第7話:Tvé Slovo je Pravda
Tvé Slovo je Pravda
-あなたの御言葉は真理です-
「うーっん、久々ジャン? バーリンまで来るの!」
機関車から降り、ビェトカは大きく伸びをする。
「そうですね……アナヒトちゃん、大丈夫かな……」
「ロコヴィシュカもついてんでしょ?」
「だから余計に心配な気も……」
ビェトカの言葉に苦笑するスズメの背後で、どこか不機嫌そうな表情をしている1人の少女。
言うまでもないだろう。
それはツバメだ。
「そんな顔するならついてこなくていいのに」
「何言ってるのよ! その、えーっとナーヒード?」
「アナヒトちゃん」
「そう! そのアナヒトって子、スズ姉の何なの!?」
「私のとても大切な人だよ。友だちだけど、家族でもあるような……」
「その人と今から会いに行くのですね! 楽しみでありますよ!」
アオノは晴れ晴れとそう言うが、やはりツバメは面白くなさそうだ。
「あのネコのことと言い、なんでスズ姉はアタシに話してくれなかったの!?」
「ツバメちゃんだって私にステラソフィア合格したこと隠してたでしょ」
「うっ……」
スズメの言葉にツバメは一気にしゅんとなる。
「本当、ツバメってスズメのことにうるさいわねー」
「はぁ!? 妹として当然でしょ!!」
「当然とは思えないけどなぁ……」
いつも通り軽い会話の殴り合いをし始めるツバメとビェトカ。
「ツバメちゃんもアナヒトちゃんに会えばきっと仲良くなれるよ」
「ぬぅー」
顔をしかめるツバメも引き連れ、スズメ達4人がたどり着いたのはバーリン市内のあるアパート。
そこは、スズメがリラフィリア機甲学校に通っていた頃にスズメが暮らしていたアパートだった。
チャイムを鳴らし、暫くすると扉の鍵がカチャンと開く。
その扉の向こうから、アナヒトが顔をのぞかせた。
「アナヒトちゃん、久しぶり!」
「スズメ……ひさしぶり」
スズメとアナヒトは2人抱き合い、再会を喜ぶ。
「あ、ズメちん!!」
アナヒトの背後でさらにもう1つの声。
そこには、ツナギ姿でスパナを手にしたフニーズド・ロコヴィシュカの姿もあった。
「ロコちんも久しぶり!」
「わぁ、ズメちん入って入って! あと、アルジュビェタさんと……」
ロコヴィシュカはスズメと一緒にいるツバメとアオノへと目を向ける。
それはアナヒトも同じだ。
「紹介するね。チーム・ブローウィングの後輩のアオノちゃん」
「オオルリ・アオノであります! よろしくお願いします!」
「あと、私の妹のツバメちゃん!」
「あぁぁあああああ!!!! そっか、どこかで見たことあるなーって思ったけど!」
スズメの紹介にロコヴィシュカは合点がいったように声を上げた。
「うわっ、その無駄にうるさい声ッ! 思い出したわ! アンタ、スズ姉が小学生の時の……ッ」
「こらツバメちゃん、年上にアンタなんて言わないの!」
スズメにそうたしなめられ、ツバメはバツが悪そうに眉をひそめる。
「とりあえず……中」
「そうだね。お部屋で話そう!」
「おじゃましゃーす!」
「お邪魔するであります!」
「ぬぅー」
部屋へと入った4人はリビングで椅子へと腰かけた。
「紅茶でも淹れるねー」
「ありがと、ロコちん」
お茶を淹れにキッチンの方へと引っ込んでいくロコヴィシュカを見送り、スズメはアナヒトへと問いかける。
「アナヒトちゃん、最近どう? 勉強とか、友達付き合いとか、ロコちんとの生活とか大丈夫? 困ってない? 大丈夫?」
堰を切ったように、そんな問いがあふれ出してくるスズメ。
その様子にアナヒトもビェトカも苦笑してしまう。
ツバメだけは、どこか面白くなさそうに見ていたが。
「スズメ、心配しすぎ」
「でもでも、アナヒトちゃんがこっちで暮らすって言った時は驚いて……あんなこともあった後だし、アナヒトちゃんもロコちんも料理できないし」
「だから、教えてもらった……でしょ?」
「そうだけど」
「わたしだって料理を練習してるんだよ!」
紅茶をトレーに乗せたロコヴィシュカがキッチンから戻ってきながら言った。
「ロコちんも? 何か作れるようになった?」
「ふっふっふー、見てよズメちん!」
そう言うと、ロコヴィシュカは1枚の写真を取り出すとスズメ達の前にそれを差し出す。
「えっと、イタアナサンゴモドキ?」
「あー、知ってる知ってる。スライムだっけ?」
「色は黄色いですが、塩の柱じゃないんですか?」
「ったく、出来の悪い心霊写真ね」
「卵焼き! これ卵焼きだから!!」
4者4様の反応を示すスズメ、ビェトカ、アオノ、ツバメにロコヴィシュカは必死で訴える。
「え、でもちゃんと卵の色してますよ!?」
「アンタが作った卵焼きで塊になってるの初めて見た!」
「すごいじゃないですか!」
「すごいジャン!」
口を揃えて言うスズメとビェトカに、
「ソレ、褒めてるの?」
