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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ŠÁRKA-シークレット・フォース-
287/322

第23話:Buď Silný a Statečný

    -Buď Silný a Statečný-

うろたえてはならない。おののいてはならない

「ヒマー。チョー、ヒマー」

ŠÁRKA基地、そのブリーフィングルームでテーブルに突っ伏しながら生き物が呻いた。

「なんの生き物ですか今の」

「ビェトカ! ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ!」

悪魔装騎の出現も無く、かと言って不用意には基地から出られない状況。

ビェトカは暇を持て余していた。

「ヒマー! ヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマ、ヒマァッ!」

「じゃあ、外に行ってくれば良いじゃないですか」

「1人で!?」

「私は外出る気にはなれないですし」

「まぁ、無理もないな」

そう言ったのはゲルダだ。

「先の悪魔装騎との戦いの結果、世間では完全に悪者にされてしまったからな」

それは、遊園地での悪魔装騎4騎との戦いのことだ。

あの戦いで登場した悪魔装騎クローセルとヴァラク。

見るからに天使と言った姿をしていたあの悪魔装騎を倒したことから、テレビやネットではある話題で盛り上がっていた。

「天使殺しねぇー。やっかいだよね」

ミス・ムーンライトがいじるPADの画面には、ネットにアップされたŠÁRKAと悪魔装騎の戦いの一場面が写っている。

そして大きく「ピトフーイ一派、悪魔の手先か」という見出し。

どういう訳か遊園地での戦いが、悪魔装騎を倒そうとした天使装騎をŠÁRKAが妨害、撃破したことになっていた。

「流石にこの状況だと、外に出る気にはなれませんね」

「そうだねズィズィ……」

今の1大ニュースとなっているそれは、外に出れば否が応でも目についてしまう。

「てかナニよ、ピトフーイ一派って!」

「サエズリ・スズメ一派じゃなくてよかっただろ?」

「それは……そうだけどッ!」

はぁ、とため息をつきながら今度はテーブルの上でゴロゴロし始めるビェトカ。

「そうだ、面白いものがあったよ」

何かを思い出したピピが、ビェトカにそっと一つのアイテムを手渡した。

それは手のひらサイズの、どこかフリスビーのようにも見えるオモチャ。

だが、ズシリとした重量感がビェトカの手に伝わる。

「ナニコレ? ŠURIKEN(シュリケン)?」

ビェトカの言うように、手裏剣のような投擲武器に見えなくもない。

「ハンドスピナーだよ。最近流行ってるらしい」

「どうすんのコレ」

「指で挟む」

「挟む」

「回す」

「回す」

ビェトカの指に押されてハンドスピナーが軽快に回り始める。

それをジッと見つめながらビェトカは尋ねた。

「それから?」

「それだけだよ」

「それだけ?」

「それだけ」

シュルルルルと回転するそれをとりあえず見つめるビェトカだったが、ハンドスピナーはただただ回転するだけ。

「コーヒーを淹れてこよう」

ピピがコーヒーを淹れに奥へ引っ込んでからもビェトカはただただハンドスピナーを見つめている。

回転が鈍ったところで、再び力を加え回転を増してみる。

ただそれだけ。

コーヒーを持って来たピピは、まじまじとハンドスピナーの回転を眺めるビェトカを見て一言。

「どうやら気に入ってもらえたようだね」

「いや、あれは"ヒマなのに誰も構ってくれないどころか変なオモチャを押し付けられた可哀想なワタシ……まるで悲劇のヒロインね"みたいな顔だとおもうよー」

「そうか……流行ってると言うから面白いものかと」

ミス・ムーンライトの言葉にピピはがくりと肩を落とした。

「もー、誰も構ってくれないしー。フニャねこぉー」

人間じゃダメだと諦めたのか、今度はフニャトに近づいていく。

しかし……

「フ――――――!!」

目に見えて怒りをあらわにするフニャト。

「フニャねこどうしたのよ。むっちゃ機嫌悪そうジャン! ねぇ、スズメ?」

「知りませんよ、そんなネコ」

対するスズメもどこか機嫌が悪そうだ。

戸惑うビェトカの横に、そっとピピが近づいてくる。

「どうやらあの2人……いや、1人と1匹? どっちでもいいか、とにかく、今は絶賛喧嘩中のようなんだよ」

「ケンカァ?」

「うん」

「スズメとフニャねこがぁ?」

「うん」

「このタイミングでぇ!?」

「なんでも、隊長カピターノが大切にしまっておいたデザートを食べたとか」

「デザート……」

ビェトカの記憶に何か引っかかるものがあった。

それは先日の話だ。

「よっ、フニャねこ!」

「にゃあ」

そう返事をしながらも、戸棚をジッと見つめるフニャト。

ビェトカが視線を移すと、そこには一個の綺麗な箱が置いてあった。

開けてみると、中には美味しそうなお菓子。

「もしかして、コレ食べたいの?」

「にゃあ」

どこか食べたそうなフニャトの様子にビェトカは、

(誰のか分からないけど、後で謝っとけばいっか)

