第37話:Hojnou Milost a Dar Spravedlnosti
Hojnou Milost a Dar Spravedlnosti
-神の恵みと義の賜物-
ŠÁRKAは劣勢に立たされてた。
「超重装騎ヴィクター、だっけ? 厄介だねあれは」
いつもと変わりない淡々とした声色。
しかし、ピピの額には汗が滲んでいた。
「アラモードさん、アズルフィールドの復旧は!?」
「ひ、一通りは! ですけど……多分、その場凌ぎにしかならないかと」
天使装騎アモンの一撃によって破壊されたチャペク城天守のアズルフィールド発生装置。
その復旧が済み、チャペク城がアズルフィールドで防護される。
しかし、アラモードの言う通りその出力は不安定。
「見てる感じ……ヴィクターってやつの攻撃をモロに受けたらヤバそうですけど!」
超重装騎ヴィクターの放つアズル砲が掠める度に消え入りそうに揺らぐアズル防壁にカナールも気が気でない。
「アルジュビェタ、ここはなんとか撤退したほうがいいんじゃないか!?」
「ゲルダ! そーはいうケドッ!」
ビェトカは戦況を考える余裕もないほど、天使装騎部隊との戦いに手をこまねいていた。
「悪いわゲルダ。撤退の算段はアナタが立ててちょうだい」
「諒解した。そちらも何とか凌いでほしい」
ゲルダの言葉に頷くと、イザナは目の前の天使装騎を睨みつける。
装騎ピトフーイDと装士フーシーの前にいるのは天使装騎ベリアル1体のみ。
だが、装騎スパロー・オブシディアンも、天使装騎グラーシャ・ラボラスも確かに潜んでいた。
「正面突破が得意なベリアルに……奇襲が得意なスパローとグラーシャナンタラ! 最悪に最高の組み合わせねッ」
炎を巻き上げ突撃する天使装騎ベリアルの攻撃を避けながらビェトカは舌打ちをする。
少しでも隙を見せれば、凄まじい速さを誇る装騎スパロー・オブシディアンが、霧のように姿を眩ました天使装騎グラーシャ・ラボラスが牙をむく。
他の仲間達も、天使装騎や超重装騎ヴィクターに手をこまねいているようだった。
そして、その超重装騎ヴィクターの姿が段々と大きくなって行ってる。
それは、味方が押され始め、このチャペク城へ近づいてきていることを示していた。
「ちょっとイザナ、予備のナイフとかない!? 手が足りない!」
「仕方ないわね……って、マズっ」
「ナニが? っうわ!」
咄嗟に回避行動を取る装士フーシーと装騎ピトフーイD。
そこを超重装騎ヴィクターが放ったアズルの熱線が通り過ぎていく。
「もうコンナ近くまでッ!」
『ヴィクター、ŠÁRKAの拠点の破壊を』
天使装騎ベリアルの指示に、超重装騎ヴィクターの頭部にあるレンズのような単眼にアズルの光がともった。
「マッズ」
ビェトカの額に汗が滲む。
瞬間、チャペク城目がけて超重装騎ヴィクターの超魔電霊子砲が放たれた。
アズルの輝きが目を貫く。
チャペク城のアズルシールドが必死に抵抗するが、そのシールドも点滅するように揺らぎ今にも掻き消えそうだ。
もうダメか――そう思った瞬間だ。
「まだですぅっ!」
チャペク城の天守閣まで登り上がってきたのは装騎エルジェ。
両肩のストリームシールドを構えると、超重装騎ヴィクターの霊子砲を受け止める。
「ちょっ、ムチャだって!」
「ですけどっ、まだ退却の準備ができてないのならっ――可能な限り時間を稼ぎます! わたし、この中でも大人な方ですからっ!」
「わたしだって盾持ちとして負けてられないのでありますよ!」
そこに装騎ブルースイングも加わり、必死でアズル砲を防ぐ。
だが、超重装騎と通常の装騎では出力に決定的な差がある。
「クラリカ、死にませーん!!」
「ぬぐぐぐぐ、やってやるのでありますよ!」
必死で耐える装騎エルジェと装騎ブルースイングだが、両騎はジリジリと威力に押され、その盾は熱で焼かれていった。
「アオノ、クラリカ、良いからもう下がりなさい!」
チャペク城のアズルシールドも超重装騎ヴィクターの攻撃に耐えきれず機能を停止し、装騎エルジェも装騎ブルースイングが突破されるのも時間の問題。
