第20話:Jsem s Vámi
-Jsem s Vámi-
わたしはあなたがたと共にいる
「邪魔するぞー」
戦いは続くなか、月が替わり8月。
ŠÁRKAの秘密基地――そのブリーフィングルームに1人の男性の姿があった。
「トーイレトイレー、トイレー……」
寝ぼけ眼で部屋からふらふらと出てきたのはビェトカ。
ついぞ今まで眠っていたのだろうか。
ビェトカの目と、男性の目が合う。
「…………」
「キミはピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ君だな?」
「シャベッタァァアアアアアアアアア!!!!!?????」
正直、ビェトカが何を言っているのか分からないが、ビェトカ自身も分かっていないだろう。
「じゃなくて誰アンタ!? 敵? ワタシの敵? 女の敵? ŠÁRKAの敵!!??」
ビェトカは基地なら安全だと油断していたのか、異様にテンパっていた。
「まぁ、待て! 落ち着いて私の顔を見ろ。見おぼえないか?」
対して男性は冷静な態度でビェトカにそういう。
男性の言葉に、ビェトカはマジマジと男性の顔を見つめる。
見て、考えて、見て、考えて、見て、考えて……
「俳優のシュワルツなんたら?」
「おい、マルクト国民なのに私を知らないのか!?」
「えー、て言ってもワタシはルシリアーナで暮らしてた時期の方が長いしー」
「はぁ……こりゃローラが苦労する訳だ」
「何アンタ、ローラの知り合い?」
「あーもう話にならん。スズメ君を呼んでくれスズメ君を」
ビェトカに呼びされスズメと、つられてゲルダもブリーフィングルームへと出てきた。
「ねー、変なおっさんが居るんだけどさー。ローラの知り合いっぽいんだけどだ――」
「死ね!」
瞬間、ビェトカがゲルダにぶん殴られた。
「死ね!!?? 死ねってナニ!? ちょ、頭を押さえないで!」
「バカか!? お前はバカか、バカなのか!? いや、バカだなバカ!」
「バカバカ言うな!」
「こちらの方を何方だと思っているんだ!? マルクト共和国現大統領――――」
「あ、モウドールさんお久しぶりでーす」
「おう、久しぶりだな」
「「軽いッ!」」
コンラッド・モウドール。
ゲルダの説明通り現職のマルクト共和国大統領、そして、元悪魔派組織グローリアのリーダーだった。
「あー、アンタがアレ? マルクト神国ぶっ潰したっていうローラ達ん組織のリーダー? あー、はいはい、なるほどね」
今ŠÁRKAが使っている基地も、元はと言えばグローリアの基地。
となれば、そのリーダーであるモウドールが容易く出入りできるのは当たり前だ。
「あのモウドールさん、どうしたんですか? こんなところに」
「君たち……今回、このような事態になってしまい申し訳ない」
「モウドールさん!?」
深々と首を垂れるモウドールをスズメは当てて制する。
「モウドールさんが謝ることなんて――!」
「いや、私にも責がある。今回、君たちへの指名手配を食い止めることができなかった」
「っていうかアンタ一番偉いんでしょ!? だったらどうとでも出来るんじゃないの?」
「そうもいかないのが実情でな。すでに議員の過半数はスヴェト教団の息がかかった者ばかり。ここで無理に動けば君たちを助けられる立場を完全に失ってしまう」
スズメ達だっていつまでも犯罪者として逃げ続けるわけにも行かない。
そうなると、元の生活に戻るための手段が必要になる。
モウドールの大統領と言う立場は、スズメ達に対する保障を確かなものにさせるためにはぜひとも座っておきたい席だった。
「MaTySみたいな組織があるってことは、そういう議員として潜り込んでくる敵対者の存在ってのは分かってたってことよね?」
「そうなるな。当初の目標は過激な神国信望者――シャダイ派と呼ばれる一派だったのだが……」
マルクト神国とそれを収めるシャダイコンピュータを信奉する一派。
最近では、その名を使った盗賊組織なども現れ始めており、本来その対策の為にMaTySは結成されたのだった。
「見通しが甘いわねーイタタタタタ」
「どの口が言うんですか」
ゲルダにほっぺを引っ張られるビェトカを余所に、
「それなら、今日ここに来るのも相当なリスクがあったはずですけど」
スズメがそう尋ねる。
「ああ、だからローラにはきつく止められてたのだが――菓子が安くてな」
