第11話:Smýšlení Ducha k Životu a Pokoji
Smýšlení Ducha k Životu a Pokoji
-霊の思いは命と平和であります-
「ステラソフィアとアクア・ガルテンのコラボレーションイベント、ですか?」
「そうだ」
首をかしげるスズメに、ステラソフィア女学園の学園長チューリップ・フランデレンがうなずいた。
「テレシコワ財閥の代表、テレシコワ・イヴァン氏からの直々の頼みだ」
「テレシコワ――チャイカ先輩のお父さん、ですか」
「ああ。なんでも、生前テレシコワ・チャイカが考えていた企画らしくてな。参加者を集いたいので、是非サエズリ・スズメにはその先導役となって欲しいのだ」
「チャイカ先輩の……」
スズメはフランから渡された企画書に目を通す。
「分かりました。チーム・ブローウィング、参戦します!」
「水着装騎バトル大会ィィイイイイイ!!!!!?????」
「はっはっは~、イーじゃんイーじゃん面白そうジャン!」
「み、水着……でありますか」
「うん。今度の日曜――6月11日にアクア・ガルテンとステラソフィアのコラボイベントをすることになって」
「だからって何よ! ドキッ、ステラソフィア生だらけの水着装騎バトル大会! って何よ!!」
「ポロリもあるかな?」
「部位破壊はありそうでありますね」
「そうだね! とりあえず、他の参加者は募集中だから友だちとか誘ってみてくださいね! 当然ですけど、水着も用意していてくださいよ!」
「水着ってどんなのがいいのでありましょうか……」
「持ってないなら一緒に買いに行くか! セクシーなヤツを!」
「セクシーは嫌でありますよ……」
特にビェトカは異様な盛り上がりを見せるが、反してツバメはやる気がない。
その様子を見たスズメは微笑みながらツバメの肩に手を置く。
「水着、買ってきてね」
「うぐ……」
有無を言わさぬ微笑みにツバメは首を縦に振るしかなかった。
ステラソフィア女学園とアクア・ガルテンのコラボレーションイベントの知らせは学園中から国中まで瞬く間に広まった。
スズメの愉快な仲間たちから、
「へぇ、水着イベントか。スズメ大変もだなぁ……ま、応援してやるぜ!」
「このイベント、他薦もOKなんですよねぇ……」
「お?」
「わたくしはもう水着を用意したのであるよ!」
「わたしも~」
「はぁ!?」
「頑張ろうね、チョミちん!」
ツバメの愉快な下僕から、
「ツバメさんも参加するならわたしも参加しちゃうっすよ~気合い入れちゃうっすよ~! 気合い? うんそう、気合! So,気合!!」
「だぁーもう、うっさい!!」
機甲科寮裏の飼育員、
「アオちゃんが出るならアナも出てみたいさ!」
「お、いいんじゃないですか!」
もちろんあの2人と1匹に、
「はぁ~、ズメちんの水着見れるんだって! 楽しみだよね!」
「うん。たのしみ」
「にゃあー」
リラフィリアの仲間たちまで。
「ふっ、これは応援しに行くしかあるまい。ポロリもあるぞ」
「カナールが怖い顔で見てるよ」
「ふ、不純です……」
「ポロリは男の浪漫だろうが」
「カナールが矢を構えてるよ」
「カァー!」
何だかんだ、一つも二つも悶着がありながらも、その日がやってきた。
アクア・ガルテン。
テレシコワ財閥の娯楽事業の一環として開発された大型の室内遊泳施設だ。
広大過ぎる敷地、多種多様のプール、中でも特に海と砂浜を再現した海水プールを売りとしている。
6月11日日曜日――そこは多くの人々で賑わっていた。
「レディース・アーン・ジェントルメーン! えーっと、今回はドキッ、ステラソフィア生だらけの水着装騎バトル大会に足を運んでいただきありがとうございまーす!」
マイクを片手に、ステージに立つのは今回の始まりの挨拶を任されたスズメだった。
