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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
スヴェトの脅威:最強最優の使徒
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第28話:Svěřuji Bohu a Slovu Jeho Milosti

 Svěřuji Bohu a Slovu Jeho Milosti-

神とその恵みの言葉とにあなたがたをゆだねます

「スズメー、雇われ悪魔の2人が無償で仲間になるってさー」

「無償ですか。いいですよー」

「と、いうことで悪魔二人組が仲間になった」

「「軽いッ!」」

「仲間というか、仲魔か?」

「何のネタですソレ?」

「いや、気にするなリーダー」

シュトゥットガルトの施設から帰還後に開かれたブリーフィング。

新たな仲間の紹介も簡潔に、今回の作戦で得た情報の共有を行っていた。

「今回の作戦の一番の目的は、敵施設内に保管されてるであろうデータの奪取でしたが……」

「私達イザナ隊の任務ね。確かにいくつかの情報は手に入れたけど……」

「正直なところ、微妙です」

イザナの言葉に続けて、ズィズィが言った。

「成果と言えば、天使装騎のリストを手に入れたのは成果とも言えるかもしれないですが」

モニターにズラリと表示されたのは、72の天使装騎のリスト。

それぞれには適合者の名前も添えられており、さらに「天使装騎」と「悪魔装騎」の"役割分担"が記されている。

「基本的に"天使装騎"と呼ばれるのは使徒という役職に就く人たち。使徒長と呼ばれる存在と共に、全員で11人いるようですね」

しかし、それ以外にも"司祭"と呼ばれる役職に就く人間の何人かが悪魔装騎から天使装騎の役職に変えられていたり、明らかにスヴェト教団側で役割を決めている様子があった。

