第6話:Já jsem Přemohl Svět
Já jsem Přemohl Svět
-わたしは既に世に勝っている-
「あれ、フニャちんどうしたの?」
「おっフニャねこじゃん! おっひさー」
「にー」
首都カナンへと駆り出していたスズメ、ビェトカ、アオノ、ツバメの4人。
その前に突如、一匹の猫が現れた。
「スズメ先輩の知り合いでありますか?」
「私の飼い猫だよー。最近、見なかったからどこに行ってるのかと思ったけど……」
「はぁ!?」
平然と新たな家族が増えた事実を口にするスズメにツバメが驚きの声を上げる。
「スズ姉、いつの間に猫なんて飼ってたの!?」
「去年からだけど……そういえばツバメちゃんには言ってなかったね」
スズメはそう言いながら、フニャトを重そうに抱きかかえるとツバメの目の前に掲げて見せた。
「可愛いでしょフニャちん!」
「そ、そーね」
正直、可愛いとはカケラも思ってないということがありありと表情に現れている
しかし、基本スズメには逆らわないツバメは必死に声を絞り出した。
「んで、コレって何なの?」
ビェトカは地面に落ちていたケースのようなものを取り出すと、みんなの前に掲げて見せる。
「何ですかソレ」
「いや、フニャねこが拾って来たんじゃないの? さっきくわえてたジャン」
スズメは首をかしげるが、ビェトカのいう通りそのケースはフニャトが持ってきたものだった。
「それは――レータヴィツェTCGのデッキケースでありますね!」
「レータヴィツェTCG……?」
「今、はやってるカードゲームでありますよ。スナハと呼ばれるカードを育成、強化させて相手を倒すというカードゲームなのですが……」
「スナハってコレ?」
ビェトカがカードケースから抜き出した1枚のカード。
可愛らしい銀髪の少女が描かれたカードの左上には「Snacha」と表記されている。
「そうです! このカードを他のカードを使って育成したり強化して、先に相手のヴーレをゼロにして直接攻撃した方が勝利になるのであります!」
「へぇ、可愛い女の子ですねー。これどうしたのフニャちん?」
「にゃあー」
スズメの言葉に、フニャトは地面に顔を近づけながらウロウロして見せた。
「拾ったの?」
「にゃあ」
そうだと言わんばかりにフニャトは一鳴き。
その後、フニャトはスズメの顔を伺いながら、急に路地裏へと駆けだす。
「フニャちん?」
スズメはフニャトを追いかけて路地裏へと入った。
「お、なんか面白そーな予感」
「行ってみるでありますよ!」
「何なのよもう……っ」
その後を追ってビェトカ、アオノ、ツバメも路地裏へと走り出す。
フニャトを追って辿り着いた路地裏――――そこでは、奇妙な光景が広がっていた。
「ねーねー、早く出しなよ。レ・ア・カ・ア・ド」
「そんなっ……賭けルールじゃないはずじゃ……っ」
金髪で長身の女性が、黒髪の少女を壁際へと追い詰めながら、何やら脅迫めいたことをしている。
「えぇ? 良いから出せッつってんだろ!!!」
「ひぃっ!!」
「何してるんですかっ!?」
怯える黒髪の少女を庇うように、2人の間に割り込んだのはスズメ。
ビェトカとアオノ、ツバメにフニャトも3人を囲むように駆け付けた。
「何ってレータヴィツェだよ、カードゲームのな。あたしが勝った。こいつが負けた。だからこいつのカードを頂く。当然でしょ?」
「わたしは……そんなルール……っ」
「アンティルールは基本、公式では禁止されてるはずであります。そうでなくても、互いの合意の上でなければ……」
「え゛ぇ? 何だってェ??」
「ひっ、す、すみません……」
金髪女性の勢いに圧されてアオノは思わず謝ってしまう。
「なるほど……賭けバトルで勝ったからカードを頂いた……つまり、私とアナタがバトルをして、私が勝てばそのカードを頂いても……いいんですね?」
「へぇ?」
スズメの言葉に、金髪女性が不敵な笑みを浮かべた。
