第46話:Žebřík Sahající od Země až k Nebi
Žebřík Sahající od Země až k Nebi
-天まで達する階段-
「こほっこほっ……うぐぅ…………ステラソフィアの魔弾ニユ、一生のフカクぅ」
頭が重い。
喉が痛い。
体が熱い。
そして、重たい。
ニユは風邪をひいていた。
コンコンと扉が叩かれる。
部屋に入ってきたのはニユの親代わりをしているウィンターリア・サヤカだった。
「ちゃんと薬飲んだ? 苦いからって飲まない訳にはいかないわよ?」
「今時そんなニガイ薬なんてないわヨ! 飲んだしー、ちゃんと飲んだしー」
風邪はとても辛いし面倒くさい。
しかしニユにはそれ以上に面倒くさいことがある。
「サヤカ。このコト、誰にも言ってないわよね!?」
「言ってない言ってない。言う理由ないし」
「ホントーに!?」
「言ってないって」
「じゃあ――何よアレは!」
ニユが示したのは窓の外。
サヤカが外を覗くとそこには、
「あ、サヤカ先生だ。こんにちはー!」
サエズリ・スズメを始めとして、ŠÁRKAとしてあの事件に関わったメンバーが勢ぞろいしていた。
「アンタ達! 今、開けに行くからね」
「開けにイカナイで!? ――ゴホッゴホッ」
「叫ばない叫ばない」
「という事で、お見舞いに来ましたよ!」
一先ず、代表としてスズメがニユのそばに来る。
「ドーイウ理由よ! てか、なんでわたしがカゼひーたってわかんの!?」
「ローラさんから教えて貰ったんですよ」
「ローラって……あのヘンズツー持ちの?」
「そうそう。いつも頭を抑えてる人」
外から「誰のせいですか!」と声が聞こえた。
「異界堕神事件に関わった方々の診察記録などを全て我々の元に回すように国から手配してもらっています。病院を受診されたでしょう?」
「それでバレたってワケ!?」
「申し訳ありません。ついうっかりアルジュビェタに喋ってしまいまして……」
外から「えー、いージャンお見舞い!」と声が聞こえた。
「マッタク、よりによってコンナ大人数で押しかけて来て! ウザいったらありゃしないわよ!」
「メロン持ってきたんだケド、いらない?」
「メロン……」
ビェトカの腕には大きなメロンが抱えられている。
それを見たニユは思わず生唾を飲んだ。
「わぁ、立派なメロンですね!」
「お見舞いと言ったらメロンだからね。まぁ、ワタシの師匠がメロン大好きだったダケだけど」
「ふぅん、ま、まぁ、アンタの師匠ってのもわりとよく分かってるジャナイ」
「師匠はメロン欲しさによく仮病使ってたっけなぁ。アルジュビェタ、これは仮病という名の病気だ! だからメロンを買ってこい! って」
「イヤに堂々してるジャナイ。ナンナノよアンタの師匠!」
ビェトカの暖かいエピソードにニユも思わず頬が緩む。
「いやぁ本当、師匠はすごかった。メロンが大好きだった。食べて美味しい殴って強い。あの人、鈍器みたいなものはなんでも好きだった。鈍器と言えば駅前に――」
「あ、ちょっと話が長くなりそうなので外に出しますね」
外から「わたしもお見舞いの品を渡したいな」と声が聞こえた。
「JBフーズの新商品、パスタのロレンツォ完全監修あさりスープパスタだ。こういう汁物の方が食べやすいだろうと思って持ってきたよ。お店の味を家庭でお手軽にってやつだね」
ピピが差し出した袋の中には、インスタント食品がどっさりと入っている。
「あ、ありがとう」
「本当ならスープパスタはメニューにはなかったんだけど、流行りに乗ってみるのも良いと思って作ってみたんだよ。今度、お店に来ると良い。サービスするよ」
「カレルさんと共同開発ですよね」
「JestřáBだからね」
「じゃあ、その、今度いってアゲテもイイワヨ」
「歓迎するよ」
「その前に風邪を治さないといけないですね」
「そーね……」
外から「風邪を治すならコレである!」と声が聞こえた。
