第4話:Vztahujte se k Nebeským Výšinám
Vztahujte se k Nebeským Výšinám
-上にあるものを求めなさい-
「うわぁー、良い場所ですねぇ!」
蒼く広がる空、陽気に照らす太陽の下でスズメはうんと背伸びをした。
「ね、良いでしょ此処! この前散歩してたらたまたま見つけたのよ~」
スズメの言葉を聞いたビェトカは気をよくして胸をそらす。
晴れ晴れとした休日――スズメ、ビェトカ、ツバメ、アオノの4人は公園に来ていた。
「高校生にもなってピクニックぅ~?」
「いいじゃないですかピクニック! ワクワクでありますよ!」
イマイチ乗り気ではないツバメに、目を輝かせるアオノ。
「それじゃあ、ツバメちゃんは弁当いらない?」
「う……ス、スズ姉が作った弁当、いらない訳ないじゃない!」
「扱いやすいわねー、この子」
「ビェトカに言われたくないわ!」
ビェトカはツバメのパンチを楽しそうに受け流す。
「どこで弁当にするでありますか?」
「そうだね……」
そんな光景をよそに、スズメとアオノはどこで弁当を食べるか考えていた。
しかし、多少の肌寒さが残るとはいえ良い陽気のこの日、公園は家族連れなどで賑わっている。
同じようにピクニックに来ている人々も多く、良さそうな場所はすでに取られた後だった。
「メシ食えればどこでも良いっしょ」
「そうは言いますけど……」
「あ、あそこはどうでありますか!?」
スズメ達はアオノの指さした場所へと目を向ける。
程よく木陰で、広さも4人でくつろぐには十分。
他の場所は人で一杯だということも考えると、そこはちょうどいい場所だった。
「場所取りしてくるでありますよ!」
アオノは右胸に右手を当てながらそう言うと、その場所目がけて駆けだす。
「スズメ先輩ー!」
楽しそうに手を振るアオノだったが、突然、1人の女性に突き飛ばされた。
「な、何するでありますか!?」
「おっとゴメンよ」
赤いメッシュを入れた女性は悪びれもせずにそういうと、
「おい、この場所空いてるぜ!」
そう声を上げた。
するとそこに向かってくる3人の女性。
アオノを突き飛ばした女性もそうだが、その3人も青、黄、緑と髪に派手なメッシュを入れ、どこかガラの悪い様相。
重そうな鞄からレジャーシートを取り出す姿を見てアオノは言った。
「ここはわたし達が先に取ったのでありますよ!」
「あれェ、ソーだっけェ? なぁ、コイツ場所取りしてたの?」
「さぁ、知らないねぇ。さっさとシートを敷いちゃいな」
ヘラヘラと笑う青メッシュの言葉に、シートを敷こうとする赤メッシュ。
だが、アオノは譲らない。
「悪いでありますが、他の場所を探して欲しいであります!」
「オイっ、触んなよッ!!」
シートを敷く赤メッシュの手を止めようとしたアオノだったが、その手を弾かれアオノはよろめく。
「邪魔すんなら、コッチだって容赦しねーゾ!」
「誰が容赦しないって?」
拳を固めた赤メッシュの手を掴んだのはビェトカ。
スズメとツバメも、アオノを支えながらガラの悪い4人組を睨む。
「あんだテメェらよォ。ここはあたしらが先に取ったんだよ。出てけよ」
「いいえ、アナタ達はアオノちゃんを突き飛ばして無理矢理取ってます。そんなアナタ達こそ出て行ってください!」
そう凄む黄メッシュだが、彼女に対してスズメは言い切る。
スズメは割と頑固なのだ。
「な゛らや゛るか? あ゛?」
「おっ、ケンカ? 上等じゃん」
緑メッシュのガサついた声に、ビェトカもやる気満々だ。
そんな緊迫した状況の最中に突如、一個のサッカーボールが転がり込んできた。
「すまない!」
そう声を上げて、1人の女性が走ってくる。
「あれ、あの人……」
スズメはその姿に見覚えがあった。
