第40話:Horlivost Hospodina Zástupů
Horlivost Hospodina Zástupů
-万軍の主の熱意-
「ムニェシーツ……」
「ヴェルカー!」
装騎スパローTAが両使短剣サモロストを、装騎ピトフーイDが霊子鎖剣ドラクを大きく振りかぶる。
その標的は、三つ首を生やした二体の悪魔装騎。
「セケラ――!!」
「サンクツェ♪」
片方は両使短剣サモロストに両断され、片方は霊子鎖剣ドラクの纏ったアズルで叩き潰され――この地上から姿を消した。
「悪魔装騎ナベリウスとブーネ、撃破完了ね」
「ですけど、奇妙でしたね。先ほどの悪魔装騎」
「えー、そぉ?」
「確かにそうね」
首をかしげるビェトカのそばで、イザナがスズメの言葉に同意する。
「ここ最近、悪魔装騎を名乗る勢力はほとんど現れなくなってるわ。それに天使装騎を名乗る装騎に見知らぬ装騎も増え始めている――ということから考えるなら」
「あー、天使装騎と悪魔装騎が手を組み始めたってコト?」
「そうよ。だけど、さっきのやつらは悪魔装騎を名乗っていたし……戦っていて変な感じがしたのよ。したでしょ?」
「えー、そう?」
「はい、どことなく不安定というか、何というか」
「わたしも感じたな。力は強かったが、なんというか脆かった」
「変な悪魔装騎なら今までだってたくさんいたっしょ。なんかウォルウォル言ってるのもいたし」
「アレは特殊ケースだろ」
「と、いうことで悪魔知識はお任せを! タルウィ&」
「ザリク」
スズメ達のやり取りを聞いていたのだろう。
タルウィとザリクがひょっこり姿を現した。
「お、タルザリ。ナニナニ、ナンかわかるの?」
「それが分かっちゃうんだよねぇ~。なぜならアタシは、悪魔だから」
「ソレってカンケーあんの?」
「タルウィさん、ザリクさん、悪魔装騎達の様子について何か心当たりが?」
「あるあるあるある。くろおおありよ」
タルウィはうんうんうんうんとひとしきり、満足いくまで頷き続ける。
それから暫く、何故かザリクが鋸ヤスリを振り上げ始めたところで青ざめた表情を浮かべ口を開いた。
「まずそもそも、天使装騎や悪魔装騎がどんな装騎が分かってる?」
「偽神装騎と同じようなもの――なんじゃないですか? 偽神装騎は人に偽神の因子を埋め込むことで装騎の姿にする技術。天使装騎や悪魔装騎はその完成形――ですよね?」
「そうそう。人間としての意識が保てないディープワンズの欠点を克服して、人でありながら聖霊化を可能にするのが天使装騎っぽいね」
「聖霊化?」
「聖霊ってのは天使とか悪魔――アタシ達みたいな存在の総称。んで、天使装騎は人と聖霊を合体させることで疑似的に聖霊にする技術って訳なんだよね」
人と聖霊の合体――それによく似た現象をスズメ達は一例だけ知っていた。
偽神クトゥルフとの戦いの折に果たしたスズメとアナヒトによる装騎スパローの聖霊装騎化。
天使・悪魔装騎はある意味でその現象に近しいものだった。
「問題は人と聖霊の合体――それがそう簡単なものじゃないってことでさぁ」
「そういえば――アナヒトちゃんがそんなことを言ってました。偽神クトゥルフとの戦いで。もし、人と聖霊が合体できたとしても、体への負担が大きいって」
「だからきっと、アイツらは体にガタがきててもおかしくないんだよね。さっき戦った2体はその影響で――うーん、まぁ、認知症みたいになってんじゃないの?」
「認知症て」
「そういえばヒラサカ・イザナが初めて合流した時の戦いを覚えてるか?」
ふと思い出したようなゲルダの言葉に、一同も思い出す。
それは天使装騎マルコシアスとの戦い。
冷静かつ淡々とした戦いでスズメ達ŠÁRKAを追い詰める天使装騎マルコシアスだったが、そこに現れた増援のイザナ達によって形勢が逆転。
その時だった。
「そういえばあの時、天使装騎マルコシアスの様子がおかしくなりましたね」
「ああ、あったぞ。これだ」
今までの戦闘ログからその戦いの様子を捜していたゲルダが、一つの動画を画面に流した。
それは天使装騎マルコシアスが暴走し、その姿が邪悪に歪んだ1場面。
その姿はやはり偽神クトゥルフを思わせる。
「なるほどねー。体力の消耗と精神的な昂ぶりから偽神クトゥルフの悪意を抑えきれなくなってるんだね。結構デカい爆弾抱えてるわスヴェトって」
「ただでさえ聖霊の力を身体に入れるので負担が大きいのに、その暴走を抑えないといけない……スヴェト教団が時に拘るのには、儀式の遂行に必要な使徒自身の身体の問題もありそうですね」
「だろうね!」
「ナンにせよ、決戦はもう近いってコトね! っしゃー、ガンバルかー!」
「使徒シモーヌ……お体の調子は大丈夫ですか……?」
