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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
262/322

偽神編第17話:祈りの力、仲間の力/Čekat a Doufat

暗く沈んだ光の世界。

巨大な闇の柱を眺める1人の少女。

何度見たとも知れぬ光景に、少女は「はぁ」とため息を吐いた。

「でも、最後までは見届けてあげるわ」

そうぼやく少女の表情には、落胆とほんの少しの希望が宿る。

「さぁ、最終決戦よ。サエズリ・スズメ」


「アナヒトちゃん!!!!」

「チィ……間に合わないの!?」

空から降り注ぐ巨大な闇の柱。

それは、アナヒトへと降り注ぎ――やがて、アナヒトを取り込みながら巨大なヒトの形を作っていく。

そして同時に、アナヒトを取り囲んでいた信者達が突如もがき、苦しみ始めた。

「ッ……この、イヤな感じはッ!?」

「スズメ――ヤバい」

違和感を覚えたのはスズメとビェトカも同じだった。

ナニカが自分達の中に入り込んでいくような感覚。

背に悪寒が走り、体が疼き、ナニカが内側から身を引き裂くような感覚。

体の震えが止まらない。

それは、偽神の降臨に対して本能的に恐怖を感じているだとか、この邪悪な霊力を体が拒否しているだとか、そういうものではなくもっと強制的な何か。

その理由はすぐにわかる。

「スズメ――あの信者共が……」

「!! 偽神装騎、に……ッ!」

スズメとビェトカの目に映ったのは、信者達の身体を内側から引き裂くようにし、青黒い塊が膨れ上がり、巨大化し、ディープワン完全体に似た――だが、それよりも凶悪さを思わせる姿に変貌する様子。