黄色を基調として胸元に赤いリボンが乗ったワンピース型の水着に身を包んでいる。
思った以上に多くの人の視線に晒され、冷や汗と両足を震わせながらも、電光掲示板から流れるカンペを読みながら必死で挨拶をした。
「今回のイベントはアクア・ガルテンの新しい目玉である屋内装騎バトルフィールド竣工を記念すると同時に、故テレシコワ・チャイカ氏が最後に残した企画を成功させることで最終防衛戦で亡くなったステラソフィア女学園生への追悼の意を表すものとさせていただきます」
一通りの挨拶を述べると、スズメはすぅと大きく深呼吸。
「ではこれより、ドキッ、ステラソフィア生だらけの水着装騎バトル大会を開催します!!」
人々の歓声とともに、画面に参加者が映し出される。
スズメは司会を続行しながらも自身の装騎スパロー4ceに乗り込んだ。
「ルールは生き残りをかけたサバイバル戦。この広大過ぎるバトルフィールドから如何にして敵を見つけて倒すかが勝利の鍵! 12人の参加者から生き残るのはただ1人――――では、」
各自準備完了の合図が送られてくる。
「装騎バトル――――スタートです!!」
そして、戦いの幕は上がった。
白い砂浜、波打つ海水、覆い茂植物に、まさに南国と言った風情のバトルフィールド。
霊子ホログラムで投影された空と太陽と言い、そこは最早、屋内施設とは思えないほどのリアリティを持った南国の島が再現されていた。
広さも並みのバトルフィールドと比べると格段に上、装騎十数騎が集団戦闘するにも十二分な広さを誇っている。
「さぁ、さっさと出てきなさい!」
開始早々、木々を打ち付け派手な音をまき散らし、周囲の目を引くように走りまわるのはサエズリ・ツバメの装騎ヴラシュトフカ。
「出てきたヤツ、みんな纏めてぶっ飛ばしてあげるわ!!」
わざわざ策を弄するつもりはないツバメは、とにかく目立つ行動をすることで相手を誘き出し、返り討ちにするつもりらしい。
しかし、そんな分かりやすい誘導に乗っかる相手は――――いた。
「おっしゃァ! 景気良いやつだな、やぁってやるかァ!」
ノヴァーコヴァー・チヨミとその装騎ヂヴォシュカ。
「飛んで火に入る――プロスィーム!」
「ナキリの野郎にふんどしなんざ巻かれてイライラしてんだ。ぶっ飛ばさせてもらうぜ!!」
加速格闘装甲ダレヴァチュカによる急加速で一気に装騎ヴラシュトフカへと接近してくる。
軽快な機動で大振りな加速装置付きハンマー・クシージェの一撃を掻い潜るが、対する装騎ヴラシュトフカも加速や柄を用いた防御で装騎ヂヴォシュカの鉄拳を凌いでいた。
「ハッハッハッハー、さっそくご機嫌であるな!」
そんな2騎の間に振り下ろされる太刀。
チャタン・ナキリが駆る和風大剣イロハニホヘ刀を装備したラファエル型装騎ウタキの一撃だ。
「ふふん、どんどん出てくるじゃない!」
「テメェ、ナキリだな!!??」
「ハッハッハー、おーもしろいおもしろいっ!」
装騎ウタキはぶんぶんぶんと我武者羅に和風大剣イロハニホヘ刀を振り回す。
「うわっ、あぶねーじゃねーか!」
「ちょっ、メチャクチャじゃない!」
「ハーッハッハッハッハー、ハーッハッハッハッハー」
その刃は大雑把にして豪快だが、割と隙は無い。
ナキリのキャラクター通り、あらゆる意味でデタラメな攻撃に装騎ヴラシュトフカと装騎ヂヴォシュカはひっかきまわされる。
ツバメもチヨミも、そこで一旦退いたり、態勢を立て直そうとはせずに抵抗を強めるため、その場は混沌とした混戦状態となっていた。
だがその時、突如として装騎ヴラシュトフカと装騎ヂヴォシュカが一気に装騎ウタキの傍から急速離脱。
「逃げるのであるか? ふふふ、わたくしに恐れをなしたであるね!」