どこかで――確かにどこかで出会ったはずだが思い出せない。
スズメとその女性の目が合う。
「君は、サエズリ・スズメ君じゃないか。久しぶりだな」
「えっと――アナタは確か……あっ」
サッカーボールを拾い上げ、それを脇に抱える姿を見てスズメは思い出した。
「ティーガーさん!」
彼女の名はティーガー。
第78部サッカーやろうぜ!で登場したシュヴァルツヴァルト女子学園の女性だ。
「ここで何してるんですか?」
「ピクニックだ。後輩たちに誘われてな」
「ティーガーさんって確か、私が1年生の時に3年生ですから……」
「ああ、もう卒業したんだが――たまにサッカー部に顔を出してるんだ」
思わぬところで出会った思わぬ知り合いに、雑談に花が――咲いている場合ではない。
「おい! オメェら何暢気に話し込んでんだ! 今、ちょっと揉めてんだよ! 邪魔するんじゃねぇよ!」
「揉めてるのか」
黄メッシュの言葉に、ティーガーは考えるようにつぶやく。
「そうそう。で、どーする? ワタシはケンカでも装騎バトルでもなんでもいいけど」
「いや、喧嘩はいけない。ここには親子連れも多いし、装騎バトルをするスペースもないだろう」
「アンダァ、テメェよォ! テメェもクビつっこんでクるってーならアイテしてやっぞォ!?」
「首を突っ込む気はないが、提案ならしよう」
ティーガーは脇に抱えたボールを右手で持ち上げると言った。
「サッカーバトルで決着をつけると良い」
「ルールは4対4。先に1点取った方が勝ちだ」
「どうしてこうなったのよ!」
先頭でボールに足を乗せ赤メッシュとにらみ合うスズメの背中を見つめながら、ツバメが悪態をついた。
「まさか、サッカーでバトルをすることになるとは思いもしないでありますよ……」
ゴール代わりに置かれた二個の鞄の間で立つアオノも苦笑いしながらそう言う。
「では、キックオフだ!」
審判役のティーガーが吹き鳴らしたホイッスルと同時に、スズメはボールを軽くツバメへと蹴り飛ばした。
だが、その瞬間――風がスズメの脇を通り抜けた。
「なっ!!」
スズメは目を見開き、背後を振り返る。
「ヒャハハハハァ! なんでアタシがコノ勝負を受けたと思うゥ!?」
驚異的なスピードでスズメの脇を抜けていったのは赤メッシュ。
彼女はそのまま、呆気に取られるツバメからボールを奪うとゴールを守るアオノに向かって一直線。
「まさか、あの人……!!」
「チッ、させないっ!」
慌ててビェトカは赤メッシュを阻もうと駆けだす。
「おおッと!!」
「おっ?」
赤メッシュの蹴ったボールがふわりとビェトカの胸元に近づいた。
それはボールのコントロールを少しミスったのか、あるいは――――
「ビェトカ、危ないッ!」
胸を使ってボールをキープしようとしたビェトカへとスズメが叫ぶ。
瞬間、赤メッシュの強烈な蹴りがボール越しにビェトカを吹き飛ばした。
「ぐはっ!?」
衝撃にビェトカは地面へと仰向けに倒れこむ。
「今のはファールじゃないですか!?」
「……確実にわざとだと言える客観的な証拠はない。微妙な所だな」
スズメの言葉に、ティーガーは複雑な表情で呟いた。
「悪ィ悪ィ、サッカーは久々でねェ。ちょっとコントロールをミスっちゃたよォ」
赤メッシュはそう言いながらも、地面に倒れるビェトカの姿を一瞥すると口元をゆがませる。
そして再びゴール前へと駆けだした赤メッシュは勢いよく右足を後ろに上げると――――強烈なシュートを放った。
「アオノちゃん!」
「止めて――みせるでありますよ!!」
迫りくる強烈なシュートをしっかりと見据え、アオノは構える。
アオノの両手にボールが飛び込む。
「ぐぅ……ぐぐぐぐぐぐぐぅ!!!!」
激しく回転するボールのプレッシャーにアオノの表情が歪み、体中の筋肉が強張った。
