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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
決戦:Za Nového Světa
308/322

第44話:Narozený Židovský Král

Narozený Židovský Král

-王としてお生まれになった-

「スズメちゃん! …………スズメちゃん!」

どこか懐かしい声に揺り動かされて、私は目を覚ました。

暖かい部屋、暖かい声、私の瞳に映ったのは懐かしい光景。

「ツバサ、先輩?」

「よっ、久しぶり!」

「久しぶりです! お仕事はいかがですか?」

「大変だよー。ったく、あいつらすぐヤンチャすっしな……いや、楽しいけどね」

「保育士、大変そうですね」

「まぁな」

そう言うツバサ先輩だったけど、その表情は明るくて本当に仕事を楽しんでいるんだということが伝わる。

「そうだ、チャイカ先輩も……?」

「勿論ですわ。メリークリスマスですの!」

「メリークリスマスです。料理、作ってたんですか?」

「ええ、今日はパーティーですもの。たくさんの御馳走を作ってあげますわ」

「私も手伝いましょうか?」

「いいのですわ。スズメちゃん、チームを纏めるの大変でしょうし今日くらいは休むのですわ」

「確かにな……今のブローウィングを纏めるの、絶対大変だよなぁ…………」

ツバサ先輩がテレビの方へと顔を向けた。

私もその後を追いかけて視線を移す。

「オララララララァ! ツバメ後輩、ここはチームリーダーの顔を立てやがるんですよォ!!」

「ハァ? アンタがリーダーなんて認めた覚えはないわ。そのままやられてプロスィーム!」

「おーっと、ここでツバメさんの必殺技が発動かぁ!? どうなるマッハ先輩!!」

そこでは、マッハ先輩とツバメちゃんが格闘ゲームの勝ち負けで張り合っていた。

その横で何故かアオノちゃんが戦いの内容を実況していて微妙にカオスだ。

「マッハちゃんがチームリーダーで、しかもスズメちゃんの妹の性格じゃあ……」

「確かに、最初は本当に大変でしたよ。最近は2人ともかなり仲良くなって一安心してるところです」

「仲がいい、ねぇ」

「ちょっとアンタ! 何リセットしてんのよ!! ぶっ飛ばすわよ!!??」

「う、うっせーんですよ! ぶっ飛ばせるものならぶっ飛ばしてみやがれなんですよー!!」

「うわ、ツバメさん! マッハ先輩! やめるのでありますよぉ!! スズメせんぱーい!!!!」

取っ組み合いの喧嘩を始めるツバメちゃんとマッハ先輩を私は急いで止に行く。

「喧嘩するほど仲がいい、というものですわね」

後ろからチャイカ先輩の呑気な声が聞こえてくるのに、何故だか妙に安心した。

「あの……料理を持ち寄りっていうのは良いんですけど――量多すぎません?」

「そうですの?」

澄ました顔で言うチャイカ先輩の足元には登山用のバックパックのような巨大な鞄が置かれている。

まるでこれから雪山か数週間の海外旅行にでも行くかのようだった。

「でもまさか、個人のクリスマスパーティーで中央公園の大ホール貸し切るなんてな。さすがはテレシコワ財閥のお嬢様……」

「お友達もたくさん来ますし当然ですわ」

「貸し切りホールなら遊び放題なんですよー!!!」

「貸し切りだからってはしゃぐんじゃないぞ」

本当、こんな簡単にあの大ホールを貸し切るとは私も驚くばかり。

と言っても、チャイカ先輩のすること――ある意味では予想通りとも言えた。

「相変わらずすごいわよね、チャイカ先輩は!」

「だからよー。しに上等さー」

「サリナちゃん、イヴァちゃん! イザナちゃんは?」

「ヒラサカさんは後から合流するんだって。なんでも、華國のお姫様を迎えに行かされてるらしくて」

「良い家の人は大変さー」

ふと銀髪の女性の姿が目に入る。

その女性は多分、私の知らない人――の筈なのに、どこかとてもよく知っている……そんな気がした。

「ご機嫌よう、ツバサ」

「お、クイーンか。久しぶり! それと、そっちのやつは――」

「私の彼氏のアルよ」

「いやワタシ女なんだケド……」

「…………アル?」

思わず口に出してしまったその名前に、私とアルと呼ばれた女性の目が合う。

「スズメちゃんの知り合いか?」

「え、いや、えっと……知らない人ですけど」

「ワタシはピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ! よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