得意げに和風大剣イロハニホヘ刀を肩に担ぐ装騎ウタキだったが――――突如としてその足元から爆炎が巻き上がる。
「なんとぉ~!!??」
炎に呑まれ機能を停止した装騎ウタキの元に、一騎の機甲装騎が近づいて来た。
「いやぁ~、さっすがツバメさんっすねぇ! 熱く見えても的確な判断! 的確? んー、的確……うん、So,的確!」
「メイ!!」
アストリフィア・メイが駆るバルディエル型装騎サーティーナイン・リマスター。
今のは装騎'39Rが投げ込んだ強力なボムの爆発だった。
「あっぶねぇな!」
「いやぁ、ツバメさんにも先輩にもすみませんね~。だけど、3人で仲良く井戸端会議してたら爆弾投げ込みたくなっちゃうっすよ~」
メイのそんなセリフと同時に、装騎'39Rはチェーンナイフを左手に構える。
「だけども! ここからはマジメに戦うっすよ~。さぁ、かかってくるっす!」
「上等じゃねぇか!」
ツバメとチヨミを挑発するように左手のチェーンナイフをくるくると玩ぶ装騎'39Rに、装騎ヂヴォシュカは駆け出した。
「怪しいわね……メイがこんな状況で姿を見せて、挑発までしてくるなんて」
授業ではよくメイと組んでいるツバメ。
彼女の感じる違和感が確かだということはすぐに証明される。
「さぁ、炎に呑まれるっすよ!!」
装騎'39Rは懐からボムを取り出し、それをばらまく。
「そんな攻撃でアタシを止められ――――」
装騎ヂヴォシュカの目の前で爆炎を上げるボム。
それを掻い潜り、装騎'39Rに拳を叩き込まんとしたとき、
「んだっァ!?」
何が起きたのかもわからないまま装騎ヂヴォシュカの頭部を焼いた爆炎。
不意の一撃でよろけた装騎ヂヴォシュカを装騎'39Rはチェーンナイフで仕留めた。
「なるほどね。メイ――アンタ、誰かと手を組んだわね!」
その様子を一歩引いたところから見ていたツバメはそう断言する。
装騎ヂヴォシュカを仕留めたその一撃は、メイが潜んでいたと思われる繁み――そこから"別の装騎"によって投げ当てられたものだったからだ。
「いやぁ、利害の一致がありましてねぇ~。申し訳ないですが、ツバメさんも同じように仕留めさせてもらうっすよー!」
「チッ、いいわ。やってやるわよ!」
装騎ヴラシュトフカはブーステッドハンマー・クシージェを構えると、ブースト機動で一気に装騎'39Rへと突っ込む。
「うわ、マジで正面からっすか!? さっすがツバメさんっす! でも良いんすか~? うちには仲間がいるっすよー!」
「ふふん、アタシ見たわよ。さっきスケバンを倒した爆弾――ワイヤーがついてたわよね? きっとハンマーの要領でアイツに爆弾をぶつけたってところかしら」
「どうでしょうねー」
「正解でしょう。そして、ワイヤーと言ったら――ビェトカね!」
そう、ツバメの予想通りメイと手を組んでいたのはピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ――ビェトカだった。
「分かったところでどうしようも――」
「実は、アタシも誰かと手を組んでる――と言ったら?」
「へ?」
「アルジュビェタァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
不意に装騎'39Rの背後から怨嗟を込めた激しい叫び声が響き渡る。
「あいだぁッ!!!???」
それと同時に激しい殴打音。
「ピシュテツ! チェルノフラヴィー! アルジュビェタァ!!」
「うげっ、エルザ!!?? イタイイタイ! まってイタい!」
殴打、殴打、殴打殴打殴打、装騎の装甲を鈍器で叩きつける音が何度も何度も何度も何度も響いた。
「えっと……誰っすか」
激しい連続攻撃で機能停止になった装騎ピトフーイを装騎'39Rの足元に投げ飛ばした一騎の機甲装騎。
