第21話:Chci Vám Dát Budoucnost a Naději
-Chci Vám Dát Budoucnost a Naději-
将来と希望を与えるものである
マルクト共和国内某所。
暗く寂しい監房で2人の女性が身を寄せ合っていた。
「ねぇ、ズィズィ。アッチラさんとレーカさんは大丈夫かな……」
「大丈夫ですクラリカ。絶対、私たちからのメッセージを届けてくれた筈です」
それはスヴェト教団施設を調査中、捕まってしまったクラリカとズィズィの2人。
ズィズィはクラリカを励まそうとするが、内心、不安が大きかった。
クラリカが見つめるのは、監房に出来た僅かな隙間。
そして、その前に置かれた小さなパン屑。
「大丈夫です……きっと、大丈夫です」
ズィズィは自分に言い聞かせるように呟いた。
「ŠÁRKA緊急招集! 緊急招集!!」
8月11日の朝、ŠÁRKAの秘密基地にそんな声が響き渡った。
「何ですか!?」
「もしかして敵襲ッ!?」
「出撃準備か……!」
「わたしはいつでもいけるよ」
「にゃあ」
「ストップ、ストーップ!」
その声に出撃の準備を始めるスズメ、ビェトカ、ゲルダ、ピピ、フニャトを制したのは――その声の主ミス・ムーンライトだった。
「敵……じゃないんですか?」
「だったらもっと寝たかったのに!」
「紛らわしいぞ」
「なら何が……?」
「にゃあ」
口々に言うスズメ達4人と1匹の前でミス・ムーンライトがクルリと一回転。
可愛くキメポーズを取ると、
「実は、ŠÁRKAの制服が完成しましたー! Sweet Dream!!」
そう宣言した。
「制服……ですか?」
「そんなの作ってたの?」
「チームの統率を高めるためにはいいかもしれんが」
「話をするならコーヒーを淹れてこよう」
「にゃあ」
事実、ŠÁRKAとしてチームを結成しはしたものの、今まで制服どころか象徴となるものは何もなかった。
「と言う事で、作ってみたんだよ! 制服とマーク!」
そう言うと、ミス・ムーンライトは1組の服と金属製のバッジを取り出す。
「うわっ、すごい色! コスプレ衣装!?」
ビェトカの言う通り、全体的に鮮やかな赤紫色を基調としたその服は、とても派手に見えた。
しかし、素材などは本格的でただのコスプレ衣装とは一線を画してる。
「全員分用意してあるから着てみて!」
ミス・ムーンライトに促されるまま、各々が制服を着込む。
「うわっ、ピッタリじゃないですか!」
「うわって何よ、うわって!」
「サイズ、測ったのか……?」
「ムーンライト・アイにかかれば、見ただけでサイズなんて一発よ。Sweet Dream」
「恐ろしい女だわ……」
「バッジも付けてね!」
そう言うと、ミス・ムーンライトがŠÁRKAのŠと盾を模したバッジをそれぞれの胸元へと付けた。
「色は置いといて、意外と悪くはないですね」
そんな感想が出てくる事を意外と思いながらも、スズメは言う。
「確かにねェ。思ったより軽くて動きやすいし」
「ああ……少し癪だけどね」
「癪って何よー!」
「可愛らしいのは悪くないよ。わたしは嫌いじゃないね」
「にゃあ」
丁寧に猫用の制服も用意していたミス・ムーンライト。
散々言われるように、色は置いといても着心地も機能性も悪くはないようだった。
「これから、ŠÁRKAはこの制服で活動しちゃおー! 正義の味方っぽいでしょ? 特殊部隊っぽいでしょ? Sweet Dream!」
「どうするスズメ? ここはリーダーにビシッと採用不採用決めてもらわなくちゃ」
「まぁ、良いんじゃないですか? 質は上々ですし」
「だよね! さっすがスズメちゃん、分かってるぅ!」