そう思い、

「よしわかった。たんとお食べ!」

フニャトにお菓子を与えてしまったのだった。

「フ――――!!」

「あー……えーっと……」

フニャトの態度が明らかに敵意丸出しなのは、どう考えてもビェトカが原因だからだった。

「フニャねこゴメン! 超ゴメンて!」

フニャトのそばにより、小声で謝るがフニャトは相変わらず警戒を解かない。

「わかった。なにかフニャねこにご馳走するから! 何食べたい? ね?」

ビェトカはPADでキャットフードの通販ページを開き、フニャトに見せる。

ビェトカの意思が伝わったのだろう。

フニャトは画面に顔を近づけると、マジマジとページを見つめた。

それからしばらく後、

「にゃっ」

フニャトがその手でポンとPADの画面を叩く。

「お?」

フニャトの手によって、あるページが開かれた。

「なになに。最高級超希少、伝説の牛クアルンゲのステーキ……」

クアルンゲとは、マルクト共和国最北部より北の地域に見られる大型の野生牛の名称だ。

性格は手を出さなければ温厚だが、怒らせると並の人間では歯が立たない。

「えーっと、肉が食いたい?」

ビェトカの問いかけにフニャトは首を横にふる。

それと同時に「クアルンゲ」という文字を叩いた。

「クアルンゲが食いたい」

「にゃあ」

「無理無理無理無理無理無理無理無理!! こんな高い肉買えないって!」

「にゃっ」

再びフニャトがPADの画面を叩くと、また何やら新しいページが開かれる。

それはおそらく広告として出ていたのだろう、超人気狩人生活ゲーム、ハンターズ物語のページだった。

「…………一狩りいこうぜ?」

「にゃあ」


かくしてクアルンゲ狩猟隊は、マルクト共和国北にあるノルゲニア王国、スヴェリゲニア王国を通るヨトゥン山脈へと足を運んだ。

我々はまず、万年雪の残る険しいヨトゥン山脈で代々暮らす一族の村を尋ねる。

こちらの年老いた婦人が「山の民」の長老だと言う。

まず、その話を聞いてみることにした。

「伝説の大牛クアルンゲを捕まえたい……と? ありゃそう簡単には捕まらんよ」

「そうは言っても、ワタシはその為にわざわざヨトゥン山脈まで来たのよ」

「お前さんみたいな細っこいガキじゃ無理さ」

「ワタシには装騎あるしー。クアルンゲなんて所詮牛っしょ?」

「装騎は使えんよ。クアルンゲは装騎の音と魔電霊子の匂いに敏感じゃ。捕まえるのであれば、生身でなくてはならん」

「生身だって、ワタシはシベリアでクマと戦ったことだってあるのよ。今更、牛なんて恐れないわ」

そう強がるビェトカ隊員だが、その額の脂汗は隠しきれていなかった。

「ほう……シベリアでクマと……まさかお主、シレイアの弟子か?」

「師匠のコト知ってんの?」

「なるほどなるほど……シレイアの弟子とあれば、或いは、か」

長老は何か納得したのか、使いの者になにやら耳打ちを始める。

それから暫くして、2人の少女がビェトカ隊員とフニャト隊員の前に通された。

「この2人は?」

「今、この村に滞在しておる凄腕のハンターさんじゃ。クアルンゲを捕まえに行くと言うのなら、この2人が力になってくれるだろう」

「ウールカルトゥ・フラジリア。よろしくね!」

色白の肌に薄い鱗のような層が浮き出る少女、フラジリア。

「私はクロノ・ユーリアと申します」

ふんわりとした黒髪に、不思議な気品のある少女、クロノ・ユーリア。

この2人が今回、我々のクアルンゲ狩りに同行してくれると言う。

「ワタシは……えっと、エリザベト! んで、コッチが猫のフニャトよ」

「にゃあ」

「わぁー、オトモ猫だぁ。かわいいー」

「にゃあ」

フニャト隊員はフラジリアの手を避けるように身体をそらす。

フニャト隊員に逃げられ、フラジリアは残念そうな顔をしているが、今回の我々の任務はクアルンゲの捕獲。

フラジリアとユーリアを加えたクアルンゲ狩猟隊は、山の奥へと足を進めることにした。