ロコヴィシュカは真顔でそういった。
「ロコちんがこんなに上手くなってるなら、アナヒトちゃんのは格段だろうね!」
「モチの、ロン」
自信満々で親指を突き出すアナヒトに、スズメは安堵のため息をつく。
「朝晩に、お弁当……全部アナヒトがつくってる」
「ロコちんの分も?」
「ロコヴィシュカの分も」
「わー、アナヒトちゃんすごーい!」
スズメに頭を撫でられ、アナヒトはどこか機嫌よさそうだ。
「あー、なんかスズ姉とビェトカだけ勝手に盛り上がっててヒマすぎなんだけどぉー」
会話が弾むスズメ達をよそに、ツバメがゴロンと仰向けに倒れこむ。
「そうは言いましても、スズメ先輩とアナヒトさんは親しい仲みたいですし」
「だから余計にイヤなのよ!」
「そう言われましても……」
うがーと呻き声を上げるツバメ。
そんな彼女のそばに、ふとアナヒトが近寄ってきた。
「ツバメ、ちゃん?」
「あによー、アンタはスズ姉と楽しくお喋りしてればいいのよー」
ツバメは頬を膨らませあからさまに不満を浮かべる。
だが、気を悪くした様子は全くないアナヒトは、ツバメの顔を覗き込み言った。
「ツバメお姉ちゃん」
「んぐっ!? 何よ急に!」
「ツバメお姉ちゃんに、教えてもらいたいの」
「お、教えてもらいたいって何をよ!」
「スズメのこと。わたしより、たくさんスズメのこと、知ってるでしょ? だから、ね、お姉ちゃん」
アナヒトの大きな瞳が真っ直ぐにツバメの瞳を見つめる。
一瞬、ツバメの身が固くなり、動かなくなる。
だが、暫くすると今度はツバメの顔が段々と赤く染まっていった。
「スズ姉の事を、知りたいって?」
「うん」
「アタシから聞きたいの? このスズ姉の選ばれし妹であるサエズリ・ツバメちゃんに?」
「うん」
「アタシの名前を言ってみなさい」
「サエズリ・ツバメ、お姉ちゃん」
「~~~~~~~ッ!!!!」
「表情が緩んでるでありますよ?」
「うっさいわね!」
アオノにそう指摘され、ツバメは思わず怒鳴る。
「そぉこまで言われたら話さずにはいられないわね! アオノ、アンタも聞きたい?」
「はい! 是非、ツバメさんのお話を聞かせていただきたいのでありますよ!」
「う~ん、アンタ良い先輩ね! しょーがないわね、それじゃあ何から話そうかしら」
身を乗り出し、素直にツバメの話を待つアナヒトとアオノの視線を感じ、ツバメはどこかくすぐったくなってくる。
「それじゃあ、スズ姉が小学生の時に大人たちをぶっ倒して試合で優勝した話でもしてあげるわ!」
「わぁ……!」
「楽しみであります!」
「ふふん」
2人から寄せられる期待に、まるで我が事のように照れが隠せないツバメ。
いつの間にか、ツバメ、アオノ、アナヒトの3人で盛り上がっていた。
「良かった、ちゃんと毎日ご飯も食べてるみたいだし、安心したよ」
「ひどーい! わたしだって料理を手伝ったりするんだからね!」
「へぇ、ロコヴィシュカが手伝うって何をよ?」
「……調理器具を持ってきたりとか」
「器具の名前覚えたの? すごい!」
「やるジャン!」
「ねえちょっと2人の中でわたしのイメージってどうなってるの!?」
「リーサルウエポン料理人その2」
「暗黒の錬金術師」
「ひどーい!!」
スズメ、ビェトカ、ロコヴィシュカの3人もいい感じで盛り上がってくる。
「そろそろお昼の準備しようかな」
「ん? スズメが作んの?」
「アナヒトちゃんと2人で作ろうって約束してたんだー」
スズメの視線を感じて、楽しそうにツバメの話を聞いていたアナヒトはスズメの顔を見て頷いた。
「お、お昼でありますか! 楽しみでありますよ」
「何作ろうかなー」
「スズメのカレー、食べたい。アナヒトは……ポテトサラダでも、つくる」
「うん、いいね!」
「ふーん、アナヒトも料理するのね! いいわ、お手並み拝見しよーじゃないの!」
それから昼食を食べ、再び他愛のない会話を繰り広げる。
そして、別れの時間。
「ズメちん、また来てねー!!!!」
「また、皆で……」
「うん、皆でくるよ!」
「今度会うときは、もっとすっごい話をしてあげるわ。精々期待して待ってなさい!」
最初とは打って変わってアナヒトと打ち解けたような表情。
それを見るとスズメも安心できた。
「ツバメちゃん、アナヒトちゃんどうだった?」
帰りの機関車でスズメはツバメに尋ねてみる。
「別に、悪い子じゃなかったわね。まぁ、妹分としてなら認めてあげてもいいわ」
「良かった。2人なら絶対仲良くなれるとは思ってたけど……」
「思ってた、けど?」
「なんで私がお母さんとケンカしたら装騎に籠るとか、そんな話ばっかりしてるんですかぁー!!!」
「うっ、聞こえてたの!?」
「ツバメちゃん声大きいから聞こえるよ! ステラソフィアに帰ったらお仕置きかなぁ」
「お仕置き……」
冷や汗を流すツバメに、スズメはにっこりと微笑みかけた。