それは莫大な偽神クトゥルフの霊力に侵され、偽神装騎へと姿を変え、偽神の道具へとなり果てた信者達の哀れな姿。

そしてその事実はスズメとビェトカにも警告を発していた。

"すぐに、お前たちもこうなるぞ"と。

『偽神の降臨は為された……』

天使装騎ハルファスがポツりと呟くと、片翼を広げる。

「!! 逃げる!?」

『我が使命はこれまで――復讐姫達よ……また会おう。生き延びられたのであればな』

スズメの目には、無貌であるはずの天使装騎ハルファスが嘲りの表情を浮かべたことを確かに感じた。

その一拍後、天使装騎ハルファスは跳躍し、その場から姿を消した。

「スズメ、ワタシたちも離脱しないとヤバい……かもよ!」

「ですけど、アナヒトちゃんを……!!」

段々と巨大で醜悪なその姿を顕にしていく偽神クトゥルフを睨み上げ、スズメは動かない。

動きたくない。

「それではぁ、お助けしましょぉ〜」

突如、スズメとビェトカの身体を暖かい光が包み込んだ。

「これは……ケイシーさん、エリヤさん?」

「ご名答ぉ」

天使ハラリエルの声が響き、その場に2騎の機甲装騎神が姿を見せる。

装騎神ハラリエルと、装騎神サンダルフォンが天使の翼を広げ舞い降りてきたのだ。

それはスズメとビェトカを偽神クトゥルフの同調波から防ぐ守護の輝き。

身体の違和感が消え、心が、身体が落ち着いていくのが分かる。

「あれが、偽神クトゥルフですね」

落ち着いた声でそう言ったのはサンダルフォンだ。

その瞳は、偽神クトゥルフの力を測る様に、静かにその頭頂部を見つめている。

渦巻きあがる禍々しい霊気と強烈な存在感から、そこに偽神クトゥルフが確かなカタチを持って降臨したことを示した。

ついに降り立った偽神クトゥルフは装騎のコンピューターによる概算によると高さ40m程。

それは、ルシリアーナ帝国が運用していた超重装騎ジェネラル・フロスト……その2倍以上の高さだった。

「スパローと比べても7倍近いですね……」

遥か高見にあるその頭部――夜の闇に紛れながらも奇妙な光を放つ偽神クトゥルフのその姿ははっきりとスズメ達の目に見えている。

不意に、その頭部が眩い輝きを放った。

「まずいッ!」

「とっつぜんキタァ!?」

咄嗟に身をかわす装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイD。

その間を、強烈な蒼光が地面を焼き断ちながら走り去る。

「すんごい威力……ぅ」

「ですけど……ここで止まるわけにはいきません!」

一見冷静にも見えるスズメ――だが、その心が焦りに掻き立てられているのは言うまでもない。

その焦りに押されるように、装騎スパロー3Aは偽神クトゥルフに向かって駆け出す。

「スズメ!!」

ビェトカの声も聴かず、スズメは一直線。

その後を追おうとする装騎ピトフーイDの前に、激しい砲撃が見舞われた。

それは、ディープワンへと変貌した信者達――名付けるとすれば、臣下シンカ体の砲撃。

一撃一撃は偽神装騎ハイドラの全力攻撃――には及ばずとも"瞬風"にどこか近い。

その強烈な攻撃を見て、装騎ピトフーイDはステルスを起動すると、その姿を掻き消す。

装騎ピトフーイDを見失い左右を見回すディープワン・シンカに向け、

死は速やかにスムルト・イェ・リフレ

装騎ピトフーイDは懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニを素早く薙ぎ払った。

だが――――

「効かないッ!?」

懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニの衝撃で弾き飛ばされたディープワン・シンカの首筋にはアズルによって溶かされたような痕もあり効いていない――訳ではない。

