第39話:Vzdal Díky
Vzdal Díky
-感謝の祈りを-
「スズ――」
「ズメちんズメちんズメちーん!!!」
部屋に入ってそうそう、突然の衝撃。
スズメの胸元に顔を埋めるのはフニーズド・ロコヴィシュカだ。
「ロコちん、びっくりした」
スズメは苦笑しているが、ロコヴィシュカは今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
「ありがとうございます、ヴェニムさん」
「いいってことよ、レディーの案内はオレの役割だからな!」
MaTySのヴェニム・レイボルトが快活な笑みを浮かべた。
「スズメ!」
「リーダー」
「にゃあ」
「コーヒー飲む?」
「Sweet Dream!」
出迎えてくれたŠÁRKAの仲間たち。
その姿にスズメはとても懐かしい気持ちになった。
「スズメちゃん、よかったぁ!」
「貴女がいない間、大変でしたよ」
「スズ姉! やっぱりスズ姉は最高ね!」
「はい、心強いであります!」
そんなことを言う仲間達だが、スズメ自身もこの仲間達を心強く感じる。
「スズメ……おかえり」
「ただいま!」
「ちょ、イザナ! アンタ何ヒロインみたいなことやってんの! ここはワタシの出番っしょ!」
「は? 何言ってるの? 私は世界のヒロインなのよ」
「スズ姉はアタシのお姉ちゃんなんだけど!」
言い合いを始めるイザナとビェトカ、そしてツバメに苦笑しながら顔を上げたその先に1人の少女がいた。
「アナヒトちゃん!」
「スズメ……」
「ごめんね、心配かけた……よね」
「心配、だった」
アナヒトのむすっとした表情にスズメは慌てる。
「ずっと……会ってなかった」
スズメとビェトカの指名手配に始まり、気がつけばあっという間に過ぎ去っていた半年。
アナヒトや、ほかのみんなにかけた心配を思うとスズメは頭が上がらない。
「そうだ、カヲリもいるのかな?」
「ドリルのひと……?」
アナヒトの言葉にスズメは思わず吹き出す。
「誰がドリルですって?」
「あ、出た」
カヲリの今にも殴りかかりそうな剣幕にアナヒトはサッとスズメの背後に隠れた。
「個人的にはー、カヲリーダーの髪はねじりパンに見えるかなー」
「ミーカーコー?」
「カヲリ様おちついて……」
ミカコの胸ぐらを掴み上げるカヲリをナオが慌てて制する。
「ありがとうカヲリ。カヲリがみんなを集めてくれたんでしょ?」
「はぁ? んなワケ――」
「はい、わたくし達カヲリさんにお呼ばれされて来ましたの」
「リドミラさん! エリンカにチョミちんも!」
ぐぐぐと怒っているような、恥ずかしがっているような、複雑な表情を浮かべるカヲリにリドミラが微笑みかける。
「まっ、なんだかんだでコイツのお陰で集まれたのは確かだな。そればっかは認めねーとな」
「ふん、認めてくれなくて結構だわ」
「またまたヲカリンったら~」
一通り仲間の顔を見られて安心したスズメは、気分を引き締めるように大きく深呼吸をした。
そして、言った。
「それでは、作戦会議をしましょう」
作戦会議室に集まったのはŠÁRKAとMaTySの主要メンバー。
それ以外のメンバーは、別室からこの作戦会議の内容を見ているはずだ。
「スヴェト教団の内情について細かいことは後でレポートにまとめて共有します。今回はスヴェト教団の主目的への対策です」
スヴェト教団の目的。
それが人々の意識を統一し、新世界を創世することだということはスパローの言葉もあり予てより知られていた。
「スヴェト教団の預言者は計画の成功に、信仰と場所と時が必要だと言っていました」
「信仰ってのはアレね。ソレを集めるタメに偽神を呼び寄せたり、スヴェトの信者が悪魔を名乗って破壊活動してるってワケよね」
「はい。彼女たちの教義には終末の世に現れる救世主の伝説があります。おそらくはそれを再現しているのでしょう」