基本的に臆病で敏感なクアルンゲを捉えることは難しい。

その姿を目にする為には、足跡、糞、周囲の植物などへ懸命に目を凝らしていくしかない。

暫く歩くと、透き通った緑色に覆われた草原へと出た。

「この草、ダナン草がクアルンゲの主食にしている草だよ」

「へぇ……こんな寒くて荒れたところに生えるのねぇ」

「クアルンゲの肉が珍味と言われる芳醇な味になるのは、このダナン草を食べてるからだって言われてるの」

「へぇ……じゃあこの草食べさせたら他の牛とかも美味しくなんのかね」

「ですが、環境やマナの関係でこの場所でしか育たず、刈り取ると特有の毒素を出すとか聞きましたね」

フラジリアとユーリアの説明を聴きながら、この草原を辿りクアルンゲの痕跡を探す。

「にゃあ」

何かに気づいた様子のフニャト隊員。

ビェトカ隊員が駆け寄ると、そこにあったのはクアルンゲのものと思われる糞。

「この感じは……まだ新しいね! クアルンゲは近くにいるよ」

「幸先いいわね。行くわよ」

それからどれだけの時間が経っただろうか。

「いたっ! クアルンゲいた!」

フラジリアの示す先には、もさもさとダナン草を貪る巨大な大牛が一頭。

「恐らく群れから独立したばかりの成牛ですね。クアルンゲはあれくらいが丁度食べごろです」

「そんじゃあ、さっさと捕まえるとしますか」

「待ってください」

身を乗り出し、クアルンゲに近づこうとするビェトカをユーリアが止めた。

「クアルンゲは敏感だと言いました。これ以上近付くと逃げられる恐れがあります」

「逃げられるって言われても、こんなに距離空いてんのに」

クアルンゲの姿を捉えてこそいるが、100mほど離れている。

ここからクアルンゲにどう仕掛けるのだろうか。

「任せてください。私は弓が得意ですから」

「おお、弓矢!」

ユーリアは背負っていた弓を手に持つと、矢を取る。

「クアルンゲは慎重な反面、怒りっぽくもあるんです。ここから矢をクアルンゲの身体に放てば」

そう言いながら矢をつがえ、狙いを定めそして……射った。

矢は見事にクアルンゲの背中へと突き刺さる。

矢の刺さった衝撃に驚くような様子のクアルンゲだったが、すぐにクアルンゲ狩猟隊の気配を察知し

、その頭を狩猟隊員達の方へと向けた。

「無茶苦茶怒って突っ込んできます」

「ンモォォォォォォオオオオオオ!!!!」

鳴り響くクアルンゲの鳴き声と、激しく揺れる地面。

ユーリアの言う通り、怒ったクアルンゲが凄まじい勢いだクアルンゲ狩猟隊の元へと駆けてくる。

どんどん近付いて来るクアルンゲ。

その身体がみるみる大きくなって行く。

大きく、大きく、大きく……。

「デカァッ!?」

高さは3mはあるだろうか。

もはや牛とは言えない巨大なモンスターがそこにはあった。

「これでも狩るなら常識的な大きさだからね!」

よく分からないことを言いながら、フラジリアが腰に差していたマチェットを抜きクアルンゲの元に踏み込む。

「ちょっ、死ぬって!」

「リアは竜人族だから大丈夫だよ!」

「ナニその根拠!?」

ユーリアが弓で援護し、リアがシミターを手に立ち回る。

「にゃあ!」

「フニャねこ、アンタ戦う気!?」

「にゃっ!」

「……そうね。せっかくココまで来たし、やったろージャン!!」

そこにビェトカ隊員とフニャト隊員も参戦する。

フニャト隊員は縦横無尽に走り回り、クアルンゲを引きつけた。

ビェトカ隊員は、近くに落ちてた大きな岩をワイヤーでくくり即席のハンマーを作製。

その一撃をクアルンゲの頭目掛けて振り落とす。

「ンォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」

ビェトカ隊員の一撃に怒りを増したクアルンゲが猛烈な勢いで駆け出す。

「うおっ!?」

脳にダメージが入っているのだろう。

駆けるクアルンゲの身体はややふらつき、それが逆に予測不能の動きになっていた。

