第15話:Něm se Shromáždí Sláva i Čest
Něm se Shromáždí Sláva i Čest
-栄光と誉れとを携えて都に来る-
突如、悪魔装騎たちに降り注いだ火炎の雨。
「魔術? ……ううん、何か違う」
その業火に、スズメはどこか見覚えがあった。
「アンタは――アモン!!」
フクロウを模した凛々しい姿。
炎を身に纏い、歩いてくるのは天使装騎アモン。
スズメとビェトカが指名手配をされるきっかけとなった因縁のある相手だ。
「あれも、悪魔装騎か!?」
「いえ――"天使"を自称しています……ですが」
『自称とはなんですか! 正義を愛する熱い心の天使装騎アモンさんです』
天使装騎アモンはそう言いながら、指をビッと悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパー、悪魔装騎オロバスへと伸ばす。
すると、背後でスタンバっていたドンナー型装騎部隊が魔電霊子砲を構え、悪魔装騎目指して撃った。
「あの装騎たち――悪魔装騎を攻撃してるぞ」
「どういう――つもりなんでしょう」
状況がうまく理解できないゲルダに、敵だと思っていた天使装騎アモンが悪魔装騎たちへ本気の攻撃を加えるのを見て困惑するスズメとビェトカ。
『天使装騎アモンの輝きは悪を嫌うッ!』
『チッ、厄介な/ぶっ倒しちゃってもいいんでしょ? LAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
天使装騎アモンの膨大な熱量を持った光線と、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーの衝撃音波がぶつかり合う。
『助けに来て早々こんななんて、運がお悪い!』
悪魔装騎オロバスは自嘲気味にそう言うと、一気に跳躍した。
瞬間、背中から管のようなものが盛り上がってくると、そこから魔力を放出。
天使装騎アモンに向かって飛び蹴りを放つ。
「あーもう、どうとでもなれ!」
そう叫んだのはビェトカだ。
装騎ピトフーイ・ディクロウスの霊子鎖剣ドラクをワイヤーソード状態で薙ぎ払い、悪魔装騎オロバスの右足に巻き付ける。
「馬の一本釣りィ!」
『バカか!』
「馬に言われたくないわ!」
だが実際、悪魔装騎オロバスがそう言ったのも間違いではなかった。
装騎ピトフーイDに足を絡めとられ、天使装騎アモンへの攻撃を逸らされた悪魔装騎オロバスだったが、今度は標的を装騎ピトフーイDへと切り替える。
背中から生えた管が蠢き、方向を変えた。
すると、悪魔装騎オロバスの軌道もまた変わる。
標的はもちろん装騎ピトフーイD。
「うわっ、ヤバッ!?」
霊子鎖剣ドラクを解こうにも悪魔装騎オロバスのスピードは圧倒的。
「跳躍戦闘なら――負けません!」
そこに装騎スパロー・トライアゲインが一気に駆け抜けてきた。
「ムニェシーツ……ジェザチュカ!」
両使短剣サモロストにアズルを据えた装騎スパローTAの一撃が空中で閃く。
装騎スパローTAと悪魔装騎オロバスの攻撃がぶつかり、そして弾けた。
「まだです!」
地面に急降下した装騎スパローTAは思いっきり踏ん張ると、再度跳躍。
『もう一打ちか!』
空中で自由落下する悪魔装騎オロバスも管から再び魔力を吹き出すと、空中で態勢を整え加速する。
「ムニェシーツ・アルテミス!」
装騎スパローTAは両使短剣サモロストを正面に構え。
『技名か! ならば、オロバスキーック!』
そして2度目の衝突。
「行って、ヤークトイェーガー!」
だが、スズメはさっきと同じ結果にするつもりは毛頭ない。
ヤークトイェーガーにアズルの輝きが灯ると、ブースト機能が起動する。
それは装騎スパローTAを加速させるため、ではなかった。
加速が最大まで高まった瞬間に、ヤークトイェーガー装甲が装騎スパローTAからパージされる。
瞬間、装騎スパローTAの頭部、胸部、両肩、両腕、両膝、両足からアズルの刃が放たれた。
『小石程度――――何っ!?』
ヤークトイェーガーによる特攻攻撃も容易く蹴散らす悪魔装騎オロバスだが、その先に――装騎スパローTAの姿がない。
そう、ヤークトイェーガーによる攻撃はあくまで悪魔装騎オロバスの目を逸らせる為のもの。
装騎スパローTAの姿は――――悪魔装騎オロバスの真下にあった。
『!!』
それに気づいた時には――
「遅いです! ムニェシーツ・ロンゴ、ミニアド――――!!!!」
アズルの閃光が悪魔装騎オロバスを吹き飛ばしていた。
『ULLLAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
『天使装騎アモンは煩雑を嫌う!』
悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーの衝撃音波に、天使装騎アモンはその手に持った杖を振り払う。
その杖先に誘導されるように、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーの音波が捻じ曲げられ、明後日の方向へと消えていった。
『まだだ!』
悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーはそれを見送った天使装騎アモンの目の前へ悪魔装騎キメジェスの瞬足で距離を詰める。
そして、手に持った突撃槍の一撃。
――は、天使装騎アモンに軽くかわされた。
それどころか、天使装騎アモンに足を引っかけられた悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーはつんのめる。
『天使装騎アモンの刃は閃く』
地面を転がる悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーを追いかけ、その手に持った霊子杖ワセトの仕込み刃で一閃。
『さすが使徒だ……格が違うッ』
『使徒のことを知っているのか?』
『まぁな/しょーがないけどぶっ飛ばすわYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHH!!!!』
一瞬の隙を突き、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーの衝撃音波が天使装騎アモンを吹き飛ばす。
その威力は絶大のはず。
『不意打ちか! いいじゃあないか!』
ダメージを負った天使装騎アモンだったが、むしろ楽しそうに言った。
『だけどイマイチじり貧ですねぇ……お、そうだ』
一瞬、宙を見上げた天使装騎アモンは何かを思いつく。
『ソッチの馬さんをコッチまで運んでもらっていいかな?』
「馬? ……しょーがないわね!」
天使装騎アモンの意図を察したビェトカは、装騎スパローTAへと巻き付けていた霊子鎖剣ドラクを解いた。
そして、ムニェシーツ・ロンゴミニアドの一撃で地面へ落下する悪魔装騎オロバスを縛り上げる。
「癪だけど……手荒に行くわよ!」
『どんと来なさい!』
装騎ピトフーイDの手によって悪魔装騎オロバスがハンマーのように悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーへと叩きつけられた。
『天使装騎アモンの輝きは邪なるモノを焼き払う!』
天使装騎アモンの追い討ちで、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーと悪魔装騎オロバスは炎に包まれる。
『HUURRRLAAAAAAAAAA!!!』
炎の中でもがく悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパー。
その音波が炎と押し合い、せめぎ合った。
『逆折れくん、あと一押し……お願いしてもいいかな!』
「アンタ、ドサクサに紛れてスズメを燃やそうってんじゃないでしょうね!?」
天使装騎アモンの言葉にビェトカが疑いを込めて尋ねる。
『そんなことはしない!』
そう言う天使装騎アモンだが、ビェトカはイマイチ信用できない。
「わかりました。やりましょう」
「スズメ!」
「ビェトカ、跳躍に合わせてワイヤーでスパローを悪魔装騎にぶつけてください!」
「……分かった! スズメを信じてやるわ!」
頷くと装騎スパローTAは高く跳躍した。
そこに、装騎ピトフーイDの霊子鎖剣ドラクが絡まり、装騎ピトフーイDが引く勢いと、落下するスピードに乗せて……
「スパロー!」
「ピトフーイ……ッ」
「「ゴルディアス・ブレイク!!」」
装騎スパローTAが振り下ろされる。
両使短剣サモロストに光の灯った鋭い一撃が、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーとオロバスを消し飛ばした。
「なんとか――倒せましたね」
「まだよ」
装騎スパローTAと装騎ピトフーイDは天使装騎アモンと向き合う。