「この情報を見るに、スヴェト教団が天使装騎と悪魔装騎――両方の役割をこなしている、つまりだ」

「マッチポンプの証拠になるってワケね!!」

「話を遮るな」

フランの弾いたペンがビェトカの額に直撃する。

「ふーん、名前を見る感じ72柱の悪魔がモデルなんだねー」

不意にタルウィに視線が集まる。

「72柱、ですか?」

「知らないの!? ソロモン王の使役する72の悪魔……あ、いや、そうか、知らなくて当たり前か」

「よくわからないけど、このリストに載ってるのは悪魔の名前なのかな?」

「うーん、ソレが悪魔か天使かっていうのは割とどーでもいいことかもねぇ。アタシ達は生まれついての悪魔だけど、中には違うヤツとかもいるし。そこは重要じゃないのよ」

「私たちは知ってるわ。その存在がどんな存在か」

タルウィの指示で、今まで戦った天使装騎、悪魔装騎の情報が表示される。

「多少の歪曲や、誇張、抑制もあるけど、多くの天使、悪魔装騎はそのソロモン72柱の能力を模しているみたい。つーまーり、分かるでしょ?」

「はい。タルウィさん、ザリクさんのその知識が敵の攻略の糸口になる――かもしれないってことですね」

「ご名答……」

「ちょ、いいところだけ持ってかないでよザリク!」

「敵の自作自演の証拠となるリスト――考えなしに攻撃した割には良い成果じゃないか? ねえリーダー」

「そうですね。タルウィさんとザリクさんの協力も得られますし」

「でも、コレだけじゃ相手が何をしようとしてるかも分からないしサー、他の拠点とかの情報もナシ。さて、どーすっか」

「わたしはもう少しデータの解析を進めてみます。まだ解析しきれていないファイルもありますから」

「お願いしますズィズィさん。できればアラモード先輩やローラさんの協力も得られると良いんですけど」

「あー、そうだローラ。まーたワタシが説教されるゥ……」

憂鬱ブルーになるビェトカの肩に、ポンと手を置いたのはピピだった。


「フォルネウス、フルフル、フォカロル、ヴェパール、ヴィネー……最近、"天使側"に編入された元悪魔装騎がコレですね」

「タルウィさん、ザリクさん、なにか気付くことありますか?」

「うーん……海、かなぁ」

「海?」

「タルウィ、具体的に。海水浴に行きたい、と」

「違うよ! この悪魔たちは――」

「海や水に関連する能力、姿を持つものが多いわ。例えば嵐を起こすとか、人を水に引きずり込むとか、見た目がサメとか」

「だからなんでいつも良いところ持ってくの!?」

「タルウィは本当、何も分からないんだから……」

「言おうとしてたよ!? まんま同じこと言おうとしてたよ!!??」

相変わらずの漫才は置いといて、おそらく敵の狙いは、

「海、もしくは水に関連する場所での作戦ってことになるんですかね……?」

スズメの呟きに応えるように、アラートが鳴り響く。

「スズメ! 悪魔装騎の大規模な襲撃があったという情報が入ったわよ!」

「場所は……資源採掘用のメガフロートですか」

「しかもさ、私有のものだから軍も手を出しづらいみたい」

「罠ですね」

ビェトカからの情報にスズメはそう断言する。

「その通りですね。海に関係ある悪魔装騎の編入。そのタイミングで海上施設メガフロートの襲撃。できすぎですもの」

ズィズィもスズメの意見に同意した。

「ってことは、今回の出撃はナシ?」

「いえ、ŠÁRKA出撃します!」

「さっすがスズメ、そういうと思った!」

「ええ、行きましょうサエズリ隊長。メンバーには私が招集をかけます」

「お願いします」

「自分から罠に突っ込んでいくなんて、うーん、人間ってバカだわ!」

「それについていくタルウィも、ね」

「いや、ザリクも行くんだからね!?」

北海中央のメガフロート。

炎に包まれ、建物が崩れ落ちたそこは、ある種の地獄のようだった。

そして、そこに立ち並ぶ10体の天使装騎達。

『来ましたね。反抗者達』