これから始まるパーティーの話題で盛り上がる中、私は窓の外の景色を眺めていた。

流れる景色、刻むリズム、ガタンガタンと身体を揺らす。

「このカードならサーチしやすいですし、良いと思うんですけど」

「だがこれ以上、魔法コウズロを増やすは愚策では?」

「装騎アイドルのカノンちゃん! かわいーよねぇ!!」

「なぁ聞いたか? 謎のスーパーヒロイン! ミス・ムーンライトの話をさ」

「ほう、美味しいパスタの店があるのか……是非寄ってみたいな」

「隊長! 私達は遊びに来たわけじゃないですよ! エヴロパ連合の大事な会議が――」

「ゲルダは真面目だな。分かってるさ。だが、息抜きも必要だろ?」

「アールミン隊長! ……リハールドも何か言ってください!」

「僕も存外楽しみにしています。パスタのロレンツォは知る人ぞ知る有名店ですからね」

「――はぁ」

「今度の試合の相手、あのマリアンヌ・パトラスでしょ……? だいじょうぶなの……?」

「わっはっはっは、なるようになるであるよ!!」

「ねーねー、知ってるザリク! カナンの路地裏によく外れることで有名な占い師がいるんだって!」

「…………どうなのそれ」

「ラヴィニア、今度のサッカーの試合があるから見に来てね!」

「サアラの試合…………べ、別に……ヒマがあれば行ってあげても良いわ」

知ってる人、知らない人、いろんな人が行き交い、いろんな人が言葉を交わす。

笑顔があふれる車内で、私は奇妙な違和感を覚えた。

窓の外に1羽のカラスが見える。

カラスの姿が駅舎にかき消され見えなくなる。

機関車が動きを止め、扉が開いた。

扉が開いたその先には、1人の少女が立っていた。

「スズメ」

「アナヒト、ちゃん……?」

「スズメ――選んで」

「選ぶ……?」

「この機関車から降りるか、降りないか……わたしは、スズメの選んだ方についていく」

「降りるか、降りないか……」

私の背後から楽し気な笑い声が聞こえてくる。

ここで降りてしまえば、私はもう、そこへは戻れない――そんな気がした。

降りたくない。

どうしても手放したくない。

ずっとこんな日が来るのを待っていたような気がする。

だけど――ここに居たらダメだという強い思いも同時に感じた。

罪悪感と決意、使命感と諦観。

それはどうして? 一体、どうして?

「スズメ……」

アナヒトちゃんがその手を差し出して来る。

行くか、行かないか……それを決めるのは、私自身。

そうだ、私は今まで決めてきた。

自分自身の決断で、この戦いに身を投じた。

私は一歩踏み出す。

(それでいいの?)

どこからか、そんな声が聞こえてくる。

(この機関車に乗っていれば、何も辛いことは無いのに)

そうかもしれない。

これは私が望んだ風景。

私がずっと求めていた景色。

それはとっくの昔に失ってしまった物。

(そう、そこには"ソレ"がある。アナタの失った物、求めている物)

そう、そこにはある。

(ならば――)

でも――

「そっちに行くよ、アナヒトちゃん」

ソレは私の選んだ人生じゃない。

きっと、ツバサ先輩達だって望まない。

私は私のやることをきっちりと片付ける。

"そんな簡単にリセットできるもんじゃないよ。人生ってヤツはさ……"