「お土産!?」
「ああ」
「パパ素敵ー!」
お土産と聞いてどことなくテンションの上がる3人だったが、モウドールが机の上に置いたのはソミュアのケーキ箱。
「「「あ」」」
その箱を見て、スズメ達3人の表情が苦くなる。
「どうした? 美味いと評判だから買ってきたのだが……好みではなかったか?」
「い、いえ、あ、ありがとうございます」
「軽いトラウマが……」
「争いは、虚しい……」
「コーヒーどうぞ」
遠い目をする3人を置いといて、今までコーヒーを淹れてたらしいピピがモウドールへとカップを差し出した。
「あと、お土産――というわけにはいかないが、先日ローラとイェストジャーブの長男、名前は……」
「カレルさんですね」
「ああ。カレルくんだ。2人の練っていた作戦がそろそろ決行できそうらしい」
「おっ、やったジャン!」
「はい! これで少しは戦力の補強ができますね!」
「だが、危険な作戦だ。今回は装騎を使わないのだろう?」
「わたしは元々軍人だし、アルバもいる。傭兵だっているんだ。お膳立てされた作戦くらいはキッチリこなさなくてはな」
「すまないな。詳細は追って連絡があるはずだ」
モウドールの言葉に4人は頷く。
それから数日……いよいよ、"あの作戦"の決行日が訪れた。
「それでは、今回の作戦を説明します」
ŠÁRKAのブリーフィングルーム。
大型モニターの前に立つスズメを中心に、ビェトカ、ゲルダ、フニャト、ピピ、ミス・ムーンライトとŠÁRKAのメンバーが集まっている。
「目的地はモンスにある軍の装騎開発工場です。私達の任務はその工場への潜入、そして新型装騎5騎の奪取となります」
ローラとカレルが立てた作戦とは、ŠÁRKAの戦力を充実させるための新型装騎奪取のための作戦だった。
仮にも国の機関に属するローラ、そして1協力者であるカレルの力ではスズメ達ŠÁRKAに装騎を直接提供するのは難しい。
その為、2人の策謀で"新型装騎を奪取しやすい環境"を造り、そのタイミングでŠÁRKAに襲撃させるということに落ち着いた。
「これで軍用機が5騎手に入れば心強いわね!」
「そうだな。スパローとピトフーイ以外の装騎は民間騎だ。性能的にも天使やら悪魔とやり合うには分が悪かったからな」
「その装騎は私ももらえるのかい?」
「事実上はMaTySの管理下に置かれることになりますが、運用は私たちに任せるとのことです」
「この正義のヒロイン☆ミス・ムーンライトに似合うかわいい装騎はないかなー」
「なぜ正義のヒロインが盗みに前向きなんだ」
「今はスズメちゃんの正義のヒロイン☆だからね」
ミス・ムーンライトは服装こそ紙だが、生身の戦いでも役に立つことは実証されている。
「生身での軍施設潜入という危険な作戦ではありますが――皆さん、よろしくおねがいします!」
「任せて!」
「ああ、リーダー」
「隊長の為なら」
「スズメちゃんは私が守るからね!」
「にゃあ」
「フニャちんも行くの!?」
「にゃー」
モンス軍用装騎開発工場。
「何故この私が、こんな辺境の警備なんぞせなならんのだ!」
その司令官室で喚くように不満をこぼす1人の男性がいた。
マルクト共和国軍少将フンゾルト・ホシン。
つい先週、このモンス工場駐留軍の司令官として配属された男性だ。
「しかし良いのですか司令官。いくら戦時中でもなく、辺境の基地とは言え新型装騎の搬入がある時にあれだけ多くの部下を休みにしてしまって」
「別に他国に輸出する装騎の最終調整だろ? 極秘兵器ならまだしも」
フンゾルト少将は部下をさっさと部屋から下がらせると、モニター越しに装騎搬入の様子を詰まらなさそうに眺める。
「お、こりゃ楽だわ。警備も少ないし――ローラ達も役に立つことがあんのねー」
目の前で仰向けに横になる5騎の機甲装騎を見ながらビェトカが口笛を鳴らした。
ローラが用意した制服に身を包み、機甲装騎を奪取する算段を立てる。
「とりあえず、事前の打ち合わせ通り1人1騎、装騎を奪って脱出――ってことになりますね」
「問題は、誰がどの装騎に乗るかね」
「私はあの細身で可愛いヒロインな装騎がいいな!」
「あの大き目の複眼装騎――きっと狙撃騎だと思うんだ。わたしはアレにするよ」
「オーソドックスな装騎がいいな」
「それならあの装騎はアブディエル型に近い感じがしますからいいと思いますよ」