なんとか耐えるアオノだが、ジリジリとその足が後退していっているのが分かる。
「アオノちゃん!」
「ここで、入れられたら……迷惑がかかるでありますっ!!」
アオノは歯を食いしばると、ボールを投げ飛ばすように両腕を思いっ切り上に上げた。
ボールは宙を舞い、コート外へと飛び去る。
「チッ、なかなかヤンじゃねーカ」
「アナタ……サッカー経験者だったんですか」
「そうだってイったらァ?」
驚きとプレイスタイルへの怒りが隠せないスズメに、赤メッシュは口元を歪めて得意げ。
そこにティーガーが近づいてくる。
「やはりか……赤きストライカー、ブーゲンビリア……」
「ソウ言うテメェは"猛虎"だね。どーりでどっかで見たコトあると思ったよォ」
「ティーガーさんの知り合いなんですか?」
「知り合い――と言うほどでもない。彼女は高校サッカー界では色んな意味で有名だ」
「そんな人とサッカーバトルなんて……」
ティーガーの言葉にスズメは呟く。
ただのチンピラだと思っていた相手が、まさかここまで強力なプレイヤーだったとは思いもしなかった。
「サエズリ・スズメなら勝てる――私は、そう思っているが……」
顔を俯かせ、拳を握るスズメの姿――それを見て、ティーガーは思わずそうフォローする。
もちろん、この言葉は彼女の本心でもあるのだが、それ以前にティーガーは思い違いをしていた。
「当たり前じゃないですか。このバトル――私達が勝ちますよ!」
スズメは赤メッシュの実力に驚愕こそすれど、負ける気などさらさら無かったから。
「こ、これは良かったでありますか……?」
配置に着こうとするスズメに、アオノが声を掛ける。
どこか恐る恐ると言った様子のアオノに、スズメは屈託のない笑みを浮かべて言った。
「うん! アオノちゃん、よくやったね!」
「あ、ありがとうございます!」
スズメに褒められた表情が緩むアオノ。
だが、バトルはまだまだこれから。
コートの端で赤メッシュが緑メッシュにボールを蹴り渡し、バトルが再開される。
「今度は油断しませんよ!」
緑メッシュが再び赤メッシュにボールを蹴り渡す。
そこにスズメが一直線に飛び込んだ。
「ソンな動きでェ、アタシをトめられると思うゥ!?」
赤メッシュは止められない止まらない。
スズメをあっさり抜くと、再びゴールに向かって駆け出す。
「間抜けなところばっかり、後輩たちには見せられないわぁ!」
「全くね、最強無敵のチーム・ブローウィングを見せてあげなきゃね!」
そんな赤メッシュを妨害せんと、ビェトカとツバメも2人並んで走り出した。
「初めてサッカーしたトーシロにボールを取られるホドォ、鈍っちゃァねーよォ!!」
「ワタシの腕じゃボールは取れないかもしれないけどッ」
「わたしはあのサエズリ・スズメの妹なのよっ!」
確かに2人はサッカーに関しては完全に初心者。
だが、それを補うほどの装騎バトルで養われたセンスと技量――――そして、
「時間稼ぎするくらいの戦闘力はあるってね!」
「時間稼ぎくらいお茶の子さいさいなのよっ!」
理由のない絶対的な自信と、粘着質なしつこさを持っていた。
「ゼフィランサスっ!」
赤メッシュの叫びに緑メッシュが駆けつける。
本当ならば、すぐにでもボールをパスし、この状況を突破したい所だったが、スズメ達にとっては幸いなことに、赤メッシュ以外はサッカー未経験らしかった。
「ヒヤシンスもボサっとしてんジャねーゾ。"アタシラのやり方"見せてやりなァ!」
「な゛るほどなぁ゛!」
「それならおやすいごようさなぁ~」
赤メッシュの言葉に、何か納得したような緑メッシュと青メッシュ。
緑メッシュはビェトカ、青メッシュはツバメへと近づくと、
「う゛ぉっとな゛ァ!」
「おっとわるいねェー」
2人に体当たりを仕掛けた。
「このアマッ!」
「アフッ!?」
