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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
256/322

偽神編第11話:襲撃決行!/Nebůh písečná bouře

「よし、いよいよあのデマヴェント重工の施設に襲撃をかけるんだな!」

「なんでカレルは嬉しそうなのよ」

ローラから送られてきたデマヴェント重工ヴァルシャヴァ工場の見取り図を広げながら、どこか気分上々なカレル。

そんな姿をカナールが怪訝な表情で見つめている。

「何を言っているカナール。いいか、デマヴェント重工はマルクト三大財閥に並ぶ力をつけてきているズルヴァングループをはじめとしたデマヴェント家の企業の一つだ」

カレルは饒舌に語る。

「つまり、俺達イェストジャーブ家にとっては最大の敵――――その系列工場を潰せるんだ。ワクワクせずにはいられまい」

「さいですかい」

カレルの戯言を聞き流しながら、機甲装騎の輸送準備をするカナール。

『此方は機甲装騎が届き次第作戦を開始します。当然ですけど、一般人への被害は出さないようにしたいですね』

通信越しに作戦会議をするスズメ達の声が聞こえてくる。

「まさか、こんな犯罪紛いのことの手伝いをすることになるなんてね……」

「犯罪紛いじゃない。犯罪だ。立派な、な」

「わ、わたしたちは、スズメちゃんを信じて、全力でサポートするだけです……」

「そうだね」

「わかってるわよ」

『当分の目的は、あのカプセルに閉じ込められた偽神クトゥルフの破壊でいいですよね?』

『そうですね。あの子を……解放してあげましょう…………』

『……うん』

「こ、こちら、白鴉はくあ――機甲装騎4騎の輸送準備完了です。今から、射出します!」

『うん、ありがとう!』

「あの……絶対、帰ってきてください!」

『うん絶対!』

そのすぐ後、マスドライヴァー・イェストジャーブによって4騎の機甲装騎がマジャリナ王国ヴァルシャヴァ市に向けて射出された。


「来ましたね……それでは、作戦開始です!」

「「「諒解!」」」

それぞれは自分の機甲装騎に乗り込むと、各自の役割をこなすための配置ポジションにつく。

「それでは作戦通り、ズィズィさんとクラリカさんが先行して人払い。その隙に私とビェトカが地下に潜入します」

「なんか、スズメと組んでから地下にばっか行ってるわぁ」

「確かに」

ビェトカの冗談にスズメも苦笑しながらそう返し、そして言った。

「ではHodně štěstí……幸運を!」

「ピトフーイ・ディクロウス――参戦!」

『ドホナーニ3、ドホナーニ4先行します。行きますよクラリカ』

『うん!』

ズィズィとクラリカのミカエル型装騎がデマヴェント工場を襲撃する。

燃え上がる炎に立ち上る煙――――工場で働いている人々を地下室がある北東の部屋から遠ざけるように攻撃を加えていく。

『こちら白鴉……ヴァルシャヴァ憲兵が出動したらしいです。い、急いでください!』

その情報はおそらくローラから流れてきたもの。

スズメとビェトカは頷き合うと、地下室のある北東の部屋へと駆けだした。

その一室を破壊し、穴を掘るように地面をかきわけながら地下室へとたどり着く。

人間一人分くらいしか無い階段と違って、地下室内では機甲装騎もなんとか収まるほどの広さがあった。

「カプセルは?」

「……ありま、せんね。それどころか――部屋が、ないです」

スズメはカプセルがおかれていたはずの部屋を見ながら言った。

さっき忍び込んだはずの部屋は綺麗に消え去り、目の前には暗く巨大な通路が続くだけ。

「これは――レール……?」

そう。

ビェトカの言う通りその通路にはレールが敷かれていた。

「あの部屋は――ステラソフィアのブリーフィングルームと同じような移動式の部屋だったんですね」

地下の輸送ルートを利用して移動することができるステラソフィア女学園の作戦会議室ブリーフィングルーム――それと同じような機構の、言うなれば地下鉄研究室(ラボ)だったのだ。

「なるほどね……何かあれば地下ルートを使って別の支部に逃げられる……よく考えてるわ」

「おそらくは、一般の地下鉄とかと同じルートを使ってますね……追いかけるのは難しいですよ」

『そうでもないぞ』

「あ、たかから生まれたとんび

『鳶は余計だ! じゃなくてだ、一般のルートを使っているということは地下鉄の運行を妨げるようなルートは使えないということだろ? ならば、通行可能なルートから敵がどこに行ったのかを予測する。簡単だろう?』