ガブリエル型装騎イゾルデ――騎使は、
「機甲科4年! ヴァーグナー・フォン・エルザ!!」
肩で息をするように叫んだ。
「ついでにお前も死ねェ!!」
「あいたぁ!?」
手にした霊子権杖サンクトゥスにアズルを纏い、装騎'39Rを一撃の元に機能を停止させる。
「お手柄じゃないエルザ」
「先輩、です」
先ほどまで見せた激しい調子とは打って変わって、冷静でマジメな声音が響いた。
「ですが、申し出を承諾してくれたことは感謝しましょう。おかげであのにっくきピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタを倒せましたし」
「いいのよ。アタシだって強制参加みたいなものだから気持ちもわからないではないもの」
そう、彼女ヴァーグナー・フォン・エルザはビェトカの他薦によって今回の参加が決定してしまった被害者だった。
開始早々出会ってしまったツバメとエルザだったが、「アルジュビェタを倒すまでは協力してほしい」というエルザの申し出を受け入れ、ビェトカの装騎ピトフーイの居場所が判明するまでエルザの装騎イゾルデには隠れてもらっていたのだ。
「全く、私は目立つようなキャラではないと言うのに……」
エルザの口からグチグチとビェトカに対する不満が溢れ出る。
そこまで不満があったのなら参加しなければよかったのだが、一度決まってしまった以上はやり通すという生真面目さもあって今回の凶行へと至っていた。
「さて、これで契約期間は終了ですし、ここで雌雄を決するのもいいと思いますが……」
「その前に、コソコソ隠れてるヤツを叩いておくってわけね?」
霊子権杖サンクトゥスを構えた装騎イゾルデが、ブーステッドハンマー・クシージェを構えた装騎ヴラシュトフカが――
ズドンッ!!
2騎同時に、一本の巨大すぎるヤシの木を攻撃する。
「バレたわね」
ヤシの木の上から降ってきたのは装騎チェルノボーグ。
「黒いベロボーグ、霊子杖・南斗星君……噂には聞いてたけど、ステラソフィアに来てから会ってないですね」
「はい。久しぶりですね」
「知り合いなの?」
「私の中学時代の後輩です。ニュルンベルク中装騎部1の怠け者……フォルメントール・アニール」
「まさか"乾物"の元部長に会えるなんて」
「そこは"堅物"じゃありません?」
「どっちも似たようなもの。でしょ?」
元々同じ中学で同じ部の先輩後輩とは思えないほど――いや、だからこその険悪なムードが2人の間に流れる。
「貴女には一度、キチンとお灸を据えないといけないと思っていたんですけど」
「勝てるの? 私に」
「うわ……なんかアタシ置いてけぼりじゃなぐふぅっ!!??」
2人の雰囲気に呑まれかけてたツバメだったが、突如体を襲った激しい衝撃で我に返った。
もっとも、その時には装騎ヴラシュトフカは機能を停止していたのだが。
「何ですか!?」
「……ポップ?」
装騎ヴラシュトフカを機能停止にした原因。
それは突如襲来した嵐。
いや、嵐のように激しく戦うサエズリ・スズメの装騎スパロー4ceとカシーネ・アマレロの装騎ルシフェルⅦ型。
片や霊子短剣サモロスト、片やナイフ・クイックシルヴァーを構え互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げながら、戦場を縦横無尽に駆け回る。
装騎ヴラシュトフカは"たまたま"その通り道の邪魔になっていた為に撃破されてしまったという……。
「くぅ……さすがスズメさん……」
「ポップ!」
スズメの猛攻に圧され始めてるアマレロに、アニールは慌てて援護へと駆け付けた。
が、
「オニィちゃん邪魔!」
「――え?」
咄嗟に出たアマレロのそんな言葉に、アニールの心が折れ、装騎チェルノボーグが膝を折る。