「あたしとカードバトルをするの? カナンの悪夢サーシャと呼ばれたあたしと」
「カナンの悪夢サーシャ……レータヴィツェTCG界隈では比較的有名なプレイヤーでありますよ!?」
「強いんですか……?」
「それなりに……」
彼女から溢れる自信からも、その実力は伺い知れる。
「尤も、バトルをするなら見合うだけのカードを賭けなさい」
「見合うカード……ならば、このカード全部と……というのは?」
「デッキ1つを賭ける、って? アハハハハハ、良いねぇ。気に入った! いいよ、勝負して上げるわ」
かくして、スズメとサーシャのカードバトルが幕を開けたのだった。
「あの……それはそれとしてスズメ先輩、ルールって」
「サーシャさん、ルールブックを見ながらでも良いですか?」
「あなた……もしかして初心者ぁ?」
「そうですけど」
「初心者ァ!? の、クセしてデカイ声上げてきたなんて……バカの極みね」
「初心者とは戦えない――とか腰抜けみたいなこと言うんじゃありませんよね?」
「良いわ……かかってきなさい――――このトーシロがァ!!」
スズメとサーシャはドゥームゾーンと呼ばれる、フィールド中央に1枚のカードをセットする。
良くシャッフルしたデッキからカードを5枚、ヴーレポイントとしてサイドに置き、さらに5枚を手札とした。
そして、
「「フラート!」」
その掛け声で、2人は伏せられたカードを表にする。
「行きなさい、憤怒のエルプツェ!」
「私のスナハは――結晶のスニーフですっ!」
「先攻はあたし――ドロー!」
サーシャのカードは赤く燃えるような髪が特徴的な少女、憤怒のエルプツェ。
スナハ自身を強化し殴る、攻撃的な戦法が得意な「スルンツェ」と呼ばれる属性のスナハだ。
「あたしはシーラを1枚セット――そのシーラを使って、エルプツェをルーストさせる」
任意のカードをシーラゾーンに置くことでカードを使用するためのコストと出来る。
そのシーラを1つ消費し、憤怒のエルプツェはストゥペン2の燃える憤怒エルプツェへと昇華した。
「先攻は攻撃できないからね……コンチームだ」
サーシャのプレイスタイルを見てアオノは呟く。
「どうやら彼女はスナハを素早く強化して殴る、速攻タイプの戦法のようでありますね……」
「変な用語ばっかで全然わかんないだけどッ!」
「ノリでいージャン、こういうのは」
「ビェトカみたいにテキトー人間はそれでいいでしょうね」
「んだって!?」
何故か勝手にケンカを始めるビェトカとツバメをよそに、スズメのターンが来る。
「えっと、カードを引いて、シーラをセット」
スズメがシーラにセットしたカードを見て、サーシャは眉をひそめた。
「なにそのカード? スニーフはムニェシーツ属性のカード……なのにそのカードはスルンツェだってぇ!?」
どこかバカにしたように笑うサーシャ。
このカードにはスルンツェ、ムニェシーツ、フヴィェズダと3つの属性があるのだが、普通スナハと同じ属性で固めるもの。
何故なら、スナハと同じ属性のカードでなければ基本的に発動もコストとして使用することも不可能だからだ。
シーラを消費して様々な戦法を可能とするこのゲーム、どれだけシーラが溜まっていようとその属性がスナハと噛み合わなければ意味がない。
「それ、本当にデッキなのかしら? 一体どこで手に入れたのよぉ」
「カードは、拾いました」
「拾ったカードぉ? 文字通り、ゴ・ミ・ィ? アハハハハハハハ、本当舐めたクソガキねテメェ!!」
「…………結晶のスニーフで攻撃します」
サーシャの挑発にも構わず、スズメはプレイを続行。
「ふん」
全く動揺を見せないスズメの態度に、サーシャは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「ヴーレをチェック……追加効果は無しね。シーラに加えるわ」
結晶のスニーフによって破壊されたヴーレは、追加効果の確認を経て、シーラへと送られた。
「コンチームです」