と言う事で、晴れてŠÁRKAの制服とマークが決定したのだった。
『制服も決まってめでたいところだけど、貴女達に緊急任務よ』
「お、さっそく任務ぅー?」
「ローラさん、詳細を」
促すスズメにローラは頷き、口を開く。
『実は、ここ暫く所在地が不明だったMaTySの協力者……つまりはズィズィとクラリカのことなのだけれど、その所在が判明したわ』
「ズィズィさんとクラリカさんが!」
ズィズィとクラリカ……偽神教事件の時にスズメやビェトカと共に復讐姫達として活動したメンバーだ。
「あの2人、どこでなにしてんのよ」
『それがですね、2人がいるのはシュトゥットガルトのスヴェト教団施設……なんだけど』
「どったの?」
どこか難しい顔を浮かべるローラにビェトカが首をかしげる。
『ここの施設は……スヴェト教団保有の施設の中でも特に大きい施設で、スヴェト教団の本拠地だと目されている場所なんです』
「本拠地――ですか」
「なるほどね。粗方その2人、施設の内情を探ろうとしてヘマをした……というところか」
『そうみたいね。今は施設内で囚われているらしいわ』
「ならば、助けに行かないといけませんね」
スズメの言葉にビェトカもゲルダも頷いた。
「助けに行くのは構わないよ。だけど、敵の総本山なんだよね? まさか正面から乗り込むわけじゃないよね」
ピピの言葉は当然だ。
なんの策もなしに施設へ乗り込み、無事でいられる筈はない。
『ええ。そこでわたしたちは技術協力者と提携して、今回の作戦用に新装備を用意したわ』
「おっ、新装備! いやー、ローラ達も気がきいてきたわねー」
『莫迦は置いといて、今からデータを送るわ』
ローラの言葉の後、ŠÁRKA基地のコンピューターに新装備の情報が表示された。
敵地不可視襲撃用兵装――その名も、NINDŽA。
「Neviditelná INvaze Do Žonglérů Aparatura……このセンス、ロコちんだよね」
送られてた画像とネーミングを見てスズメは呟く。
そう、スズメの予想通り、設計はフニーズド・ロコヴィシュカだ。
「ふんふん、コレってつまり、装騎にステルス機能を後乗せサクサクする為の追加兵装なのね」
「なるほど。そのニンジャとやらを装備して敵施設へ潜入。目的の2人を救出するということか」
『ええ。ただ、いくつか注意があるわ』
「注意ィー? まーた面倒くさいことを」
『これは私の為でもあるけど、アナタ達の為――何よりアナタ達の友人の為に必要なことよ』
「教えてください」
促すスズメにローラは頷く。
『このニンジャ兵装はまだ未完成――戦闘にはまだ耐えないわ。だから、戦闘はなるべく避けなさい』
「えー、せっかくアド取れるのに仕掛けたらダメなのー?」
『アナタは何を言っているの? 敵地の真っただ中で仕掛けようものならそんな一瞬のアドバンテージ、数で押しつぶされるわ』
「そこはほら、増援来る前にステルスで逃げるーとか」
『まだ未完成って言ったでしょ? ニンジャ兵装はアナタの装騎ピトフーイに搭載されているステルス機能と違ってレーダーに映る情報も誤魔化せる――――戦闘機動に入らなければね』
「戦闘機動って……どの程度ですか?」
『正直、全力疾走は完全にアウト。早歩きでギリギリ大丈夫ってところよ』
「戦闘ってか登校機動ですらナイじゃん!」
「マルクトの装騎には登校用アルゴリズムがインプットされてるのか?」
「ビェトカの装騎には入ってるんじゃないんですか?」
「ただの言葉のあやだって!!」
「トカぽよは余裕をもって登校した方がいいんじゃないかな?」
「わたしもそう思う。朝はコーヒー一杯を嗜む余裕が欲しい」
