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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
スヴェトの脅威:最強最優の使徒
302/322

第38話:Neposlušných Lidech

Neposlušných Lidech

 -不従順な人々-

「おはようございます。パトラスさん」

「おっはよう! もしかして手合わせか?」

「はい。お願いしてもいいですか?」

「モッチだぜ!」

朝――時刻は7時過ぎ。

スヴェト教団施設のレクリエーション室で、スズメと使徒パトラスによる模擬戦が繰り広げられていた。

「さすがに最初の頃よりやるようになったな! オレの見た通り筋が良いぜ!」

「パトラスさんにいっぱい稽古を付けてもらったおかげですよ」

二本の竹刀を振り回すパトラスに、スズメは短めの竹刀で立ち向かう。

激しい二振りの連撃を、かわし、しのぎ、隙を探し、そして打ち込む。

この模擬戦は、スズメが使徒となってからは半ば日課のようなものだった。

「ありがとうございます。パトラスさん」

「おう、またやろうぜ!」

「1時間みっちり、カ……よくヤる」

監視役の使徒ジュダがスポーツドリンクを差し出す。

「ジュダさんこそ、律儀に飲み物まで用意しなくてもいいんですよ?」

「フっ――すきずきカ」

「あ、お、おはようござい、ましゅ……」

拙い喋り口調であいさつをしたのは使徒ナーサリィ。

その傍には使徒マシュの姿もある。

初めて出会った時もそうだったが、この2人はよく一緒にいることが多かった。

「おはようございます。ナーサリィさん、マシュさん」

「……おはようございます」

「あ、スズメさん、今度、その新刊出すから、また読んでくれますぅよぉね……?」

「読ませてくれるんですか? それは――楽しみですね」

「こんどの、マシュのお話はすっごいから! き、期待してくださいっ!」

「ナーサリィの絵も、です」

マシュはどこかスズメに警戒するようなもの静かさを見せながらだが、その表情はどこか柔らかい。

「2人が創るお話は、とても素敵ですからね」

そう言うスズメの言葉に嘘偽りは全く無かった。

「あー、また負けましたぁ」

「精進せよ、使徒マチア」

「使徒シモーヌは容赦がなさ過ぎなんです」

むぅと頰を膨らませる使徒マチア。

両者が囲むテーブルの上には、トレーディングカードが規則正しく並べられている。

「またカードゲームですか?」

「う、スズメさん! ちょ、見ないでください!」

スズメの視線に気づいた使徒マチアが、慌ててカードを回収し始める。

「スズメさんの『結晶』デッキに勝つための、秘蔵デッキを構築中なんです! このデッキはスズメさんには見せられませんよ」

「それでシモーヌさんと特訓を?」

「実戦を想定。此れ以上の経験は無しに」

「デッキが完成したら勝負ですよスズメさん!」

「はいはい」

一生懸命なマチアの姿に思わず苦笑してしまった所で、背後から肩を叩かれた。

スズメが振り向くと、そこに仏頂面で立っていたのは使徒ヨハンナ。

「使徒ユーディがお呼びだわ。来なさい」

使徒ヨハンナに連れられ、スズメと使徒ジュダは使徒の間へと足を運ぶ。

「来ましたね」

「何か用が? MaTySの拠点が抑えられましたか?」

「それは……まだ、ですが」

「MaTySは元々、国内部の過激派に対抗するために作られた組織ですからね。いくら国の機関を動かせるスヴェト教団でも拠点の把握は困難なのは、仕方ないですね」

使徒ユーディは険しい表情をするが、スズメは特に気にした様子もない。

「ŠÁRKAの拠点となっていたチャペク城を襲撃。攻略に成功しましたが、MaTySの邪魔だてにより逃走を許してしまった」

「何か手を打たないといけないということですか?」

「そうなりますね」

「ŠÁRKAは何かあれば勝手に出てきてくれますよ。戦力はかなり増えましたが、こちらも国軍や憲兵が使えますし」

『あとひと月です』

突如部屋に響いたのは預言者の声だった。

『我々が悲願達成に重要なのは3つの要素です。それは信仰、場所、そして時――すでに時が近づいてきています』

「その時を逃せば我らの計画は破算――そういうことですね」

『時が満ちるまでに、我々はŠÁRKAの戦力を削ぐ必要があります』

「でしたら、すぐにでも悪魔装騎とも連携した作戦を立てた方がいいんじゃないですか? ここまで来て悪魔装騎組を別に運用するのは利点がありませんしね」

「運用だなんて、仲間を駒のように言って欲しくないわ!」

『しかし、使徒スズメの言う通りでもあります。使徒ユーディ、悪魔組の招集を』

「かしこまりました」