「マズイぞアルジュビェタ。これ以上は最悪――」
「分かってる! アオノとクラリカをひっぺはがす! このままだと死んじゃうしねッ」
『させません!』
超重装騎ヴィクターのアズル砲を受け止める2騎が、耐えきれず煙を上げたその時。
『Kiaaaaaahhhh!!!』
甲高い声が空から降り注いだ。
「魔力――障壁!!」
瞬間、装騎ブルースイングと装騎エルジェを守るように、魔力の壁が立ちはだかった。
魔術を行使したのは、空から落ちてきた1騎の機甲装騎。
「ローラさん? ……ううん、あれは!」
闇夜の中で仄かな光を受けて輝く金の
装飾。
魔術騎であるミーカール型装騎をベースにしたその姿。
「装騎ヴォドチュカ! カヲリの装騎っ!!」
「オーホッホッホッホッ!」
装騎ヴォドチュカは魔力を全開。
それに負けじと超重装騎ヴィクターはアズルを高めるが、まるでその攻撃を利用し、力にするように魔力の壁がより大きくなっていった。
「相手のアズルを力にする! これがワタクシのP.R.I.S.M能力だわ!」
やがて超重装騎ヴィクターの周囲に火花が散り、そのアズルフィールドが不安定になりはじめる。
「わたくしも空からドーンとやりたいのである!」
「はぁ、どうなっても知りませんからね」
そこに宙を駆ける装騎と、その装騎に抱えられたもう1騎の装騎の姿が見える。
ローラの装騎スプレッド、ナキリの装騎ウタキだ。
「はいドーン」
「伝家の宝刀! イロハニホヘ刀をごらんある!」
装騎スプレッドに落とされた装騎ウタキは、超重装騎ヴィクターの頭部に取り付くと、その手に持った和風大剣イロハニホヘ刀を突き立てた。
「ナキリちゃんすごーい。わたしも攻撃しちゃお」
タマラの装騎テンパランスがアンティパンツァー・ミョルニルを構えて、撃つ。
『ヴィクター、あなたの力であればまだ戦えるはずです』
天使装騎ベリアルの言葉に奮い立つように、超重装騎ヴィクターは拳を固め腕を振り下ろした。
チャペク城を叩き壊さんと振り下ろされた腕は、触手のようなものに絡めとられ動きを止める。
「ふはははは! アナマリアオオダコ再登場なのさ!!」
アナマリアの装騎が纏う、アズルホログラムの巨大タコ――その腕だ。
「めちゃくちゃでありますよ!」
「固いことは言わないのさ、アオちゃん!」
「わたしが魔力で補助するわ。アナマリアさん、超重装騎の動きを止めるのお願い」
「承知したのさミラ・ローラさん!」
「よし、アルジュビェタ。対ヴィクター組と天使装騎組に分かれるぞ。ここで可能な限り抵抗して隙を作ろう」
「分かったわ! んじゃ、ワタシはスズメの――」
「スズメの相手はワタクシがやるわ」
ビェトカの言葉を遮り告げたのはカヲリだ。
「援護は要らないのだわ――アナタ達は露払いをおやりなさい」
返事も聞かず、装騎スパロー・オブシディアンと戦い始める装騎ヴォドチュカ。
「全く身勝手なヤツだわ」
そう言いながらも、ビェトカは天使装騎グラーシャ・ラボラスに標的を変えた。
「カヲリが来る――っ」
「ふふっ、ぶっ潰してあげるわ!」
装騎スパロー・オブシディアンの黒剣と、装騎ヴォドチュカの魔力がぶつかる。
「本気――ですね!」
「見せるのだわ、サエズリ・スズメ!!」
装騎スパロー・オブシディアンは一度距離を取ると、闇に紛れて一気に装騎ヴォドチュカの背後へと回った。
「この程度、予測済みなのだわ!」
だが、その攻撃は容易く防がれる。
「ティラニカル・リベンジ!!」
「こっちこそ、その行動は予測済みです!」
今度は装騎ヴォドチュカが放ったカウンター魔術を装騎スパロー・オブシディアンが掻い潜った。
「さすがワタクシのライバル」
激しい攻防。
それは何かが間違った瞬間に勝負が一瞬で決まりそうな戦い。
しかし、互いが互いを知り尽くしているからこそ終わらない戦い。
「決着がつきませんね」
「ワタクシだけでは――ですけどね」
瞬間、装騎スパロー・オブシディアンが何の脈絡もなく装騎ヴォドチュカから距離を取った。
