第2話:Chlebem Upřímnosti a Pravdy
Chlebem Upřímnosti a Pravdy
-純粋で真実なパン-
「ムニェシーツ……ロンゴミニアド!!」
バトルが始まって早々、スズメの装騎スパロー4ceは両使短剣サモロストを正面に構える。
そして、その先から魔電霊子砲を撃ち放った。
「いきなりでありますか!!」
「良いんですよコレくらいで!」
「ですねー!! さぁ、行くのでありますよスズメ先輩!!」
意気揚々と駆けだしたスズメとアオノに対して、ビェトカとツバメはどうだろうか。
「いきなりのロンゴミニアドッ!?」
ビェトカは装騎スパロー4ceの放ったムニェシーツ・ロンゴミニアドを回避しながら叫ぶ。
「さすがスズ姉ね……っ! 対してコッチのダメ先輩は……」
「本当ッ、ダメ後輩とは大違いだわ」
「大体何その装騎! サリエル型? コソコソ隠れまわるだけが取り柄のセコい装騎! スズ姉を見習うべきね!」
ビェトカの装騎は透過機能を備えたサリエル型装騎をベースにした装騎ピトフーイ。
それは偽神教との戦いで用いたアナフィエル型装騎は一般的なバトルレギュレーション的に使用不可能だったからだ。
その手には霊子鎖剣ドラクを構え、腰部には超振動ワイヤーが装備されている。
「あぁ? スズメだって奇襲とヒット&アウェイが得意でワタシとも相性が良いんですゥー。それに比べて何そのバカデカイハンマー! 邪魔・オブ・ザ・邪魔ジャン!」
対してツバメの装騎はヤオエル型装騎ヴラシュトフカ。
ヤオエル型装騎はサンダルフォン型装騎を元に固有武装フュンフトマティ砲をオミットし、中近距離での戦闘能力を高めたホバー騎だ。
そして、その手にはビェトカの言う通り身の丈を越える巨大な加速装置付きハンマー・クシージェが握られている。
「邪魔ですってェ!? ならば、アタシの華麗なる活躍、見てなさい!」
ツバメの叫びと共に、装騎ヴラシュトフカがホバー移動で一気に駆けだした。
その手に持ったブーステッドハンマー・クシージェが火を噴く。
急加速された装騎ヴラシュトフカは、装騎ブルースイングへと奔った。
「正面から突っ込むなんて莫迦の極みね……まぁ、スズメの妹らしいっちゃらしいけどさ」
単純なツバメにビェトカは軽く頭をおさえながら呟く。
「ま、少しでも掻きまわしてくれれば、なんとか不意を突けるかなぁ」
そして装騎ピトフーイはステルスを起動――透過し、装騎ヴラシュトフカの後を追った。
「スズメ先輩、正面から黒い装騎が接近中であります!」
「ブーステッドハンマー……ツバメちゃんの装騎ですか」
「ホバーで高速移動からの白兵戦が得意なヤオエル型装騎でありますね」
装騎ヴラシュトフカはホバーでの高速移動に加えて、重量のあるブーステッドハンマー・クシージェの構えを工夫することで装騎の重心をずらし、ハンマーでの追加加速も併せて変則的な高速移動をしながら装騎ブルースイングへと近づく。
「うわわわわ、すごい速さで近づいてきましたよ!?」
「アオノちゃん頑張って!」
「は、はいッ!」
一気に装騎ブルースイングへと距離を詰めた装騎ヴラシュトフカはブーステッドハンマー・クシージェを一気に振り上げる。
「攻撃ァ!」
見るからに強烈な一撃に、アオノは装騎ブルースイングの左腕にマウントされた盾を構えた。
「そんな薄っぺらな盾でアタシの攻撃を防げると思ってるの?」
「盾は必ずしも攻撃を受ける為のモノではないのでありますよ!」
刹那、装騎ブルースイングの盾からアズルが迸る。
迸ったアズルは、盾の流線形をなぞる様に流れ、やがて、盾の上に循環するアズルの流れを作った。
装騎ブルースイングの盾はブーステッドハンマー・クシージェの強烈な一撃をアズルの流れに乗せ――――その威力を利用し、受け流し、地面へと叩きつけた。
「攻撃が……流されたッ!?」
「これがわたしの盾! 霊子衝浪盾アズライトであります!」
「アズルの流れを作って攻撃を受け流す盾なんですね」
スズメが感心したような声を上げる。
そうアオノの装騎ブルースイングはこの防御武装故にアズル制御に特化したセノイ型装騎がベースとなっているのだ。