「隙だらけです!」
それを好機と見たエルザの装騎イゾルデが霊子権杖サンクトゥスを装騎チェルノボーグへ振りかざすが、
「がふっ!?」
装騎スパロー4ceに踏み台にされ、姿勢を崩した。
「私の事はほっときなさい!」
更に装騎チェルノボーグの霊子杖・南斗星君から伸びたアズルフラッグに包み込まれ、装騎イゾルデはその機能を停止する。
一方、アニールも戦意を喪失し装騎チェルノボーグはピクリとも動かなくなった。
そんな端での出来事は全く眼中にないスズメとアマレロの熾烈な戦いは続く。
「うわっ、何ですか!?」
「波――?」
だが、2騎を突き動かす熱は突如襲い掛かってきた波によって冷まされた。
スズメとアマレロは海の方へと目を向ける。
「……何ですかアレェ!?」
「た、たこぉ……?」
巨大な波を起こしたその正体――それは巨大なタコのようなナニカだった。
「ふはははははー! 頭足綱蛸型亜綱八腕目アナマリアオオダコなのさ!!」
それは恐らく、アラーニャ・イ・ルイス・アナマリアの装騎が纏う武装なのだろう。
アナマリアオオダコと称された巨大なタコ型武装はその腕を思いっきり振り上げて、装騎スパロー4ceと装騎ルシフェルⅦ型を狙い叩きつけた。
その一撃を回避した装騎スパロー4ceと装騎ルシフェルⅦ型は、霊子短剣サモロストとナイフ・クイックシルヴァーを閃かせ、アナマリアオオダコの腕を切り飛ばす。
するとその腕が宙で霧散した。
「あのタコは――アズルで作られたホログラム、ですかね」
その様子を見たスズメは呟く。
対するアナマリアも、
「その程度でアナマリアオオダコは止められないさ!」
そう叫びながらアズルを補充――するとアナマリアオオダコの切り飛ばされた腕がみるみる再生していった。
「あの……装騎? は厄介そうですよね」
「うん、アマレロちゃん。ここは手を組んだ方が良さそうじゃないかな」
「そうですね。えっと、こう言ったらなんですけど……えっと」
「邪魔だもんね!」
「は、はい」
あっけらかんと本音を口にするスズメに、アマレロは苦笑しながらも頷いた。
「問題は相手が沖の方にいることですね……」
アナマリアオオダコがいる場所がどの程度の深さになっているのかは分からないが、海中では装騎スパロー4ceも装騎ルシフェルⅦ型もその機動力を大きく削がれてしまう。
「わたしに少し、案があります」
それはさっきアニールの装騎チェルノボーグが隠れていた巨大すぎるヤシの木。
装騎ルシフェルⅦ型は思いっきりそのヤシの木を押し込み、手放す。
「うん、よく撓る」
「なるほど。ちょっと、やってみましょうか!」
装騎スパロー4ceと装騎ルシフェルⅦ型は頷きあった。
機能停止した装騎ピトフーイからワイヤーを奪い取ると、装騎スパロー4ceに引っ掛けその端を装騎ルシフェルⅦ型が握る。
「スズメさん、タイミングを合わせていきましょう! 3、2……」
装騎ルシフェルⅦ型はヤシの木の上に向かって跳躍、ヤシの木が思いっきり撓り――――元に戻った瞬間、
「1!」
装騎スパロー4ceが跳躍した。
ヤシの木に押し出された装騎ルシフェルⅦ型が空中で装騎スパロー4ceと接触。
「ルシフェル、ブースト全開!!」
ワイヤーで互い互いの騎体が離れないように調整しながら、装騎ルシフェルⅦ型は背後の過多層ブースターを全開に――滑空するように海面を走る。
「ここら辺までくれば――――!」
ある程度接近できた頃合いを見計らい、装騎スパロー4ceは装騎ルシフェルⅦ型を蹴り飛ばし、アナマリアオオダコの頭上へと飛翔した。
「させないさぁ!!」
「ムニェシーツ――ロンゴ、ミニアどぉっ!!??」
装騎スパロー4ceが構えた霊子短剣サモロストからアズル砲が放たれようとした瞬間、装騎スパロー4ceをアズルの波が踏みつぶしていった。
