第18話:Svorně a Jednomyslně
-Svorně a Jednomyslně-
心合わせ声をそろえて
7月23日。
「詳細は? リーダー」
「はい。ミュンヘン市外れで謎の戦闘が勃発しています。悪魔装騎だという確定情報はありませんが国軍も手だし出来ないようで」
「とりあえずは突いてみるってことね」
「はい」
「では、出動ですね」
「よーしŠÁRKA、DO BOJE!」
スズメ達ŠÁRKAがミュンヘン市に向かったちょうどその時。
目的地であるミュンヘン市郊外では5騎の機甲装騎が小競り合いを続けていた。
4騎の機甲装騎がたった1騎に対して攻撃を仕掛けている。
「ロメニア皇国製の最新装騎……ケレース、ね」
4騎の機甲装騎――ケレースの攻撃を凌ぎながら、その女性は呟いた。
「さすがアルバ――オレ達の攻撃をこうも容易く!」
「ヤツの装騎は寄せ集めの旧世代騎じゃないの!? いくらマルクト騎は性能が良いったってさ!」
装騎ケレースの騎使の1人が言う通り、その1騎は複数のマルクト装騎を継ぎ接ぎにした姿をしている。
廃棄場か何かで寄せ集めたのだろう――アブディエル型の両手足、ミカエル型の胸部、隙間を継ぐようにラファエル型の部品、とマルクトで一般的に流通している装騎のパーツが使われていた。
武装はウェーブグルカナイフただ1つ。
「なんとか逃げるわよ、ラガッツァ」
そんな装騎――ラガッツァを操る女性の名はピピ。
装騎ラガッツァは明らかに戦いの意志はない。
そうでありながら、4騎の装騎ケレースはしつこく彼女を追いかける。
それには、理由があった。
「アルバを逃がすな! "アレ"は、放っておいてはいけない存在だ……っ」
「アナトラ3は反対から回り込んで」
「了解よ、アナトラ1!」
4騎の装騎ケレースが散開し、内2騎が装騎ラガッツァの反対側へと回り込む。
「挟撃するよ」
装騎ラガッツァの背後から、その両側面を挟み込むように銃撃。
そして、正面には2騎の装騎ケレース。
「逃げ道を塞がれた」
味方の援護を受け、リーダー格の装騎ケレースが超振動グラディウスを構え装騎ラガッツァへと肉薄。
装騎ラガッツァのウェーブグルカナイフと装騎ケレースの超振動グラディウスがぶつかり合った。
その一撃は明らかに、他の装騎ケレースと動きの質が違う。
ある種、常人離れした反応速度と動きをするピピだが、それに負けずとも劣らない――いや、装騎性能も相まってそれ以上の力を見せた。
「まさかとは思いますが、この敵」
「さっすが隊長だ! すごい力……人間じゃねえぜ」
「隊長も"アルバ"だからね。Aの3人目……それが隊長だから」
「そうだったな。我々のコールサイン、アナトラのAは隊長のAだ」
見る見るうちに押されていく装騎ラガッツァ。
「P4、軍に戻るなら今が最後のチャンスだ。戻ってこないかい?」
「嫌です。わたしには、やりたいことがあるから!」
「ボクたちアルバに自由はない。いや、あってはならない」
「道具として、兵器として作られた人間だから!?」
「戦場以外に――居場所はないんだ」
キツい言葉と共に、キツい一撃が装騎ラガッツァにお見舞いされる。
装騎ラガッツァの左腕が吹き飛び、宙を舞い、そして地面に落ちた。
「どうしても聞き入れないのなら――ここで死んでもらう」
「撃て!!」
不意を突いて放たれたバーストライフルの弾丸。
その一撃を、A3の装騎ケレースは驚異的な反応速度で回避する。
「どうやら悪魔装騎とは関係なさそうだけど……」
「戦意のない相手を多数でボコボコですか。いただけませんね」
「あれはロメニア皇国の装騎だな」
何が起きているのかは理解できない。
しかし、ほぼ無抵抗の装騎に対して複数で攻撃を仕掛けるこの状況をスズメ達は見過ごすことはできなかった。
「ゲルダさん、この周囲でのロメニア軍の作戦は?」
「ロメニア軍の作戦展開はありません」
MaTySのデータベースに照会したゲルダがそう報告する。
「ってことは、あいつらがロメニアの正規軍ってことはなさそうってこと?」
「正直、無いとは言えないが」
「極秘任務ってヤツ? ま、それなら――ぶっ飛ばせるわね」
ビェトカの言葉にスズメとゲルダは頷いた。
「念のため殺しはNGだな」
「キツい縛りだわ」
「NGですよ」
「はいはい」
「それじゃあ、ŠÁRKA!」
「行きます!」
「いくぞ」
「DO BOJE でしょうが!」
「はいはい、DO BOJE DO BOJE」
『Gouaaaaaa!!』
一気に駆け出す3騎の機甲装騎と1騎の機甲装牙。
