第24話:Ti nebude Rovného v Minulosti ani v Budoucnu
-Ti nebude Rovného v Minulosti ani v Budoucnu-
あなたの先にも後にもあなたに並ぶ者はいない
「はぁ、疲れたわぁ……っていうか何なのよメイのヤツ。いつもいつもいつも……」
夕陽が差し込み、赤く染まったチーム・ブローウィングの寮室。
愚痴を一人呟きながら入ってきたのはチーム・ブローウィング1年サエズリ・ツバメだ。
台所で水を一杯飲み干し、自分の部屋の扉に手を掛けそして……開ける。
開いた扉の向こう、もう慣れてきた自分の新しい部屋の中に、見知らぬ女性の姿があった。
鋭い目つきに夕陽を受けて照り輝く黒髪の女性は、ツバメの姿を見るや否や、
「アンタ、誰?」
ぶっきらぼうにそう言った。
バンッ!
激しい音がして部屋の扉が閉められる。
思わず部屋から出てしまったツバメはいきなりの出来事に頭の中が整理できない。
「ただいまでありますよー。……あれ、ツバメさんどうしたでありますか?」
そんな状況の中、ブローウィング2年のオオルリ・アオノが帰宅してきた。
ツバメはアオノの顔を見るとすぐ、
「アオノ! アオノ! アタシの部屋に変なヒトが!!」
胸倉につかみかかる勢いで叫んだ。
「ど、ドロボウでありますか!?」
「わかんないわよそんなこと!! とりあえず確認しなさい! タク・ヴィダ!?」
「わ、わかったでありますよぉ!」
ツバメに言われ、アオノは恐る恐るツバメの部屋のドアノブへと手を伸ばす。
そっとノブを回し、隙間から部屋の中を覗き込んだ。
「……誰でありますか?」
「知らないわよ!」
確かにそこには、見覚えのない黒髪の女性の姿があった。
いや、アオノはどこか記憶の中に引っかかりを感じる。
見覚えのない? 本当にそうだろうか。
「えーっと、こんにちはぁ」
「さっきとは違うヤツね。アンタ誰?」
「わたしはオオルリ・アオノ。ステラソフィアの2年生で、チーム・ブローウィングのメンバーでありますよ」
「ああ、アンタ、スズメの後輩?」
突然、ツバメが部屋へ飛び込み一気に女性の元へ詰め寄る。
「スズ姉を呼び捨てにするなんて……アンタ、ふざけてんのかしら?」
「スズ姉? ……もしかしてアナタ、スズメの――」
「敬意を示しなさい、不法侵入者風情がッ」
「ツバメさん、落ち着くでありますよ!!」
やけに気安くスズメの名を呼ぶ相手。
それが自分の部屋に勝手に入った不審人物だということからもツバメはカリカリしていた。
「ふぅんアナタがスズメのね……確かに、言われてみると似てるところがあるわね」
「あのぉ、ツバメさんが殴りかかる前に用件をお願いしたいのでありますが……」
「そうね。アナタ達、スズメを助けに行きたいと思わない?」
『来たな、叛逆の徒よ』
悪魔装騎出現の報を聞き、スズメ、フニャト、ゲルダ、ミス・ムーンライトのチームが現地へと到着した。
出迎えたのは、一騎の天使装騎の姿。
スマートな体つき、細くも力強さを感じさせる両手足、その顔は狼を思わせる鋭さを持っている。
宙へ霧散していく悪魔装騎の残骸から、つい今しがた止めを刺したところだろう。
「天使装騎、ですか……」
『肯定だサエズリ・スズメ。我が名は天使装騎マルコシアス。以前に一度、お目にかかったな』
「マティアちゃんと一緒にいた……」
マルコシアス――それは、マティ・マチアと共に居たお付きの女性、ゼーロータ・シモーヌが変化するという天使装騎の名だ。
「知り合いなのか?」
「スズメちゃんを追ってたヤツね! あの人、かなり強そうだったから……キツいかもしれないわね」
「数としてはこちらが有利、装騎も軍用だが……アルジュビェタ達も一緒なら良かったが」
「しょうがないです。ビェトカ達はビェトカ達で他の悪魔装騎を追ってますし……私たちでなんとかするしかないです」
「そうだな。逃げるにしても、倒すにしても、か」
「私の準備は万端よー!」
「はい、行きましょう」
『Gurrr!!』