そして、装騎ブルースイングはそのまま霊子衝浪盾アズライトの縁にアズルを纏わせ、装騎ヴラシュトフカに向かい横払い。
「避けたのでありますか!?」
「アフっ!? 急に何よ!?」
しかし、その攻撃は装騎ヴラシュトフカには当たらない。
が、そのことに当のツバメも驚きの声を上げた。
だが、スズメはしっかりとその目に捉えていた。
装騎ヴラシュトフカの左腕に絡みついたワイヤーの姿を。
「油断大敵ィ!」
「チッ……アイツに助けられるなんて……ッ!」
それはビェトカの装騎ピトフーイの武装、霊子鎖剣ドラクだった。
装騎ブルースイングの攻撃が命中する直前、ステルス状態で近づいてきていた装騎ピトフーイは装騎ヴラシュトフカを掴み、引っ張り上げ、攻撃を回避する手助けをしていたのだ。
「助けられた時くらい、素直にお礼を言えないモノかね」
ビェトカは装騎ヴラシュトフカの腕からワイヤーを解くと、一気にそのワイヤーを巻き取る。
一気に巻き取られた先に刃の付いたワイヤーは、装騎ピトフーイが手に持った柄へと収納され、刀身が柄へと収まった。
霊子鎖剣ドラクとは刀身が射出可能で、その根元に超振動ワイヤーが装備された短剣としても鞭としてもワイヤーとしても使える武装だった。
「それだけじゃないわ。型式・鎖鞭!!」
さらに、短剣の刃が幾つかに分裂する。
装騎ピトフーイが霊子鎖剣ドラクを払うと刃が鞭のようにしなった。
さらにアズルを纏い切れ味を増した霊子鎖剣ドラクの刃が竜の尾のように装騎ブルースイングに向かって無造作に振り払われる。
「さて、そろそろ行きますか!」
装騎ピトフーイの霊子鎖剣ドラクを受け止めたのは、アズルを纏った装騎スパロー4ceの両使短剣サモロストの刃。
「そういえば、スズメと戦ったことってなかったっけ?」
「一度――ありましたけど、あれは無効ですかね」
「いやぁ、覚えてないわぁ!」
多頭竜の首のように激しく襲い掛かる装騎ピトフーイの霊子鎖剣ドラクの刃を、装騎スパロー4ceは激しいアズルを散らしながら両使短剣サモロストで弾き飛ばす。
「ってうわ……ナニコレ、近づけないじゃない!」
「まるで暴風雨でありますね……」
弾け飛ぶアズルの勢いに、縦横無尽に振り回される霊子鎖剣ドラク。
そして、アズルの刃を伸ばし縮みさせながら舞い踊る両使短剣サモロストにツバメもアオノも立ち入れられない。
スズメはチラりとアオノの方へと目を向ける。
ビェトカも同じくツバメの方へと目を向けた。
「アオノちゃん、どうしたんですか? アオノちゃんも一緒に戦いましょうよ!」
「え、一緒に――と、言われましても……」
「ツバメもやっちゃおーよ。所詮遊びなんだしね!」
「遊び……? これで、遊びィ!?」
装騎スパロー4ceと装騎ピトフーイが響かせ合う剣戟の軽快さが増していき、まるでリズムを刻んでいるように聞こえてくる。
「せっかくなんだし、楽しまないとね!」
「そーそー。殺し合いじゃない本気の戦いってーのもイイネ」
「「さぁ!」」
確かにスズメとビェトカの戦いは、アオノやツバメのレベルと比べたら驚異的で次元が違うように感じる。
だが、そんな中に、壮絶さとはまた別なナニかをアオノもツバメも感じ取っていた。
「甘き毒を!」
装騎ピトフーイの霊子鎖剣ドラクが九頭竜の毒牙を露わにしたその瞬間、
「ムニェシーツ・ジェザチュカ」
装騎スパロー4ceの両使短剣サモロストの刃が激しく横薙ぎに閃き、竜の首を打つ。
その瞬間、激しく続いたリズムに間ができた。
「うぉぉぉおおおおおアズリック・パァァアアンチ!!」
「だぁあああ、もう!! 一振り!」
一瞬の間に、装騎ブルースイングと装騎ヴラシュトフカが一気に攻撃を仕掛ける。
装騎ブルースイングは装騎ピトフーイを狙い跳躍すると、左腕を大きく掲げて霊子衝浪盾アズライトで殴りかかる。
そして、装騎ヴラシュトフカは装騎スパロー4ceを狙い低く姿勢を沈ませながらブーステッドハンマー・クシージェを横薙ぎに一払い。
「超イイネ! 受けごたえがあるよ!」
装騎ブルースイングの一撃を、装騎ピトフーイは霊子鎖剣ドラクを完全に巻き取り、アズル剣として受け止めた。
