第14話:Nepotřebuje ani Slunce ani Měsíc
-Nepotřebuje ani Slunce ani Měsíc-
それを照らす太陽も月も、必要でない
「助かりました。ローラさん」
ビェトカの隠れ家――その1つに戻ってくることができたスズメはそう言う。
「全く、せめて私たちと合流するまで待てなかったのですか!?」
ハァと深いため息を付きながら、頭を押さえるのはミラ・ローラ。窮地に陥ったスズメとビェトカを助けたのはローラの装騎スプレッドだった。
あの後、ローラの風魔術によって天使装騎グレモリーと装騎ドンナー部隊を足止め。
その隙にその場から離脱することができたのだ。
「そうは言っても、ほっとけないっしょ。アンタだってワタシたちが絶対フランクフルトにいるって思ったから来たんでしょ?」
「その通りなのは確かです。ですが、まさか本当に……いいえ、それくらいにしとくわ」
散々な付き合いから、言っても無駄だとしっかり理解しているローラは話を本題へと切り替える。
「貴女たちがすでにやらかしてしまったと言う事実はどうしようもありません。とりあえず今は最善を尽くしましょう」
「最善って?」
「貴女たちには私たちグローリアが使っていた極秘施設を貸与します」
「つまり、秘密基地ですか?」
「はい」
ローラが過去に所属していた組織グローリア。
それは、スーパーコンピュータ・シャダイに支配されるマルクト神国を快く思わない者たちが結成した反シャダイ派組織だった。
当時、組織のリーダーであったコンラッド・モウドールが革命を経てマルクト共和国トップとなったことか
ら今では「体制側」の組織となったグローリアだが、過去は反体制派の組織。
そうでありながら、国内で活動を可能としたのがその秘密施設の存在だ。
「案内しましょう。私たちグローリアの基地へ」
グローリアの秘密基地――その1つはビェトカの隠れ家からそう遠くない位置にあった。
「私たちグローリアは様々な地域に施設を作っていました。それらの基地を繋ぐ移動手段として地下輸送ルートも確保されています」
それだけの施設をシャダイコンピュータの目を掻い潜り用意していたというグローリアの組織力の高さ、技術力の高さが垣間見えるその地下施設にスズメもビェトカも驚きを隠せない。
「さすがは"神を殺した"組織ってだけはあるジャン」
「これから暫く、貴女たちには私たちグローリアの秘密施設と秘密ルートを利用しての悪魔装騎討伐任務に就いてほしいと思っています」
「地下でコソコソしながら悪魔装騎を倒す――ってワケ?」
「そうなりますね。ですが、モウドールが偽造IDを作成中ですから、それが届けば地上でも多少は活動できるようになります」
「つまり、変装ですね!」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
「いや、こんな状況で不謹慎ですけど、でもどう足掻いたって変装なんて燃えるシチュエーションじゃないですか!」
「そうですか?」
「確かにね! ワタシも経験たくさんあるから分かるよ分かる。よぉ~くわかる!」
「ハァ……全く」
スズメとビェトカの能天気な言動にローラの頭が痛む。
反面、こういうところが彼女たちの強さの元なのだと何故かそう感じていた。
「何とか早急にスヴェト教団と偽神教の繋がりを探り出し、貴女たちを自由にして見せます」
「私たちも、ローラさんたちに協力できることがあれば……協力したいです」
「そうね。貴女たちがスヴェト教団への攻撃を、私たちはその関係性の調査を続ける――ということでいきましょう」
ローラの言葉にスズメとビェトカは頷く。
「そうだ、ワタシ達の装騎も持って来てくれた?」
「勿論。格納庫まで案内しましょう」
スズメ達がグローリアの秘密施設を使い始めて4日後、6月18日日曜日。
悪魔装騎出現の情報もなく穏やかだった日常が打ち壊される。
大型商業施設ズルヴァンモールのプラハ店――そこは喧騒に包まれていた。
ŽLAAAAAAAAA!!