「重要なのは時と場所だな。リーダー、何かわかることは?」
「時に関しては一つ。預言者はあとひと月で私達の勢力をある程度削ぎたいと考えています。となると、計画の遂行は今から1カ月後――」
「12月半ばって訳ですね」
額に手を当てながら言うローラにスズメは頷く。
「スヴェト教団の教義から考えるならば、その日は12月の20日から25日の辺りでしょう」
「ズィズィさん、根拠は?」
「はい。丁度そのころは日照時間が1年で最も短くなる時期です。スヴェト教団では太陽の光はこの大地を守護する輝きであり、日照時間が短いその頃は大地への守護の力が一番弱まる時期だとされています」
「降誕祭頃か――一体何を降誕させるつもりなのやらだ」
「まぁ、その救世主ってヤツを降誕させるんじゃないの? てかさ、スパローはナンか知ってんでしょ?」
ビェトカの言葉に、一同の視線がスズメへと集まった。
「スパロー?」
スズメが自分自身にそう問いかけた瞬間、その雰囲気が一変する。
「はい。よくできました。そうね、"私"の知識とも一致するわ。もう1人の私が持ってきた情報に間違いはないでしょう」
「アンタ偉そうなこと言ってるけどさ、正直そんな役に立ってないからね!」
「"私"が下手に手を出せば、それこそ役に立たなくなりますからね。ですけど――良かった。どうやら私の知識が役に立たない状況にはなってないようね」
スパローはどこか安堵するような笑みを浮かべた。
その表情にビェトカを始め、見ている面々はどこか不気味な感覚を覚えるが、スズメだけは理由の分からない安心感を覚える。
「偽神が倒され、天使が悪魔を演じ、そして使徒の裏切りが出た。人々はスヴェト教団に熱中し、やがて時を迎えれば、然るべき場所で儀式は行われる」
「ソレは分かってるんだって! んで、然るべき場所っていうのは!?」
「シャダイコンピュータ」
「また!?」
それは偽神教との決戦の地にもなった場所。
偽神教が偽神クトゥルフを呼び寄せようとしてたその場所だ。
「そうです。だけど、それは地上じゃない――――地下施設よ」
「スズメ――いえ、スパローと言ったわね。シャダイコンピュータに地下があるというの?」
スパローの言葉に疑問を投げかけるのはローラ。
彼女はシャダイコンピュータに地下施設があるという話を聞いたことがなかった。
「マルクトなんて地下施設だらけ。シャダイコンピュータの下に地下施設が1つや2つあったところで驚くことじゃないですか」
「わたしはこれでも大統領直属の部下なのよ。それが噂すら聞いたことないなんて」
「シャダイコンピュータの地下はシャダイのブラックボックスですからね。建造当時から厳重に存在を封印されてきたと言います」
「ブラックボックスって便利な言葉ねー」
「具体的にはどういう役割をもっているんだ?」
「簡単にいうならシャダイコンピュータの本体よ。地表に立っていた巨大なサーバータワーは所詮、その機能を補強して出力するために増設された補助装置に過ぎないわ」
「ああ、なるほどね……だからわたし達グローリアがタワーを破壊しても、マルクトのネットワークシステムは正常に機能してたって訳。謎が解けたわ、全く」
「"私"の世界では、スヴェト教団はシャダイコンピュータ本体である生体ネットワークを利用して全人類と感応――そして意識の統一による高位の霊的、情報的存在に昇華しようとしていた。それが――」
「新世界か」
「んじゃ、シャダイコンピュータの本体だっけ? ソレぶっ潰せは野望は阻止できるってワケじゃん。壊しに行こ?」
「そうは行きません」
ローラは難しい顔をしながら口を開く。
「現在、マルクト共和国はシャダイによるネットワークによって社会が成り立っています。その本体を破壊するということは、人々の生活を一気に破壊すること。取り返しのつかないことになります!」