睨むローラの視線もどこ吹く風でマイペースなŠÁRKAメンバー各々。
「すみません。えっと、他に注意は?」
その視線に気づいたスズメが謝ると、ローラは「はぁ」とため息を付いた。
『どうしても戦闘が避けられないときは、絶対にニンジャ兵装を破壊しなさい』
「どーしてよ」
『ステルス機能にはただでさえ莫大なアズルが必要となるし、試作段階のコレじゃ装備してるだけでも邪魔になるでしょ』
「そうなると、脱いで戦うってことになりますか」
「でも破壊する必要はないっしょ」
「いや――そうもいかない」
ビェトカの言葉を否定したのはゲルダだった。
「恐らくこの装備はMaTySの重要機密だろう。その技術やパーツが敵に解析されれば悪用の恐れだけではなく、製造元がバレる可能性がある。そう考えると破壊するのは当然だろう」
『ゲルダさんの言う通りよ。アナタ達に預けるこの装備は使い捨てのガラクタじゃないの。敵に解析されれば私達MaTySだけじゃなく――』
「ロコちん達にも、迷惑がかかる……」
「あー、わかったわかった! 今回はちゃんと潜入に専念するから! ワタシこう見えても潜入とかも得意だからね!」
表情が硬くなったスズメを見て何か思うことがあったのだろう。
ビェトカはどこかスズメに聞かせるように言った。
『色々言ったけど……とりあえずはちゃんと帰って来なさい』
「お?」
『ズィズィとクラリカが待ってるわ。ŠÁRKA、さっさと出撃よ』
「なんだかんだ言って――――ってもう切ったァ!?」
真っ黒になった画面にビェトカが何度も叫び声を浴びせるがうんともすんとも言わない。
「ありがとうございます、ローラさん」
その声は届いていないのかもいしれない――それでもスズメは小さく礼を述べた。
「話は聞きましたね? では、ローラさんから入った情報も元にズィズィさんとクラリカさんの救出作戦を練りましょう」
マルクト共和国シュトゥットガルト。
「ここがスヴェト教団の……」
「おー、おっきージャン! なんでこういうカルトっぽい宗教の施設ってこんな大きいんかね?」
「訂正させてもらうが、スヴェト教団自体はカルトではない。れっきとした伝統と文化を持つ古来からの宗教だよ」
ゲルダの言う通り、スヴェト教はこの世界でも一番の信者数を誇る伝統ある宗教だ。
「ふーん、そーなん?」
「はい、私も授業で習いました」
シャダイ信仰が主だった神国時代のマルクトでも一般常識としてそれを学ぶほどだ。
「ところで隊長、情報によると協力者がいるらしいけど、どこにいるのかな」
「まだ、来てないんでしょうか……?」
そう、ローラからの情報ではズィズィとクラリカの居場所をMaTySに持ち込んだ協力者がいるという話だった。
ピピの言葉にスズメ達は辺りを見回してみるがそれらしい人影はない。
「にゃあ」
「あっ、フニャちん!」
不意にフニャトがスズメの手を離れ、施設の裏へと駆けていく。
フニャトに追いついたスズメ達が見たのは……
「ネズミ?」
2匹のネズミと相対するフニャトの姿。
「なんだフニャねこぉー。腹へってたの?」
「にゃあ」
フニャトは「違う」と言うようにビェトカの足を叩く。
「あれ、このネズミ……」
スズメはネズミにそっと手を伸ばした。
ネズミはスズメに驚く様子も無く、その指へ顔を近付ける。
「見てください、このネズミ」
「Sweet Dream! このネズミちゃん達、首に可愛いリボン巻いてるねっ」
ミス・ムーンライトの言う通り、ネズミの首にはリボン。
「黄色いリボン……なんか、見覚えがあるわね」
「クラリカさんのリボンですよ!」
「ってことはもしかして、協力者って……」
「チー!」
「にゃあ」