地に響くほど低く、大気を狂わすほどに甲高い破壊の音波が大地を抉る。
「あれが……悪魔装騎ってやつなの」
『そう、あたしは悪魔! 悪魔アムドゥシアス!!』
まるで自らの存在を誇示するように、声高らかに名乗ったのは一本角が特徴的な悪魔装騎アムドゥシアス。
「第2防衛隊、側面から回り込みなさい!」
「はいっ!」
リーダー格と思しきシュテル型装騎の指示を受け、アブディエル型、シャムシエル型、ベルゼビュート型と種類も武装もバラバラな装騎たちが悪魔装騎アムドゥシアスへと挑む。
彼女らはマルクト国軍でもなければ憲兵団でもなんでも無い。
この悪魔装騎アムドゥシアスの襲撃にたまたま居合わせた人々だった。
「無理はしないで。死んでは元も子もない」
「わかってますよ! わかってますけど」
『ŽLAAAAAAAA!!!!』
「きゃあっ!?」
悪魔装騎アムドゥシアスの衝撃音波にアブディエル型装騎が弾き飛ばされ、錐揉みした後地面に倒れ臥す。
『向かって……来ないで!!』
どこかヒステリックにも感じる叫び声と共に、悪魔装騎アムドゥシアスがアブディエル型装騎を睨みつけた。
『ŽLLLAAAAAAHHHH』
そして、トドメの一撃と言わんばかりに鋭い音波を撃ち放つ。
「アブディエル型の一本釣りよ!」
地面に伏して身動きしないアブディエル型装騎が突如、地面を這いずり飛び上がった。
よく見ると、アブディエル型には一本のワイヤーが。
「助けに来ましたよ!」
「真打登場ってね」
その場に現れたのは、スズメの装騎スパロー・トライアゲイン。
そして、ビェトカの装騎ピトフーイ・ディクロウスだった。
「あの機甲装騎……スパロー?」
「シェテル型――装騎ヴァルキューレ……まさか、ゲルダさん?」
「やっぱりスズメか。助かるわ」
ズルヴァン・プラハモールを防衛する有志隊を指揮していたリーダー格。
それはスズメの実家近くにあるプラモ屋ヒンメルの現店長を務める女性フェヘール・ゲルトルード、その人だった。
ズルヴァンモール内にはこのプラモ屋ヒンメルの2号店があり、恐らくは店長であるブリュンヒルド・レミュールに留守の間を任されていたのだろう。
「あのイッカクが悪魔装騎っぽいわね」
『イッカク!? 今、あたしのことをイッカクって言った!!??』
「なんかヒステリックなイッカクですね」
『またイッカクって言った! あたしはユニコーン! どこからどう見てもユニコーン!』
「悪魔ユニコーン?」
『悪魔装騎アムドゥシアス!!!! あぁぁあああもう、あんた達ぶっ飛ばしてやるんだか、LAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
瞬間、激しい音が耳をつんざくと同時に、空間を、大地を走った。
「あの衝撃音波、魔電霊子を吹き飛ばしてくるわ。気を付けて」
「と、いう事はアズル防御はできないってことですね」
「あー、ハイドラと同じ系統かぁ」
『ŽLAAAALALAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
「でもま、技自体は単調だし何とかなりそーだわ!」
「はい! ゲルダさん、指示をお願いします!」
「私が?」
「防衛隊を今まで率いてたのはゲルダさんです。お願いします」
スズメの言葉にゲルダは頷く。
そして、一瞬の思索をした後に言った。
「一先ず、敵を施設から引き離したいわ。スズメ、囮を頼める?」
「はい!」
ゲルダの指示にスズメは頷くと、装騎スパローTAは弾けるように跳び出す。
「イッカクさん、コッチですよ!」
『あたしはユニCOOOOOOOOOOORRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!』
装騎スパローTAが悪魔装騎アムドゥシアスを釘付けにしてる間に、ビェトカとゲルダは作戦を立てていた。
「それでは、私達も行きましょう」
「そうね。ド・ボイェ!」
悪魔装騎アムドゥシアスが放つ衝撃音波の威力はかなり高く、例え背後からであっても攻撃中に接近するのは危険。
それもあって、装騎スパローTAも攻めあぐねている。
「乱れ撃ち……っ」
そこにゲルダの装騎ヴァルキューレが駆け込んで来た。
両手に持ったバーストライフルを悪魔装騎アムドゥシアスに撃ちまくりながら走る。