そしてそのままターンはサーシャに移る。
それからも、ターンは進んでいった。
このカードゲームには、キーカードとなるスナハの他にもいくつかカードの種類がある。
「いくよ――尖兵オヘンをヴォラーム!」
その1つがヴォイナと呼ばれるスナハを守護し、戦闘を行うカード。
「させませんっ、コウズロカード、瞬間凍結を発動させますっ」
そして、コウズロと呼ばれる様々な特殊効果を持つ使い切りのカードだ。
ターンは着々と進んでいくが、スズメがサーシャのヴーレを削れたのは最初の1撃のみ。
対して、サーシャは激しい攻撃を繰り返し、スズメのヴーレは最早残り1枚となった。
「それだけじゃないわ。あたしはヴォイナの尖兵オヘン、騎兵テプロ、盾兵バルヴァンをスパーサ――ストゥペン2の燃える憤怒エルプツェは――S3を飛ばしてS4へと昇華される! 来なさい、地獄の憤怒エルプツェ!」
「地獄の憤怒エルプツェでありますか」
「やっぱ、強いカードなの?」
「はい。場に出ている尖兵オヘン、騎兵テプロ、盾兵バルヴァンをターンの終わりにスパーサ――つまり、シーラに置くことで、"憤怒"の名を持つスナハからルーストできるカードであります」
「でも、ターンの終わりってことはスズメの番になるんでしょ? 取り巻きも居ないし、攻撃できるチャンスが増えただけジャン」
「そうはいかないのでありますよ。この効果でルーストした時、相手のターン……つまり、今のスズメ先輩のターンが終わるまで自分のヴーレを減らさせない――スズメ先輩は攻撃しても相手のヴーレを減らせないのでありますよ!」
アオノの説明に、なんだかんだで真面目にルールを把握しようとしていたのだろう、
「なるほどねぇ……ソレに加えて、あのヴォイナとかいうカードが送られたのは墓場じゃなくてシーラ……と、言うことは次の自分のターンに使える餌も潤沢にある――ってことでしょ?」
ツバメがそう口にした。
「はい! さすがはスズメ先輩の妹でありますね!」
「当たり前じゃない。そこのビェトカとは出来が違うのよ」
「なんで一々ワタシにつっかかんのよ!」
「べっつにぃー」
ごちゃごちゃとやり取りをするビェトカとツバメをよそに、黒髪少女も口を開く。
「わたし、あのカードにやられたんです……」
「とても強力なカードですからね……公式戦ではあの4枚を同時にデッキに入れるのは制限されてたはずですが……」
「そう。だけどこれは、公式戦じゃないから」
自分を助けるために代わりに戦ってくれたスズメを案じるように、黒髪少女は両手をギュッと握った。
「勝てるのでしょうか……」
「スズメ先輩にも勝機はあります……あのデッキにはあのカードが入ってました。それを引ければ、きっと」
黒髪少女の言葉にアオノはそういう。
アオノの言葉を体現するように、スズメの瞳には自信と希望が灯っていた。
「私の番です」
スズメは静かに、呟くように言う。
スズメの場にはストゥペン3となった希望の結晶スニーフの他に、ヴォイナはいない。
手札も1枚。
シーラも15枚と数だけは膨大にあるが、使用できない他属性のカードだらけでスナハと同じムニェシーツ属性のカードは1枚のみ。
「ドロー!」
引いたカードを見て――スズメは口元に笑みを浮かべた。
「私は、ストゥペン4勝利の結晶スニーフの効果発動! 相手のスナハがS4の時、コストを支払わずにルーストできる!」
「特殊昇華効果を持つスナハね。だーけーど、そのカードの攻撃力自体は並だし、攻撃しようと今のターン、あたしのヴーレは削れないわ」
「そうですね――だから、攻撃なんてしませんよ」
スズメは、残った最後の手札を場へと出す。
「コウズロカード、最終魔法シャッフを発動!」
「そのカードは――いや、"そのデッキ"は!!」
「きたぁぁぁあああ、最終魔法シャッフ! コスト25の超重コウズロカードでありますが、いいタイミングで出したでありますね!」
「これなら……勝てるね」