『簡単ではないけどね』

通信の向こうから苦笑するようなレオシュの声が聞こえる。

恐らくは、レオシュが今実際にルートの絞り込みに力を尽くしているのだろう。

『出た……データを送るよ』

「感謝します。鶯さん」

「行くわよ相棒。奴らを追いかけにね!」

「はい!」

レオシュから貰った地図データを見ながら一気に駆けだすスズメの装騎スパロー3Aとビェトカの装騎ピトフーイD。

『我々も地下に行きましょう』

『うん、そうだねズィズィ!』

もう十分と判断したズィズィとクラリカのミカエル型もスズメ達を追って地下へと入った。

機甲装騎の航行速度は時速200kmほどとかなりの速さを誇る。

反面、地下鉄は安全性の問題で最大でも時速130kmを超えられるかどうかだという。

更に移動部屋の場合、通常の地下鉄よりもさらに巨大であることが多い。

「十分に追い付けそうですね……見えた!」

スズメ達の先を走る巨大な地下機関車。

恐らくそれが、スズメ達の目標とする地下研究車だ。

「足を止めてやるわ。懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニ!」

新兵装をどうしても使いたいビェトカは、地下研究車の車輪に向けて右腕部に仕組まれた懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニを射出する。

ダガーのように鋭い懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニの先が地下研究車の車輪を破壊せんとしたその瞬間。

ゴァウン!