装牙リグルの咆哮と共に、装騎スパローTA、装騎クリエムヒルダ、装騎アントイネッタが一気に駆けた。
『来い……反逆者達よ』
まず最初に仕掛けたのは装牙リグルだった。
全身の毛を逆立てるように、スタイルエッジを展開し、天使装騎マルコシアスの懐に飛び込む。
『獣か……我は狼。汝は何や?』
『RGGGGURRRRRR!!!』
『ふっ……賢い獣だ』
装牙リグルの攻撃をいなす天使装騎マルコシアスの身のこなしは正に柔軟。
かわし、逸らし、時折攻撃を仕掛けることで相手の攻撃のタイミングや流れを支配する。
「援護するわよ。Sweet Dream!」
そこに装騎アントイネッタがソードサブマシンガン・マリー&マリアを連射し、天使装騎マルコシアスを牽制した。
装騎アントイネッタの銃撃に、天使装騎マルコシアスは一旦距離を置く。
「そこだ。ローヴァグラーシャ!」
それを見越していた装騎クリエムヒルダがブーステッドアーマーによる加速で急接近。
その手に持った突撃槍ウィンを突き出した。
『槍か……』
その一撃を受け止めたのは、天使装騎マルコシアスが放つ魔力の塊。
蒼く揺らめく氷柱のように見える天使装騎マルコシアスの魔力槍シモンと装騎クリエムヒルダの突撃槍ウィンがせめぎ合う。
「サエズリ・スズメ、行きます!」
天使装騎マルコシアスの動きが止まった一瞬、装騎スパローTAが両使短剣サモロストを構え、飛び出した。
「私もいっくよー!」
『Gurrr!』
装騎スパローTAと共に攻撃を仕掛けようと装騎アントイネッタと装牙リグルが駆け寄ってくる。
その時、スズメは奇妙な悪寒を感じた。
「!! 待って、下がってください!!」
装騎スパローTAが全身の追加装甲にアズルを集め、守りの体勢に入った瞬間。
『貫け』
天使装騎マルコシアスの身体から、複数の魔力の棘が飛び出した。
「カウンター技ですかっ」
「くっ……まるでウニだな」
装騎スパローTAはヤークトイェーガーの、装騎クリエムヒルダはブーステッドアーマーの一部を貫かれながらも、なんとか致命傷は避けられた。
「今度こそ、い・く・わ・よ!」
『Go!!』
スズメの咄嗟の判断で、天使装騎マルコシアスの反撃をかわすことのできた装騎アントイネッタと装牙リグルが気を取り直して攻撃へと移る。
『弾けろ』
「なっ、まさか!」
瞬間、天使装騎マルコシアスの纏う棘が、一気に放たれた。
「Sweet Dream……冗談じゃないわ!」
『Gurrr……!』
荒れ狂う魔棘を装騎アントイネッタはソードサブマシンガン・マリー&マリアの刃で弾き、装牙リグルはその巧みな身のこなしで避ける。
一気に、棘の中心点へと到達すると、天使装騎マルコシアスへ一撃を加えようとする……が。
「いないよッ!?」
そこに天使装騎マルコシアスの姿はない。
「上です!」
スズメの叫び声に、ミス・ムーンライトは視線を空へと向ける。
太陽の光を受けながら宙を舞う、天使装騎マルコシアス。
『そして、墜ちよ』
その呟きと共に、巨大な魔棘が空からスズメ達目掛けて降り注いだ。
「ヤークトイェーガー!!」
「ローヴァグラーシャ!」
「Sweet Dream……ッ」
『Gouarrrrrr!!!』
装騎スパローTAはヤークトイェーガー装甲をパージし盾に、装騎クリエムヒルダは突撃槍ウィンを連突、装騎アントイネッタはソードサブマシンガン・マリー&マリアを連射し、装牙リグルはスタイルエッジの刃から魔電霊子砲を放つ。
咄嗟ではあったが、それだけの抵抗を試みた……にも関わらず、
「防ぎ……きれないっ!」
3騎の装騎と1騎の装牙は、天使装騎マルコシアスの魔棘によって地に倒れた。
『これまでか……』
「っ……まだです! こうなったら……」
スズメの身体にアズルが集まっていく。
心と意識を研ぎ澄ませ、装騎スパローTAがそれに応える。
「スパロー、無限――」
「Hraaaaaaaaaaaa!!!!!」
不意に、天使装騎マルコシアスに向かって衝撃が走った。
『なんだ』
砂埃を巻き上げながら、巨大なハンマーを手にした黒い機甲装騎が滑り込んでくる。
そのハンマーの一撃は、天使装騎マルコシアスにとって避けるのは容易いものだった。