アオノと黒髪少女の瞳が大きく開かれ、そのカードの凄さを物語る。
「勝手に盛り上がられても困るんだけど……どんなカードなの?」
「はい! このカードはシーラゾーンにある3属性のカード全てをコストとして払うことで発動が可能となるカードであります!」
「効果は、自分のスナハに特殊効果を一つつけること……」
「特殊効果?」
「スナハの攻撃が相手のスナハに"成功したとき"――ゲームに勝利する」
「特殊勝利でありますよ!!」
「あれでも、コスト25って言ってたけど、スズメのシーラは15枚しかないはずじゃ」
「それが勝利の結晶スニーフの効果でありますよ!」
勝利の結晶スニーフは、攻撃力自体は並以下。
だが、特殊昇華をはじめとする特殊効果でその欠点を補うスナハカードだった。
「勝利の結晶スニーフ、第2の効果で、コスト3以下のコウズロカードの使用コストは0に! そして、コスト4以上のコウズロカードの使用コストは半分になります!」
「何だって!?」
「最終魔法シャッフのコストは25の半分――切り上げで13コスト!」
スズメはシーラゾーンからスルンツェ、ムニェシーツ、フヴィェズダの3属性を含んだ13枚を捨て場へと送る。
更に、カード効果によってシーラゾーンにある全てのカードは捨て場へと置かれた。
「まだよっ、あたしは対抗魔術・焦土を発動! 相手の発動したコウズロカード1枚を無効にする!」
「勝利の結晶スニーフ第3の効果――このスナハがルーストしたターン、相手のコウズロカードの効果は無効になる!」
「そんなっ!?」
「行きますッ――――これが勝利の、最終攻撃! ムニェシーツ……スニェフルカァ!!!!」
スズメの叫びと共に、勝利の結晶スニーフの一撃は――地獄の憤怒エルプツェを貫いた。
「負け――た……」
初心者に負けた――それもあるだろうが、どこかそれ以上の敗北感を彼女は味わっているようだった。
「勝負は私の勝ちです。サーシャさん、あの子から奪ったカードを返してください」
スズメの言葉に、どこか放心状態のサーシャは黒髪少女へとカードを返す。
「もしかしてこのデッキ――アナタのですか?」
スズメはサーシャへと尋ねた。
スズメはサーシャと戦っている間、何か違和感を感じていた。
その決定的な言葉が、サーシャの放ったあの言葉。
「あたしが棄てた――クズカード、だ。あたしがゴミ箱に棄てたんだ! 棄てたはずだ!」
「なるほど――それをフニャちんが拾って来たんですね」
「にゃあ」
フニャトはその光景を見ていたと言わんばかりに一鳴き。
「返しますよこのデッキ」
「いらねーよ」
「これはアナタの――」
「いらねーっつってんだろ!! いらねーんだよッ、あたしじゃ扱えないんだ! 棄てちまったんだ! テメェが貰えよ! テメェが大切にしろよ! あたしには……相応しくねぇからよ」
サーシャはそれだけ言うと、スズメ達に背を向け、路地裏を後にする。
そんな後姿を見送りながら、スズメはデッキの一番上――結晶のスニーフのカードを見つめた。
「ありがとうございます!」
そんなスズメに、黒髪少女がそうお礼をする。
「わたしの大切なカードも、戻ってきました!」
「ううん、良いですよ。アナタも気を付けてくださいね」
「はい!」
スズメの言葉に、満面の笑みを浮かべる黒髪少女。
「あの、良ければわたしともカードバトルしてもらいませんか?」
「私、初心者なんだけど……」
「初心者とか関係ないですよ! あ、わたしマチアって言います! マティ・マチア!」
「私はサエズリ・スズメ! あと、私と同じステラソフィアの……」
「イイネー、カードゲームで生まれる友情かぁ」
「本当でありますよ! ツバメさんも初めて見るでありますか?」
「ふんっ、ちょっとだけなら――やってあげてもいいけどぉ?」
「それでは、カードショップに行くのでありますよ!」
その後、みんなで楽しくカードゲームをしたという。
おい、装騎バトルしろよ。