ビェトカもツバメも、不意の一撃によろける。
赤メッシュはそれを見計らい――ボールを緑メッシュに向かって蹴り上げようとした……その時だ。
「ナッ!?」
突如として、赤メッシュの目の前にスズメが降り立った。
「テメェ、上からだトォ!?」
そう、スズメはビェトカとツバメが妨害している間に赤メッシュの動きからタイミングを計り――――バク転宙返りによって赤メッシュを飛び越え、目の前へと着地したのだ。
「反撃させてもらいますよ」
スズメはニヤリと笑うと、赤メッシュからボールを奪い取る。
そして、一気に黄メッシュが待ち構えるゴールへと駆けだした。
「させっかァァァアアアア!!」
素早く気を取り直した赤メッシュはスズメからボールを奪い返そうとするが、
「ヤナギカゼ――!」
スズメはボールをキープしたまま身を捻り、赤メッシュを回避する。
ボールを取ろうとむきになっていた赤メッシュは、その勢いが仇となり地面へと倒れ伏した。
「追え追えェ! 追いかけっぞォラ!!」
起き上がりながら赤メッシュが飛ばした檄に青、緑メッシュも走り出す。
「させないってね!」
「ふふん、スズ姉は最強なんだからッ!」
もちろん、ビェトカとツバメも。
さすがに身体能力は常人を軽く超えるビェトカは赤メッシュをも容易く抜くと、ゴールを目指すスズメと並ぶ。
「そんじゃ、一発決めますかっ!」
「はい、お願いしますね。ビェトカ!」
スズメはボールを頭上高く蹴り上げと、身を強張らせたビェトカの身体を利用して――天高く跳躍した。
「アブチロンァッ!!!」
「おい、まじかよぉ……こんなやばそうなシュート、止められっかよぉ!」
その光景からシュートの威力を予感した黄メッシュは明らかに腰が引けている。
「行きます!! トップウ――――ロ号ッ!!!!」
高みから放たれたスズメのその一撃は――――渦巻く風となり、ゴールへと突き刺さった。
「スズメチームが1点先取。試合終了だ」
ティーガーの言葉と共がサッカーバトルの終わりを告げた。
「グッ、テメェら……ッ」
敗北に怒りが隠せない赤メッシュ。
「なんなら次はケンカする?」
最初にボールを蹴りこまれたことをまだ根に持ってるビェトカが拳を固めて言う。
「上等じゃ――」
「オッ、ケンカか? ケンカケンカ? ちょっとワクワクするゼー!」
同じように拳を固める赤メッシュの言葉を遮るように、どこか陽気な声が割り入った。
そこに現れたのはずらりと並んだシュヴァルツヴァルト女子学園の現サッカー部員たち。
「パンターか。不謹慎だぞ」
その内の1人、さっき声を上げた女子を注意しながらもティーガーは言った。
「だが、そうだな――もし君達がスズメ達とケンカをしようと言うのなら、我々はスズメ達に助力しよう」
どう見ても戦力差は圧倒的。
サッカーバトルでも負け、ケンカをしようにも戦力的に勝ち目がないと見た赤メッシュたちは、
「覚えてろよォ!!!!」
結局、その場を諦め立ち去っていった。
「ありがとうございます。ティーガーさん」
「何、アイツらに勝ったのは君達だ。私は何もできなかったからな」
「それでも、ティーガーさんが居たおかげで穏やかに解決できましたから」
スズメの言葉にビェトカも、ツバメも、アオノも頷く。
「っかし、身体動かしたら腹減ったわぁ~」
「確かにそうでありますね!」
「スズ姉、お弁当お弁当!」
沸き立つ3人。
「ティーガーさんたちも一緒にどうですか?」
「いや、我々はもう退散するつもりだ。――数も多すぎるしな」
「そうですか。だったら、機会があればまた!」
「ああ。楽しみにしている」
スズメとティーガーは握手を交わすと、ティーガーたちと別れる。
「それじゃあ、お弁当にしよっか!」
「待ってました!」
弁当を広げるスズメ達。
休日は楽しく過ぎ去っていった。