舞い踊る月、昇り上がる鯉
スーパーセルの12mmバーストライフルがクレセントムーンへと放たれる。
だが、クレセントムーンはその銃弾をアニュラーイクリプスで弾き飛ばす。
その動きはまるで舞うようで、身体全体を使った綺麗な円を描き美しい。
「オラオラァなんですよぉ!!!!」
そこへ両手に持ったショットガンを交互にぶっ放し、クレセントムーンを仕留めんとチリペッパーが突っ込んで行く。
だが、それも舞うように踊るクレセントムーンへ当たらない。
クレセントムーンは、踊る様に装騎の体全体を動かしながら、自らに当たる弾丸を避け、そしてアニュラーイクリプスを使い打ち散らしていた。
チリペッパーの放つショットガンの弾がクレセントムーンの持つアニュラーイクリプスに当たり、火花を散らす。
それが、太陽を反射したアニュラーイクリプスの煌めきと共にクレセントムーンの舞をなおのこと盛り上げる。
小さな花火の中、優雅に舞うクレセントムーン――それは装騎の動きとは思えないほど洗練され、柔らかな動きだった。
「これが装騎の動きかよ!?」
ハクツキ・クレスの操作技術に触れたのは初めてではないが、それでもツバサはそう叫ぶ。
チリペッパーのショットガンからその身を守る様に舞っていたクレセントムーン。
しかし、不意にその体を沈み込ませチリペッパーへと急接近した。
「うげぁ!?」
突然の流れるような攻撃への転化にマッハは一瞬、その判断が遅れた。
クレセントムーンのアニュラーイクリプスがチリペッパーを切り裂かんと閃く。
「あ、危ないんですよ! コノヤローバカヤロォ!!」
だが済んでの所でチリペッパーはアニュラーイクリプスの餌食になるのを免れる。
並の騎使であるのなら、今の動きについていくのは至難だがマッハの野生の勘だろうか。
しかしチリペッパーはその代償として、両手に持ったショットガンを失ってしまう。
「そこだ――!!」
その隙に、チェーンブレードへ持ち替えたスーパーセルがクレセントムーンへと切り掛かった。
ゆらり――と揺れるように、ぶれるように、その姿が揺らぐクレセントムーン。
「――何っ!?」
スーパーセルのチェーンブレードは紙一重の間でかわされる。
「しまった――ぁ!!」
その脇腹に向かい叩き込まれようとしているアニュラーイクリプス。
「そこですわ――!!」
不意に、レーゲンボーゲンを牽制していたスネグーラチカがその銃口をクレセントムーンへと向ける。
撃ち放たれたスネグーラチカの弾丸は、スーパーセルを断ち切らんとするその左手を的確に撃ち抜いていた。
「不覚――!!」
「助かったよチャイカ!」
「礼には及ばないのですわ」
左手のマニピュレーターが使えなくなったクレセントムーンは、素早くスーパーセルを蹴り飛ばし、スーパーセル、チリペッパーと距離を取る。
その瞬間、クレセントムーンの背後から、スーパーセルとチリペッパーを狙った銃撃が放たれる。
「うわっとと!?」
「ふぃぎゅあっと!!!」
スネグーラチカからの牽制が無くなった瞬間を突き、2騎へと銃撃を仕掛けたレーゲンボーゲン。
そんな最中、不意にスズメからツバサへ通信が入る。
「ツバサ先輩! 装騎キラがそっちに向かってます! 気を付けてください」
「――ライユが!? 分かった」
だが、レーダーには装騎キラの姿は見えない。
「レーダー圏外から回り込んでるのか――? ちっ――厄介だな……」
ツバサは思わず舌打ちをした。
「ハクツキちゃん先輩……左手が――」
「無問題」
トワイの心配に、ただ淡々とクレスは答える。
そこに突如、ライユからの通信が入った。
「クレセントムーン、レーゲンボーゲン。コード・Aを」
「えっ、でも――」
「大丈夫――」
「…………りょ、りょーかい!!」
トワイがそう答えると、レーゲンボーゲンがクレセントムーンの傍を離れる
そして、その銃口を後方に控えたスネグーラチカへと向けた。
「なっ、逃がすか――!」
「――――阻止」
スネグーラチカを攻撃しようとするレーゲンボーゲンを止めようと動くスーパーセルだが、それをクレセントムーンが阻む。
クレセントムーンは片方のみしか武器が使えなくなっているが、それでもスーパーセルとチリペッパーの二騎を相手に十分な防戦を繰り広げる。
一方、スネグーラチカを狙い、グリュンドラヒェを撃ちながら移動するレーゲンボーゲン。
そのレーゲンボーゲンの背中に背負われた箱状の物の上部が開いた。
見た通り、箱を開くように開かれたレーゲンボーゲンの背中のソレ。