ゲルダの装騎ヴァルキューレが撃ち放つ、バーストライフルを追い風にするように装騎スパローTAと装騎ピトフーイD、装牙リグルが装騎ラガッツァの元へと駆け寄る。
「あなた達は!?」
「ワタシたちはŠÁRKA! 歪んだ権威を叩き潰――」
「援護します!」
「ちょっと!」
驚いたようなピピの声。
そしてその衝撃はアナトラ隊にとっても同様だった。
「キミたちは――何者だ?」
「ただの通りすがりですよ」
「私達はロメニア皇国軍アナトラ隊です。作戦行動を妨害するようであれば容赦はしません」
「いやね、ソレがこの周辺でのロメニア軍の作戦行動は何も予定されてないのよね。分かるっしょ?」
「そーなのか?」
「…………」
アナトラ4の問いにほかのメンバーの言葉が止まる。
その空気だけで、スズメ、ゲルダ、ビェトカは察せるものがあった。
「……キミたち、どうしてもどかないのなら殺してしまうかもしれないよ」
「どうしてもどいて欲しかったら、キチンと状況を説明してほしーわね」
そう言うビェトカの言葉に――
「わたしは、アルバだから」
答えたのはピピ本人だった。
「アルバってあのアルバ!?」
それを聞いたビェトカは驚きの声を上げる。
ゲルダもその瞳を見開いていることからその存在を知っているらしい。
「ビェトカ、アルバって」
「そうね……戦闘用に調整された――まぁ、言うなれば強化人間ね」
「強化人間、ですか……!?」
「私も噂には聞いたことがありますが……実在したとは」
「そうだ。ボク達は戦いしか知らない。戦う以外の価値がない。そんな存在だ」
「ボク達――? アンタたちもアルバなの?」
「ボクはね」
「仲間割れ、ですか」
スズメの言葉にアナトラ1が首を横に振った。
「本来、軍からの離反者は銃殺刑だ。それが強化人間であればなおさらね」
「当然ですね」
アナトラ1の言葉に同意したのは軍属経験もあるゲルダだ。
「つまり、逃げ出した実験動物の殺処分ってワケね」
「彼女が軍に戻らないのならね」
「胸糞悪いッ」
だがビェトカは心からこみ上げる吐き気を投げ捨てるように言い切る。
「アナタは――どうして軍から逃げるんですか?」
スズメがピピへと尋ねた。
「わたしは……わたしは捕まりたくない」
「どうしてですか?」
「……わたしは、パスタを作りたい」
「パスタ!?」
拍子抜けした声を上げるスズメに、ビェトカがニィと笑みを浮かべた。
「気に入った! ワタシは絶対アイツを助ける! 異論はないでしょ?」
「私は、元からないですけど」
「ならばリーダーに従おう」
「と、いう事で交渉決裂! ワタシ達はこの子を助ける、アンタたちを倒す!」
「……後悔するよ」
「どっちがかなぁ~?」
瞬間、装騎ピトフーイDの霊子鎖剣ドラクとアナトラ1の超振動グラディウスが交差する。
「隊長、援護します!」
その一撃を合図に、アナトラ2、アナトラ3、アナトラ4がストライダーライフルを構え、装騎ピトフーイDに向かって一斉射撃。
「スパロー、ホープムーン・バリア!」
「ゆっくり、落ち着いて……」
装騎ピトフーイDの背後から放たれた2条の銃撃を装騎スパローTAがアズルで防ぎ、正面へは装騎ヴァルキューレが静かにバーストライフルを構え撃った。
「ッ! 隊長……ッ」
アナトラ3の銃撃が装騎ピトフーイDを捉えるより早く、装騎ヴァルキューレの銃撃が的確にアナトラ3の装騎ケレースの四肢を打ち抜き行動不能にする。
『Gauoa!!!』
更に、装騎スパローTAのホープムーン・バリアの輝きを陰に、装牙リグルがアナトラ2、4へ駆け出した。
「青磁鋼の獣!?」
瞬間、アナトラ4の四肢が装牙リグルに喰い千切られ機能を停止する。
「それじゃあ、そのリーダーっぽい人は任せますよ!」
スズメはそう言うと、装騎スパローTAをアナトラ2へと走らせた。
「任せんさい! パッと活躍してアゲル!」
「そう簡単に……いくかな?」
アナトラ1の超振動グラディウスが閃いた瞬間……そこに装騎ピトフーイDはいなかった。
「これは!?」
さすがのアナトラ1も驚きが隠せない。
「ステルス騎を見るのは初めて? あ、今は見えないんだっけ」
装騎ピトフーイDは霊子鎖剣ドラクと両腕の懲罰の鞭とを自在に操り、あらゆる方向からアナトラ1を攻め立てる。
「巻いていくわよ!」
アナトラ1の両腕が懲罰の鞭に絡め取られた。
そして……
「BLESK!!」
ビェトカに応え、懲罰の鞭がアズルの輝きを放つ。
アナトラ1はその機能を停止した。
「ありがとう……助かったよ」
スズメ達はピピを連れ、一先ず最寄りの秘密基地へ戻って来ていた。
「あ、アナタは……」
