぁあああん」」」

「チョロい」

カリニャーンのひとじゃらしで黒猫トリオは威勢を削がれる。

ひとしきりじゃれた後、黒猫トリオの1匹。

リーダー格と思しき猫が言った。

「勇ニャ様……」

「様付け」

「私たちは大ニャ王ニャタンの命によりあなたたちを妨害しに来ました」

「敬語」

「私たちは完敗です。しかし、私たちが負けたと知ればかの方が動き出すでしょう」

「大ニャ王、ニャタン……」

「ええ。しかし、今のあなた方ではニャタンの闇の力には勝てません」

「勝てない……?」

「ナニ言ってんのよ。こちとらユーニャよユーニャ! なめてんの?」

「それだけニャタンの闇の力は強大なのです」

「その通りだ」

その時、臓腑の底に沈むような重い声が響いた。

声を聞いた黒猫トリオは震え上がる。

そう、ヤツが来たのだ。

「大ニャ王ニャタン……!」

猫の中では大柄な方のフニャトをはるかに上回る巨体。

ドブに汚れたようにくすんだ毛並み。

鋭い眼光はあらゆる猫を竦みあがらせる。

「特上猫缶の仇ィ!!!!」

ニャタンの姿にニャトカが一も二もなく襲いかかった。

「ふん」

ニャトカの一撃は、鼻を鳴らしたニャタンから発せられた闇の瘴気に弾かれる。

闇をまとったその姿はまさに猫の中の魔王――ニャ王だ。

「ニャトカ!」

「ッ……ヘーキっ!」

「貴様が伝説の聖なる猫じゃらしカリニャーンを抜いたという猫か」

ニャタンは口の端を釣り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

「見たところ半猫前……しかし、危険の芽は早めに摘んだ方がよいだろう」

「こちらこそ、探す手間が省けました。大ニャ王ニャタン――勇ニャの使命としてアナタを倒します!」

「ふふ、来いッ!!」

スズメはカリニャーンを振りかざし、ニャタンをじゃらす。

しかし、

「カリニャーンが、効かない!」

あらゆる猫をじゃらすというカリニャーンの効果が全く発揮できてない。

「我が闇の力。受けてみよ」

「カリニャーン!!」

しまいにはニャタンの闇の力でカリニャーンの"穂"が剥ぎ取られてしまった。

「そんな、これじゃあ猫じゃらしじゃなくてただの茎です!」

「スズメ!」

ニャトカも必死で応戦するがニャタンは強力無比。

「クソっ、仕方ない。お前ら、勇ニャ様を助けるぞ!」

「「アイアイサー!」」

リーダー格の黒猫の号令一下、2匹の黒猫がニャタンに襲いかかる。

「黒猫さん!」

「勇ニャ様、ここはいったん引いてください!」

「でも!」

「よろしいですか勇ニャ様。カリニャーンが使えなくなった以上、ニャタンを倒すのは不可能です」

歯をくいしばるスズメに表情が硬いニャトカ。

「しかし勇ニャ様」

そんな2匹を宥めるように、リーダー黒猫は優しい口調で言った。

「まだカリニャーンは死んだ訳ではありません。この林の奥深くにいる神秘を極めた猫を訪ねるのです」

「神秘を極めた猫……」

「彼女に会えばきっと、カリニャーンはその力を取り戻し、ニャタンの闇を打ち払う術を教えてくれるはずです」

リーダー黒猫はスズメにそう教えると、その背を向ける。

「では、お行きください勇ニャ様!」

「待ってください! アナタは――アナタはどうして私達を助けてくれるんですか!?」

「わたしは弟たちを傷つけないためにニャタンの配下に入った――ですが、それは間違いだったのだと気づいたのです。貴女の猫じゃらし捌きを受けて」

「黒猫さん……」

「行ってください。わたしたちステラソフィアに住む全ての野良猫のために!」