たまたま共闘するような形になったとはいえ、本来、スズメ達と天使装騎アモンは敵同士。
憲兵と言う立場からも、指名手配犯を見逃す道理はないはずだ。
「まともに戦って勝てるかって言ったらビミョーかな?」
「どうでしょう……ですけど、今仕掛けるのは得策じゃない気もしますしね」
「一先ず撤退、か。さて、どう逃げる?」
張り詰められた緊張の糸。
互い互いにどう動くかを探り合っているような空気。
その空気を最初に壊したのは――――天使装騎アモンだった。
「動っ……って、へ?」
ビェトカが拍子抜けしたような声を上げる。
2人の目には、両手をヒラヒラと掲げる天使装騎アモンの姿が映っていた。
『戦いは終わり。わたしは退く。だから、お二方も退きなさい』
天使装騎アモンは言ったのだ。
"戦う意思はない。だから、ここから逃げろ"と。
「見逃すっていうの?」
『見逃す――と言いますか、キミ達のお陰でたくさんの人達が何事もなかった。その借りを返すだけさ』
その意思を表すように、天使装騎アモンの指示で駆逐装騎ドンナー隊も武装解除している。
天使装騎アモン自身も、霊子杖ワセトを地面に突き刺した。
「ここはお言葉に甘えましょう」
スズメにビェトカがうなずく。
「お心遣い、感謝します」
装騎スパローTAは軽くお辞儀をすると、その場から去ろうと――
「待ってください」
したその時、装騎ヴァルキューレ――ゲルダが声をかけてきた。
「私もスズメ達と行かせてくれ」
「ゲルダさん、気持ちはうれしいですけど……でも」
「分かってる。私まで巻き込みたくないと言うんでしょ」
スズメは頷く。
ゲルダだって色々やらなければいけないことがあるはずだ。
それにそもそも――彼女にはスズメ達を助ける理由がないではないか。
「理由ならある。スズメが危険な目にあったら――レミュールさんが悲しむ」
「あっ」
スズメの師匠であり、ゲルダの母親であり姉のような存在であるブリュンヒルド・レミュール。
彼女の名前にスズメは思わず目を伏せる。
「私程度の力じゃ彼女の代わりにはなれないけど……無理やりにでもついていかせてもらうぞ」
ゲルダの意志は固い。
それを感じたビェトカが口を開いた。
「で、そのゲルダって強いの?」
「実力はトップクラスです。それに……その、元々、ですね」
何か言いにくそうに口ごもるスズメ。
代わりにゲルダ本人が話す。
自分の過去を。
「私は元マジャリナ王国軍アールミン隊所属フェヘール・ゲルトルード」
「アールミン隊!?」
ビェトカはその名前に覚えがあった。
元々ルシリアーナ帝国の傭兵としてマルクト神国と戦っていたビェトカは、同じく対マルクト国家であるマジャリナ王国とも作戦を共にしたことも多い。
となれば、通称「英雄部隊」と名高いアールミン隊の名前はよく耳にしていたのだ。
「なるほどね。"英雄部隊"所属なら実力も十分か。それに試合じゃなくて実戦闘経験者となれば」
「はい。お役に立てると思いますが」
「そうね。これ以上言っても無駄そうだし、もう連れて行っていいんじゃないの?」
そんな言葉にどこか気乗りしない様子のスズメ。
だが、なんとか
「はい」
と声を絞り出した。
『話が長いよ。帰るなら早くしなさい。国軍本隊が出てきたら逃がしようがなくなるんだから』
会話の内容は聞こえてないだろうが、思ったよりも行動の遅いスズメ達に天使装騎アモン焦れている。
「すみません。ここは退きます」
『そうしなさい。次に合った時は逃がしたりしませんからね』
その場から退くスズメの装騎スパローTA、ビェトカの装騎ピトフーイD、ゲルダの装騎ヴァルキューレ。
追手がいないかの確認をしながら、近くの秘密基地に向かむその途中。
「ゲルダさん……記憶、戻ったんですか?」
スズメがポツりとそんなことを口にした。
「一通りは」
ゲルダとスズメには因縁があった。
彼女が所属していたアールミン隊を壊滅させたのはスズメと当時のチーム・ブローウィングだったからだ。
結果、アールミン隊はゲルダを残して全滅。
生き残ったゲルダはたまたまレミュールに匿われるが、一時期記憶喪失になっていた。
「それなのに、私達に手を貸してくれると言うのは――どうして」
「レミュールさんの為というのは確かにあるが、思ったんだ。きっとスズメも私と一緒だって」
「…………はい」
グローリアの秘密基地。
「せっかく仲間も増えたことだし、ここは気分を切り替えてチーム名とかつけよージャン!」
「…………は?」
基地に戻ってそうそう、そんなことを言い出すビェトカにスズメは心からの困惑を口にする。
