第29話:Dát Vám Dědictví Mezi Všemi Posvěcenými
Dát Vám Dědictví Mezi Všemi Posvěcenými
-恵みを受け継がせることができるのです-
黒く濁った荒れ狂う海の中、ビェトカは全身を襲う衝撃に耐えていた。
「スズメは海に飛び込めってたけど、どーすんのよ!」
とりあえず、仲間達の位置を把握しながらなんとかこの状況を打開する方法を模索する。
「アレは……?」
ふと、ビェトカの目に黒い影が映った。
その影は、荒れた海を物ともせずに、真っ直ぐとこちらへ向かってくる。
瞬間、海流の流れが変わった。
今まで四方八方から揉みくちゃにされていた筈なのに、一方から押し出されるように……いや、違う。
「引っ張られてる……?」
気付けば、装騎を網で絡め取られていた。
そして、引っ張られ引っ張られ引っ張られ……海面へと引き上げられた。
そこでビェトカが目にしたものは……
「デッカい……船!」
嵐を物ともせずに、波に揺られる巨大な船。
甲板で複数の男性達が、機械を使い網を巻き取っている。
その網にはビェトカの装騎ピトフーイDだけではなく、ŠÁRKAの装騎がかかっていた。
「この船……見覚えがあるわね」
そう呟いたのはイザナだ。
「確か……アルビオンとか名乗る海賊の……」
「ようこそ、アルビオン海賊団旗艦ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号へ!!」
声を上げたのは海中から飛び出してきた1騎の機甲装騎。
それは、ビェトカが海中で目にした影の正体だった。
「アルビオン海賊団……聞いたことがあるわね。会ったことないけど」
「こちらこそ! 死毒鳥の名は聞いてるよ。あたしはアルビオン海賊団女王、マーリカだ!」
「まさかスズメから頼まれたのかしら?」
「そう! イザナだっけ? あんたは死んでなかったのね」
「死んでも死なないわよ」
「イザナはこの海賊と知り合いなん?」
「昔ちょっとね」
「それよりも! のんびりお話してる暇は無いよ! そぉーら、追ってきたァ! 野郎ども、さっさと引き上げな! 」
『アイアイマム!!!』
「追ってきたって……うげェ」
ビェトカの目に飛び込んだのは、空を飛びながら必死で応戦する魔神装騎タルウィ&ザリクと、それを追いかけ海を泳ぐ巨大な怪魚。
「ナニアレ!? アンナ装騎いた!?」
「えーっと、それなんだけど、いや、なんていうか、1人が寂しいからみんなと手を繋いだ的なね!」
「つまり……合体したわ」
比較的巨大な方であるゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号をも超えるその身体の大きさ。
それは、海に潜んでいた悪魔装騎達が合体し、1つになった姿だった。
「あんなデカブツどーしろっての!?」
「ヒュー! いいねぇ、燃えてくるな野郎ども!!」
『オー!!!!』
マーリカの声に、他の団員達も揃えて声を上げる。
「まさかアンタら、このデカブツと戦う気!?」
「当然さ! 海の巨大魚――レヴィアタンを倒したとなっちゃ、あたしらの野望にも一歩近づくってもんさ!」
「別にアナタ達の野望には近付かないと思うんだけど」
この海賊団の事情を知っているイザナがツッコミを入れるが、マーリカの耳には全く入らない。
「あーもう、戦うってならワタシらも力を貸すわ! 海戦用の追加兵装くらいならあるっしょ?」
「力を貸すなら、装騎に乗ったままソコでジッとしてな! なーに、平気さ。あたしらのゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号の力……見せてやれ! 総員、戦闘態勢!!」
『イエス・マム!』
マーリカの号令一下、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号がその速度を一気に上げる。
『Uohhhhhhhhh!!!』
巨大魚レヴィアタンがその横に並んだ瞬間。
「砲門開け! そして、ぅてーっ!!」
ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号の側面に設置された大砲……それが火を吹いた。
「大砲でアンナデカブツに効……いてるっ」
「あの大砲……ただの大砲ではないな」
その様子を見ていたゲルダが呟く。