「ワタシらは余りもんってか」
「行きましょう!」
それぞれが目当ての装騎の元へと静かに近づこうとした――その時だ。
「なんだお前らは」
その声にスズメ達は振り返る。
そこに立っていたのはこの基地の司令官――フンゾルト・ホシン少将。
どこか威圧的な態度を放つフンゾルト少将は明らかな疑いのまなざしをスズメ達に向けていた。
「私達は起動テストの為、軍から派遣された国軍騎使です」
落ち着いた様子で淡々とゲルダが答える。
「国軍騎使ぃ? その猫は?」
「助手です」
「にゃあ」
あっけらかんと言い張るスズメを怪しみながらもフンゾルト少将は一人一人へ視線を向けた。
スズメ、ビェトカ、ゲルダ、ピピ、
「そんな怪しいバイザーを付けた軍人がいるかァ!!」
ミス・ムーンライト。
「不審者だ! とりあえずひっ捕らえろ!」
「チッ、だからそのサマーズ・スコットみたいなの外せって言ったのに!」
「このバイザーは私のヒロイン☆としての象徴なの!」
「オプティックブラストでなんとかしてくれ」
「猫はOKでバイザーはダメなんだね」
「強行突破しますよ!」
スズメの命を受け、それぞれがそれぞれの目標にしていた装騎へと駆ける。
それに対抗するように、警備にあたっていた国軍兵士や、整備員も応戦。
「いけーフニャちん!」
「にゃあー」
「ワタシのワイヤーを食らえー!」
「悪いが――ここは無理やりにでも行かせてもらうぞ」
「格闘も得意なんだ。アルバだからね」
「わたしの射撃は百発百中! ほーら、すごいでしょ?」
それらを蹴散らし、スズメ達は目当ての装騎へと飛び乗った。
「起動します!」
「パスはコレね」
「騎使認証、クリアだ」
「よし、問題ないよ」
「イグニッショーン!」
起動承認を終え、それぞれの機甲装騎が大地を踏みしめ立ち上がる。
「装騎ボウヂッツァ――内装武器を充実させた近接戦用装騎なんですね」
「装騎アルジュビェタ! ワタシと同じ名前ジャン!」
「装騎クリエムヒルダ、標準武装は突撃槍とブーステッドアーマーか」
「装騎ネフェルタリ……うん、予想通り射撃特化騎だ」
「装騎アントイネッタは高機動戦闘用の装騎なのね!」
「さぁ、脱出しますよ!」
『諒解!』
「ヤツらを逃がすな! 防衛隊を出せェい!!」
「はいっ!」
ガレージを突き破り、スズメ達5人は基地の外を目指す。
「なるべく戦闘は避けたいです。速やかに……」
言い終わるより早く、スズメは装騎ボウヂッツァの身を引かせた。
そこに閃く、刃の一撃。
「展開が早い!?」
「悪いな泥棒さん。ここは行かせないぜ!」
超振動剣エクスカリバーを手にしたフロー型装騎ノートレスII。
その動きと声にスズメは覚えがあった。
「まさか、ナイツ・ノートレスさん……!」
「ナイツ・ノートレスってあの!?」
「知り合いか?」
「はい、一度実地戦で共闘しました。仕事熱心でとても優秀な騎使です」
「ワタシも前に会ったことあんのよねぇ。優男みたいなことばっか言うけど実力はモノホンよ」
ナイツ・ノートレス少佐。
実力はピカイチながら真っ直ぐ過ぎる信念と、愚直な正義の心から体のいい小間使いにされている不遇の天才。
仕事熱心なことに、ノートレス隊は命じられてもいないのに装騎内に待機していたらしい。
「ドンナーチームは援護を、フローチームはガンガン行くぜ!」
『おー!!!』
変わり者が集められた隊なのか、雑なノートレスの命令にも雄叫びに近い諒解の声が響く。
「コレよコレ! ノートレス隊は無ッ駄ーァに士気が高いのも厄介なのよ!」
「興奮剤でもやってるのかな?」
「Sweet Dream!! 負けずにいこー!」
「ドンナー型はわたしに任せて。やるよ、ネフェルタリ――――フォーコ!」
ピピの装騎ネフェルタリは長身のライフルを構えると、スコープを覗き込んだ。
装騎ネフェルタリの一撃が一騎の装騎ドンナーを鋭く貫く。
「ホバー機能にアズルを併用できる狙撃用ライフルか……いいね」
ピピはその性能にどこか満足げだ。
「こっちだって!」
踊るように高速で舞うのはミス・ムーンライトの装騎アントイネッタ。
両手に構えたサブマシンガンからアズルを纏った弾丸を撃ち放つ。
「これだけじゃないのよっ。Sweet Dream!」
更にサブマシンガン下部からアズルの刃が伸び、フロー型装騎を切り裂いた。
