第35話:Krásné Brány
Krásné Brány
-「美しい門」-
「ŠÁRKAの拠点を特定しはじめてからもう一月経ちますよ? まだ特定しきれていないんですか?」
澄ました顔で訊ねてくるスズメに、使徒ユーディは内心舌打ちをする。
だが、努めて嫌な表情を表に出さないようにしながらスズメの前にPADを置いた。
「ある程度の候補は絞れています。だけど、新たな協力者達の存在から不確定要素も増えてしまいましたからね」
「カラスバ先輩達ですね……」
それは装騎殿ゼブルを撃破後の事だ。
天使装騎隊とŠÁRKAの戦いが始まり、状況は若干だったが天使装騎隊の優勢だった。
「あれからŠÁRKAの戦力が大幅に拡充している。厄介なことです」
「その所為で、勝てそうだった戦いを逃してしまいましたからね。失敗でした」
スズメの言葉は、ユーディ自身も強く感じていたことだ。
だが、だからこそ、スズメの言葉に苛立ちを覚える。
(この女は何を考えているのか? 我々を打ち倒したい筈なのに、きっちりと使徒を演じている)
冷静にPADの情報を眺めるスズメの姿は、ユーディの瞳にはとても不気味に映った。
「ユーディさん。ここ……マジですか?」
ふと、スズメがŠÁRKAの拠点候補地――その1つを示す。
「あくまで候補です。確かにバカバカしいですがね」
「……ここです」
「何が?」
「ŠÁRKAの拠点はきっとここですよ」
「は?」
「準備をしましょう。攻め込みますよ」
「正気です?」
「もちろん――次の目標は、チャペクランドです」
「まさか、遊園地のお城で暮らすことになるとは思いもしなかったでありますよ……」
「ホントーよねェ。一泊何万っつてたっけ? いい商売だわホント」
チャペクランドの中央に浮かぶ小島――その中央に佇むチャペク城にビェトカ達ŠÁRKAの姿はあった。
「まっ、不便は無いし、ベッドもフカフカだし、まさかこんな場所が拠点だなんて思わないし? いやー、良い場所だわー」
「ビェトカ、やめなさい」
「ナニが?」
「フラグを立てるのをやめなさい」
「フラグ?」
イザナの言葉の意味が理解できず、ビェトカはキョトンとする。
「フラグ――簡潔に言うならあるイベントを発生させる為の条件……みたいなものだな」
「イベント? ワタシの言葉がどんなイベントを発生させるっていうのよ」
「それは――」
「大変です、みなさん!」
ゲルダが説明するべきかどうか一瞬の躊躇を見せたその時、アラモードが駆け込んできた。
「スヴェト教団保有のマスドライヴァーが、ここを目標にしたみたいです!」
「ほらぁ!!!!」
「ワタシ!? ワタシが悪いの!?」
「仕方ない……迎撃態勢を取るぞ。絶対にヤツらは攻撃を仕掛けてくるからな」
「総員に通達よ!」
かくして、スヴェト教団天使装騎によるチャペク城襲撃が幕を開けたのだった。
「ŠÁRKAの拠点はチャペクランド中央、チャペク城だと目されます。あそこは小島になっていて、更に城の周りにも掘りがあるので正面以外からの襲撃が難しくなっています」
『掘り、カ……』
『実戦を想定されたお城なんですね……遊園施設なのになんでまた』
「カレルさんの趣味でしょう。それに――恐らくは強力な防衛設備も備わってると思います。注意してください」
『防衛設備って本当になんでまた……』
天使装騎グレモリーの疑問には天使装騎マルコシアスが答える。
『其に関せば、マルクトという国家の特徴だ。神の治めていた時代――其の名残だろう』
『国民皆騎使制、国土要塞計画――そう言うことですね。さて、それでは行きましょう。我らが新世界の為に』
そして、天使装騎ベリアルの号令と共に天使装騎部隊はそれぞれのポジションにつき――走った。
「敵襲敵襲! さっさと迎えうつわよ!」
「迎撃機能を起動するぞ」
ゲルダの指示に、アラモードがチャペクランドの防衛設備を起動する。
瞬間、チャペク城の城下町――その建物の幾つかが変形し、機銃や砲塔、様々な武器が姿を現した。
「迎撃装置が起動しています。各自、気を付けてください!」
『言われるまでもないです――蹂躙します』
にわかに始まった機銃の雨と砲撃を、天使装騎ベリアルは正面から両輪で踏み荒らす。
『アズル系の攻撃ならわたしに任せてください』
天使装騎グレモリーはアズル砲撃の軌道を操り、他の迎撃装置を破壊。