ビェトカ隊員は回避することが出来た。

しかし、

「チッ、フニャねこ!」

クアルンゲの先にはフニャト隊員の姿が。

このままではクアルンゲの巨体がフニャト隊員へぶつかってしまう。

「にゃあッ!」

その時。

「いっけぇ!」

ビェトカ隊員は懐からあるものを取り出し……クアルンゲの瞳目掛けてブン投げた。

「ンモォォォォオ」

怯んだクアルンゲは足をすくわれ、フニャト隊員の直ぐ傍で倒れ伏す。

「そこだぁ!!!」

「ナイスだよ!」

かくして、我々クアルンゲ狩猟隊は無事クアルンゲの猟獲に成功したのだった。


「な、なんですかコレー!!」

ŠÁRKAの基地にスズメの声が響き渡る。

ビェトカとフニャトが巨大な牛を引き摺り帰ってきたのだから当然だが。

「幻の大牛。クアルンゲだね」

流石は料理人。

ピピが冷静に獲物の正体を言い当てた。

「コレ……どうしたんですか?」

「狩ったのよ。あ、狩猟ハントの方ね」

「にゃあ」

「どうしてですか!?」

「んー、まぁ、ヒマだったし、たまにはパーっとご馳走食べたいっしょ?」

「にゃあ」

「…………もしかして、フニャちんが私のお菓子食べて怒ってるからって機嫌取りとかじゃないですよね」

「うっ」

流石にスズメは鋭かった。

「その事にビェトカもなんか関係あったりするんですね」

「えーっと……」

「に、にゃあ……」

「後でじっくり話は聞かせてもらいますからね」

ニコッと笑みを浮かべるスズメに、ビェトカもフニャトも背筋が凍る。

不意にビェトカの肩に手が置かれた。

「最後の晩餐だな。しっかり食べておこう」

ゲルダの無慈悲な言葉はビェトカの未来を予告するようだった。

「夕飯の準備だね。わたしも手伝うよ隊長カピターノ

「はい。今日の準備は大変ですよ」

「隊長、2人とも悪気があった訳じゃないさ。許してあげてほしいな」

「そうですね。でも、さっきのビェトカの引きつった表情……最高でしたし、もうちょっと見たい気も」

「…………人が悪いね」

ピピは苦笑しながらクアルンゲを捌き始める。

そこに恐る恐るビェトカがやってきた。

「えーっと、そう言えばピピさん?」

「わたし?」

てっきりスズメに用があると思っていたのだが、自分の名前を呼ばれピピは少し驚く。

しかもあのビェトカが敬語になってることが二重に驚きだ。

「実は、クアルンゲ捕まえる時にさ、コレ、投げちゃって……」

ビェトカが取り出したのは……そうピピから渡されたハンドスピナーだった。

よほど強い力で投げたのか、ハンドスピナーはボロボロでバラバラになっている。

最早、回ることすら出来なくなったハンドスピナーをピピは暫く見つめ、

「ビェトカ、気にしなくていいよ」

そう言った。

そして、本当に申し訳なさそうなビェトカを背にピピはスズメに向かう。

「さぁ隊長。今日がトカぽよの最後の晩餐だ。張り切ろうか」

挿絵(By みてみん)

SSSSS-第十二回-

「本当にマルクト共和国まで行くというのですか!?」

「そうよ」

「あの方々が貴女にとって大切な存在であることは分かります。しかし、我が国では今だ貴女の地位に納得いかない貴族も多い。今ここで貴女がこの国を不在にしては――――」

「そうでしょうね」

「それでも行くと言うのですか!?」

「当たり前でしょ。私の性格をアナタはよく知っているはずよ」

「ならば、私にも考えがあります」

「何よ」

「マルクト共和国行きのマスドライヴァーは手配済みです。これを使えば今すぐにでも彼女達の元へ向かうことが可能でしょう」

「……!!」

「それと、貴女の為に作らせた我が国の最新型機甲装士フーシーの発進準備も万端です」

「リンバイ、アナタ……」

「貴女が不在の間は私がなんとかします。行ってらっしゃいませ、我らが帝よ」


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