勢揃いした天使装騎達の中央、立派な角が特徴的な如何にも大ボスといった風体の天使装騎が口を開く。

「アンタが猿山の大将?」

『ふっ……私は天使装騎バエル。使徒を取りまとめ、信徒を導く者』

天使装騎バエルが手にした槍を掲げると、空に稲光が走った。

まるで天使装騎バエルの力を示すように、天使装騎バエルに天空すらも従うように。

「なんかのトリックっしょ」

「そうですね……で、私達をこんな所に呼び出して何を企んでるんですか?」

『貴女方の解放を。今、私達の元へと降れば貴女達の罪から、名誉も暮らしも何もかもを保証したいと』

「降参したらチャラにしてやるぞーってコトね」

『いえ、それ以上の待遇を貴女達に与えましょう。欲しいものは、なんでも』

「それで新世界とやらが訪れるまで大人しくしておけ、と言うことですね?」

『新世界の何が不満なのです? 貴女達は新世界がなんなのか全く理解していないというのに』

「誰も傷つかず、誰も苦しまない世界とは聞きました」

『そう、永遠の幸せが続く世界。それが新世界です』

「永遠の幸せねぇ……そんなラリってる世界をマヂで実現できんの?」

『ラリっ…………ピトフーイのアルジュビェタ、貴女は本当に人をコケにするのがお得意なようですね』

「お、ヤク中の気に障った?」

更に挑発しようとするビェトカをスズメが遮る。

「確かにアナタ達の言う新世界は素晴らしいものなのかもしれません。少なくともアナタ達はそう信じて戦っている。ですが、私達にだって譲れないものがあります」

『貴女は誰も傷つかない世界を作るために多くを傷付けた我々が許せないようですね』

「許せない、と言うよりは信用できない、と」

『だから、世界を護る為、人の尊厳の為に戦う……と言うわけですか。それなら……』

NE(ちがう)!! 世界を護る、だとか人間の尊厳、だとか言うつもりはありません。私が嫌だからぶっ潰す……これは私の私闘です!」

「"私達の"でしょ!」

『これ以上、話し合う気は無いと』

「はい」

キッパリと放たれたスズメの言葉。

それに天使装騎バエルはこれ以上、会話の余地が無いと言うことを悟った。

『ならば……心苦しいですが。実力行使です。行きなさい』

「ŠÁRKA、戦闘態勢です!」

「よっしゃ、DO BOJE(ド ボイェ)!」

それから、激しい戦いが始まった。

その瞬間、今まで穏やかだった海が急激に荒れ始める。

高波が立ち上がり、空が翳り、風と雨が一気に降り注ぎ、そして巨大な渦潮がメガフロートを取り囲んだ。

「うっひょー、凄い嵐!!」

「なるほど。これがメガフロートを戦いの地に選んだ理由か」

「うん。どうやら敵はここで決着をつけるようだね。退路を塞がれたよ」

ビェトカの装騎ピトフーイD、ゲルダの装騎クリエムヒルダ、ピピの装騎ネフェルタリが連携攻撃で天使装騎軍団に立ち向かう。

「海にいるヤツらを含めても、数的には此方が優勢だが……」

「たった2騎差程度で優勢も何もないけどね!」

「はぁ、サヤカの言う通りだな」

フランの言う通り、ŠÁRKAの17騎に対してスヴェト教団の勢力は15体で数の上ではギリギリ勝っている。

しかし、1体で装騎数騎分の力を持つ天使装騎相手に、たった2騎上な程度ではさして意味がない。

「ポップ、孤立するのは危険だわ。私から離れないで」

「うん、頼りにしてるよオニィちゃん!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

「うわ、アニールきもっ。超きもっ」

「イザナちゃん! 気を付けてくださいよ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

「うわぁ、ヒラサカきもっ。超キモい!」

「似た者同士でありますねぇ」

意中の相手からかけられた声に、悶絶しながら戦うイザナの装士フーシーと、アニールの装騎チェルノボーグを目にしながらアオノが呟く。