『小雨ェ!』
装騎ヴァルキューレに向けて放たれた衝撃音波を、ゲルダは横っ飛びに転がるようにして回避した。
その脇を抜けていくように、現れ出た装騎ピトフーイD。
装騎ヴァルキューレと装騎ピトフーイDで悪魔装騎アムドゥシアスを挟み撃ちにするように、二手に分かれる。
「いけ、ドラク!」
装騎ピトフーイDが霊子鎖剣ドラクをワイヤーソード状態で振り放った。
『!!』
伸びた霊子鎖剣ドラクのワイヤーが悪魔装騎アムドゥシアスの左手を絡めとる。
「終わりません」
そして装騎ヴァルキューレがバーストライフルを撃ち放ちながら、悪魔装騎アムドゥシアスの周囲を一巡。
バーストライフルの威力では悪魔装騎アムドゥシアスに大きなダメージを入れるのは難しい。
だが、突如、悪魔装騎アムドゥシアスの体にワイヤーが巻かれ、縛り上げられた。
それは装騎ピトフーイDと装騎ヴァルキューレを結ぶ一本のワイヤー――そう、ビェトカとゲルダの2騎は悪魔装騎アムドゥシアスを縛るために最初から互いをワイヤーで結んだ状態で戦っていたのだ。
『こんなの……LAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
激しく周囲を震わせる悪魔装騎アムドゥシアスの衝撃音波。
「ぐぅううううう」
「すさまじいですね……」
その波にワイヤーを弾き飛ばされないように、装騎ピトフーイDと装騎ヴァルキューレは思いっきり踏ん張る。
『GLLAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
次第に悪魔装騎アムドゥシアスの足元に罅が入り、捲れ上がり、削られていった。
「ありったけのアズルを注ぎ込めば、アズルを剥がす音波だろうと少しくらい時間稼ぎができる――はずッ」
「銃弾が弾かれる……何とか止められないのか」
「私も――ムニェシーツ・ロンゴミニアド!」
スズメの装騎スパローTAも悪魔装騎アムドゥシアスの背後目がけて両使短剣サモロストからアズル砲を放つ。
しかし、ムニェシーツ・ロンゴミニアドの一撃も巻き上がる竜巻のようにもなっている衝撃音波に掻き消されてしまう。
「まだよ、まだ! 耐えればきっと……」
『ULLLAAAAAAAA、LALAAAAAAAA、AAAAAAAAAAAAAHHHH!!』
ビェトカの言葉通り、一瞬、悪魔装騎アムドゥシアスの衝撃音波が途切れたのを感じた。
アズルを掻き消し、空間をも抉るような威力を持つ悪魔装騎アムドゥシアスの衝撃音波――それはかなりの力を消耗するはず。
これまでの悪魔装騎と同じく、この悪魔装騎アムドゥシアスも戦い慣れている感じがしないということもあり、スズメ達はスタミナ切れにかけていたのだ。
『LA、LALAALALAAAAAAAAAAAA……ッ』
「スズメ!」
「モチロン!!」
途切れ始めた音波の渦の中に、装騎スパローTAは飛び込む。
「スパロー、ブーストブリット!」
スズメの叫びに呼応するように、限界駆動に突入した装騎スパローTA。
その全身に纏う加速機能付き追加装刃がアズルを吹き出し装騎スパローTAを後押しした。
『ひっ……HYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!??』
一気に接近した装騎スパローTAに、悪魔装騎アムドゥシアスは冷静さを欠いたような悲鳴を上げる。
「負け――ません!」
体中、装騎中を伝う振動にスズメは歯を食いしばり、思いっきりアズルを放出した。
悪魔装騎アムドゥシアスの衝撃音波を押し切った装騎スパローTAの一撃は――――
『Guあぁっ!?』
だが、衝撃音波によって僅かに軌道を逸らされる。
「いや、ナイスよスズメ!」
悪魔装騎アムドゥシアスは装騎スパローTAの攻撃で仕留めきれこそしなかったが、身体の一部にダメージを受け、さらに地面に伏していた。
そこをチャンスと装騎ピトフーイDが霊子鎖剣ドラクの刃をアズルで伸ばし、大きく掲げる。
「王手!」
その手に掲げた霊子鎖剣ドラクが振り下ろされようとした瞬間――
「Achッ!?」
装騎ピトフーイD――その体に、高速の何かがぶつかった。
「新手か!」
黒い影のようなその姿に、装騎ヴァルキューレがバーストライフルを撃ち放つ。
「また馬面!?」
ビェトカの言う通りその影は、人型の黒馬のような姿をしていた。