「つってもさ、なんか情報的存在とか言うよく分からない存在にされちゃうってのに、生活だなんだ言ってる場合じゃ無いっしょ。ほかの国はネットとか無しで頑張ってるんでしょ?」
「それがだなアルジュビェタ……マルクトの国際社会復帰による技術開放で、他国もシャダイを核とした情報ネットワークを構築しているんだ」
「そうよ。シャダイコンピュータの完全破壊は、国際社会の破壊に等しくなるわ。実際、そのおかげで私も華國に居ながらスズメと悪魔装騎の事を知ることができたわ」
「つっても、ヤツらの計画を阻止するならソレこそ世界を破壊してでもシャダイを破壊しなくちゃ。ヤツらに先に壊されるか、コッチが先に壊すかの違いっしょ?」
「いえ、もう1つ手段があります」
それはいつも通りのスズメの声。
スズメは毅然とした態度で口を開いた。
「スヴェト教団に計画を行わせて、それを私達が直接潰すことです」
「抵抗が激しそうだな」
「そうですね。少なくとも、私達にとってはとても面倒くさいことになりそうです」
「つまりつまり? 選択肢は3つってワケ? ワタシ達が世界を滅ぼすか、スヴェト教団が新世界を創るか――」
「私達ŠÁRKAと、スヴェト教団の戦いに世界の今後を委ねるか」
「博打ね……全く、頭が痛くなるわ。で、ŠÁRKAの組織長として貴女の判断は?」
「博打を打ちましょう。ハイリスクですがハイリターンです。異存は?」
「無し! 博打大好きー!」
「当然よ」
「私はリーダーを信じる」
「その3択ならば……仕方ないですね。わたしはスズメに任せます」
「条件付き賛成よ。とりあえず、シャダイ中枢の代わりになる代替サーバーの設置と、別案を考えてみるわ」
「つっても、コレって最悪の場合ってコトっしょ? ヤツらが計画を起こす前に倒しちゃっても構わないんだよね!」
「拠点に乗り込むということか……リーダー」
「さすがにもう別の場所に移動してるとは思いますけど、一度仕掛けてみるのは良いですね」
「スヴェト教団の拠点はわたし達MaTySが調査しましょう。貴女達が下手に動くとここがバレますから」
「それじゃあ、お願いします」
「今回はこれくらいで切り上げよう。リーダー、レポートの提出は任せた」
「はい、ゲルダさん。すぐに作成します」
「いや、少し休んでからでいい。というか休んでほしいリーダー」
「そーそー、そだスズメ! 美味しいスイーツがあるのよ。一緒にどう?」
「スズメの好みなら私の方がよく分かるわ。ね、スズメ。私がとっておきを用意してるから行きましょう」
「ちゃんと休ませるんだぞ」
翌日。
「ローラさん、スヴェトの施設の調査は?」
「昨夜の爆発事故を調査するという名目でわたし達の息がかかった憲兵団を派遣させたのだけど……」
「逃げられましたか……さすがに動きが早いですね」
「ええ、中々のお手前よ。使徒フォマス・ユーディとは接触できたようだけど、今あそこを攻める利点は無さそうね」
「やっぱり、相手が動くのを待つしかないってことですね」
「はぁ、そうなるわね」
「ありがとうございます。ローラさん」
お礼の言葉にローラは「いいって」と言いながら右手を揺らす。
「一先ずは情報収集、そうなるのかしら?」
「そーね。ネットで探すのが一番手っ取り早い。悪魔装騎さんどこー?」
ニュースサイトのトップページには、スヴェト教団施設から放たれた謎の光と爆音について書かれていた。
それは天使装騎アモンが最後に放ったあの一撃によって放たれたものだ。
あの光のお陰でスズメは単身スヴェトの施設から脱出でき、さらには近隣にいたMaTySの諜報員と合流できた。
「フェリパさんは……」
「スズメ? 気分でも悪いの?」
「大丈夫ですよ」
少し暗い表情になっていたのだろう。
心配そうに顔を覗き込んでくるビェトカにスズメは微笑んだ。