しかし、ダメージの効きがイマイチ弱い。

「コイツ、硬すぎる……それにッ」

装騎ピトフーイDの攻撃で、その居場所に気付いたディープワン・シンカが邪悪なアズルを解き放つ。

「数が多いッ!」

戦っていてビェトカは感じた。

尖った所さえないものの、このディープワン・シンカ1体1体の能力は偽神装騎ダゴン、ハイドラに肉薄していると。

物理攻撃を溶かし切る程ではないにせよ、ダゴンを思わせる強力な防御力……防御を抉る荒々しさは無いものの、ハイドラの風を思わせる強力な砲撃力。

そんな偽神装騎2体の平均を取ったようなディープワン・シンカが、その数によって10体近く同時に襲い掛かってくる。

それは、さすがのビェトカにとっても脅威だった。

「ファイトぉ~。がんばりましょぉ~」

そんな装騎ピトフーイDの傍で、装騎神ハラリエルが軽いテンションで戦っている。

「アンタ天使なんでしょ!? もっと天使的な超パワーでディープワンを一掃とかできないの!?」

「さすがにぃ、この程度の脅威ですとぉ、パワー完全開放とはならないんですよー」

「すっごい不都合!!」

「全くですよぉ~」

「ですが――信じてください。この戦いはきっと勝てると。祈りがあれば、力になりますから」

装騎スパロー3Aの後を追いかけながら、装騎神サンダルフォンが言った。

「祈るより何より、まずは手が欲しいわ!」

「それなら抜かりなくぅ!」

ハラリエルがそう言った瞬間、一体のディープワン・シンカの首筋に砲弾が命中――炸裂した。

「今のは!?」

「わたしだよ!」

「来ましたよ、スズメ、ビェトカ!」

クラリカとズィズィの声が聞こえてきたと同時に、ズィズィ=ミカエルが方天霊戟にアズルの輝きを灯し切りかかる。

その背後で、クラリカ=ミカエルが成形炸霊弾砲アンティパンツァータスラムを装填し、再び構えた。

「ズィズィ、クラリカ! アンタ達大丈夫なの!?」

「まだ、完治はしてませんが……」

「こんな時に寝てられないよ!」

ズィズィとクラリカのミカエル型がディープワン・シンカとの戦いに加わる。

一方、装騎スパロー3Aは偽神クトゥルフと相対していた。

高い――とても高い偽神クトゥルフ。

それを見上げる傍で、装騎神サンダルフォンが言った。

「スズメさん、貴女は彼女を――アナヒトさんを救えると、思いますか?」

「救います。私は――絶対に」

そういうスズメの決意は固い。

それはサンダルフォンにもよく伝わった。

「スズメさん、そんな貴女に悪い知らせと良い知らせがあります」

「悪い知らせと、良い知らせ……?」

「はい。まず悪い方から言わせてもらいますが……」

「こういう時は、どっちからか選ばせてくれるんじゃないんですか?」

そう喋り始めるサンダルフォンをスズメが止める。

「良い知らせから教えてくださいよ」

そんなスズメの態度にサンダルフォンは思わず苦笑すると、言った。

「分かりました。良い知らせですが――アナヒトさんを救うことは、可能です」

「ありがとうございます」

スズメはそれだけ聞くと、装騎スパロー3Aを駆け一気に偽神クトゥルフに向かって飛び上がる。

「ってちょっと、話は終わってないですよ!?」

「ヤツの頭にアナヒトちゃんの姿が見えます! セオリー通りなら、そこに見えるアナヒトちゃんを外に連れ出せれば――救えるはずです!」

「はは……よくご存じで。しかし、猶予はありません。できるだけ素早く彼女を救い出しましょう」

サンダルフォンは装騎スパロー3Aの傍を飛びながら言った。

「私に乗ってください!」

スズメは頷くと、装騎神サンダルフォンへと飛び乗る。

偽神クトゥルフの頭頂部目がけて空を駆ける装騎神サンダルフォンだが、偽神クトゥルフもそう易々と近づけはしない。

『Ďurrrrrrrr!!』

雨のように注がれる偽神クトゥルフのアズル砲撃を、装騎神サンダルフォンは回避しながら飛ぶ。

だが――

「くっ――不味い」

装騎神サンダルフォンが偽神クトゥルフの頭部に近づけば近づくほど、サンダルフォンの身体を奇妙なプレッシャーが押し付けていく。

「エリヤさん!?」

装騎神サンダルフォンの身体がブレはじめ、明らかに不調の色が見えた。

「この瘴気……しまっ、予想以上、ですね」

サンダルフォンの身体を蝕んでいたのは、偽神クトゥルフの放つ瘴気。

嘆き、悲しみ、絶望と言った激しい感情が、絶え間なくサンダルフォンの中へと流れ込んできていた。

偽神クトゥルフがどのような存在なのか――スズメ達は詳しくは知らない。

だから、その理由も分からないが、サンダルフォンとハラリエルはよくわかっていた。

偽神クトゥルフは、神だった。

かつて、一つの繁栄を誇った"世界"だった。

「契約」によって秩序を保ち、「契約」によって平和を目指した、"世界神ルドライエフ"と呼ばれる存在だった。

この世界(レヴェリオス)とはあらゆる法則が異なる世界。

純粋にして清純だったその神格は、だが、世界の基盤である「契約」が破棄されたとき、絶望に墜ちた。

禍々しく、闇の存在のように見える偽神クトゥルフだが、その実は純粋な――天使サンダルフォンやハラリエルと非常に近く、それでいて、更に高位の存在。

その為、天使サンダルフォンと偽神クトゥルフの霊力が感応し合っていたのだ。