『今回はこれまで。信徒達にはŠÁRKA、ひいてはMaTySの拠点特定に力を入れてください』

「はい」

「今回はこれで解散ですね。では、失礼します」

「なっ、サエズリ・スズメ、待つのだわ!!」

制止する使徒ヨハンナの声を無視し、スズメが次に向かったのは情報室。

そこでは、使徒フェリパがモニターとにらめっこをしていた。

「フェリパさん、何してるんですか?」

「おはよう、スズメちゃん。今までの戦いのおさらいだよ」

スズメが覗き込んだその画面には、今までの悪魔装騎やŠÁRKAとの戦いの情報が事細かに記されている。

「仕事熱心なんですね」

「そうでもないけど。まぁ……気になることも多いしね」

「気になること、ですか?」

スズメの問いに使徒フェリパは少し考えるような素振りを見せながらも、言った。

「君たち――――いや、ŠÁRKAはどうしてわたし達と敵対するんだい?」

「それは……」

スズメは横目で背後に控える使徒ジュダの姿を一瞥する。

使徒ジュダは変わらず無表情。

だが、その瞳は静かにスズメを見据えていた。

「信じられないからですよ。スヴェト教団と言う組織が」

「スズメちゃんも、まだそう思ってるのかな?」

「…………どうでしょう」

ふと、とある情報がスズメの目に入る。

「スズメちゃん?」

使徒フェリパの声に、思わず緩みかけていた表情を引き締めた。

「今夜、流れ星が見えるかもしれないみたいですよ」

「流れ星かぁ。いいね」


その夜。

静まり返った部屋の中で、スズメはベッドから体を起こした。

暗闇の中に目を凝らす。

とっくに闇に慣れた瞳が、部屋の中を映し出した。

「よし」

スズメはそっと部屋の扉に手を掛ける。

ふぅ、と一息……そして、部屋を飛び出した。

「……ッ!!」

部屋の前には1人佇む使徒ジュダの姿。

スズメの様子にただ事ではない雰囲気を感じ取り、スズメの元へ向き直る。

「ごめんなさい、ジュダさん」

そこにスズメは躊躇しない。

一気に踏み込み、使徒ジュダに向かって拳を突き出した。

「!!!」

スズメの放った拳は、使徒ジュダの手の中にすっぽりと収まる。

「まだです……」

スズメは右膝を曲げながら、掴まれた手を一気に引き寄せた。

スズメの右膝はたしかに使徒ジュダの腹部にめり込んだ。

だが、使徒ジュダは怯まない。

「行ク……のカ?」

「はい、人質も居ない以上、ここに留まる理由もありませんから」

「そうカ……」

「ジュダさん?」

使徒ジュダは静かに目を伏せる。

「イけ、スズメ」

そう一言だけ放ち、使徒ジュダは動かない。

スズメは頷くと、格納庫のある方向に足を向けた。

「次ニ会うトキは……全力でコロス」

「はい」

ひんやりとした格納庫の中、漆黒の装騎が闇に紛れて膝をついている。

「行こう、スパロー」

スズメはその背中へとよじ登り、コックピットへと身を滑り込ませた。

装騎スパロー・オブシディアンのメインモニターが点灯し、起動の手順を手早く済ませる。

くぐもった駆動音と共に、装騎スパロー・オブシディアンは直立。

その時だ。

「こんな時間に何をしているのですか!」

「あの人は確か――司祭アンドレア」

険しい表情で装騎スパロー・オブシディアンを見上げる司祭アンドレアにスズメは言った。

「下がってください」

装騎スパロー・オブシディアンはナイフを一閃。

格納庫の扉を破壊し、外に飛び出した。

「逃走、ですか――――逃がしません。逃がさ、ないッ」

不意に司祭アンドレアの身体が仄かに発光する。

膨れ上がるようなアズルが漏れ出し、やがて巨大な人の形となる。

黒く染まった右半身に、白く翼の生えた左半身。

「天使装騎ハルファス!」

『逃がさない、逃がしてなるかサエズリ・スズメ!!』

それは、偽神教との決戦時、その決戦の地で戦った天使装騎の姿だった。

天使装騎ハルファスは、装騎スパロー・オブシディアン――スズメに明確な敵意を向けている。

「どうやら、そう簡単には逃がしてくれそうにないですね!」

装騎スパロー・オブシディアンは黒短剣を構え、姿勢を低くした。

『来たれ、我が尖兵!』

天使装騎ハルファスの声に応え、アズルで練られた偽神装騎ディープワンのような人型が数体、姿を現わす。

『いけ、トルーパーワンズ!!』

「あまいです!」

襲いかかる尖兵装騎トルーパーワンズの攻撃を避け、短剣にアズルを込めて突き立て切り裂く。

『あなただけは逃がさない。逃がさない、逃がさない逃がさない逃がさないッ!!!!』

「どうして――そんなにっ」

やたらとスズメに対する執着を見せる天使装騎ハルファス。

しかし、それもそのはずだった。

偽神教の責任者だった司祭アンドレアはその職務をスズメ達「復讐姫ムスチテルキ」に阻まれ、スヴェト教団自体の目的まで邪魔され、それでいながら使徒に任命されたことに不快感を抱いていた。