「スズメの知り合い?」
「と言いますか、アナヒトちゃんが気に入ってるパスタ屋の人……です」
スズメの言葉にピピも「ああ」と思い出す。
「あの子の友達だよね。そうだ、見覚えがあるよ」
「アンタ、マジでパスタ作ってたんだ……」
「美味しいですよ、ロレンツォのパスタ」
「一度味わってみたいですね」
「それにしても……ここは何です? 君たちも……ŠÁRKAと言っていたよね」
その疑問も尤もだ。
突如現れ、アルバ率いるチームも倒し、更にこんな秘密施設。
疑問が無いわけがない。
「ワタシはピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ」
「フェヘール・ゲルトルード」
「そして、ワタシ達のリーダー」
「サエズリ・スズメです」
「指名手配されてる?」
「えっと……はい」
その言葉にピピは逆に合点のいった表情を浮かべる。
「つまりここは、憲兵から逃げるための隠れ家というわけだね」
「そうなりますね」
ピピは少しなにかを考えるような素振りを見せた後、言った。
「君たちは、何をしているのかな? 国から追われて、こんな基地に隠れて、かと思えばわたしを助けに現れた……よければ、話してもらえないかな」
スズメはビェトカとゲルダへ視線で問いかける。
2人は「リーダーに任せる」と言うように静かにスズメを見ていた。
「わかりました……話しましょう」
スズメは今までの経緯を話した。
偽神教にアナヒトがさらわれたこと。
ビェトカたちと協力して戦ったこと。
偽神教の背後にあるスヴェト教団のこと。
嵌められて指名手配されたことに、今でもスヴェト教団の野望を潰すために戦っていること。
「信じられる話じゃ……ないと思いますけど」
世間一般的にはスズメ達は犯罪者扱い。
実際、国に指名手配されてしまっているのではそう思われるのも無理もない。
そんなスズメの口から出た、これまた荒唐無稽なお話……普通は狂人の世迷言だと一蹴されてしかるべきだ。
しかし、ピピは言った。
「信じるよ。君たちを……そして、うちのお得意様を」
ピピは更に言葉を続ける。
「君たちの状況は分かったよ。だから、わたしも君たちの力になりたい」
「…………え?」
急な申し出にスズメは思わず声を上げた。
「今の君たち……ŠÁRKA、だっけ。たった3人で」
「にゃあ」
「……3人と1匹で戦っているんだよね。国を相手に」
「一応、私の友人達が助けてくれているので……」
「ま、確かに猫の手も借りてるくらい人手不足だけんねー」
「そうだよね? ならばこの申し出は悪いものしゃない。そう思わない?」
「ですけど……あの、ピピさんはパスタを作りたいんですよね。ŠÁRKAに入るってことは……」
「わたしだって君たちと同じだよ」
ピピの言葉にスズメは首をかしげる。
「例え今、わたしが店に戻っても、またあの捕獲チームから追われる身になるだけだよ。そう考えると、身を隠すための基地に身分が貰えて、おまけに恩も返せる。最高の条件だと思うよ」
そう、ピピだってロメニア皇国軍から追われる身。
「わたしはアルバだ。戦いこそ本分だしね」
「ワタシは良いと思うよ。人手不足は実際そうだし、新しく仲間になるんだったらこれ以上戦力になって、家族の心配しなくていいなんて好都合ジャン」
「本人たっての希望でもありますからね。私も賛成だリーダー」
「そうですね……分かりました」
ビェトカとゲルダの後押しもあり、スズメは頷いた。
「ピピさん、私達はアナタを歓迎します」
「ありがとう」
ピピは、差し出されたスズメの手を微笑みながら握り返す。
「それでは隊長」
「?」
「早速で悪いですけど、一つ、任務をお願いしたいです」
SSSSS~第七回~
憲兵「憲兵長宛にお手紙です」
アラモード「わたしに、ですか?」
受け取った手紙をおもむろに開く。
アラモード「この手紙……アルジュビェタさんから!」
"アホイ、アラモード! ワタシの手配写真見たわよ。何よアレ、何なのアレ!? あんな映り最悪の写真じゃワタシのイメージがた落ちジャン! と、いう訳で可愛く盛ったキラキラ写真データを送ります。ソッチの方を手配書に使ってね☆ 死毒鳥"
アラモード「(絶句)」
アラモード「い、いえ、アルジュビェタさんが危険を冒してまで送ってくれた手紙とデータ! きっと意味があるはず……このフォトデータ、写真にしては容量が多いですしきっと何か、何かが!」
~数時間後~
アラモード「何か……な、なに…………加工し過ぎで容量かさんでるだけじゃないですかァー!!!!」
結論、何もありませんでした。