記憶の底から、違う言葉が聞こえてくる。

「はい、だから決着をつけないといけないんですよね」

「スズメちゃん?」

機関車を降りようとする私に、ツバサ先輩が不思議そうな表情を見せた。

「どうしたんだ?」

私はツバサ先輩達へと振り返る。

チャイカ先輩、マッハ先輩、そこにはみんながいる。

「ツバサ先輩、ごめんなさい。私、ちょっと用事ができました」

「降りるのか? せっかくのパーティーなのに……」

「はい。とても、とても大事なことなので」

「そうか――分かった。じゃあ、行ってこい! アタシ達は待ってるから。全部終わったら、またパーティーでもしようぜ!」

「はい! ツバサ先輩、チャイカ先輩、マッハ先輩――――お元気で!」

手を振る三人に見送られ、私はアナヒトちゃんの手を取った。

「思い――――出した!」


「ムニェシーツ……ガエボルガ!!」

装騎スパローTAの一撃は確かに始原装騎ヴィーラを貫いた――はずだった。

『グッ、グゥゥウウウウウウウ』

「まだ動いてる!」

「……アイツ、防ぎきる事を諦めて、攻撃を逸らすことでダメージを抑えたのね」

大きく抉り取られた始原装騎ヴィーラの脇腹を見て、イザナが呟く。

「でも、満身創痍っしょ! あと一撃、ブッ叩きこめば!!」

「そうです、ビェトカ! イザナちゃん!」

「「諒解!!」

把握パルマ一つ(プリムム)二つ(セクンドゥム)三つ(テルティウム)四つ(クァルトゥム)五つ(クィントゥム)掌握カピレ!』

「ムニェシーツ――」

「スラドキー――」

「カマイ――」

「ジェザチュカ!」

「イェット!」

「タチ!」

勝利を(ススキターティオー)!』

始原装騎ヴィーラは装騎スパローTAの、装騎ピトフーイDの、装士フーシーの一撃を受けて真っ二つに引き裂かれた。

千切れ跳んだ始原装騎ヴィーラの上半身――――それが突如、知恵の実に引き寄せられるように動きを変える。

「ッ!! マズい!!!!」

何故かは分からないが、そんな予感がスズメを襲う。

光を放つ始原装騎ヴィーラの右手が知恵の実と引き合う。

瞬間、巨大な塊だった知恵の実が一気に圧縮され、装騎の手のひらに収まるような宝玉へと姿を変えた。

そしてその宝玉は、始原装騎ヴィーラの手の中に。

我らが新世界の為にザ・ノヴェーホ・スヴェタ!!』

始原装騎ヴィーラは歓喜に満ちた声と共に、知恵の実を自身の胸元へと押し付けた。

知恵の実が始原装騎ヴィーラの体を溶かしていく。

と同時に、始原装騎ヴィーラが脈動を始め、その体表が白く弾け盛り上がり、そして膨れ始めた。

盛り上がり膨れ上がり盛り上がり膨れ上がりその大きさはやがて壁をへし曲げ天井へと達し、それでもなお止まらい。

「げっ、天井ぶち破る!!」

「マズいわね。一旦外に出ましょう」

「はい……っ」

崩れ落ち行く地下空間に、危険を感じたスズメ達は外へと駆ける。

スズメ達の3騎が外に這い出た時には始原装騎ヴィーラだったソレは白く巨大な卵か繭のようにも見える物体へと変化していた。

それは通常の装騎は当然、超重装騎よりも遥かに巨大。

天をも突きそうなソレが――やがて徐に動き始める。

「ッ、ナンかイヤーな予感!!」

「同感ね。行くわよ!」

「はい!」

白い屑を舞い散らせる、巨大な繭を一気に駆け上がりながら装騎スパローTAは、装騎ピトフーイDは、装士フーシーは思い思いの一撃をお見舞いした。

「効いてる感じ――しないですね」

「うわ、待って、白いのが――――」

「開く……!」

繭の正面が裂けるように割れる。

いや、それは繭でも卵でもなかった。

それは巨大な翼。

美しく輝く白き翼を背に生やし、その体つきはどこか女性的。

全てを包み込むような包容力と、全てを蹂躙するような孤高さを持つ巨人。

『時は来たれり――我らは救世装騎ヒムヌス。新世界への導き手なり』

「救世装騎、ヒムヌス……」

「リーダー! あの巨大な装騎は!?」

通信から聞こえてきたのはゲルダの声だ。