「ネギである!!」
「ネギ……?」
部屋に入って来るや、ナキリは高々と長ネギを掲げる。
「Yである!!」
「見ればわかるわヨ!」
「ネギをお尻に入れたら熱が下がるというのである!」
「ハァ!? お、おおお、お尻!? はぁ? バッカじゃないノ!?」
「ちょっと待ってて憲兵呼ぶから……」
「待つのであるよスズメ殿!!」
「性犯罪だから……」
「違うのであるよ! そういう言い伝えである! 噂にはとても効くと言うのであるよ」
「じゃあアンタは風邪ひいたらヤッテンノ?」
「わたくしは風邪をひいたことが無いである!」
だろうなぁ……という空気がその場に流れるが、ナキリは全く気付かない。
「ということで一思いにどうぞである!」
「アラモード憲兵長ー!」
外から「風邪を治すならこれだよ〜」と声が聞こえた。
「はい、新聞紙」
「……ハ?」
渡されたのはタマラの言う通りなんの変哲も無い新聞紙。
「あと、ダンボールぅ!」
「ハア?」
渡されたのはやはりなんの変哲も無いダンボール。
これでどうしろとと言いたげな表情のニユに、タマラは言った。
「風邪を治すにはぁ、あったかくするのが一番だよぉ〜。新聞紙とダンボール、あったかいよぉ」
「イヤ、布団あるし……」
「あぁ、そうだったぁ! 忘れてたぁ」
「タ、タマラちゃんってそういうとこあるよね……」
「それじゃあ、ローレイ家特製ブレンド茶〜」
続けて取り出されたのは、ペットボトルに詰められた緑色に濁った謎の液体。
その中には草や茎が藻のように漂い、ただならぬ気配を醸し出している。
「ナニコレ……洗わずに長らく放置した水槽みたいジャナイ……」
見ているだけで気分が悪くなりそうな液体に、側で見ているスズメもしかめっ面を通り越して笑顔で固まっていた。
「身体によさそうな草を集めて、煎じたんだよぉ〜。風邪に効く気がする草ー、熱が下がる気がする草ー、鼻づまりに効く気がする草ー、栄養ドリンクとミントもたくさんいれたよぉー――――あれ?」
気付けばタマラは部屋の外に出されていた。
それを気にした様子もなく、タマラは手に持った特製ブレンド茶に口を付ける。
「おいしいのにー」
「次の方どうぞー!!」
外から「では、行かせてもらうぞ」と声が聞こえた。
「いくら風邪をひいているとは言え、学生の本分は忘れるな。楽になってからで良い。今日の授業内容を簡潔に纏めた参考書を――――おい、何故無言で背中を押す!? サエズリ・スズメ!」
「ありがとうございますフラン先生! 次の方どうぞー!!」
外から「行くぞ諸君!」と声が聞こえた。
「ニユちゃんにクッキーを作ってきたわ」
カナールの手には可愛い袋に入れられた山盛りのクッキーが握られている。
「みんなで、つくりました」
「愛情たっぷりだよ!」
微笑むレイに、両手でハートを作るレオシュ。
「ちなみに材料は俺様が全て調達した。イェストジャーブブランドの厳選素材だ! 自家製だな!」
「自家製というか自社製……?」
「コンナにタクサン……その、食べられないンだけど」
「ニユちゃんの他にもいっぱい子どもがいるでしょ? みんなで分けて食べたら美味しいわよ」
「みんなで……」
「ちなみに我がJBフーズからは簡単クッキーセット、簡単ケーキセット、簡単ホットケーキミックスなど製菓用の商品を多数出している。今後みんなでお菓子づくりをしたい時は是非ともJBフーズを贔屓に頼むぞ」
「小学生にセールスしない!」
「ちなみに来たるべきバレンタインに向けてカカオから作るチョ――」
カレルはカナールに引っ張られ、部屋の外に連れて行かれた。
「さすがに長居し過ぎたかな……? もういいですかー?」
外から「待って待って!」と声が聞こえた。
「というワケで、タルウィ&――」
「ザリク」
「あれ、来てたんですか?」
「来てたの!」
「なんで来たんですか?」
「悪いの!?」