装騎に乗り込んだスズメ達は、ステルス迷彩を起動させ施設内へと潜入した。
姿が見えなくてもその存在を感じ取っているのだろう。
2匹の夫婦ネズミ――雄ネズミのアッチラと雌ネズミのレーカはスズメ達を先導するように駆けた。
やがて辿り着いた施設の一角。
「この建物の中にズィズィさんとクラリカさんが?」
「そうみたいね。さて、どーすっかぁ」
「装騎から降りて二人を救出する潜入班、そして残った装騎を護衛する待機班に分かれるべきだな」
ゲルダの提案にスズメ達は頷く。
「では、どうやって分かれましょうか」
「考えてみたんだが、騎使の乗っていない装騎のステルス機能を有効にするためには、別の装騎からアズルを供給しないといけない」
機甲装騎はアズルというエネルギーを生成することで微量な電力を人の霊力と組み合わせることで莫大な力に変えているが、それは騎使が乗っている間だけ。
騎使が不在だとアズルの生成ができずステルス機能を維持することは不可能。
「アクアマリンシステムだっけ? アレでなんとかできないの?」
「アクアマリンはステルス機能と干渉するようで、念のために使わない方がいいみたいですね」
周囲から霊力を集めるアクアマリンシステム――それを使えれば確かに騎使が乗っていなくてもアズルの生成はできるはずだ。
しかし、周囲から霊力を掻き集めるという性質上、魔力探知に引っかかる可能性もあり危険だった。
「ステルスを維持するには1騎につき1騎がつきっきりになる……我々は5人と1匹、となると」
「潜入2人に待機3人と1匹!」
「そうなるな」
「分かりました。その分配で行きましょう。潜入は誰が行きますか?」
「はいはーい!」
真っ先に手を上げたのはビェトカだった。
「ワタシはコレでも傭兵だしさ、潜入作戦とか得意よ? あとトイレ行きたい」
「トイレって……」
さすがに心配そうな表情を浮かべてしまうスズメ。
「大丈夫大丈夫、ついでにアッパーデッキかましてくるから」
「何だソレは。技名か?」
「そんな感じー」
「えーっと、で、もう1人は」
「アルジュビェタでは心配だし、私が行こう」
「ゲルダさんが?」
「ああ。捕まってる2人は私と同じ元マジャリナ軍人みたいだしな。ここは同郷の私が助けに行くべきだろう」
「では、ビェトカとゲルダさんがズィズィさん、クラリカさんの救出を。残りの私達はここで待機します」
「よーっし、そんじゃ行ってくるわ! もう漏れそうだしね!」
「はぁ……救出の前にトイレを探さないといけないのか。憂鬱だな」
「ビェトカ、ゲルダさん――――よろしくお願いします」
ビェトカとゲルダは強く頷くと、夫婦ネズミのアッチラとレーカに先導され施設の中へと潜り込んだ。
「ここにズィズィとクラリカが……」
白く長い廊下を目に、ビェトカが呟く。
「よし、ネズ公! まずはトイレに案内しなさい!」
「本気だったのか……」
「当たり前ジャン! てかもう漏っちゃうぅ!!」
悪ふざけや冗談ではなく、あまりに切実な様子のビェトカにゲルダはため息をつく。
「仕方ない。ここは二手に分かれよう。私とアッチラは一足先に2人を救出に。アルジュビェタとレーカはトイレから行ってくれ」
「りょーかい!」
その言葉に、まるで人語を理解しているかのように夫婦ネズミのアッチラとレーカも二手に分かれる。
「頼んだよ。アッチラ」
「チー!」
雄ネズミのアッチラの案内で、ゲルダはどんどん施設の奥へと進んでいく。
「潜入の極意……慎重、且つ大胆にっ!」
ゲルダは、本来は居住区として作られていたのであろう一角へと転がり込んだ。
そして、ここの警備を任されているらしい、1人佇む信者を蹴り飛ばし、懐から鍵を奪い取る。