「問題ない、使徒マチア。だが、其れは使徒マチアも同様だ。足は?」
「少し感覚が鈍いですけど……まだまだこれくらい。大丈夫、ですよ」
「我々の中にも不調を訴えだすものが増えましたね……」
スヴェト教団の拠点では、使徒達も今後のミーティングを行っていた。
「ですけど、予てより覚悟の上なのだわ。我らが新世界の為にこの命を差し出したのだもの」
「各々の身体も心配だが――使徒フェリパは?」
使徒シモーヌの問いに使徒ユーディが口を開く。
「サエズリ・スズメの逃走の件以降、自室から出てきてません。こうなると、本計画は彼女抜きになりそ――」
その時、扉を開く音が響いた。
「使徒フェリパ……」
部屋に入ってきたのは使徒フェリパ。
その表情はどこか浮かないが、確固とした決断にその瞳を燃やしている。
「使徒フェリパ、体調はよろしいのですか!?」
「使徒マチア、心配かけたね。それにみんなも」
穏やかな言葉はいつも通りの使徒フェリパ――少なくともその場にいる使徒達はそう感じた。
「そろそろ新世界計画も最終段階に入る。そうだろ?」
「使徒フェリパ、貴女は……」
「使徒スズメがわたし達の元を去ってから、わたしは彼女の言葉をずっと考えていた」
使徒フェリパの言葉に一同は動機が高鳴る。
だが、努めて冷静に彼女の話へ耳を傾けることにした。
「彼女の言葉が嘘だと、そう断言することは――どうしてだろう。できない」
"スズメさんの言葉はいつでも真っ直ぐだったから"マチアはそう頭の中で相槌を入れながらも、そんなことは口にしない。
「でも、使徒長の言葉も、そしてその信念も疑うことはできないならば――わたしはわたしの信じる道を、行こうと思う」
「信じる道、か」
「使徒ユーディ、みんな――一緒に戦わせてほしい」
マルクト共和国首都カナン。
鮮やかなイルミネーション。
凍えそうな寒さの中を、厚着の人々が行き交う街。
変装したスズメ達は人ごみに紛れ込み、クリスマスムードの街並みを楽しんでいた。
「驚くほどに穏やかねー。コレがアレ? 嵐の前の静けさってヤツ?」
「街も楽しいクリスマスムード――そうか、イブになるな」
「予想通りならそろそろ敵も動かないといけない時期になってくると思うんですけど……」
不意に、穏やかだった人々が騒がしくなる。
悲鳴にも似た声が上がり、人の波が大きく揺れた。
「まさか――」
そのまさかだった。
慌てふためく人々の目の前には、どこか邪悪な姿の装騎。
それは、ディープワンとよく似た――偽神装騎特有の邪悪さを滲ませている。
「スズメ、一先ず装騎に乗るわよ!」
「待ってください」
邪悪な装騎を倒そうと意気込むビェトカをスズメが止めた。
「どうして!」
「見てください、コレ」
スズメがビェトカに見せたのは、他の仲間達からの連絡だった。
その内容は、どれもこれも謎の装騎の出現。
そして、街を襲い始めたという内容だ。
「同時に、それも広範囲への謎の装騎の出現、攻撃……どうやら、本番ですよ」
「なるほどな。これだけの範囲を同時に襲うことで我々の見当をつけられなくする――ということか」
「はい。誘ってますね。まぁ、乗る必要は無いんですけど」
「そうだな、今回ばかりは憲兵や国軍に任せよう」
「て、ことは……決戦?」
「そう言ってるじゃないですか」
「リーダー、ŠÁRKAを招集する。仕掛けるぞ。シャダイへ」
MaTySの秘密施設。
「と、いうことで決戦です。目標はシャダイコンピュータ跡地。間違い無いんですね?」
「うんうん、見てて分かるよぉ〜。わるーい霊力が集まっていってるもん!」
タルウィの言葉にスズメは確信を持ったように頷く。
「今回の作戦目標は、スヴェト教団の計画の阻害です」
「阻害って、ナニすれば邪魔できんの?」
「はい、預言者を名乗る人物の特定と殺害。それが不可能な場合は最悪……」
「シャダイコンピュータの破壊、だな」
「えらくフワフワしてんジャン」
ビェトカがそう言った時、スズメの雰囲気がガラリと変わる。
「預言者ペトラは確実にシャダイコンピュータの中央にいるわ」
「スパロー?」
「そこで霊力を蓄え、自らの天使装騎としての力を昇華させる。そして、シャダイのネットワークを使って人々と交感しなくてはなりませんからね」
「ふーん、まっ、よく分からないけどシャダイコンピュータの中までいけばいいってワケね!」
「そうです」
スパローは静かに頷くと、ふと力が抜けたようにスズメの雰囲気が穏やかになった。
「そういうことですね。では、ŠÁRKA、出撃準備を」
スズメにそれぞれが頷くと、席を立つ。
「スズメ、決戦っしょ? なら最後に気合の入る一言どーぞ!」
「気合の入る一言、ですか……」
「花見の準備はナシで」
「わかってますよ!」