そこに今回の脱走――司祭アンドレアは今、自らの不手際とスズメの横暴に激しい怒りを覚えていた。

『せっかく星を見ていたのにトラブルとは。――ん、装騎スパロー……スズメちゃん?』

そこに現れたもう一体の天使装騎。

使徒フェリパの変化する天使装騎アモンだ。

『天使アモン、脱走です! 彼女は逃げ出すつもりです!!』

『本当かな?』

「本当ですよ。もう、ここにいる理由はありません。悪いですが――ここから抜け出させてもらいます!」

間髪入れずに装騎スパロー・オブシディアンは天使装騎アモンに襲いかかる。

その一撃を天使装騎アモンは霊子杖ワセトで受け止めた。

『スズメちゃん、考え直してくれないだろうか。君達は平和を願っているはず、それはわたし達だって同じなんだ。話せばきっと――』

「無理ですね。私達とアナタ達では、致命的なすれ違いがありますから。それがある限り、私達がアナタ達を理解することなんてありません」

スズメの言葉に使徒フェリパは「ああ、やっぱり」そう思っていた。

使徒フェリパはずっと悩んでいた。

スズメŠÁRKAと、自分達スヴェト教団のすれ違いに。

『やっぱり、ほんの少しのことだったんだね……それさえ無ければ、きっと、わたし達は、君達と』

「かも――――しれないですが、スヴェト教団がみんな、フェリパさんみたいな人だったら……きっと」

『叛逆者サエズリ・スズメ、ようやく尻尾を出しましたね』

スズメと天使装騎アモンの会話を遮ったのは天使装騎ベリアルだった。

『スズメさん……どうしても、行くんですか?』

天使装騎グレモリーの言葉に装騎スパロー・オブシディアンが頷く。

装騎スパローに対し、その場には複数の天使装騎の姿。

幸いにも、天使装騎グラーシャ・ラボラスと天使装騎バルバトスの姿は見えなかったがそれでも不利なのは変わりなかった。

『天使ベリアル様、わたしの能力で使徒様方の能力を向上させます。装騎スパローの破壊をば』

そう言うと、天使装騎ハルファスから光が漏れ出し、天使装騎達へと燃え移る。

これが戦士に力を与える天使装騎ハルファスの能力だった。

『サエズリ・スズメ、覚悟してください』

天使装騎ベリアルの号令一下、天使装騎部隊が装騎スパロー・オブシディアンと交戦を始める。

「っ、P.R.I.S.M.、akt.XXXX!!」

スズメの意思に呼応するように装騎スパロー・オブシディアンはアズルの輝きを纏うと、分裂した。

『使徒長を殺した時の分身ですか!』

『天使ベリアル、ここはわたしに任せてください』

天使装騎グレモリーが静かに力を放つ。

その力は波のように天使装騎グレモリーの周囲を取り囲んだ。

「天使装騎グレモリーの能力はアズルコントロール……その応用ですか」

天使装騎グレモリーの放つ波を受けた装騎スパロー・オブシディアンの分身が搔き消える。

『流石に多勢に無勢、では無いか?』

「かもしれませんね!」

『こちらは強化もして頂いて力100倍なのだわ! 観念するのよ!!』

「ですけど、簡単に諦めるつもりなら逃げようなんて考えませんよ!」

『でしょうね……各員、全力でかかりなさい!』

P.R.I.S.M.によって生み出した分身と、黒く塗装した騎体を夜闇に紛れさせることでなんとか戦いを対等にはもっていっているが、少しのミスで一気に不利になりかねない状況。