あれだけ巨大な救世装騎ヒムヌスの姿――地上にあってゲルダや他のŠÁRKAのメンバーに見えていないはずがない。

「救世装騎ヒムヌス――――私達の敵です」

そしてそれはスヴェト教団の使徒達にも、だ。

『救世装騎……新世界への導き手か』

『すごく、きれい……』

そのあまりの強大さに固唾をのむŠÁRKAと、俄かに士気が高まる天使装騎達。

「こんなの、勝てるのでありますか?」

アオノの口から、そんな言葉が思わず漏れる。

だがそれは、その場にいる誰もが思っていたことだろう。

そんな中――

「勝ちます」

力強い一言が響いた。

「優先破壊目標を救世装騎ヒムヌスに――私達なら勝てます。みんなで力を合わせれば絶対に!」

「よく言うのだわ! スズメ、根拠は?」

「今までだって、そうやって勝ってきたじゃないですか」

スズメの真っ直ぐな言葉に、カヲリは思わず笑ってしまう。

それを起点に、笑いが広がった。

こんなあからさまな窮地の中、ŠÁRKAに笑顔があふれる。

「まっ、そーよねェ。例え相手がナンだろーと、ワタシ達のやることは変わらないってか!」

「フ――――ただデッカイだけの装騎。いくらでも相手してやるわよね」

「そう言うことです。では、行きましょう」

「諒解!!!」

「天使装騎への対応は極力最小限に! ニユちゃん、カレルさん、任せていいですか?」

「トーゼン、このステラソフィアの魔弾に任せなさい!」

『俺様だって負けていられない。最低限の戦力で最大限の足止めをしてみせるさ』

「では、天使装騎の足止め隊と、救世装騎への襲撃レイド隊の振り分けは二人に任せます」

「ええ」

『ああ!』

「ビェトカとイザナちゃんは私と一緒に救世装騎への対応を」

「当然!」

「勿論……」

「では――ŠÁRKA、DO BOJE(ド ボイェ)!!」

装騎スパローTAは脇目もふらず救世装騎ヒムヌスへと駆けだした。

『無謀ですね――――広域照射シンフォニエ』

救世装騎ヒムヌスの両手から光が放たれた瞬間、その輝きが舞い散る羽によって拡散――光の雨を降り注がせる。

「うわぁお、にわか雨にご注意ください!」

「こんなの駅前のミストよ」

「涼しいってコト?」

「解説しなくていい!」

「我々もリーダーに続くぞ」

その後方ではスズメ達の援護に向かおうと必死に前進するŠÁRKAと、それを押しとどめるべく戦う天使装騎達の姿があった。

「とりあえず、空飛んでるヤツらはさっさとスズメのとこまで行きなさい!」

「りょーかーい! 飛べない悪魔はただのクマだぜベイベー?」

「墜ちて」

「うわぁ!!?? 押さないで、押さないで!!!!」

「押すな押すなは押せの合図……」

『Ahhhhhhhhhhhhh!!!!』

「ふぐぇっ!?」

「チトセが"ふざけるな"だって……」

「本当ね。この大事な時にふざけるなんて……タルウィったら」

「アタシだけが悪いの!?」

「タルウィさん、謝ってください」

「ご、ごめんなさい」

コント混じりで最初に支援に駆け付けたのは、魔神装騎タルウィと魔神装騎ザリク。

それに装羽ハヴランに運ばれる装騎バイヴ・カハだ。

熱風と熱線、更に小型端末による攻撃支援でスズメ達を援護する。

「あの消えるヤツはニユがちゃんと視ているわ! 盾持ちはカタパルトとかできんでしょ? 戦力をスズメ達のとこまで送りなさい!」

「グラーシャ・ラボラスの相手はわたしがやる。リーダー達は任せた」

「諒解であります! どんどん前線に飛ばしてやるのでありますよ!」

「なんかその言い方だと、微妙に語弊があるような……ないような……」

ニユの指示を受けながら、天使装騎グラーシャ・ラボラスと矛を交える装騎クリエムヒルダ。

その背後で装騎ブルースイングと装騎エルジェはアズルカタパルトの用意を始めた。

『カヲリがゼパールと、フランがアモンと戦っているか』

「200点減点だ。他校生だろうが関係ない、後でステラソフィアの職員室に来るように」

「言ってる場合? まっ、ここはフラン先生に任せてアタシはスズメ達の援護に行ってOK?」