スズメはビェトカの冗談に苦笑いを浮かべる。
「それでは皆さん――これが私達ŠÁRKAの最後の戦いです。絶対に――勝ちましょう」
スズメはすぅと深呼吸をする。
そうだ。
この戦いがきっと最後。
いや、最後にしないといけない――スズメはそう思っていた。
見渡すそこに、知らない顔はどれ一つとしてない。
スズメを信じ、スズメについてきてくれた仲間達の姿。
「ŠÁRKA、DO BOJE!!」
そして、戦いは始まった。
『真っ先にシャダイを目指して来るかァ! バッレバレじゃねーか! まぁ、オレとしては好都合だけどな』
シャダイコンピュータ跡地を囲むマルクト中央公園。
普段は人々で賑わっているそこは、人っ子一人いない。
そんな広大な敷地――1体の天使装騎がŠÁRKAを待ち構えていた。
「あれは――天使装騎バルバトス……」
『来たな。ŠÁRKA!!』
「ったく、よりによって厄介なヤツを置いてくれたジャン! どーするスズメ?」
「やはり定石としては数騎で足止め、残りは隙をついて抜ける――というヤツか」
ゲルダの提案にスズメは首を横に振る。
「いいえ、1騎で良いはずです」
「1騎!? あのバルバトス相手に1騎って――って、スズメまさか」
「はい。バルバトスは私が止めます。その隙に皆さんは先へ」
「アイツって強いんでしょ? 私も残るわ。さすがに私とスズメの2人なら――」
「そうじゃないんです。約束――しましたからね」
「約束?」
「まぁ、任せてください。私1人でも――ううん、私1人だからこそ勝てます」
きっぱり断言したスズメに、これ以上言っても無駄だと直感する。
それに、ビェトカもゲルダもイザナも――ほかの面々はスズメの言葉に納得してしまった。
「ま、そーね。スズメが勝てるってーなら勝てるんっしょ!」
「分かった、ここは任せたよリーダー」
「はい。サエズリ・スズメ――スパロー、行きます!」
『来るか! サエズリ・スズメ!!』
勢いよく飛び出して来る装騎スパローTAを目前に、天使装騎バルバトスは霊子猟銃シャーウッドを刀のように構える。
その瞳が見据えるのは装騎スパローTAただ1騎。
「これは……行けそうだな。全軍、天使装騎バルバトスを迂回だ。シャダイへ急ぐぞ!」
刃を交える装騎スパローTAと天使装騎バルバトスをよそにŠÁRKAの部隊はその場を抜ける。
「行っちゃいましたけど――いいんですか?」
『オレの目的はただ一つ! スズメと一対一で戦うことだけさ!!』
これから命のやり取りを行うというのに、何故だかスズメは笑ってしまった。
同じ使徒として一緒に過ごして分かっていた。
呆れるほどに、だが、尊敬できるほど真っ直ぐなその想いが彼女の強さなんだと。
ならば敬意を持って――
「はい、約束を――果たしましょう!」
一騎打ちを果たすまで。
「ムニェシーツ――」
「二天斬鎖!」
「ジェザチュカ!」
×の字を描くように振り下ろされた二振りの霊子猟銃シャーウッドを、両使短剣サモロストが薙ぎ払う。
そのまま装騎スパローTAは天使装騎バルバトスの懐に飛び込み、全身のヤークトイェーガーに輝きを灯した。
『イくねぇ!』
全身の刃を恐れもせず、天使装騎バルバトスもそのまま身体を前のめりに倒す。
突き上げた天使装騎バルバトスの膝は見事に装騎スパローTAのヤークトイェーガーの隙間を狙い、その身体を突き揺らした。
「くっ……!」
身体中を襲う衝撃に苦しげな声を漏らしながらも、スズメは怯まない。
天使装騎バルバトスの膝蹴りを利用し、後転。
左手で腰にストックしていた投擲用ナイフを放つ。
『これくらいならさ!』
「まだです!」
投擲用ナイフを霊子猟銃シャーウッドで払った天使装騎バルバトス――その目の前には装騎スパローTAの姿。
天使装騎バルバトスの視界が隠れた一瞬を突き、全身のヤークトイェーガーで急加速。
天使装騎バルバトスの元へ最接近していたのだ。
『うわ!』
さらにそのまま止まらず体当たり。
勢いよく弾き飛ばされた天使装騎バルバトスは空中できりもみした。
『ふっ……やっぱり、強いぜスズメ!』
「パトラスさんこそ……ですけど、まだ本気では、ないんですよね?」
『――――来い、レラージュ!!』
不意に天使装騎バルバトスがその手を天へと掲げる。
その声に応えるように、一騎の天使装騎が姿を現した。
『まさか出番です?』
『悪りぃけど――そうだな。お前の命、オレに預けてくれるならな』
『ええ。いいですとも』
不意にレラージュの姿が変わる。
それはもはや装騎の姿ではない。
「巨大な、弓?」
『ああ、あくまで約束は一騎打ちだかな! さぁ、ここからまだまだ行くぜェ、サエズリ・スズメェ!!』
「わかりました。行きますよマリアンヌ・パトラスさん!」