「チーチー!」
「あっ、アッチラさん……!」
監房に出来た小さな穴……そこから現れた1匹のネズミを目にしてクラリカが喜びの声を上げる。
「戻ってきたのですね……まさか、本当に助けを?」
「チー!」
そうだと言うように、鳴き声を響かせるアッチラ。
そのすぐ直後、
「クラリカとズィズィだな? 私はフェヘール・ゲルトルード。ŠÁRKAの……サエズリ・スズメ達の仲間だ」
ゲルダが声を投げかけた。
「本当にスズメちゃん達の……? やったよズィズィ! 助けが来た!」
「……確かにアッチラがここまで連れて来たようですが、仲間だと言う証拠はない」
「それなら、ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタも一緒だ。今はお花を摘みに行ってるけどね」
ゲルダはそう言いながら、手にした無線機でビェトカへと連絡をつける。
『お、もしかして2人と合流できたー?』
「ああ。それにしても遅いぞアルジュビェタ」
『ゴメンゴメン。いやね、たまたま入った個室に紙が無くて……』
「お花摘みって本当にトイレに行ってるのですか……」
「アルジュビェタさんらしいですね」
『あっ……ゴメン。超ゴメン』
「どうしたアルジュビェタ」
『…………見つかっちゃった。テヘペロ』
ゲルダは無言で通信機から顔を離すと、
「アルジュビェタがクソした。逃げるぞ!」
『クソって言うな! いや、したけど!!』
叫びながら鍵を開け、ズィズィとクラリカを解放した。
そのちょっと前。
スズメ、ピピ、ミス・ムーンライト、フニャトの待機組。
「猫と言ったらフニャちん」
「フニャちんと言ったら三色~」
「三色と言ったら団子……だな」
「にゃあ」
何故か連想ゲームを繰り広げる待機組の3人。
「待て……誰か来たよ」
その流れを断ち切り、ピピがスズメ達に注意を促す。
ピピの言う通り、1人の信者と思しき少女の姿があった。
少女は手に画板と筆を持ち、頭にはやや小さめのベレー帽が乗っかっている。
「スヴェト信者の方でしょうか……?」
「絵を描いてるみたいだよぉー」
「絵、か……少しマズイね」
少女の姿に、ピピは表情を硬ばらせる。
「なんでなんで?」
「彼女がここで絵を描いている間にトカぽよ達が戻って来れば、鉢合わせになるからね」
「確かにそうですね……ビェトカに知らせられれば」
その時、けたたましい警報音が鳴り響いた。
ビェトカがトイレでスヴェト教信者と鉢合わせしたのだ。
「警報! ヘマしたようだね」
「ビェトカでしょうね……」
「トカぽよだよねぇ」
「にゃあ」
「私達の位置はバレてないと思うので、今は動かずにビェトカ達が戻ってくるのを待ちましょう」
「そうだね。慌ただしい時だって一杯のコーヒーは欠かせないものさ」
「ピピっち本当にコーヒー好きよねー」
それから暫く、ビェトカを先頭にズィズィとクラリカを連れたゲルダの姿が見える。
その後からは、必死で走る少女の姿。
「ナーサリィ! 侵入者ですよ。つかまえてー!」
「マシュ!?」
ビェトカ達を追いかける少女マシュの声に、今まで絵を描いていた少女ナーサリィが慌てて逃げ道へと先回りした。
「甘い!」
「ひぅっ!?」
そこに叩き込まれたビェトカのワイヤー。
その一撃にナーサリィが怯んだ隙を狙い、ビェトカ達は待機しているスズメ達の元へと駆け込んだ。
「さーて、敵の装騎が出てくる前にさっさと……」
「ナーサリィ!」
「マシュ……っ」
不意に、2人の纏う空気が変わる。
何処か、背筋が凍るような――瘴気のようにも感じる異物感。
「まさか……あの2人ッ!」