「ああ、行ってこいサヤカ」

『カナール、ピピ、ジェッシィは引き続きパイモンとアスタロスの相手を頼むぞ。パジチュカもだ!』

「アサギ・パジチュカ、援護します!」

「ヴァープノもお願い!」

「分かった、シノリア!」

他の仲間達も次々と戦いを再開する。

「Sweet Dream!!」

装騎ブルースイングのカタパルトを用いて最初に来たのは装騎アントイネッタ。

救世装騎ヒムヌスの光線に怯みもせず、一気に装騎スパローTAと合流した。

「あの羽がアズルを拡散してるのね! なら……」

装騎アントイネッタの銃撃が、小さな羽を的確に破壊していく。

「アズルを纏った弾丸なら十分に壊せるね! これで少しは弾幕を薄くできると思うよ!」

ミス・ムーンライトの言う通り、羽の数を減らすほど救世装騎ヒムヌスの放つ光線の数は減っていく。

さらに翼を震わせる救世装騎ヒムヌスだが、それに気付いた魔神装騎タルウィ&ザリクの攻撃ですぐさま舞い散る羽を撃ち落とした。

「純粋なアズル砲では破壊は無理そう……だけど、行ってマトロナエ!」

「アタシだってスズ姉の力になるんだから!」

「ツバメちゃん、ハンマーでスパローを打ち出して!」

「わかったわ!」

装騎ヴラシュトフカがブーステッドハンマー・クシージェを振りかぶる。

その威力を利用して、装騎スパローTAは救世装騎ヒムヌスへと飛翔した。

「ビェトカ、デカい一撃を入れたいです。援護を!」

「りょ! ……ってもどうやってスズメに追い付けば」

「アルジュビェタさん、チトセと一緒に飛んでください!」

大地に装騎バイヴ・カハが降り立つと、装羽ハヴランが装騎ピトフーイDを掴み上げ飛び立つ。

「うわっほい、ワタシ飛んでるゥ!」

救世装騎ヒムヌスの身体を駆ける装騎スパローTA、装羽ハヴランに運ばれ宙を舞う装騎ピトフーイD。

その2騎が救世装騎ヒムヌスの頭上で合流した。

装騎スパローTAが両使短剣サモロストの刃にアズルを溜め救世装騎ヒムヌスを睨む。

装騎ピトフーイDも宙に身を投げ出し、霊子鎖剣ドラクのワイヤーを伸ばし装騎スパローTAへと絡ませた。

「行きますよビェトカ! スパロー!」

「ピトフーイ!」

装騎ピトフーイDは己の両腕に力を込め、身を投げ出した勢いで装騎スパローTAを振りかぶる。

装騎スパローTAは全身のヤークトイェーガーに光を灯し、さらに加速。

「「ゴルディアス・ブレイク!!」」

強烈な刃とアズルの弾丸となった装騎スパローTAが、装騎ピトフーイDによって救世装騎ヒムヌスの頭部に叩きつけられた。

『猪口才な……ッ!!!!』

「スズメ、手加減してるのだわ?」

「カヲリ! ヨハンナさん――ゼパールは!?」

「軽く叩きのめしてきたのだわ。そして次はコイツを――――ティラニカル」

装騎ヴォドチュカの両拳にカヲリの強力な魔力が集まる。

それに加えアズルの輝きも弾けだし、周囲の空気が歪んだ。

「リージョン!!!!」

その両拳がぶつかり合った瞬間、破壊的にして暴虐な魔力が救世装騎ヒムヌスに叩きつけられた。

「ワタクシの無慈悲な魔力に沈むのだわ!」

救世装騎ヒムヌスの表層にヒビが入っていく。

『貴様らッ!!』

その声に宿るのはまさに怨嗟。

まるでその怨みに応えるように、救世装騎ヒムヌスの体のヒビからドス黒い力が漏れ出した。

と思ったのも一瞬、黒い力は再び白く眩い力へと変わる。

『力が、力が足りないッ。もっと力を取り込まなくては……我が内にある知恵の実を、更に最高のものへとする為にッ』

「フン、ワタクシの最大最高の技をもってしてもまだ立つなんてさすがなのだわ。だけど、2発目も受けられまして?」

『させないのだわ――!!!!』

再び魔力を溜めようとする装騎ヴォドチュカに天使装騎ゼパールが斬りかかってきた。

「あら、大人しくおねんねしてるべきではないのだわ?」

『おねんねですってェ? そんなことをしている暇はないのだわ! 新世界に行く――それがわたくし達の目標、悲願、そしてそれが――お姉様に再び会える唯一の道なのだわ!』