「秘技、燕返しよ!」
しかし、その黒い装騎は自らの機動性、そして巨大ハンマーのブーストと重心を巧みに利用し、一瞬でその身を反転させる。
『だが、この程度……』
「うおっしゃぁぁぁああ!!!!」
黒い装騎の二撃目を回避しようとした瞬間、盾に乗り地を滑る青い機甲装騎が現れ、天使装騎マルコシアスを轢き飛ばした。
「あの、機甲装騎は!」
スズメは乱入して来た2騎の機甲装騎に見覚えがあった。
いや、見覚えがない筈はない。
忘れるはずなど絶対にない。
なぜならその2騎の機甲装騎は……
「ブローウィング1年、世界最強の騎使サエズリ・スズメの妹、サエズリ・ツバメ!」
「同じく2年! アズルの波乗るオオルリ・アオノ! で、あります!」
サエズリ・ツバメの装騎ヴラシュトフカと、オオルリ・アオノの装騎ブルースイングだったからだ。
「ツバメちゃん、アオノちゃん、どうしてここに!?」
驚くスズメの前に、また新たな装騎が現れる。
いや、その見た目は機甲装騎というには余りにも東洋風ないで立ち。
「あれは機甲装武……いや、機甲装士か」
ゲルダがその名を口にする。
「装士って言ったら、華國の?」
「ああ、しかしあの型は見たことがない。新型か?」
「そうよ、私専用の……最新型よ」
謎の装士……その士使はそう言うとストックしていたバトルライフル・ソウコクを手に持ち、天使装騎マルコシアスへ撃った。
「華國の装騎、そしてこの声、出しゃばり方……もしかして、イザナちゃん!」
「YES, I AM」
「なんですかソレは」
「言わないといけない気がしたのよ」
そう、ツバメとアオノを引き連れスズメ達を助けに来たのは、かつてのスズメのクラスメイト、ヒラサカ・イザナだったのだ。
「我が國が誇る新型装士、フーシーの性能を見せつけてやるわ」
『この程度で、我が天使装騎の力が屈すると思うな!』
「ならば、その上を行くだけよ……!」
イザナの装士フーシーが紫色の魔電霊子――ハイドレンジアを身に纏う。
「アタノカゼ……」
そして、強烈なハイドレンジアの輝きを纏った弾丸が装士フーシーの手にしたバトルライフル・ソウコクから一斉に放たれた。
『なかなかの銃撃』
「だけじゃないわよ。カマイタチ……」
銃弾の雨――それで視界を奪ったところで装士フーシーは手早くナイフ・クサナギへと持ち替えと、そよ風のような爽やかさで天使装騎マルコシアスを斬りつける。
『それだけか。では、反撃と――』
「オトジェパット!」
「ブルースイング・ウェーブライディング!」
「ムーンライト・フェス!」
「ヴァルキューレク・ローヴァグラーシャ!」
『Gurrrrrrrrrr!!!』
「ムニェシーツ・アルテミス!!」
装士フーシーの攻撃に合わせて、それぞれが一斉に仕掛けた。
その連撃は、イザナの思惑を感じとったスズメの指示によるもの。
7騎の装騎による連続攻撃に、天使装騎マルコシアスは――何とか大地に立っていた。
「さすがに――タフですね」
『ふ、やる…………やるではないか。貴様、キサマ、キサマラ……』
「どうしたの……?」
だが、その天使装騎マルコシアスの様子はどこかおかしい。
その身体中から邪悪な瘴気が漏れ出し、その様は偽神装騎そのものだった。
「なんか、嫌な予感がします」
「同感だリーダー。できることなら……退却したい」
『キサマラキサマラキサマラキサマラキサマラキサマラキサマラキサマラァ』
そして、天使装騎マルコシアスが――崩れた。
身体中が邪悪に歪み、自我もその歪みに取り込まれていってる――そう見える。
『ブッコロ――――』
『やめてください!』
暴走しかけた天使装騎マルコシアスを止めたのは――マティ・マチア……天使装騎グレモリーだった。
天使装騎マルコシアスが膝をつく。
肩で息をするように天使装騎マルコシアスの肩が激しく揺れた。
だが、その様子が段々と落ち着いていっているようだった。
『マルコシアス――ここは退きましょう。もう一度やり直しましょう』
「マティア、ちゃん!」」
『わたしは天使装騎グレモリー……それだけです』