ビェトカだけではなく、その場にいた誰もが最悪の想像を頭に描いた。
そしてそれは……現実のものとして、目の前に立ちはだかる。
『天使装騎アスタロス!』
『天使装騎パイモン……っ』
右腕に鞭を蛇のように絡みつかせ、鋭い角が伸びた赤黒い天使装騎アスタロス。
そして、華奢な上半身に対して、下半身が大きく肥大化した天使装騎パイモン。
運の悪いことに、この2人はスヴェト教団の使徒だった。
『逃がしま……せんっ!!!!』
地面を滑るように走る天使装騎パイモン。
その巨大な下半身に似合わず軽快に地面を駆ける。
「あれは……フロートみたいな機能があるんですね」
その様子を見てスズメは呟いた。
「隊長、どうしようか?」
「……とりあえず、ここは私が足止めします。ピピさんはズィズィさんとクラリカさんを連れて先に脱出を。ムーンライトさんはピピさんの援護を!」
「耐久力がありホバー移動で安定しやすいわたしのネフェルタリが2人の確保に向いている……か」
「お早い納得、ありがとうございますっ! 行くよ、フニャちん!」
『Guaaar』
スズメは叫ぶように言いながら、装騎スパローNINDŽAをビェトカ達へ追いつかんとする天使装騎パイモンの目の前に飛び出させる。
「ビェトカ、早く装騎に!」
『機甲装騎……ま、まさか、こんな所にまで……っ』
『怯まないでパイモン! 飛んで火に入る夏の虫ですから!』
『Guour!!』
装騎スパローNINDŽAと装牙リグルが2騎の天使装騎を釘付けにしているその間に、ビェトカとゲルダはそれぞれの装騎へと乗り込んだ。
「あなた達はわたしが保護するよ。おいで」
クラリカとズィズィはピピの装騎ネフェルタリが確保する。
そしてミス・ムーンライトの装騎アントイネッタと共に、素早く、しかしステルス機能が不意にならない程度の速さでその場を離れていった。
「さてそれで、いつものメンバーが残った訳だが」
「いつメンってやつ? こっから二次会ね」
「さっさと解散しましょう。私とフニャちんで抑えるのでビェトカとゲルダさんは先にステルスで離脱してください」
「ってもスズメ、逃げられるの!?」
「フニャちんも一緒なら余裕ですよ! 増援がくる前に早く!」
「アルジュビェタ、ここはスパローとリグルの機動性を信頼して、私たちは先に行こう」
「……あー、分かった! んじゃ、後でね!」
「はい! フルムーン・バースト!!」
天使装騎の目を眩ませるように、装騎スパローNINDŽAが全身から放ったアズルの輝き。
その隙にビェトカの装騎ピトフーイDとゲルダの装騎クリエムヒルダは離脱する。
「さて、ここからが正念場だよ。フニャちん!」
『Gorrrr』
スズメは装騎スパローのNINDŽA兵装をパージしながら叫んだ。
SSSSS-第十回-
使徒長ジェレミィ「この施設に敵の侵入を赦すとは……」
使徒ナーサリィ「ご、ごめんなさい……」
使徒マシュ「敵は、特殊なステルス装置を使っていました。施設の設備でも感知できないような……」
使徒長ジェレミィ「ええ、聴きました。ですから、貴女達を責める気はありません。これを機に、より一層の精進を期待するだけです」
使徒マシュ「ありがとうございます」
使徒ナーサリィ「が、がんばります」
使徒ジェレミィ「問題は……この汚水を流すトイレ、ですが」
使徒マシュ「………………」
使徒ナーサリィ「………………」
使徒長ジェレミィ「ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ……この借りは返してあげないといけませんね……」
使徒マシュ「あの……掃除なら私達が……」
使徒長ジェレミィ(ガシガシガシガシ)