天使装騎ゼパールは強気な口調だが、その身体はカヲリとの戦いで痛めつけられたのだろう……ボロボロで、どこか足取りもおぼつかなく見える。

天使装騎ゼパールは執念だけで立っていた。

自らの姉にして使徒長であったゼベデウーフ・ジェレミィ、その意思を受け継ぎ、新世界で再び彼女と再会することを目指して。

『よく言いました、使徒ヨハンナ。ですが貴女の身体は満身創痍……貴女自身に戦う力は残っていない』

『それでも、命をかけてでもわたくしは戦いますわ!』

『ならばそのいのち――我らに捧げたもう』

瞬間、救世装騎ヒムヌスが天使装騎ゼパールを掴み上げると、大きく"口"を開いた。

『ヒッ……』

まるで地獄へ繋がる門のようだ――何故だか使徒ヨハンナはそう思った。

その恐怖は理屈じゃない。

理屈じゃないからこそ、それは絶対的に触れてはいけないものだと身に染みる。

『使徒ヨハンナ、新世界へ先に逝かせてあげましょう』

『待っ――――』

「ヨハンナさんッ!!」

救世装騎ヒムヌスの身体を再び駆け上ってきていた装騎スパローTAが手を伸ばす。

だが、伸びた手を掴むより先に天使装騎ゼパールは――

『あっ……ああッ! ひぎぁぁあああぁあぁあぁあぁああああああああああああああああ!!!!!????????』

使徒ヨハンナの叫びと共に救世装騎ヒムヌスに"咀嚼"された。

『いぎッ、ぐぎぃぃぁあああ!!!!!! ぎぁッ!!!!! んがぁぁぁああ!!! ひぎゃッ!!! がぁあアアッ!!』

歯の代わりに救世装騎ヒムヌスの口内に生えた黒い魔力の杭が天使装騎ゼパールの身体を貫く度に、身体を捻じらせ、震わせ、反らせながら悲鳴が上がる。

『がぁっ……んぎぃ、ああっ――――ぎぃ…………』

だがそれもやがて消え入り、静寂が訪れた。

「ヨハンナ……さんっ」

『まだです、まだ足りない!』

使徒ヨハンナの消滅に、スズメが悔やんでる暇はない。

何故なら救世装騎ヒムヌスの次の標的がスズメの装騎スパローTAへと定まったからだ。

「しまっ――――」

『捕まえました、サエズリ・スズメ!! 貴女も使徒ユーディやヨハンナと同じく我らが新世界の一部にしてあげましょう』

必死で救世装騎ヒムヌスの拳から抜け出そうとする装騎スパローTAだが、そう簡単に離してはくれない。

『怖がることは無いのです。我らこそが新世界――心配せずともこの世界の全ては我らに取り込まれる運命なのですから』

「なるほど……新世界は――――ヒムヌスの腹の中ってワケですか」

『さぁ、我らと一つになれ――サエズリ・スズメ!』

大きく開かれた救世装騎ヒムヌスの口。

必死にもがくも逃げられそうにないスズメは、最期の決心をする。

「わかりました。ですけど……どうせ喰われるのなら――――」