「何その反応。スズメならノってくれると思ったのに」
「ええっと……いや、まぁ、言いたいことは分かるんですけど」
「チーム名、つまりは部隊名ですか。そうですね、統率を高めるためにもいいかもしれない」
「お、アンタが乗り気なのは意外」
ゲルダの背中をビェトカがポンポンと叩く。
顔をしかめるゲルダを無視してビェトカは言った。
「それにローラ達と協力したりもするんでしょ? それならちょっとは組織的な構成にしてればやり取りがスムーズになると思うしね」
「組織的なって何ですか? 階級とか作ります?」
「そこまでは言わないけど、チームリーダー――つまり代表者くらい決めとこうって話」
「なるほど。一理ある」
「ビェトカもそういうマジメなこと考えてるんですねぇ」
「ワタシはいつもマジメじゃん!?」
(……とは言っても、実際テキトーにやってローラの愚痴を聞かされたくないからなんだけど)
どうやらスズメの与り知らぬところで偽神教事件時のチーム構成について色々愚痴を聞かされていたらしい。
「というわけでチーム名! 何にする? ワタシは、ビェトカと愉快な仲間たち! とか良いと思うんだけど」
「良いんじゃないですか?」
「長すぎます! ここは遊撃装騎隊――みたいな名前にしましょう」
「お、良いですね」
「堅苦し過ぎる! もっとオシャレなのがいい!!」
イマイチ趣味が合わないビェトカとゲルダ。
「まぁまぁ、ケンカしないでくださいよ」
「じゃあ、スズメは何て名前にする!?」
「そうですね。まだスズメの案が出てないです」
「私のですかぁ!?」
ビェトカとゲルダにそう振られ、スズメは考え込む。
チーム名。
チーム名……一体どんな名前がいいのだろう。
「じゃあ」
「「じゃあ?」」
「シャールカ、とか」
ふと頭に浮かんだその単語。
それは、昔スズメがレミュールから聞いた御伽噺に出てくる女性の名前だった。
「へぇ」
「ほう」
「えっと……どうですか?」
「良いんじゃない?」
「はい。シンプルですが流麗です」
適当に頭に浮かんだ名前を口にしただけだが、意外とビェトカにもゲルダにも受けがいい。
「でも、どうせなら組織名っぽく"意味"を持たせたいわね」
「意味、ですか?」
「よくあるっしょ? ローラ達の組織MaTySだって"マルクト代表諜報団"って意味だしさ」
Malchut Typisch SpionagedienstそれがMaTySの正式名称だ。
意気揚々と言うビェトカにゲルダはため息をつく。
「はぁ。そういうのは勝手に考えていてください」
「分かった、じゃあ勝手に考える! シャールカの綴りはŠÁRKAだから……」
「というか、チームリーダーは?」
スズメの言葉にビェトカもゲルダも「そうだった」という顔を浮かべた。
「私はゲルダさんとか良いと思うんですけど」
スズメの言葉にビェトカが首を横に振る。
「ワタシは却下。っていうか今日会ったばかりだから合うかどうかわかんない」
それにゲルダも首を縦に振った。
「確かに。私は人を率いるのにはあまり向いてないですし」
「ズルヴァンモールでは防衛隊を上手に指揮してたじゃないですか」
「これは私見だけど……指揮と率いるというのは違うんだ。特に、私達の、シャールカのような組織だと」
「それはちょっとわかるな」
「そうなんですか?」
ゲルダとビェトカの言葉の意味がスズメにはちょっとよくわからない。
「確かに私達は組織として動こうとしている――だが、軍やそういう組織とは違う」
「そうね。多分、シャールカのリーダーに一番求められるのは"信頼"ね。他人からの信頼、仲間からの信頼、それを受け止められる人が良いわね」
「私は軍師にはなれるかもしれないが、リーダーにはなれない。だから私は辞退したい」
「それならビェトカが良いんじゃないですか」
「ワタシもパス。ワタシはそもそも利のある方についてナンボの傭兵様よ」
「それは昔のことじゃ……」
「それにワタシは人の話が聞けない」
「確かに」
「でしょ?」
「でもそうなると……あれ?」
ビェトカとゲルダが心なしかいい表情で顔を向けてきている。
「大丈夫。どうせ形だけだからさ。ローラ達と連絡とり合ったりね」
「そうですね。重大な雑務があるわけでもありません。私も補佐として付きますし」
「ええっと?」
「と言うわけで多数決だけど、スズメがリーダーで依存ない人ー」
右手を上げるビェトカとゲルダの姿にスズメは、
「ええー!!??」
叫ぶだけしかできなかった。