「私の本分は奇襲です。別行動を取らせてもらいます」
『同行しよウ……』
『勝手にしてください。我々は正攻法で攻めます』
『よっしゃぁぁぁああああ、戦え戦え戦えェ!!!!』
『ちょっとは落ち着けないのかなぁ天使バルバトスは……』
グングンと駆ける天使装騎バルバトスを天使装騎アモンは援護する。
やがて、天使装騎部隊はチャペク城正面の大橋へとたどり着いた。
「ったく、やるジャン。でも、まだまだココからっしょ!」
城の前で待ち受けるのはŠÁRKAの装騎部隊。
チャペク城自体からも多数の砲門が姿を見せ、天使装騎に狙いをつける。
「さぁ、行くわよ」
「ŠÁRKA、DO BOJEってね!」
装騎ピトフーイDと装士フーシーを先頭に、ŠÁRKAと天使装騎――二つの勢力がぶつかり合った。
「スパローの姿が無いわね。スズメの事だから背後から奇襲するつもりなのかしら?」
「後ろは堀っしょ? いや、でも、スズメなら来るかぁ」
「一応、背後への警戒も敷いているぞ。櫓にはピピ達も陣取っているし、タルザリは監視も兼ねて空から攻撃をしているしな」
「そうね。スズメが明確なアクションを起こすまではイェストジャーブ家ご自慢の索敵機能と迎撃機能を頼りにするしかなさそうね」
事実、スズメの装騎スパローTAと天使装騎グラーシャ・ラボラスは城の後方を駆けていた。
「裏手と言っても迎撃装置は正面と遜色ないレベルですか――さすがですね」
『我が霧散化なラ、察知はされない……先回リして――破壊スる』
「お願いします、ジュダさん」
『了承……』
天使装騎グラーシャ・ラボラスの攻撃は迅速にして正確。
それは防衛装置が接敵を知らせる間もない程だ。
「さて、あとはこの堀を超えないといけないですが……」
『何時モの手――行くカ』
「そうですね。お願いします、ジュダさん!」
天使装騎グラーシャ・ラボラスは翼を広げ、一気に天高く飛び上がる。
そこに向かって装騎スパローTAは飛び跳ね――天使装騎グラーシャ・ラボラスを蹴り堀を飛び越えた。
「さぁ、奇襲します」
「本隊を囮にした単独奇襲――流石は私の後輩だ」
不意に、装騎スパローTAの目の前に一騎の機甲装騎が立ちふさがる。
漆黒のボディとややアンバランスにも思えるバックパック。
連鎖刃断頭剣が不気味な唸りを上げるその装騎は――
「装騎、コクヨク――カラスバ先輩ですか」
「可愛い後輩とは言え敵は敵。本気で行くから――覚悟しなさい」
「それはコチラのセリフです。サエズリ・スズメ――スパロー、行きます!」
瞬間、装騎スパローTAの両使短剣サモロストと装騎コクヨクの連鎖刃断頭剣がぶつかり、火花を散らす。
「まさかアナタがスヴェトに協力するなんてね。今までのブローウィングの中で、一番私の後輩らしいわアナタ」
「カラスバ先輩にも理由があったのは解ります。ですが――同じにしてもらいたくないですね」
両使短剣サモロストに、連鎖刃断頭剣に、アズルの輝きが灯り剣撃に彩りを添えた。
「妙ですね……」
全身全霊をかけた競り合い――その最中にもスズメは違和感を覚えていた。
「確かにカラスバ先輩は最強と言っても申し分ない騎使……ですが、ここで応援を呼ばないのは不自然……となると」
スズメは両使短剣サモロストの刃に意識を集中させる。
「ムニェシーツ・ジェザチュカ!」
装騎スパローTAの刃が走った瞬間、
「うおっらァ――! 俺の歌を聴けェ!」
どこからともなく、雷のようなアズルの放撃が閃いた。
「ああもう、うっさいわねアイツは」
「この声――聞き覚えが」
スズメの視界に、今の放撃を放った装騎の姿が目に入る。
どこかキザな漆黒のボディに、エレキギターを模したバトルライフルを手にした機甲装騎。
「ボウジット・コスさん!?」
「ヒュー! 流石は俺! 新進気鋭のロックミュージシャン!!」
元チーム・ウレテット所属でカレルの親友、ボウジット・コスだった。
「装騎コクヨクにコスさん……面白いくらいに真っ黒ですねッ」
余裕を見せるスズメだが、コスのデタラメな強さはスズメもよく知っていた。
それがどれだけデタラメかと言うと……
『早急援護』
霧散化した天使装騎グラーシャ・ラボラスが装騎スパローTAを援護しようと装騎コクヨクに接近する。
この状態の天使装騎グラーシャ・ラボラスを察知するのは非常に困難なのだが。
「イくぜロック!」