「フェリパさん、どうして私達ŠÁRKAがスヴェト教団を信じられないのか――理由を言いましょう」

『理由を……?』

「それは人々を襲っている悪魔装騎の正体が――」

『なっ、スズメさん、待っ――』

「みなさんと同じ、スヴェト教団の信者達だからです!!」

『本当、なのかい……?』

「はい。スヴェト教団は自分達で人々を襲い、自分達で倒すことで信頼を勝ち取っていた。新世界のためという理由で人をコマのようにしか見ていないスヴェト教団を信じられるわけがありません!!!」

スズメの言葉はとても真っ直ぐ。

『天使アモン、彼女の言葉を聞いてはいけません! 我々を動揺させるための嘘です!』

天使装騎ベリアルはそう言うが、使徒フェリパはそこに嘘があるようには思えなかった。

「偽神教という組織もそうです。私の大事な人を生贄にしようとした邪教集団……彼らだって、スヴェト教団の信徒達がアナタ達使徒の指示で作り上げたものですから」

『なぁ、本当かな? 使徒ユーディ、君の言葉が、聞きたい』

『貴女は使徒長の理念を、意思を、否定する訳ないでしょう? あの方がそのような事を行うと思いますか?』

『…………使徒長ジェレミィ。わたしは、わたしは――――ッ!!!!』

不意に天使装騎アモンの頭上に、巨大な炎の塊が現れる。

その輝きは強く熱く、眼を貫く。

「フェリパさん!」

『天使アモン!』

『うわぁぁぁぁああああああああ!!!!』

瞬間、炎は天使装騎アモン目掛けて急降下し、強力な熱と衝撃、そして閃光でその場にいる誰もの瞳をくらませた。

周囲が再び闇に帰った時、装騎スパロー・オブシディアンの姿はどこにも無かった。


挿絵(By みてみん)

SSSSS-第二十七回-

使徒ユーディ「使徒ジュダ! 貴女はサエズリ・スズメの監視役でしょう。何をしていたのですか!?」

使徒ジュダ「使徒スズメからノ不意打ちィをクらった……スススまナイ……」

使徒ユーディ「戦闘のプロである貴女が、学生相手に打ち負かされるはずないでしょう!」

使徒ジュダ「ダが……ソの学生相手ニィ、手こずってイルは事実……」

使徒ユーディ「っ!!! 使徒パトラスは!?」

使徒パトラス「えー、だってスズメはかなり強いぜ! となると、逃がさないワケないだろ!」

使徒ユーディ「意味わかりません! 貴女は強い敵と戦いたいから我々の仲間になったのではなかったのですか!?」

使徒パトラス「当たり前よ。強い敵が万全の状態の時に倒す! スズメには最初の頃から次に殺しあう時は本気の1対1でやろうぜって先約済みだしな!」

使徒ユーディ「くっ……このバトルマニア……ッ」

預言者『サエズリ・スズメのことは仕方ない』

使徒ユーディ「預言者様……!」

預言者『個人の裏切りなど、我らがシナリオの範疇。体制を立て直し、儀式の成功に向けて精進しましょう』

使徒ユーディ「手始めに、何を」

預言者『まずは使徒の再編です。司祭アンドレアを新たな使徒の列に加えなさい』

使徒ユーディ「そういえば、司祭アンドレアは? この場に出席していないようですが……」

預言者『問題ありません。次に、対ŠÁRKAの作戦ですが――』

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