「ひゃっほぉぉおおおおおおお、波乗りサイコー!!!!!!!」
「嘘ですよねぇ!!??」
アズルによる攻撃と、一気に海面へと叩きつけられた衝撃から装騎スパロー4ceが機能を停止する。
その瞬間、同じように海面で動かなくなっている装騎ルシフェルⅦ型の姿が目に入った。
装騎ルシフェルⅦ型と装騎スパロー4ceを踏み台に、アナマリアオオダコへと近づいたのが誰か――それは、オオルリ・アオノの装騎ブルースイング。
霊子衝浪盾アズライトをサーフボードのようにし、アズルの流れによって海面を走る。
「アオちゃん! かかってくるさ!」
「いっくぜぇぇぇええええ!!!」
「アオちゃんそんなキャラだったっけぇ!!!???」
普段は温厚で礼儀正しいアオノだが、どうやら波乗りをすると性格が変わるタイプのようだった。
次々に襲い掛かるアナマリアオオダコの攻撃を流し、乗り、滑り上がりながら一気にアナマリアオオダコの頭部へと到達する。
「オレが大波だァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
そんなよくわからない叫びと共に、アズルを纏った霊子衝浪盾アズライトがアナマリアオオダコの頭部を貫き――中に隠れていたアナマリアのガギエル型装騎インファンタを機能停止にした。
「もう敵はいないでありますかぁぁああああああ!?」
周囲を見回しながら、アオノの装騎ブルースイングは陸へと戻ってくる。
「はっ! わたしは何を!?」
霊子衝浪盾アズライトから降りた瞬間、アオノは我に返った。
「うわぁ、スズメ先輩すみません! すみません!!」
そして装騎スパロー4ceを踏みつぶしていったことを思い出し、海面に浮かぶ装騎スパロー4ceに謝り始める。
土下座で。
ちなみに、そんなことをしているヒマはないということをアオノは気づいて居なかった。
「えーい!」
土下座をする装騎ブルースイングの背後から間の抜けた叫びと共に放たれた一撃が装騎ブルースイングの機能停止をさせる。
「えっと、1、2、3、4……」
周囲に散らばる機能を失った装騎の数をゆっくりと数えるのは、全身を砂まみれにしたアブディエル型装騎テンパランス。
今まで砂の中に埋まっていたローレイ・タマラの機甲装騎だった。
「10、11、そして12……」
最後に自分の装騎を指さし、呟く。
「あれ、勝っちゃった?」
「バトルオーバーですね! ドキッ、ステラソフィア生だらけの水着装騎バトル大会――最後まで生き残ったのは、なんと砂の中にずっと埋まっていたらしいローレイ・タマラさんでしたぁ! っていうか、参加者と司会を兼ねるってすっごい大変なんですけどぉ!!!」
装騎スパロー4ceのコックピットから這い出るような恰好でマイクを握るスズメの一言で、戦いの幕は降ろされたのだった。
「いやぁ、すごかったな。もっとも、水着姿がほとんど見れなかったのが遺憾だが」
「あはは、そうだね。でもそんなこと言ってるとカナールに射られるよ?」
「ポロリもなかった――いや、確か装騎の装甲がポロリしたときにステラソフィア側は盛り上がってたな」
「さすが訓練されてるよね。あと、カナールが弓を手に持ってるから気を付けてね」
「だが個人的に、ふんどしからホタテとワカメとマニアックな水着揃いだったのはうれしかったぞ」
「まぁ、確かにね。カナールが矢を番えてるけどいいの?」
「惜しむべくはもっと際どいビキニがぐはぁっ!?」
「あーもう、帰るわよ! さっさと帰るわよ!!! カレルなんて知らない!!」
倒れたカレルを後にしてつかつかと足を速めるカナール。
「えっと……カレル、さんは」
「ほっといても大丈夫だよ」
カレルを心配するレイに、レオシュは笑顔でそういった。