「ありがとうございます。行こう、フニャちん、ニャトカ!」

フニャトとニャトカは頷くと、スズメに続きその場を後にした。

「神秘を極めた猫――どんな猫なんでしょう。っていうか神秘って?」

「きっと猫に伝わる秘蹟――ニャ術のことね」

「ニャ術?」

「まさか……実際に使える猫がいるというのか!? あのニャ術を!」

「フニャちん知ってるの……?」

「詳しくは知らないが――人間たちが使ういわゆる魔術を猫に最適化した技術だと聞いたな」

「つまり、魔術使猫ってことですか……」

ニャ術猫を捜して林の中を進むが、それらしき猫の姿は見当たらない。

「ニャ術猫さーん? どこですかー?」

そう呼びかけながら散策をしていると、突如草むらがうごめく。

「ニャ術猫、さん?」

「ナーンカ嫌な予感……オンニャの勘ってゆーか」

ニャトカの勘は当たっていた。

ザザザザザザと激しい音を立てながら、茂みの奥から現れたのは巨大な岩山。

いや、

「これは――亀か!!」

圧倒的巨体を持った山のような黄金の亀。

「あの亀、前にステラソフィアで暴れてた……確か名前はキンピカオオギルガメ!!」

スズメはその亀のことをアオノから聞き知っていた。

機甲科寮裏のビオトープを管理している女子生徒アナマリアが連れてきたという巨大かつ凶暴な亀キンピカオオギルガメ。

本来であればとてもグルメであるというキンピカオオギルガメ――しかしよほど気が立っているのかスズメ達の姿が目に入ると突如襲い掛かって来た。

「マズいぞ主人!」

「分かってます! なんとかここから逃げましょう」

「逃げるったって――あのカメ、図体デカいクセに……早いッ」

「くっ、なんとか撃退するしか――――ムーンサルト……ストライク!」

スズメのバク転宙返りからの引っ掻きがキンピカオオギルガメに命中する。

「やっぱり固い!」

だが、スズメの小さな猫爪ではキンピカオオギルガメに傷一つつけられない。

「スズメ! ワタシだって――戦う!!」

ニャトカがどこで見つけたのかロープをくわえてくる。

それをキンピカオオギルガメに絡みつかせ、転倒を狙うがさすがに重量のあるキンピカオオギルガメ――そう簡単に転ばせることはできない。

「フニャ猫! アンタもロープをくわえなさい!」

「ふっ、あの小娘みたいな口を利く……良いだろう。主人、目を狙え。カメの動きは私達でなんとか抑えよう」

「分かりました――受けてください。私の、一撃ィ!!」

スズメの一撃にキンピカオオギルガメは怯んだ。

そして興を削がれたとでも言うようにキンピカオオギルガメは茂みの中に戻っていく。

「驚いた。あの亀を撃退するなんて」

その時、声が聞こえた。

「もしかしてアナタは――ニャ術猫さん?」

「そういう君は勇ニャだな。そしてその連れか――わたしはニャ術使ゲルニャ。歓迎する」

スズメたちはゲルニャの住処――彼女が言うには"工房"に通される。

「これが伝説の猫じゃらしカリニャーンか。無残な姿だね」

穂が完全に剥げてしまったカリニャーンを見てゲルニャは言った。

「ですけど、ゲルニャさんならカリニャーンを復活させる方法を知っていると聞きました」

「ニャタンを倒す方法もね」

「そうだな。確かにこのカリニャーンは使い物にならないが――死んでいるわけではない。君達の実力はギルガメとの戦いで見せてもらったし……良いだろう。案内しよう」

「案内……?」

ゲルニャに連れられて来たのは小さな湖だった。

「わたしは神秘を今まで受け継いできた。そんな中で、こんな言い伝えがあったんだ」

"勇ましき猫の持つ光砕けし時、聖なる湖水で清めれば真なる輝きを取り戻すだろう"