「ソレ、あの2人に言ったらダメなヤツな気がするわ」

「で、ありましょうねぇ……」

「ふん、何を呑気に! この最強ツバメちゃんがぶっ飛ばしてやるんだから!!」

「仲間をぶっ飛ばさないで欲しいのでありますよ」

『よっしゃぁあああ! 戦いだ戦いだ戦いだ戦いだぁ!!』

「げっ、天使装騎バルバトス!」

「いきなり突っ込んでくるなんて……危ないわね」

「ビェトカ、イザナちゃん、バルバトスは危険ですが……なんとか2人で対処できますか!?」

「あたぼーよ、行くわよイザナ!」

「しょうがないわねビェトカ」

「片手間でいいならわたしも援護するよ。狙撃騎だからね」

「ワタシらは大丈夫だから、他をメインで頼むわ!」

「承知しているよ」

単騎でビェトカの装騎ピトフーイDとイザナの装士フーシーを相手にする天使装騎バルバトスの力はやはり驚異的。

死を楽しむ狂気的な舞が、装騎ピトフーイDと装士フーシーの連撃と渡り合っている。

そんな中、地面を炎で焼き付け、下半身がチャリオットのようになっている天使装騎が駆け抜けた。

「邪魔はさせない!」

装騎ピトフーイDと装士フーシーを狙うその天使装騎と相対し、その軌道を逸らしたのはゲルダの装騎クリエムヒルダ。

「見たことない装騎だな」

『我が名はベリアル。天使装騎ベリアル!』

大地を蹂躙するように駆ける天使装騎ベリアル。

ŠÁRKAが未だ交戦経験のない天使装騎だ。

『Gurr!!』

その横に並び立ったのはフニャトの装牙リグル。

「やろうか、フニャト」

『Go!』

ゲルダの言葉に頷くように、一気にはね飛び装騎クリエムヒルダのそばに来る。

そこですかさず装牙リグルに飛び乗ると、突撃槍ウィンを正面に構えた。

「猫に乗った騎兵というのも悪くなさそうだな」

『Grrrrrau!』

「海の敵はこのタルウィ&」

「……ザリク」

「に、まっかせっなさい! 空飛べるしね!」

海上で熱波と光線を用いて、天使装騎フォルネウス、フルフル、フォカロル、ヴェパール、ヴィネーを纏めて相手取るのは魔神装騎タルウィ&ザリク。

「暑熱と旱魃の悪魔ですからね、頑張って海を干上がらせてください!」

「わぁお……我らがリーダーから無茶振りキター! いやね、最高潮の時に一河川くらいならまだしもね、今の力で海干上がらせるのは無理だって!」

「ファイト、タルウィ」

「相方からも無茶振りキター! てか、海干上がっちゃったら困るのは人間だからね? ゴッドでスピードでラヴな世界になるか痛ァ!?」

「タルウィ、お喋りし過ぎ……だから敵の攻撃にすぐ当たる」

「ま、ナンにしてもコッチはまっかせなさーい!」

戦いの熱が飛び火するように、さらに各所でŠÁRKAと天使装騎達の戦いが始まった。

「Sweet Dream! とても個性的な剣を持ってるのね!」

『ふふん。サブマシンガンでこの天使装騎ゼパールに挑むなんて愚かだわ!』

ミス・ムーンライトの装騎アントイネッタの双銃と天使装騎ゼパールの双剣が閃く。

『まタ、お前ラ、カ……』

「天敵参上でありますよ! スクリーム・ドリーム・ストリーム!」

「同じ手が何度も通用するとは思わんが……何、ワタシもいるからな」

「そしてこの、アタシもねッ! ぶっ飛ばしてあげるわ!」

アオノの装騎ブルースイングが巻き上げた渦の中で、ツバメの装騎ヴラシュトフカ、フランの装騎シュラークzが天使装騎グラーシャ・ラボラスへ一気に駆ける。

『いって……ベバル、アバラムっ』

天使装騎パイモンの下半身が分離し、2体の遠隔子機が走り出す。

「分離した……面白い天使装騎です」

「そうですね。ですが、ギミックなら負けていません」

強烈すぎるブースターを吹かせながらアマレロの装騎ルシフェルⅦ型が駆け抜け、ベバルとアバラムを抑え込んだその背後から、腕部クローを展開したズィズィの装騎ボウヂッツァが天使装騎パイモンへと飛び掛かった。