「大丈夫ですか!?」

「……ッ、すみません。偽神の霊力が、その、私を」

「……ここで降ろしてください。クトゥルフの身体を利用して、なんとか上まで登ってみます」

加えて、強烈な怨念を放つ偽神クトゥルフは、ことさら天使サンダルフォンとは相性が悪かった。

天使サンダルフォン――神への謁見を赦された天使達、御前天使に名を連ねることもある彼女の役割には「人々の祈りを神へと届ける」というものがある。

祈りを感じ、集め、それを秘める彼女の高い感応力は、偽神クトゥルフの怨念をダイレクトに感じ取ってしまっていた。

「スズメさん――最後まで、祈りを…………」

「祈りを……」

スズメは装騎スパロー3Aを走らせ、跳躍させ、一気に偽神クトゥルフの頭頂部を目指す。

突如、装騎スパロー3Aを狙い、多数の触手が襲い掛かって来た。

「スパロー! ムニェシーツ・ジェザチュカ!!」

装騎スパロー3Aが両使短剣サモロストを閃かせる。

その斬撃は、偽神クトゥルフの触手を弾き飛ばすだけで切断はできない。

だが、ちょっとした時間稼ぎにはなる。

触手が怯んだ隙に装騎スパロー3Aはぐんぐんと駆けあがる。

「メテオロツキー・ロイ!」

新たに襲い掛かってくる他の触手に、装騎スパロー3Aは全身のヤークトイェーガーを射出しぶつける。

時折、偽神クトゥルフの体表が盛り上がり、装騎スパローを阻んだり、足元から狙いをつけるがそれを回避。

そして、偽神クトゥルフの胸元から一気に跳躍すると、両使短剣サモロストを両腕で思いっきり掲げた。

「ムニェシーツ・大剣撃オボウルチュニーメッチュ!!」

巨大な剣のようになったアズルの刃が、偽神クトゥルフの脳天へと直撃する。

だが、偽神クトゥルフに揺らぎは見えない。

「アナヒトちゃん!」

それどころか、スズメの攻撃で偽神クトゥルフの頭部――発光するコアのようなものに閉じ込められたアナヒトの表情に苦悶が浮かんだ。

アナヒトの身体を偽神クトゥルフの青黒い闇が苛む。

それに抗うように、アナヒトの身体から山吹色の光が溢れ出していた。

その光は、アナヒトの持つ特殊な力の輝き。

かつて、アナヒトが装騎バトルをした時、装騎の受けたダメージが徐々に回復していったことがあった。

この光はその力の欠片――――常人であればもうすでに偽神クトゥルフに取り込まれててもおかしくないアナヒトが、無事な理由でもある。

「スズメ……」

アナヒトがスズメに助けを求めるように手を伸ばす。

「アナヒトちゃ――――ひぁッ!?」

スズメも思わずアナヒトへと手を伸ばそうとした瞬間、偽神クトゥルフ両腕から伸びた触手とも爪とも思える鋭い刃が装騎スパロー3Aを貫いた。

「私は、助ける……アナヒトちゃんを、アナヒトちゃんを、絶対に、助ける」

勢いを失くた装騎スパロー3Aは、一気に地面へと真っ逆さまに落ちる。

だが、スズメの意思の炎はまだ消えていない。

装騎スパロー3Aの状態をチェックする。

「ダメージは重い、両足は――動かない。けど、それ以外は、なんとか……ッ」

とりあえず、今はどうやって着地し、そしてどうやって再び偽神クトゥルフの頭部を目指すか――ただそれだけ考えていた。

「ムニェシーツ・ロンゴミニアドを、地面に向けて撃てば……」

だが、この落下スピードと残りの距離に対し、今放てる全力で何とかできるのか?

そういう思いもあったが、ここはやらないといけない。

やらなければ、死ぬだけだ。

「そう、早まるものでもありません!」

だが、不意に落下のスピードが緩やかになり身体が浮き上がるような感覚を覚える。

「エリヤさん……」

「すみません、私が――不甲斐ないばっかりに」

落下する装騎スパロー3Aを少し回復した装騎神サンダルフォンが受け止め、地面へと降り立ったのだ。

「いえ、そんなことより――――どうやってクトゥルフの頭部に行くか……それを考えたいんです」

「私には的確な助言も明確な手助けもすることはできません…………ですが、一つだけ言うならば、祈りなさい。強く、強く祈りなさい。貴女の願いを」

「私の願い……私は、助けたい。アナヒトちゃんを、助けたい!」

「その思いが強ければきっと、未来は貴女に味方するでしょう」

『Ďaaarrrrrrrr!!!!』

突如、偽神クトゥルフが叫び声を上げると、突如として全身から蒼黒い物体を周囲にまき散らした。

まき散らされた偽神クトゥルフの身体は、暫くするとディープワン・シンカへと変化する。

頭部へ達し、攻撃を仕掛けた装騎スパロー3Aから自身の身を守るかのように、一気に臣下達を増やし始めたのだ。

「くっ、動けない時に!」

「貴女の身は私が守ります! 後は、信じればきっと」

イマイチ漠然としたサンダルフォンの言葉。

だが、スズメは信じた。

彼女の言葉を、自分の意思を、自分の願いを、アナヒトと共に過ごす未来を。

金の矢(ズラティー・シープ)!」

突如、どこからかアズルを纏った矢が飛来すると、ディープワン・シンカに突き刺さった。

「矢……!?」

驚くスズメの傍で、今度はどこかヒレのようにも見える物体が空から舞い降りると、矢が突き刺さったディープワン・シンカにアズル砲で集中攻撃――その連続攻撃でディープワン・シンカを一体仕留める。