「つまり、カリニャーンをここに浸せばいいってことですか?」

「ああ。そう聞いている」

スズメがカリニャーンを湖に浸した時――空から光の梯子が舞い降りた。

湖の水と、空からの光がカリニャーンに力を与える。

目もくらむような閃光が弾けた瞬間――カリニャーンは小麦色に輝く神々しい猫じゃらしへと変貌していた。

「これがカリニャーンの新しい姿――名付けるのなら、エクスカリニャーだな」

「エクス、カリニャー……」

「コレでニャタンの闇の力も跳ね除けるってワケ?」

「闇の力を完全に跳ね除けるのは難しいかもしれない」

「ハ? だったらニャタンを倒せないジャン!!」

ゲルニャの言葉に怒りが隠せないニャトカが食って掛かる。

「落ち着くんだ。ニャタンの闇の力――それはわたしたちニャ術猫に伝わる神秘によって封じ込めるさ」

「ゲルニャと言ったな。つまりお前は、私達についてくるつもりか?」 

「そうだ。君達についてく。大ニャ王ニャタンを倒すために」

ゲルニャの言葉にスズメは頷いた。

「わかりました。行きましょうゲルニャさん。一緒に!」

「どーせだからさ、なんかチーム名みたいなの考えない?」

「チーム名か。いい考えだと思う。結束力が高まるからな」

「主人よ、そんなことを言い出したのだがどうすれば……」

「良いじゃないですかチーム名。私に一つ、案があります」

「マジで? 聞かせて聞かせて」

「そうですね――ニャールカ、というのはどうでしょう!」

「ニャールカか……いいね。シンプルで可憐さも感じられる。わたしは賛成だ」

「ワタシもワタシも!」

「フニャちんは?」

「別に断る理由はないが――つまりアレだろう? あの号令を言うことになるのだろう?」

どこか呆れたように言うフニャトにスズメは「当たり前じゃないですか」とフニャト額を小突く。

「では――ニャールカ、ド・ボイェ!!」

そこは惨状となっていた。

地面に蹲る黒猫たちの他、彼らの勇気に感銘を受け駆けつけた野良猫たちが、しかしニャタンの圧倒的な力に対抗できず敗退を喫した痕。

「ちくしょう……やはり、マタタビもダメだったか!」

リーダー格の黒猫が地面に肉球を打ちつけながら打ちひしがれる。

寧ろ、味方の多くが泥酔状態となり損害を広げるばかり。

「勇ニャ様は、無事にニャ術猫に出会えたのか……!?」

瞬間、ニャタンの真上から木の実が大量に落ちてきた。

「なんだッ」

その木の実に混じって急降下してくるのはニャトカ。

そのまま一気にニャタンに飛びかかる。

「キサマは勇ニャの連れか! ということは、戻って来たか勇ニャよ」

「はいっ!」

木々の合間を影が走る。

その影は一気にニャタンへ距離を近づけると、

「エクス、カリニャー!」

聖猫じゃらしエクスカリニャーでじゃらした。

聖なる力と闇の力がぶつかりあう。

以前と比べるとスズメにも手応えがあった。

しかし、まだまだ闇の力にかなわない。

「フニャちん!」

「隙を作ればよいのだろ?」

フニャトは全身全霊をかけ、ニャタンに体当たりをかます。

少し怯んだその隙を見てスズメが叫んだ。

「ゲルニャさん!」

「ああ。行くぞ、勇ニャ」

ゲルニャの周囲の空気が変わる。

それはゲルニャを中心として渦巻くニャ力のせいだ。

「我らがニャ術猫に伝わりし秘伝、受けてみろ。ライト・ニャ・ライト」

ゲルニャの前足に光が舞い散り塊となる。

その塊をゲルニャはニャタンに解き放った。

「この力は……!」

「そうだ。神話の時代、闇の猫を打ち破ったという伝説の光の猫の力だ。勇ニャ!」

さらにその光はスズメに燃え移り、スズメの力を沸きあがらせる。

「エクスカリニャーに光の猫の力――それが組み合わさった勇ニャの力は無敵だ。行け!」

「サエズリ・スズメ、行きます!! エクス――」

スズメは光を大きく振り上げると、その目でしっかりニャタンを見据える。

「カリニャァァァアアアアアアアアアアア」

光の一閃がニャタンの闇を焼き払った。

「勇ニャよ。勇ニャスズメよ」

光の中、声が聞こえる。

それはどこかで聞いた声。

そうだ、確か夢の中で……。

「勇ニャスズメよ、よくぞニャタンを打ち破った!」

「アナタは……?」

「私は猫々に光の猫と呼ばれる猫じゃ」

「つまり、神様?」

「そんなところだろう。勇ニャスズメ、よく戦った。その働きを称え、汝に褒美を取らせよう」

「褒美、ですか?」

「ああ。願いを1つ、叶えて見せよう。マタタビが欲しい、一生好きなだけキャットフードが食べられる、あるいは猫の世界の王者となることも可能じゃ」

「えーっと、あの、私人間なんで、人間に戻してもらってもいいですか?」

「猫世の全てを手に入れる。猫の神になる。なんでもよいぞ勇ニャスズメよ」

「いえ、猫世の全てとか望んでないですから。人間に戻してくださいよ」

「…………そんなんでいいのか? なんなら永遠の命とかでもよいぞ?」

「人間」

「………………わかった」

「なんでそんなに渋々なんですか」

再びスズメの視界に光が溢れた。

「人間に戻れる……」

そう思うと同時に、フニャトやニャトカ、ゲルダと話せなくなることに少し寂しさも感じた。

気付けばスズメは人間に戻っていた。

視界が高い。

しっかりと両足で自立できる。

ふと足元を見ると3匹の猫がスズメにすりよってきていた。

「フニャちん、ニャトカ、ゲルニャさん」

「にゃあ」

「ニャタンは?」

スズメが目を向けると、地面に仰向けに倒れるニャタンの姿があった。

おもむろにスズメはニャタンに近づく。

スズメの姿に気づいたニャタンは目を見開いた。

「もう、他の猫をいじめたりしたらダメですよ」

スズメの言葉が通じているように、ニャタンは目に見えてシュンとなる。

周囲の猫たちが「ニャーニャー」と歓声をあげるように鳴いていた。

「……ってことがあったので、最近よくブローウィングの部屋に野良猫が来るんですよ」

「いやいやいやいや、ナニそれナンの話!? てか、登場人物……猫物? どー考えたってワタシらモデルだし!」

「ほら、銀色の猫。あの猫はビェトカと気が合いそうですよ」

「あの猫がニャトカね。あと、ニャ術猫っていったっけ。本当にスズメの言う通り術を使えるならなんか使って見なさいよ」

ビェトカの言葉にゲルニャはそっぽをむいた。

「ゲルニャさんがそうホイホイ使っていいものじゃないって言ってるよ」

「うーん、嘘くさァ……」

「まぁ、嘘っぽいですよね」

スズメは2匹の前に屈むと、エクスカリニャーをゆらした。

きっとこれからもステラソフィアの猫たちの間で語り継がれるだろう。

伝説の勇ニャスズメ、その伝説が。


挿絵(By みてみん)

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