「その通り! 霊莢式電磁誘導投射にアズルブースト機能をつけた超強力な大砲さ!」
「なるほどね。アズルを纏った砲弾をレールガンで撃ち出す。それなら相手が悪魔装騎でも有効ね」
「いやいや、これだけの大型船にアズル武器なんて聞いたことナイんだけど!」
「普通は賄えるだけのアズルを作るのが大変だからね! だけど、マルクトからかっぱらったインディゴシステムとか、あんたらの装騎からアズルを貰って動かせてるってワケさ」
「なるほどな。だから我々に"装騎に乗ったまま"じっとしてろと言ったのか」
「そう! 最悪船が沈んでも、装騎に乗ってた方が生存率もあがるだろうしねぇ。沈むのは相手さんだがね! さぁーって、ぅてーッ!!」
マーリカの号令で再度放たれるゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号の砲撃。
それに負けじと、巨大魚レヴィアタンも大波、大渦、大風を巻き起こし応戦する。
「面舵一杯ッ!!」
『アイアイマム!!』
「つか、船とは思えない動きするわねコレェ」
「アルビオン海賊団は色んな技術を盗んで船や装騎に盛り込むトンデモ集団だもの」
「確かに、いろいろ無茶なことやらかしてる感はよくわかるわ」
「野郎ども! そこでジャンプだ!!」
「ジャンプ!?」
同時に湧き上がる浮遊感――からの船全体を揺らす衝撃。
と思うと今度は、遠心力で身体が一気に押し出される。
船が凄まじい速度で、急旋回をしたのだ。
そして砲撃音。
順繰りに火を噴き、巨大魚レヴィアタンの身体を砲弾が撃ちつけ、その度に巨大魚レヴィアタンは悲鳴を上げる。
しかし、それを何度繰り返しても巨大魚レヴィアタンは沈まない。
「効いてないワケじゃなさそうだけど――やけにタフねアイツ」
「うーん、そうさねぇ……このまま持久戦になるとあたしらがキツくなるね」
マーリカ自身も、相手のタフネスに対して危機感を抱いていた。
ヘタに戦いを長引かせると、先に弾が尽きるか船が耐えられなくなるか敵の増援が来るか――――なんにせよ望ましいことではない。
「仕方ないかー、あまり使いたい手じゃないけど奥の手を見せるしかなさそうだねェ」
「奥の手?」
「私は大体予想がついたわ……スズメとかが好きそうな手ね」
首をかしげるビェトカに、イザナが苦い笑みを浮かべた。
その表情から、愉快なことではなさそうだ。
「スズメが好きそうなことって――ソレを船でやんの? 一体ナニ!?」
「攻撃がなかなか効かない巨大生物相手への攻撃策と言ったら……アレしかないでしょ」
「私も大体予想がついた。確かに、あまり使いたい手ではないな」
ゲルダの他にもピピやアオノも理解したようで、特にアオノは顔が目に見えて青ざめる。
「よっしゃあ野郎ども、"主砲"の使用準備だ! そして行くぞ! 死中に活アリ!」
一気に加速をつけ始めるゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号。
その目標は、巨大魚レヴィアタンの真正面。
「前方、砲門開け! そしてぅてーッ!」
蛇行しながら砲撃を加えていくゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号は、やがて巨大魚レヴィアタンの目と鼻の先までたどり着いた。
「よっしゃぁああああああ、突っ込めェェェェェエエエエエエエエエエ」
『アイアイマァァアアアアム!!!!!』
正面から加えた砲撃は、ある種の威嚇。
その攻撃で巨大魚レヴィアタンの口元が緩んだ瞬間――ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号は巨大魚レヴィアタンの口の中へと飛び込んだ。
「うげっマジで!?」
「野郎ども、このま前進! 良いところで主砲をぶっ放すよ!」
巨大魚レヴィアタンの体内は広く、暗く、脈打っている。
ドドドン、と連なるように鳴り響く低く重い鼓動と同時に、波が起こり、周囲の肉壁がうごめき、空洞を木霊する風の音が吹き抜けた。
不意に、肉壁の一部が盛り上がる。
「チィ、やっぱそういうのが来るか! なんか来るよ! 応戦応戦!」
肉壁から離れた巨大魚レヴィアタンの肉の一部は、脈打った塊となりゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号に向かってきた。
体内に侵入した異物を排除する為に、体の一部を使い魔のように操作しているのだろう。
ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号は大砲を撃って迎撃するが、肉塊の数はどんどんと増えていく。
「あんたら、ちょっと手を貸しな! 甲板にあがってきたやつらをぶった切ってやりな!」
「しょうがないわね! ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ、参戦!」
「いくわよ……」
その時、装騎ピトフーイDと装士フーシーの間を高速で抜けた装騎が1騎。
「あぁぁぁあああああああ、来たわ、来たわ来たわ来たわ! コッチはさっきからずぅーっとイライラしてたのよ! コイツらぶっ潰しまくってストレス解消させてもらうんだからァ!!!!」
ツバメの装騎ヴラシュトフカ。
やはり、スズメを置いて撤退したことや戦闘に参加できないことでフラストレーションがたまっていたらしい。
ブーステッドハンマー・クシージェを振り回し、肉塊を叩き潰し始める。
「ま、ツバメの怒りも尤もだけどね……よっしゃ、やってやろージャン!」
肉塊を退けながら、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号は奥へ奥へと進み、やがて今までよりもなお広く開けた場所へと出た。
「例えるなら胃袋辺りってとこかねぇ……ここでぶっ放すとするよ!」
「すごい今更でありますが……前見た映画では身体の中からでも鋼のように硬くて破れない怪物が出てきたのでありますが……」
「本当イマサラね。ここまで来ちゃった以上、なんとかやるしかないっしょ!」
「お、ピトフーイ、いいこと言うじゃないか。さぁ、ここでみんな死ぬか相手を殺すか、一世一代の大博打さね」
マーリカはニィと笑みを浮かべる。
気付けば、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号の動きが止まっていた。
そして、低く震えるような機械音がどんどんと大きくなっていく。
「アズルを船に回したいからね、攻撃は中止にしておくれな」
マーリカはそういうが、肉塊はいまだに船を狙って続々と襲い掛かってきている。
「船が沈むのが先か、コイツの腹が破れるのが先か――ここは根競べの番だからね。分かったらさっさと手を止めな!」
「ったく、わかったわかった。信じてるからね!」
大砲による砲撃も止み、肉塊による一方的な攻撃が始まった。
その間、ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号はアズルを生成し、そして蓄える。
おそらく、これから行う攻撃は莫大なアズルを必要とするのだろう。
それこそ船を動かすための動力源にさえ回せないほどの莫大なアズルを。
船の照明が次々と消えていく。
使用するのは最低限、船の維持と攻撃するためだけ。
「主砲、解放!」
肉塊の攻撃によって船のあちらこちらから振動が伝わる中、マーリカが冷静に指示を出す。
その瞬間、大きなうなりと共に船首がパックリと割れた。
「これが……この船の、主砲ってやつなのね」
そのとんでもないギミックにイザナは思わずつぶやく。
ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン号の正面が開くと、その中から巨大な砲身が姿を現したからだ。
「これは……まさにSFものの主砲って感じの武器でありますね」
主砲に向かって、アズルがどんどん流れ込んでいく。
青白い火花が散り、そしてそれが大きくなっていく。
主砲に近づいた肉塊は焼かれ、弾け飛び、霧となって消えた。
「女王! アズル充填率100%っすよ!」
「よっしゃぁ、そんじゃあ行くよ! マーチ・オブ・ザ・ブラック・クイーン砲――」
圧倒的なアズル、圧倒的な熱量、圧倒的な威力を予感させるその一撃が、
「て――――ッ!!!!!」
放たれる。
目を焼きつくような蒼光。
それは、唸り声を上げながら巨大魚レヴィアタンの内部を焼き尽くしていく。
海水が蒸気を上げ、視界を奪う。
やがて……勢いが絶頂に達した瞬間、
『ULOHHHHHHHHHHH!!!!!』
耳をつんざく巨大魚レヴィアタンの悲鳴とともに、視界が一気に開けた。
「やったぞ、野郎ども――――ッ!!!!!」
青く澄み渡り、今までの嵐が嘘のように穏やかな海でマーリカは歓声をあげる。
それに応え、アルビオン海賊団員も拳を突き上げ歓喜を露わにした。