激しいギター音を鳴らし、デタラメにアズルを撒き散らす。
標的は装騎スパローTAの筈だが、余計なアズルがあちらこちらに撒き散らされ――
『ッ!! 近付ケ……無い』
偶然にも霧散化した天使装騎グラーシャ・ラボラスから装騎コクヨクを守る形になっていた。
「ジュダさん、実体化してる方が安全です。正攻法で行きましょう」
『仕様……ナい』
「流石に単独行動はさせないと思っていたけど……へぇ、面白い装騎ね」
天使装騎グラーシャ・ラボラスの姿を目にして、リンは不敵な笑みを浮かべる。
そんな装騎コクヨクに、天使装騎グラーシャ・ラボラスは両手を大きく開き、爪を立てた。
「爪で戦う装騎……まるで獣ね」
「アツいじゃあねぇか! 俺もイくぞォ!!」
ギィィイィィィインと激しい音が鳴り響き、コスのバトルライフル・レッドスペシャル:レプリカから弾丸と共にアズルが放たれる。
「弾はどうとでもできますが……アズルは」
スズメはふと思いついたように全身のヤークトイェーガーの刃にアズルを灯した。
瞬間、コスの放ったアズル放撃はその刃に吸収され、打ち消される。
そのアズルを力にして――ヤークトイェーガーの加速装置が作動。
一気にコスとの距離を詰めた。
「なっ、アツい!!」
「ムニェシーツ……」
装騎スパローTAは両使短剣サモロストを腰にため、身をひねる。
そして、その一撃が放たれんとしたその瞬間。
「ついでだから、本当に黒色で揃えてみたのよね」
両使短剣サモロストを、一条のアズル砲が撃ち抜いた。
「チッ!」
「うおふ!?」
装騎スパローTAは、炎をあげる両使短剣サモロストを投げ捨てながら、コスの装騎を蹴り飛ばし距離を取る。
どこからともなく放たれた一撃、その後を追うように上空、背後、正面とあらゆる方角からアズル砲が煌めいた。
「遠隔攻撃端末……っ!」
その一撃を放ったのは、空中を自由に駆ける大小6つの攻撃装置。
「ごめんなさい、スズメちゃん……だけど、手加減なしでいくからっ!」
更に現れたもう一騎の装騎も黒。
そう、カラスバ・レイの装騎バイヴ・カハだ。
『独立稼働の攻撃端末……厄介』
「全くその通りですよ」
『天使グラーシャ・ラボラス、そちらの様子は!?』
『天使ベリアルか』
切羽詰まったような天使装騎ベリアルの声が聞こえてくる。
「その様子だと――苦戦してるようですね」
『城の防衛設備が想像以上に手ごわい。そちらの奇襲は!?』
多数の天使装騎による猛攻――しかし、魔電霊子武器から実弾兵器に加え、アズルフィールドなどを贅沢に使ったチャペク城を落とすのは困難。
ŠÁRKAの必死の抵抗もあって、使徒ユーディには勝ち目が見えなかった。
「そちらは攻め込めそうにないんですか?」
『ッ…………そうです』
天使装騎ベリアルはスズメの言葉に歯噛みする。
「…………撤退しましょう。いささか分が悪いです」
言いながら、装騎スパローTAは櫓から放たれた矢を腕部ヤークトイェーガーで弾いた。
「今の――カナールですか」
今まで戦っていた装騎3騎とは違う攻撃。
恐らくは前面での戦闘への支援が必要なくなったと考え、スズメ達奇襲部隊を狙った一撃だろう。
そしてそれは、背後からの襲撃が有効になる時間制限を過ぎてしまったという意味でもあった。
『我々は我々で撤退します。天使グラーシャ・ラボラス、ミシャンドラ――あなた達への支援はできません。いいですね?』
「当然です。ジュダさん、撤退しましょう」
『肯定』
SSSSS-第二十四回-
カレル「と、言うことでだ。拠点が敵にバレた」
カヲリ「それをワタクシに言ってどうなるのだわ?」
カレル「どうもしないさ。だが、一応は仲間だ。情報共有さ」
カヲリ(チャペク城の事がスヴェトに知られた。となるとスズメの性格なら――)
?????「そろそろ自分らの出番っしょ!」
???「つかよ、アタシらはスズメを助けるためにテメェに協力してやってんの。これ以上は堪えが効かねぇぜ!」
カヲリ「せっかくワタクシが実力だけは認めてあげたんだから大人しくできないのだわ?」
???「んだと!?」
????「まぁまぁ。確かに気に入らないお方ではありますが、ヴォドニーモストさんの言うことも分かります。待てば海路の日和あり、果報は寝て待て、です」
カヲリ「まぁ、良い知らせが来るのならワタクシ達が動く必要はないのだわ。むしろ――」