そこに巻き上がった砂ぼこり。
何者かが装騎スパロー・オブシディアンを奇襲したのだ。
「避けられたか――さっすがスズメだぜ」
「チョミちん」
地面に拳をめり込ませるはチヨミの装騎ヂヴォシュカ。
「わりーなスズメ! 全力で――いかせてもらうぜ!」
拳を固め、装騎スパロー・オブシディアンへと向けた装騎ヂヴォシュカ――その背後から、突如何かが投げ込まれる。
真っ黒く光沢を放つソレは、装騎スパロー・オブシディアンの足元へ落下した瞬間、炎を上げた。
「爆弾!!」
「よっけられたぁ! いやいや、まだまだ行くっす!」
「っ……エリンカ!」
爆弾を投げ込んでくるエリシュカの装騎ヴルナは腰に2本の刀を差している。
そして――
「竜虎相うつ――そのような感じですがお邪魔させていただきます」
まるで流星のような一撃が、空から降り注いだ。
地面に突き刺さったのは一振りの薙刀。
そこに腰掛ける1騎の装騎は、どこか優雅な仕草で立ち上がる。
「我が流派の極意は花鳥風月――スズメさん、お覚悟を」
「もしかして――リドミラさん!?」
「ええ、中学以来ですわね。チェルナー・リドミラ、金蘭の契りを交わした友の為、ここに推参致しました」
「そーいうこった! 懐かしいぜ、チーム・スズメ全員集合ってな!」
「スーちゃんが敵ってのはちょっと残念すねぇ」
「ええ。本当でしたら和気藹々と再開を喜びたいものですが」
「そんなヒマはないのだわ。さぁ、やっておしまい」
「へっ、別にカヲリの指示に従うつもりはねーが――やってやるぜ!」
「ヲカリンだって一緒に戦うっしょ? さぁ、いこうっす!」
「昨日の敵は今日の友と言いましょうか、昨日の友が今日の敵と言いましょうか」
「よくもまぁこんなに集めましたね」
まさかの中学時代の仲間が勢ぞろいしていることにスズメは驚きが隠せない。
その驚愕を感じとり、カヲリは満足げな笑みを浮かべた。
「スズメ、聞きなさい。これがワタクシ達の全勢力。ワタクシ達の全ての仲間なのだわ! 勝ち目があると思って?」
「逆に言えば――これ以上はもう増えないってことですよね?」
「――――そうなるわね。ですが、勝てると思って? 尻尾を巻いて逃げた方がいいと思うのだわ!」
「……そうは行かないですね。まだ、目的が果たせていない!」
「そう。ローラ!」
「撤退ね」
瞬間、どこからともなくアズル砲が天使装騎部隊を襲った。
『また新手ですか!?』
天使装騎ベリアルの言う通り、それはŠÁRKAの新たな増援。
アズルの輝きを纏い、高速で向かってくる一団。
「ローラ、すまない。ちょっと遅くなった」
「いいえ、十分よ。ありがとうロイ」
「オレもいるぞ!!!!!」
「レイボルトは黙ってなさい」
「なんでさ!」
「装騎用チャリオット部隊! ということはMaTyS……いいえ、グローリア!!」
ローラと同じく反マルクト神国組織に所属していた2人の少年。
テレミス・ロイとヴェニム・レイボルト率いる戦車部隊が姿を見せ、天使装騎や超重装騎ヴィクターと交戦を始める。
「さぁ、さっさと退きなお子様ちゃん達! やっと出番だ! オレの出番だぁぁあああああ!!!」
「「うるさい!」」
ローラとロイに叱られしゅんとなるレイボルトだが、それに構わずローラは撤退の先導へと移った。
「ローラ、撤退はいーケド、どこに逃げんの!?」
「今回ばかりは仕方ありません。わたし達MaTyS直属の基地へ行きましょう」
「MaTySの基地にか――よろしいのですか?」
「サエズリ・スズメの告発で、MaTySとŠÁRKAの関係性がバレたからね」
ゲルダの問いにロイが淡々と答える。
「んじゃ、ŠÁRKA撤退!!」
グローリア団員が天使装騎達を押しとどめている間、ŠÁRKAは撤退。
姿を消した。
『逃げられましたね……』
「ついにMaTySも動き始めましたか……」
『此れ以上、止まる理由無し。我等も退却を』
『ええ、天使マルコシアス。そうしましょう』
天使装騎部隊も撤退の準備を始める中、スズメはŠÁRKAが退いた後をただ眺めていた。