「よっしゃー、マヂで倒せたァ!!!」
ビェトカもつられて歓声をあげ、他のŠÁRKAのメンバーも胸を撫で下ろしたり、喜んだりとそれぞれだ。
「さーって、いつまでもこんな所に居る訳にはいかないねぇ。移動するよ!」
「移動ってどこに行く気よ? もしかして、海賊のアジトとか?」
「なんで少し嬉しそうなのよ」
「いや、違う」
マーリカに言われ、ビェトカは目に見えて肩を落とす。
「あたし達の目的地は――――エーテルリヒト王国さ!!」
マルクト共和国某所某施設内、通称、使徒の間。
「逃げたヤツらを追いかけた司祭からなんか報告は?」
「まるでない。返り討ちにされたようですね……」
使徒フェリパの言葉に使徒ユーディが首を横に振る。
「して、ピトフーイ一派――」
「ŠÁRKAです」
「ŠÁRKAのヤツらは何処へ逃げたのか?」
「私にも分かりません。ですけど、きっとエーテルリヒト王国でしょう」
「エーテルリヒト王国って中立のぉ? はん、あてにならないのだわ」
「使徒ヨハンナの言いたいことも解ります。何故にエーテルリヒト王国だと?」
「ŠÁRKAを匿っているのはアルビオン海賊団。そして、彼女たちはエーテルリヒト王国王女と繋がりがあります。中立国ということで、教団も手を出し難い……となると、決まりでしょう」
「解った。では、エーテルリヒト王国に確認を。彼女たちは犯罪者、引き渡すのが道理ですからね」
使徒ユーディの言葉に、それぞれが頷いた。
「念のため、エーテルリヒト王国に潜入して証拠を掴む必要もあるんじゃないですか?」
「なぜなのだわ?」
「ŠÁRKAがエーテルリヒト王国に入ったと言う確証もないですし、相手に知らないと言われたら何も手出しできませんから」
「そもそもその、エーテルリヒト王国に入ったっての自体が当てにならないのだわ!」
「だが、使徒ヨハンナ。マルクト国内や周辺諸国からの情報でもアルビオン海賊団の姿は確認されていない。となると、必然的に……」
「わかったわかったわかったのだわ! 信じるしかないってことでしょ!」
「エーテルリヒト王国には調査チームを編成して派遣する。念の為、他国からの情報にも目を――」
「話は聞かせてもらったァ! エーテルリヒト王国への潜入、あたしに任せてくれねーかな?」
突然、部屋の中に響いた声。
それは元からその場にいた誰の声でもない。
「司祭イルムアテン! 貴女は悪魔役でしょう」
「その通りだけど、傭兵アルジュを捕まえに行くんだろォ? んなら、ゼヒトモあたしが行きたい。傭兵アルジュとパートナーだったこともある、このあたしがね」
「本当なんですか?」
「彼女が言うには、ですけど――分かりました、そこまで言うのであれば貴女に任せます。司祭イルムアテン」
「ああ、任せてほしいよ。エリゴスの名を与えられたこのあたしにね」
「そうであるならば、速やかに行動しなさい」
「はいはいよー!」
使徒ユーディに促され、司祭イルムアテンはその場を離れる。
「丁度良いのではないか?」
「そうですね、使徒シモーヌ。我々も我々で調査を続けるとしましょう。今回はここまで」
使徒ユーディの一礼に倣い頭を下げた使徒たちはその場を後にした。
1人残った使徒ユーディ、
「使徒長……本当にこれでよろしいのですか…………」
その呟きは、ただ虚しく消えていった。
SSSSS第十八回
使徒シモーヌ「エーテルリヒト王国側はŠÁRKAの存在を否認している……どうやら、潜行隊が役立ちそうだな」
使徒ユーディ「そうね。ただ、司祭イルムアテン……彼女が大人しく潜入任務を遂行してくれる気がしないですけど」
使徒シモーヌ「無用な騒動は確かに避けたい。が、厄介ごとを起こしてくれた方が、確保はしやすいやもしれんぞ」
使徒ヨハンナ「それはいーけど、わたくし達はいつまでアイツの命令を聞けばいいのだわ!? もうすっかりリーダー面! ほんっとう、ウザいのだわ!」
使徒ユーディ「仕方ありません。彼女は確かに全力で私たちに力を貸してくれてます。他に手も無い以上は彼女の助力は必要です」
使徒シモーヌ「使徒ジュダが監視についているのだろう? 何、不穏な動きがあればすぐにでも始末してくれる」
使徒ユーディ「そう簡単に始末されても困りますが」
使徒ヨハンナ「とか言って、使徒ユーディだって本当は今すぐにでも殺しちゃいたいんでしょ?」
使徒ユーディ「はい。ですが、それとこれとは別です。我々は新世界の為、亡き使徒長の志の為、戦わねばならないのですから」