黒馬は装騎ヴァルキューレから離れるように銃撃を掻い潜る。
そして、突撃槍を構え今度は装騎ヴァルキューレへと一気に距離を詰めた。
『散れっ』
「させない!」
そこで動いたのは装騎ピトフーイD。
装騎ヴァルキューレと繋いだワイヤーを思いっきり巻き取り、引っ張り上げ装騎ヴァルキューレの回避を手伝う。
『やるじゃあないか』
『あ、あんた……キメジェス!』
新たに現れた黒馬のような悪魔装騎――その名はキメジェス。
見ての通り、その特徴は瞬足――
「この前の――セエレとちょっとかぶってますね」
「ていうか寧ろ下位互換ジャン?」
『アムドゥシアス、力を貸そう』
『チッ、仕方ないわね』
ではない。
瞬間、悪魔装騎キメジェスの体中が開いた。
そこに悪魔装騎アムドゥシアスが吸い込まれるように収まる。
「合体ですか!?」
合体――というよりは装着だろうか。
悪魔装騎アムドゥシアスが、悪魔装騎キメジェスを鎧のように着込んだのだ。
その姿はどこか一本角の騎士のようにも見える。
『ここからアンコールよ!』
アムドゥシアスの言葉と共に、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーが悪魔装騎キメジェスの瞬足で一気に駆け出した。
味方の鎧となり兵士とする能力――それが悪魔装騎キメジェスの能力だったのだ。
『戦いは任せろ。キサマは歌でも歌っておれ』
『はいはい。そーさせてもらうーWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
衝撃音波の波に乗るように悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーは突撃槍を構え高速で駆け抜ける。
「うわっと! なんつー破壊力ッ!」
悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーが走り去った後には、綺麗に抉り取られた大地の痕。
まともに喰らえばタダでは済まないだろう。
再度、スズメ達へと狙いを定めた悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーは駆け出した。
「スパロー! レイ・エッジ!!」
装騎スパローTAは全身のヤークトイェーガーに光を灯すと、数条の魔電霊子砲を撃ち放つ。
『LAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
だが、アズルはアムドゥシアスの衝撃音波で掻き消されてしまう。
「オツァス・ドラカ!」
「ロー!!」
装騎ピトフーイDの霊子鎖剣ドラクの一振りも、装騎ヴァルキューレのバーストライフルの連射も音波と、駆け抜けた勢いで弾き飛ばされてしまった。
『真打登場! ってアレ? 思いの外優勢か?』
更にタイミングの悪いことに、更にもう一体ーー悪魔装騎と思しき装騎が姿を見せる。
「また馬面! ダービーですか!?」
『キサマは、オロバスか』
『悪魔装騎オロバス! 仲間の為なら即参戦さ!』
悪魔装騎アムドゥシアス、キメジェスに続いて、また馬のような様相の悪魔装騎オロバス。
「数の上では……互角ぅ、かな?」
「防衛隊を呼びますか?」
「いえ……悪魔装騎相手に数だけ増えても意味ないです。ですが……手は必要ですね」
『ならば手を貸そう!』
不意に響いた声。
瞬間、悪魔装騎アムドゥシアス・トルーパーと悪魔装騎オロバスに向かって炎の塊が降り注いだ。
SSSSS~第三回~
スズメとビェトカが指名手配された直後の話。
ゲルダ「これは……」
レミュール「スズメちゃんが指名手配だなんて……何かの間違い、よね」
ゲルダ「……私もそう思います。彼女がレミュールさんを心配させるようなこと……するはずがないです」
レミュール「そう……よね…………。でもあの子昔からやんちゃで向こう見ずなところがあるから、心配だわ」
ゲルダ「きっと、きっと大丈夫です」
そして、時が経ちズルヴァンモールへの襲撃。
ゲルダ(スズメはあの悪魔装騎と言う奴らと因縁があるようだ。となれば、ここで戦えばきっと……きっとスズメと会えるはず。レミュールさんを悲しませるのは、いけないっ!)
ゲルダ「私はあの敵と戦う。ついてきてくれる人はいないか?」