「リーダーには悪いが、落ち着いた今がチャンスだ!」
ゲルダの号令と同時に、それぞれが武装を構える。
しかし、
『歪みなさい』
天使装騎グレモリーとマルコシアスの目の前の空間が捻じれ、歪んだ。
と同時に、2騎の天使装騎の姿が消えた。
「アマレロちゃんにアニールさん、それにフラン先生にサヤカ先生まで!?」
別行動を取っていたビェトカ隊と基地で合流したスズメ達。
そこで見たのは、ステラソフィア第七装騎部3年カシーネ・アマレロ、フォルメントール・アニール、そしてステラソフィア学園長のチューリップ・フランデレンに3年担任ウィンターリア・サヤカの4人だった。
「もしかしてイザナちゃんが!?」
「あたぼーよ」
ビッと親指を立てて格好つけるイザナ。
「名付けてイザナと愉快な仲間達よ」
「アンタの愉快な仲間になった覚えはないわ」
「アナタの愉快な仲間になんてならないわバーカ」
「まぁまぁツバメさん……」
「口が悪いよオニィちゃん」
悪態を吐くツバメとアニールをアオノとアマレロがなだめる。
「ツバメちゃん達だけじゃなくて、まさかサヤカ先生やフラン先生まで」
「アンタがいないで誰がニユの面倒見るのよ」
「いや、サヤカ先生が見てくださいよ。養子ですよね」
「私よりアンタに懐いてるんだもん」
「全く……」
ハァとため息を吐くフラン。
「まぁいい。ワタシもスズメ達と合流したいと思っていた所だ。ヒラサカが動いてくれて助かった」
「え?」
「あのカラス女からの情報で、お前達の事情は知っていたからな」
フランの言うカラス女とはチーム・ブローウィング一期生カラスバ・リンのことだと察せた。
「あとのメンバーは私が集めたわ。スズメの為に力になってくれて、実力も十分な騎使……いえ、あのフォルメントール・アニールだけは勝手について来たんだけどね」
「私はポップの剣であり、盾、だもの」
自分のピンチに駆けつけてくれた仲間達。
それは、スズメにとって嬉しくもあり、だが、戦いに巻き込んでしまうと言うことから怖さもあった。
「大丈夫よ。だってアタシはサエズリ・スズメの妹なんだもの」
その恐れをいち早く察したツバメが強気に言う。
「ワタシは、ワタシ達はお前達……ステラソフィアの教え子達が死んでいく中、何も出来なかった。大丈夫だ。今度こそは、ワタシが、お前達を守る」
「そうよ。アンタ達は、私にとって我が子みたいなもんだからね」
「それにレミュールのこともあるしな」
「レミュールさんと知り合いなのですか?」
フランの言葉にゲルダが思わず反応する。
「フラン先生とレミュールさんは知り合いなんだって」
「幼馴染だ」
「そうなんですか。私はレミュールさんにお世話になっている――」
「そうか、君がゲルダか。レミュールから聞いてる。君もサエズリ達を助けるために?」
「はい。それとレミュールさんを、悲しませないために」
「同感だな」
「戦いましょう、スズメさん! みんなが一緒だから……きっと何とかなります!」
「ヒラサカ・イザナ程度で戦力になるなら、それこそ私を逃す手はないわ。ヒラサカなんかよりよっぽどつよーいからね」
「アタシはスズ姉になんと言われようとここから去るつもりはないからね。プロスィーム」
「で、ありますね。わたしも先輩にどこまでもついていくであります!」
「やれやれ、大層なナカマ達が増えたわね、スズメ」
「ビェトカ……」
「ココまで言われちゃ、ナカマにするしかないっしょ! スズメを信じて、来てくれた人達でしょ」
「そうですね。ですけど……死ぬのだけはダメです。何が何でも、みんなで生きて戻りましょう」
スズメはそう言うと、右の拳を目の前に突き出した。
それに倣い、ビェトカ、ゲルダ、ピピ、ミス・ムーンライト、ズィズィ、クラリカ、イザナ、ツバメ、アオノ、アマレロ、アニール、フラン、サヤカ、そしてフニャトとアッチラ&レーカまでもがその手を前に出す。
「それでは……ŠÁRKA、頑張りましょう!」
「DO BOJEって言って!!」
戦いを生き抜き、今までの日常に帰る。
そんな誓いを胸に、14人と3匹は次の戦いへと足を向けた。