「さっ、ツバメちゃん、遠慮は無しだよ!」
装騎ヴラシュトフカの一撃も、装騎スパロー4ceが両使短剣サモロストの先からアズル砲を撃ち放ちながら受け止める。
「アオノちゃん!」
「はい!」
装騎ピトフーイに殴りかかっていた装騎ブルースイングは身を捻ると、クルリと流れるように装騎スパロー4ceの背後へと霊子衝浪盾アズライトを押し付けた。
「ツバメ!」
「仕方ないわね!」
一方、装騎ピトフーイは装騎スパロー4ceの霊子砲とぶつかり合っている装騎ヴラシュトフカのブーステッドハンマー・クシージェへ霊子鎖剣ドラクのワイヤーを巻き付けた。
「行くでありますよ、スズメ先輩!」
「さぁ、やっちゃいなさいツバメ!」
装騎ブルースイングの霊子衝浪盾アズライトにアズルの波が巻き起こり、装騎ピトフーイの霊子鎖剣ドラクからアズルの閃きがブーステッドハンマー・クシージェへと流れ込む。
「うん、全力で行きましょうアオノちゃん!」
「ビェトカにアタシの凄いとこ、見せてあげるわ!」
アズルの波に乗り、一気に加速付いた装騎スパロー4ce。
膨大なアズルを譲り受け、更なる威力を付けた装騎ヴラシュトフカ。
両使短剣サモロストの切っ先が、ブーステッドハンマー・クシージェと競り合う。
「はぁぁああああああああああああ!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
スズメとアオノが叫ぶ。
「イッケェぇええええええええええ!!」
「フラァァアアアアアアアアアアア!!」
ビェトカとツバメも叫ぶ。
装騎ブルースイングのアズルが装騎スパロー4ceへ流れ込む。
装騎ピトフーイのアズルが装騎ヴラシュトフカへと流れ込む。
アズルの輝きが一気に強まり――――そして、4人の目に焼き付いた。
「つっかれたァー!!」
ビェトカがそう叫びながらゴロンと地面に寝転がる。
大きく伸びをするビェトカの姿は、どこか気持ちよさげだ。
その両脇でへたり込むように座るのはツバメとアオノの2人。
そんな3人をほほえましそうに見つめるスズメ。
「やっぱり、装騎バトルはこうでないといけませんね」
ここの所、死に物狂いの戦いばかりだったスズメは、心からそんな言葉があふれてくる。
「確かに、楽しかったね。意外とツバメとワタシも相性いいかもねェ」
「はぁ?」
ビェトカの言葉にツバメは顔をしかめた。
しかし、
「まっ、スズ姉が1番として、2番目のアタシの次くらいに強いってことは認めてあげてもいいわ」
と口にする程度にはビェトカのことを認め始めていた。
「本ッ当、素直じゃないわねスズメの妹って」
「ごめんねビェトカ、普段からよく言って聞かせてるつもりなんだけど……」
「なんでスズ姉が謝るわけ? スズ姉は1番なんだから、ドンと構えておけばいいのよ」
「ツバメさんは本当にスズメ先輩のことが好きなのでありますね」
「なっ、何言ってんのよ! と、とーぜんじゃない、そんなのっ」
アオノの素直な言葉で不意を突かれたのか、ツバメは頬を染めながら目に見えて慌てる。
「まぁ、おねーちゃん思いだってことはよくわかったわ」
呆れ半分、尊敬半分ビェトカは肩を竦めた。
「これから1年――この4人で過ごしていくんですね」
「そうでありました! あ、憧れのサエズリ・スズメ先輩との生活……はぁ、涙が出そうであります」
「これよこれ。これがスズ姉を前にした下等な一般人の正しい反応なのよ!」
「あー、そっか。確か、チームメイト4人で1つの部屋を使うんだっけ?」
そう、ステラソフィア女学園は全寮制だ。
機甲科では同じチームのメンバー4人で1つの部屋を使うことになっている。
「そうですね。バトルも終わったことですし、ブローウィングの寮室まで行きましょうか」
「さっ、頼むわよ。ステラソフィアの先輩サン」
「楽しみであります!」
「精々、粗相のないようにしなさい」
ステラソフィア機甲科寮へと足を向けるスズメ達新生チーム・ブローウィング。
ここから、また始まるのだ。
スズメ達の新たな学園生活が。
ステラソフィアでの、新たな日々が。