「騎兵のお出ましと行こうか」
その側を駆け抜けるのはゲルダの装騎クリエムヒルデダ。
その走りに合わせるように、スカート状の腰部スラスターがアズルを吹き、強烈な加速を見せる。
「突貫……っ」
勢いのついた突撃槍の一突きがフロー型装騎を弾き飛ばした。
そんな装騎クリエムヒルダを狙ったドンナー隊の砲撃。
「えっと、コレをこーしてェ!?」
咄嗟にビェトカの装騎アルジュビェタが射線に飛び込むと、その装甲からラメのようなものが吹き出し、アズルの輝きが装騎を包む。
瞬間、アズルの流れが装騎アルジュビェタを中心に渦巻き……ドンナーの放った魔電霊子砲は明後日の方向に逸らされた。
「アズル撹乱粒子とストリームシールド……後……色々あってわかんない!」
自分と同じ名前だと意気込んでたが、どうやら相性はあまりよくなさそうだ。
「腕部クローに前脛部レーザーソード……」
両腕から爪を飛び出させ、脚にレーザーの輝きを灯す装騎ボウヂッツァ。
装騎ノートレスIIの超振動剣エクスカリバーの一撃を巧みに流す。
「他には……爪先の超振動ブレードに、肩部ガトリングガンと……腰部アズルガン!」
全身に武器が隠されている装騎ボウヂッツァはある意味では装騎スパロー・ブレードエッジに近い手応え。
取って置きが……
「そして頭部フラッシュガン!」
「目くらましだって!?」
装騎ボウヂッツァの頭部から放たれた強烈な閃光に、ノートレスの目が焼かれる。
「今です、離脱しましょう!」
「くっ……逃げるだって!?」
やろうと思えばトドメを刺せたかもしれない一瞬。
それを無視して逃走するスズメ達ŠÁRKAの姿を、ノートレスは視力が戻り始めた目で見つめた。
「彼女たち……不思議な感じだったな。敵とは思えない、というか……」
『ノートレス隊ッ! 盗人どもを逃がしてしまうとは何事だッ!!』
ほうっとしていた一瞬の静寂を思いっきり突き破った通信からの声。
「しかし少将。ヤツらはかなりの手練れ――それをたまたま待機してたオレ達だけでどうにかしろっていうのは――」
『黙らんか! お前らの仕事はこの基地を守ることだろうが! 賊にあっさり侵入され、あまつさえ逃がすなど……ッ!』
『いいえ少将。ノートレス隊はよく働いてくれたと思います』
突如、通信に割り込んで来た女性の声。
「おお、キミは確かMaTySのプリティーウーマン! 名前は確かレディ・ローラだったかな?」
『なっ、MaTySの――だと!? 何故、ここにいる!?』
『未確認勢力からの襲撃を受けてると情報を受け取りましたので。しかし、この施設――警備が手薄過ぎませんか? それに装騎を奪われてしまうなんて――これは私が上へ報告すれば基地司令官である少将の立場は……』
ローラの脅すような声と言葉に、フンゾルト少将の顔がみるみる蒼くなっていってることは容易に想像できる。
その姿を想像すると、思わずノートレスの口元に笑みが浮かんでしまった。
『待て! 待て待て! なんとか、なんとかできんのか!?』
『そうですね……とりあえず、今回の襲撃は訓練だった。装騎も訓練中の事故で破壊されてしまった――そういうことでどうですか?』
『ほ、本当にそういうことに出来るんだな!?』
『はい。我々MaTySにお任せください』
SSSSS~第九回~
ローラ「と、いうことで今回の基地襲撃は訓練中の事故ということで処理したわ」
ビェトカ「なるほどね。そもそも強奪があったという事実が無くなればワタシ達の罪が増えることはないって寸法か。アンタにしてはよく考えてんジャン!」
ローラ「当然です。というか、私は貴女と違って二手も三手も先を見据えています」
ビェトカ「ソレを言ったらワタシだって裏の裏まで読んでますしー」
スズメ「確かにビェトカは裏の裏まで読んで、表を出すタイプですからね」
ゲルダ「裏の裏は表だからな」
ビェトカ「ねえ、もしかしてバカにしてる?」
スズメ「裏の裏まで読んでくださいよ」
ビェトカ「やっぱ、バカにしてるっしょ!?」
ミス・ムーンライト「トカぽよのバスターで殴るような勢い嫌いじゃないよ☆」
ビェトカ「ワタシ脳筋!?」
ピピ「セコい小細工をすればテクニカルに戦えてると思ってる新種の脳筋だね」
ビェトカ「なんか超ディスられてる!!??」
スズメ「みんなビェトカのことが好きなんですよ」
ビェトカ「超雑に締められた!!??」