不意に装騎スパローTAがアズルの光を纏った。

それはとても強い輝き――そう、無限駆動へと入ったのだ。

スズメの身体中に蒼い筋が浮かび上がる。

スズメの命を削って装騎の性能を最大限以上に引き上げる最大のモードに突入した装騎スパローTAは、一気にヤークトイェーガーのブースターに火をつけた。

「コッチから飛び込んでやりますよ!!」

『――――――ッ!!!!』

ここまでが私の記憶だ。

私は救世装騎ヒムヌスの中に自分から飛び込んだ。

そしてここからは彼女の記憶。

「スズメ! スズメ!!!!」

「食われた――いえ、自分から飛び込んだのね。スズメらしいわ」

「言ってる場合じゃないっしょ! 助けないと!」

通信からスズメの状況はすぐにわかった。

それだけじゃない。

わたしとスズメは繋がっている。

物理的な意味じゃなくて、魂で繋がっている。

だから分かった。

まだ、大丈夫。

「フニャト……お願いっ」

『Gorrrr!!!』

「ちょ、アナちん!?」

装牙リグルに飛び移ろうとするわたしを見てロコヴィシュカが目を見開く。

「だいじょうぶ」

『Gor!!』

わたしが搬送用スペースに乗り込んだのを確認すると、装牙リグルは一目散に救世装騎ヒムヌスの元へと駆け寄った。

あっという間に距離を詰め、あっという間に救世装騎ヒムヌスの身体を駆け上り、あっという間にその頭上と達する。

『なんですか、獣が! 貴方も新世界に至りたいと? ええ、ええ、良いでしょう』

『Gurrrrrrrr!!!』

「フニャト、挑発にのらないで。わたしを降ろしてくれたら、それだけでいい」

『Grrrrr』

「だいじょうぶ。わたしも、スズメも、絶対帰ってくるから。だいじょうぶ」

『Gr!』

「いいこ」

瞬間、装牙リグルのハッチが開く。

ものすごい風がわたしの髪と身体を震わせた。

「アナヒト、行きます」

救世装騎ヒムヌスに飲み込まれたスズメを追って、わたしもその身体の中へと飛び込んだ。

そして今。

暗闇の中でスズメとアナヒトが邂逅した。

「助けに来てくれたんだ……アナヒトちゃんも無茶するね」

「スズメほどじゃない」

「たしかに」

「スズメ、帰ろう。みんなまってる」

「うん。アナヒトちゃん、力を貸して――」

冷たく凍った闇の中で光が溢れる。

スズメとアナヒトの力が混じり合い一つになった。

「『ムニェシーツ……コスモゴニエ!!!!』」

天地を乖離するような眩く力強いひかりが、救世装騎ヒムヌスの混沌を切り開いた。


挿絵(By みてみん)

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