『パイモン、今助けに行き――』

「させるかっ!」

天使装騎アスタロスの元へはサヤカの装騎ファリアが、拳を固め吹き出す炎のように急接近。

「私は――バエルを!」

そしてスズメの装騎スパローTAが標的にするのは、もちろんリーダー格である天使装騎バエル。

戦場を駆ける装騎スパローTA――だが、その目の前にアズルの氷柱が突き刺さる。

『いかせはせん』

「天使装騎、マルコシアス!」

装騎スパローTAは一歩後退すると、全身のヤークトイェーガーにアズルを集中、

「ムニェシーツ・シュピチュカ!」

アズル砲を撃ち放った。

だが、その一撃は捻じ曲げられ、明後日の方向へと逸らされる。

「今のは――マチアちゃん!?」

『天使装騎グレモリーです。スズメさん、アズルを歪曲させていただきました』

どこか余裕気に静かに降り立つ天使装騎グレモリーだったが、その余裕は一瞬後、

『えっ!?』

雨のように降ってきたアズルの輝きで崩されれた。

「わたしの装騎エルジェも似たようなことが、できるんですッ!」

クラリカの装騎エルジェが、逸らされたムニェシーツ・シュピチュカをさらに歪曲。

天使装騎グレモリーに向かって降らせたのだ。

「さぁ、攻撃です!」

序盤の勢い的にはŠÁRKAが優勢。

今までの戦闘データを整理し、更には互いの連携能力を鍛えていた甲斐があった……ように見えた。

不意に天使装騎達の身体が仄かな光を放ち始める。

それは、まるで互い互いに共鳴するかのように……。

『マイムール・ヤグルシ』

天使装騎バエルが呟く。

そして、思いっきり身体を捻り……手にした槍を、投げ放った。

鳴り響く雷鳴。

天から降り注いだ雷が、槍へ落ちた瞬間、天使装騎達の纏った輝きが一気に放たれる。

光は槍へ燃え移り、更なる加速を槍に齎した。

まるで空間そのものを引き裂いているかのような轟音と閃光を散らしながら、電光の一撃は戦場を横断。

「なっ、皆さん、バエルの広範囲攻撃に注意してくだ……くぅッ!!!」

そして、破壊をもたらした。

目の前に広がるのは一直線に抉られた大地と、倒れ伏したŠÁRKAの機甲装騎達。

「うっわ……ビックリ、したァ」

ビェトカはいつものように口元に笑みを浮かべてみるが、どこかうまく笑えない。

「全く、デタラメなことで……」

イザナが明らかな苛立ちを込めて吐き捨てた。

「みんな、無事か……?」

『Gorl』

「Sweet Dream!」

「とーぜんでしょ! なんたってアタシはサエズリ・スズメの――」

「なんとかでありますが」

「わたしは大丈夫ですっ」

「ポップが平気なら私も平気よ」

「ったく、攻撃するならするって言いなさいよ」

「馬鹿を言うな。いい大人が」

「隊長が教えてくれたから、なんとか」

「うっひょー、空から見てたけど凄かったね!」

「鮮烈……」

「あ、あの! 無事が確認できたのでしたらすぐに攻撃に!」

切羽詰まるように叫ぶクラリカ。

それもそのはず。

天使装騎バエルの攻撃に乗じて、一気に飛び出した1騎の装騎がいたからだ。

「すごい攻撃でしたが……お陰でここまで近づけましたっ!」

言うまでもない、スズメの装騎スパローTAだ。

『くっ、さすがですね』

「ムニェシーツ……」

『マイムール、ヤグルシ!』

「ジェザチュカ!!」

装騎スパローTAの両使短剣サモロストが閃く直前、投げ放った筈のマイムール・ヤグルシが高速で天使装騎バエルの手へと戻ってくる。

そして、アズルの輝きを飛び散らせ、ぶつかり合った。

「まだです、ヤークトイェーガー!!」

両使短剣サモロストを右手で強く握り、左腕のヤークトイェーガーの刃を天使装騎バエルへ突き出す。

その一撃は、2つに折れ別れた天使装騎バエルの槍によってバエル阻まれた。

『マイムール・ヤグルシは本来、二本の短槍……貴女の行動も予測済みです』

「ヤークトイェーガーは全身にあるんですよ!」

今度の一撃は、爪先のヤークトイェーガーを用いた蹴りの一撃。

天使装騎バエルは一旦距離を置いて仕切り直した。

『先ほどの攻撃……恐らくはその攻撃で力をある程度使ったと……そう判断して飛び込んで来たのでしょうが残念でしたね』

「まさか。万全だろうとなんだろうと、懐には飛び込みましたよ。それが私の戦い方ですからね」

『それはそうと、お仲間の心配はしなくてよろしいのですか?』

言われるまでもなく、スズメはŠÁRKAの状況を絶え間無く響く通信から把握していた。

情勢は……思わしくない。

『今まで彼女達は私に力を与える為にその力を抑え込んでいました。それをしなくても良くなった今、貴女達の力で勝てると?』

「それだけじゃないですよね。最初の内の優勢は、それに気を良くした私達があの雷の射程に入るのを狙ったもの……」

『ふふ。降参するなら今のうちです。仲間が大事になる前に、貴女が私達の元へと降るのであれば――』

「私がアナタを倒す! みんなそれまでなんとか持ちこたえてくれますよっ」

スズメはそう強がるが、先程の強烈な一撃のダメージもあり、ŠÁRKAがそれまで戦い続けられるか考えていた。

装騎スパローTAの両使短剣サモロストが、天使装騎バエルのマイムール・ヤグルシが、閃き、ぶつかり、火花を散らし、熱を帯びる。

「チィ、イザナ! 右から攻めて!!」

「誰から見て右よ!」

「まだ走れるか、フニャト!」

『Gor!!』

「まったく、全然進展がないわねっ。これはBad Dream」

通信から仲間たちの声が響く。

退路を断たれた背水の陣。

そんな中での必死の叫び。

「なんとか押し返せてますけど、あの子機、邪魔です!」

「ポップ、危な――うくッ……! この程度――」

「サヤカさん、私のボウヂッツァが前に出ます」

「分かった! とりあえず学生アンタ達はさがって!」

少しでも早く――決着をつけなくては。

「天使装騎マルコシアス――だっけ、隊長カピターノのところにはいかせないよ」

「ピピさん、クラリカも――援護、しまぁす!!」

「動きは制限しているはずなのでありますが……ッ!」

「チィ、厄介な! サエズリ妹、なんとか接近できそうか?」

「とーぜんよ! なんたってアタシはサエズリ・スズメの――妹、なんだからぁぁあああああ」

少しでも――少しでも早くッ!