「いきます!!」
トワイはその言葉と共に、その背中に背負った箱を起動した。
「何だ――ロケット砲か!?」
視界の端にその姿を確認したツバサが声を上げる。
レーゲンボーゲンの背中の箱から放たれたのは、先のシーサイドランデブー戦で装騎ラプソディが見せたジャイロロケット砲と似た武器。
「ですが、何で空に向かって打ち上げているんですの!?」
ジャイロロケット砲と違う所は、チャイカの言葉通りそれが空に向かって撃ち放たれていると言うことだった。
ラプソディなどが装備するロケット砲は、通常、直進しか出来ない。
その為、相手の装騎に向かって正面から撃つのが当たり前だ。
上空に向けて撃つなど、ある種ヤケクソな行為と思われても仕方がない。
「弓矢だったらあんな風に打ち上げて、矢の雨を降らせる戦い方があるらしいが……それでもたった1騎の装騎が使える弾の数じゃ知れてるよな」
だが、その行為は全く無意味なものでは無い事はすぐに知らされる事となる。
空に打ち上げられたロケット――それは不意に進路を変えると地に向かい降り注いだ。
それは何かを目指すように――だが、スーパーセルやチリペッパーとは明後日の方向を目指して突き進む。
「まさか誘導弾頭!? 噂には聞いてたけど――実用化されてるなんて」
そう、そのまさかだった。
装騎レーゲンボーゲンの持つ隠し玉、それがこの背部ミサイルポッド、そして、そこから発射されるカ-プミサイルだ。
マルクトが作り出した最新兵装の一つであるミサイル。
通常、ロケット弾は直進しか出来ず、進路を変えることは不可能。
だが、特殊な誘導波を放ち、その誘導先に向かって飛行することで狙った相手への追尾性能を得たのがこのレーゲンボーゲンが装備しているミサイルだった。
しかし、その誘導波が働いていない場合は、ただのロケットと何ら変わらず、直進しか出来ない。
今、レーゲンボーゲンは誘導波を照射しているような様子は無い――それなのに、何かに誘導されるようにミサイルは飛翔する。
それが何故なのか――それは分からなかったが、これだけは分かった。
「まさか、スズメちゃんを狙ってか――!?」
空に向かって撃ち放たれたミサイルは、ツバサの言う通り装騎スパローへ向かってその進路を進めていた。
その姿はまるで竜のように、長い尾を引きながら森の一角――スパローが交戦しているであろう場所へ向かいその首を巡らせる。
そして、その首が森の中に消えた刹那、爆音が鳴り響き木々を揺らした。
クレセントムーンに釘付けにされるスーパーセルとチリペッパー。
その脇で、レーゲンボーゲンとスネグーラチカの銃撃戦が続いていた。
スネグーラチカの持つスナイパーライフルと、レーゲンボーゲンの持つグリュンドラヒェが行きかう。
木々を引き裂き、その合間を縫いながら、互い互いに牽制しあう。
その最中に、レーゲンボーゲンはミサイルポッドから、カープミサイルを装騎スパローに向けて放っていた。
「くぅっ、近づくこともできないなんてっ」
レーゲンボーゲンの装備であれば、接近してからの、魔力衝撃で倒すことも可能かもしれない。
しかし、それも出来ないほどにレーゲンボーゲンの銃撃は激しい。
「せめて、スズメちゃんの負担を減らすことができれば――」
合間を見て、レーゲンボーゲンの放つミサイルにその銃口を向けてみるが、その隙に銃撃が一層激しくなる。
レーゲンボーゲンの銃撃の波に意識を集中し過ぎて、チャイカは気付いていなかった。
その背後から忍び寄る――死神の姿に。
不意に、スネグーラチカが警告音を上げた。
「何ですの!?」
それは背後から近付いて来る異常性反応。
そう――ナガトキヤ・ライユの装騎キラだった。
「なっ、キラがスネグーラチカの背後から――――」
「何だって!?」
「貰いましたっ!!!」
空気の揺らぎが鎌首をもたげ、スネグーラチカを斬り断たんとうねる。
「魔力障壁――!」
装騎キラが起こした空気のうねりは障壁によって阻まれる。
しかし――
「レーゲンボーゲン」
「とーぜん!」
スネグーラチカの背後から放たれたグリュンドラヒェの銃撃を受けて機能を停止した。
「申し訳、無いのですわ……」
悔しそうに呟くチャイカ。
「レーゲンボーゲン、コード・Bに備えて移動を」
「りょーかいです」
スネグーラチカを仕留め、レーゲンボーゲンはその場を離脱する。
そして、キラはステルスを起動させるとスーパーセルとチリペッパーを狙い、駆けた。