「熱の悪魔と渇きの悪魔って縁起悪過ぎますし……」
「確かに」
ザリクがうんうんと頷く。
「で、なんですか? コントなら他所でやってくださいよ?」
「いやほら、みんな何か渡してるじゃん? アタシ達も何か渡しといた方がいいかなーと思って……コレ」
タルウィが差し出したのは1匹の蛇だった。
「ゲェ、なんなのコレ!」
「蛇」
「見りゃワカルわよ!」
「まぁ、はぐれ千を行使す純悪の蛇的な?」
「嫌いな相手もコレでイチコロ」
「ブッソーすぎるのだけど!!」
首元をタルウィに掴まれたミニアジ・ダハーカはギラギラした目をニユに向け、大きく口を開いて威嚇している。
「ていうかコレ、どーみても危険生物ヨネ!?」
「すっごい敵意むき出しですしね」
「あー、確かに。人間には懐かないかも」
「大誤算」
「魔界とかに返してきてください」
「へーい」
外から「アナもプレゼントするさ!」と声が聞こえた。
「カメムシさ!」
「帰って」
「そ、そんな!!」
無慈悲に言葉を切り返すニユにアナマリアが見るからにショックを受けた表情をする。
「プレゼントを必死に考えてそこら辺にいたちょっと時期外れのカメムシを捕まえてきたのに!」
「イラナイ」
「サエズリ先輩!!」
「うん、これはないね」
「そんな!」
「いや、えっとね、ニユちゃんを労おうと頑張った気持ちは分かるよ、うん、とってもよくわかる」
「そーカシラ?」
「でも、虫はさすがにないかな。頑張りはわかる。うん、すっごくわかる。でもだったら心のこもった言葉で十分ですよ。無理をする必要はないです。うん」
「……わかったさ。今度はもっとかわいい動物にするさ!」
「生き物はやめてください」
「えー」
「あと、まだお見舞いの品を渡してない人でテキトーに拾ったものとか持ってきてる人いませんよね? そんな無理して渡さないでくださいよー」
外から「スミレ、これダメそう……」と声が聞こえた。
「オーホホホホホ、このわたくしが――」
扉が素早く閉じられる。
外から「ちょっと何閉めてるのよサエズリ・スズメ!!」と声が聞こえた。
「これくらいかなー?」
「わたくしは!?」
「金色の土偶はいらないと思うよ」
「加湿器よ! 土偶型加湿器!!」
「普通の加湿器でよくない?」
「ニユもそーオモウ」
「うぅ……何よ、この美的センスが理解できないなんて」
「シタイとも思わないワ」
外から「あとの人は大丈夫みたいであります」と声が聞こえた。
「ということで、私たちブローウィングからはこれ」
「ナニコレ、ぶっさ」
「ハァ!?」
ニユの言葉にツバメが食ってかかる。
「ツバメさんデザインでわたしがスズメ先輩に手伝ってもらって作ったスズメ先輩クッションでありますよ!」
「ぶっさ」
「ハァ!!??」
「ツバメちゃん落ち着いて」
イライラするツバメをスズメが落ち着けるそばでアオノがスズメ先輩クッションをニユに手渡した。
「ニユちゃんが元気になれるようにということで作ったのであります」
「ソレデなんでスズメクッションなの」
「アタシは風邪をひいたときにスズ姉の顔を見ると元気になるわ! だからよ! ありがたく思いなさい」
「エェ…………」
「ちょっと長居し過ぎましたね。そろそろ帰ろうかー」
「そうでありますね!」
部屋から出て行くアオノにツバメ、そして最後にスズメが部屋から出ようとした時、
「あ、アリガト」
ニユがポツリと呟く。
「うん!」
「な、聞こえてんじゃナイワヨ!」
スズメの姿が見えなくなった後、ニユはぎゅっとクッションを抱きしめた。
後日。
「うぅ……長居し過ぎた…………」
スズメを始め、あの時お見舞いに行ったメンバーの大半が風邪で倒れることとなった。
布団に潜るスズメの枕元には可愛い包みと一枚の手紙。
"マッタク、ちょっと考えればすぐわかるのにバカね! セーゼーこれでも食べて元気になりなサイ! ニユ"