『無駄です。サエズリ・スズメ。御覧なさい――貴女の仲間たちの姿を』

ボロボロになりながらも必死で天使装騎に食いつこうとするŠÁRKA。

しかし、消耗的にも勢い的にもこれ以上の戦いは望めそうになかった。

『彼女たちを信じて戦いますか? 自分を信じて戦いますか? これ以上戦っても、傷つく人が増えるだけだというのに』

「私は……戦います」

『降伏しなさい。貴女だけでもいい。そうすれば、貴女の仲間だけは見逃してあげてもいいです』

「何が――――目的なんですか」

『犠牲は出したくないのです』

「ŠÁRKAは私を基幹にして集まっている――貴女はそのことを知っているんですね」

『だからと言って、貴女1人を手中に収めただけで彼女らが大人しくなるとも思ってませんが』

「私が降伏すれば、少なくとも今はビェトカ達を見逃してくれるんですね?」

『ええ、それでも敵対するようであれば、当然我々も黙ってはいませんが』

「今の戦い、私達に勝ち目はないです。そうなると、ここでビェトカ達を逃して――反撃の機会に備えさせるのが得策――ってことになりますよね」

『リーダー不在でどこまで纏まれるか、見ものではありますね』

「ならば、見せてあげますよ。私達――ŠÁRKAの団結力ってやつを」

不意に装騎スパローTAと天使装騎バエルが戦いをやめた。

その動作は、ŠÁRKAと天使装騎達――その場にいた誰もがの目を引く。

『では、降伏を――――』

「ビェトカ、海に飛び込んでくださいッ!!」

降伏を促す天使装騎バエルの言葉を遮って、スズメが叫んだ。

「ハァ!? 海に飛び込めってあの荒れに荒れた海に!?」

「いいから飛び込んでください! この戦い、勝ち目はありません。一時撤退します 海に飛び込んでください!」

「でも……ッ!」

「いいから海に飛び込めビェトカァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「…………ッ!!!!!! あーもう、ŠÁRKA撤退撤退! リーダーからのご命令よ! 海に飛び込みなさい!! それこそレミングのようにね!!!!」

『――ッ! 天使たち、彼女たちを逃がさないで!』

天使装騎バエルの命令で、再び天使装騎達がŠÁRKAを追いかけようと駆ける、が――

P.R.I.S.M(プリズム)akt.XXXX(アクト・イクスフォス)!」

『バカな、スパロー!?』

『うわっ、テメェどこから現れやがった!?』

『なんという速さなのだわ!?』

『スズメ、さん……っ!』

『これは――幻か?』

『ナンといウ……サッキ』

『キャアッ、ベバル! アバラム!』

『攻撃が――当たりませんっ!』

『戦場を――征服するとは』

それを装騎スパローTAが阻んだ。

『これは!? スパローにこんな力が!? ――――ッ!!』

目の前には確かに装騎スパローTAの姿がある。

だが、他の天使装騎達もことごとく装騎スパローTAによってその行く手を阻まれていた。

「スパロー、インフィニット・アクアマリンドラァァァアアアアイブ!」

スズメの声に、天使装騎バエルは咄嗟に背後を振り返る。

瞬間――――両使短剣サモロストの一振りが、天使装騎バエルを切り裂いた。

挿絵(By みてみん)

SSSSS-第十七回-

「お、サエズリ・スズメからの救援要請が入りやしたぜ!」

「あたし達の出番か!! よしゃ来た野郎ども! 全速前進!」

「アイアイマム!!」

「マジで救援が来るなんて、相当ヤバいんじゃないすか?」

「だからって助けにいかないのかい?」

「だからこそ助けに行くっス! それが俺たちっす!!」

「さすがだ、よくわかってるね!」

「どれだけ姉さんと一緒にいると思ってるんすか!」

「ならば"姉さん"じゃなくて"女王"と呼びな!」

「ヘイ! 女王!!」

「女王! 巨大な嵐がきますぜ!」

「よーっし、ソコが目的地だ! 野郎どもきばれェ! 待ってなよ、サエズリ・スズメ!!」


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