「これはFIN!? まさか!」

『ふっ、騎兵隊の登場だ!!』

通信から聞こえてきたカレルの声と共に、空から3騎の機甲装騎がパラシュートを開き降って来た。

「チーム・ウレテット!」

「スズメ、ごめんね。来ちゃった」

エッジボウを手にしたズラトヴラースカ型装騎ニェムツォヴァーを駆るニェムツォヴァー・カナール。

「あはは、弱すぎる総大将は留守番だけどね」

霊子杖ムソウスイゲツを構えるバルディエル型装騎を駆るジュルヴァ・レオシュ。

「最後の最後くらい……全力で、やらせてもらいたいから」

超振動断頭剣を両手で支えながら、周囲に攻撃子機(FIN)を浮かせたライラ型装騎バイヴ・カハを駆るカラスバ・レイ。

その3騎が装騎スパロー3Aを守る様にディープワン・シンカの前に立ちはだかる。

「うわぁ……すごいプレッシャー……あの大きい偽神もそうだけど、ディープワンもやっぱ怖いわね」

「全くだよね。でも、ちょっとワクワクするから――なんて強がってみたり」

「でも、スズメちゃんの為に、アナヒトちゃんの為にだったら、が、がんばります!」

3人はスズメやビェトカと比べると決して強くはない。

しかし、3人の真っ直ぐな気持ち――それはとても強いものだった。

スズメはその気持ちを信じた。

「死ぬのだけは、ダメですよ」

「スズメだって猫の手も借りたいでしょう?」

「手、というか足を貸して欲しいですね」

『そんなこともあろーかと!!』

そんな状況にそぐわないやり取りをしていた時、更にそぐわない陽気な叫びが通信から聞こえてくる。

そして段々と激しい駆動音が近づいてきた。

「ちょっとちょっと、粗い荒い粗い荒いアライって!!!!」

眩いアズルの輝きが、宵闇の中だと遠目からも分かる。

ディープワン・シンカの強烈な砲撃も謎の防壁で防ぎながら物凄い機動で一気に近づいてくるソレは――小型の陸上艇だった。

「来たよ、ズメちん!!」

「ロコちん!?」

真正面の操縦席にはロコヴィシュカ、その背後にはローラの装騎スプレッドが身を屈め、小型陸上艇にアズルを供給する。

更にその後ろには、何やらコンテナが搭載されていた。

ロコヴィシュカが操縦し、ローラの装騎スプレッドがアズル供給と防御を担当する小型陸上艇はドリフトするように車体を捻りながら急停止する。

それと同時に、小型陸上艇に積まれていたコンテナが一気に開け放たれた。

かと思った瞬間――其処から何かが物凄いスピード、物凄い跳躍力で飛び上がると、手近にいたディープワン・シンカを一気に引き裂く。

『Guaaaaa!!!!』

4本の足で大地に立ち、雄叫びを上げるそれは――どこからどう見ても獣の姿。

「これは……この装騎は!?」

「わたしの考えた機甲装"牙"計画のプロトタイプ……装牙ティグルだよ!!」

『Gurrrrrr!!』

ロコヴィシュカの紹介に応えるように、装牙ティグルはさらにもう一声唸りを上げた。

そして、装牙ティグルは装騎スパロー3Aの傍に寄りそう。

「もしかして……フニャちん?」

『Gur!』

装牙ティグルはスズメに乗れと示すように顔を自身の背中へと向けた。

「わかった、フニャちん!」

装騎スパロー3Aは両腕の力と、装牙ティグルの助けを借りてその背へとしがみつく。

『Goaaaaaaaa!!!!』

装騎スパロー3Aをその背に乗せた装牙ティグルは咆哮一つ、一気に偽神クトゥルフの身体を駆けのぼり始めた。

その加速力、跳躍力は装騎スパロー3Aを軽く凌駕する。

「私は、私は――――アナヒトちゃんを助けて、絶対助けるから!!」

スズメの強い意志に応えるように、装牙ティグルは獣の本能で偽神クトゥルフの攻撃をことごとくかわし、そして一気に頭頂部へと飛び出した。

「今度こそ、今度こそ助けてみせる! うわぁあああああああああああ!!!!」

スズメの叫びに装騎スパロー3Aを蒼い輝きが包み込む。

「スパロー、インフィニットアクアマリン、ドラァァアアアイブ!!!!」

装騎スパロー3Aがインフィニットアクアマリンドライブに達した瞬間、スズメの全身に青筋が走り口から血が溢れ出した。

全身が痛む、口から、そして鼻からも生暖かい液体が垂れ落ちる感覚、視界が霞み、頭がクラクラしてきた――――筈なのに、突然、思考が、視界がクリアになる。

スズメはただただ見据える。

偽神クトゥルフを、アナヒトを、そして――未来を。

「ムニェシーツ……エクスカリブル!!」

スズメの確信を持った一撃は――――偽神クトゥルフの頭部を切り裂き、そして、アナヒトをその手に救い出した。


挿絵(By みてみん)

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