風が巻き上がるような音が響き、懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニの刃先が宙を舞った。

「今の熱波は……!」

「呼ばれて飛び出てどじゃじゃじゃぁ~ん!!」

「な、落ち目の下っ端悪魔!」

ビェトカの攻撃を阻んだのは誰か――そう、

「暑熱の悪魔タルウィ!」

「渇死の悪魔ザリク……」

悪魔タルウィ&ザリクの二人だった。

格好良くポーズを決める魔神装騎タルウィの傍で棒立ちの魔神装騎ザリク。

その二人の目的は、どう考えても地下研究車の逃走の手伝い。

「ていうかアンタら生きてたの!?」

「アタシ達は悪魔ですぅ~アレくらいじゃあ死にませ~ん」

タルウィとザリクの二人はドレスデン支部の自爆以来姿を見せていなかったので、ビェトカはてっきりそう思っていたが違ったようだ。

「厄介ですね……なんにしても、ここは突破するしかありません!」

装騎スパロー3Aは一瞬にしてアズルをその身に纏う。

「インフィニット・アクアマリンドライブ!」

そのまま一気に無限駆動とアクアマリンシステムの同時発動を行うと、両使短剣サモロストを右手に構え魔神装騎タルウィ&ザリクへと駆けだした。

「よしっ、ワタシも……っ!」

ビェトカの装騎ピトフーイ・ディクロウスもアズルを纏い、アクアマリンシステムがドライブする、が。

「……チッ、無限駆動インフィニットドライブに入れないっ」

以前の戦闘では成功した無限駆動――だが、ビェトカはそれが発動できない。

「そう易々とはできないってか……」

だがビェトカは無限駆動に入れないからと言って戦いから身を引くような性格でもない。

今までだって無限駆動無しでやってきた――だから、これからだって――

限界駆動クリティカルドライブ!」

スズメ&ビェトカとタルウィ&ザリクの戦いが始まる。

装騎スパロー3Aの短剣ヌーシュが、装騎ピトフーイDのビッチュが、魔神装騎タルウィの熱風が、魔神装騎ザリクの熱線が閃きぶつかり合った。

莫大な大地の霊力セジを力にするスズメとビェトカの装騎は、零落しているとは言え悪魔と呼ばれる存在と互角以上に戦い合っている。

「人間のクセに……生意気なぁッ!」

「……天使ヘマー」

その状況を見てザリクがポツり――そんな呟きを漏らした。

「ヘマー……確か、人間モーセに撲殺された天使の名前だっけかぁ!?」

「タルウィ、縁起でもない例えを出さないで」

「えっ!? ……ごめん、ザリク」

ザリクの指摘にタルウィはしゅんとなる。

「援護します!」

「クラリカ、行きますっ!」

どこにズィズィとクラリカのミカエル型装騎が追い付き、明らかにスズメ達が優勢。

そんな状況の中……突如、激しい暴風が通路を一気に吹き抜けていった。

「何ですか!?」

「ッ……このプレッシャーは!」

暴風が通り過ぎた後、背筋の凍るような緊張が走る。

その感覚でスズメ達は理解した。

「偽神、装騎……っ!」

魔神装騎タルウィとザリクのその背後から、一騎の装騎が近づいてくる。

やがて、その姿が光に照らされ露わになった。

青黒く、有機的なその装甲――――それは確かに偽神装騎のもの。

しかしその姿はディープワンのバリエーションや偽神装騎ダゴンともまた違った見た目をしている。

「偽神装騎、ハイドラ……」

スズメがディスプレイに表示されたその名称を読み上げる。

まるで無数の頭部が一つの頭部に詰め込まれたように、異形となった頭部から、無数の瞳が4人を睨んだ。

『Šurr……』

蛇が這いずるような音が、地下道を木霊する。

「偽神装騎ハイドラ!? このプレッシャー……ダゴンと同レベルッ」

「プレッシャー、というか……その、怨念、みたいなものを感じますぅ」

ビェトカの言葉にクラリカが怯えたような声を出した。

『Šurraralalala』

偽神装騎ハイドラはおもむろにその両手をもたげ、だらんと指先をスズメ達へと向ける。

その動作だけで、スズメ達は危険を予感した。

「みんなっ」

「ヤバい――退避を!」

「クラリカ、危ないです!」

「わわっ、わわわわ!!??」

刹那――――強烈な暴風が4騎の脇を物凄い音と衝撃を立てながら通り過ぎて行った。

直撃すればひとたまりもないような風の暴虐。

地下通路は罅割れ、一部が砕け落ちているのが分かる。

地面に敷かれたレール――その一部は風圧によってひしゃげられ、破かれ、奇妙なオブジェクトを形成していた。

更にほかの一部は偽神装騎ハイドラの暴風に交じったアズルの所為だろう――熱を帯び、赤光を放ち、焼き切れている。

「強烈な風の勢い、風に交じったアズルの熱量……あの一撃をまともに喰らうと――ヤバいですね」

「どうだ! これこそ驚異的な強さの――」

「攻撃特化」

「そう、攻撃特化の偽神装騎――ハイドラの力だ!」

何故か自分事のように鼻高々なタルウィ。

だが、スズメとビェトカはその言葉にちょっとした手がかりを覚えた。

「ですけど、この状況じゃ……マズいですね」

スズメたちが戦っているのはある程度の広さがあるとはいえ一直線の通路。

どう考えても偽神装騎ハイドラが放つ暴風に分があるフィールドだ。

「勝算があるとすれば――あの2騎の魔神装騎を盾替わりにして接近してみる、とかかね?」

「なるほど……ですけど、悠長にしている時間はありませんし、力押しで行きましょうか」

「ふふん、Kozácký kousek……猪突猛進って訳ね」

「ハッハッハー! どうだ、恐れ入ったか人間共め!! 怖くてコチラに近寄――――ってきたァァアアアア!!??」

あれだけ圧倒的な力を見せつけられ、スズメ達が恐縮したと勝手に思っていたタルウィだったが、4騎が一気に駆け込んでくるのに驚愕の叫びを上げる。

「えーい、来るなら来いやァ! 火災オフニヴェー――」

だが、魔神装騎タルウィが技を発動するより早く、装騎スパロー3Aがその体を打ち付けた。

「……くっ」

同じように、装騎ピトフーイDも魔神装騎ザリクを抑えつけ、さらにそのままの勢いで偽神装騎ハイドラへと突っ込む。

装騎スパロー3Aをクラリカが、装騎ピトフーイDをズィズィがさらに後押ししながら、偽神装騎ハイドラへと距離を詰めた。

「コイツら……アタシ達を盾にする気かァ!?」

「……なるほど」

「スズメ、やっちゃいなさい」

「両使短剣サモロスト――――」

装騎スパロー3Aの両使短剣サモロストにアズルの輝きが灯る――その瞬間、偽神装騎ハイドラは両手を交差させ、構える。

「まさか!」

「ダメかッ!」

「やる気ですか……!?」

「おおおおう!?」

「Šššrrrrrrrrrrr」

盾にされている魔神装騎タルウィ&ザリクのことなど意にも介さず、その両腕が激しく振動をはじめ、捻じれ、唸り、風を巻き起こした。

「ホープムーン・バリア!」

「クシードロ・シュチート!」

「やっぱり味方だとは思ってないよねー!!」

「これはひどい」

咄嗟にアズル防御を展開したスズメ、ビェトカ。

身を逸らすズィズィにクラリカ。

そして盾にされるタルウィ&ザリク。

6騎の間を暴虐の嵐が吹き抜ける。

先ほどよりも至近距離での暴風は衝撃の激しさも段違い。

「うわっ!!??」

「うおぉお!!??」

「くっ……!」

「きゃぁああああああ!!!!!!!!!!」

直撃こそしなかったものの、スズメ達の装騎は壁や天井に叩きつけられながら吹き飛ばされた。

アズルによる防壁を展開していたにも関わらずそのダメージは甚大。

「スパロー!」

スズメは激しく繰り返される警告音の中、思わず叫ぶ。

各部の損傷をチェックする。

「ホープムーン・バリアが、剥がされるなんて……!」

偽神装騎ハイドラの暴風は強力とはいえ、偽神装騎ダゴンの持つ溶解液のような凶悪さは無い……少しでもそう思ってしまったのがいけなかった。

偽神装騎ハイドラの暴風は、ダゴンの溶解液を凌いだアズル防御を直撃でも無いというのに引き剥がしていたのだ。

そんな一撃を受けたビェトカも、ズィズィも、クラリカも装騎には少なくない損傷。

暴風に交じった微量のアズルによるダメージもあり損害はでかい。

装騎ピトフーイDとズィズィ、クラリカのミカエル型は何とか立ち上がることができた。

だが……

「スズメは!?」

「ぐっ、ごめんビェトカ……全身の装甲が断裂してます……動くだけなら、なんとか、ですがっ」

「そうか、スパローは機動性を重視した軽量型……ワタシ達の中で一番――」

「はい、脆い、です」

更には仕込み刃(ブレードエッジ)を内蔵する為に、ただでさえ薄い装甲が削られているということが災いした。

今の装騎スパロー3Aは実質、素体そのままも同然の状態となってしまったのだ。

偽神装騎ハイドラが狙うのは、言うまでもなく見るからにボロボロな状態の装騎スパロー3A。

「Šuaach!!」

風を切るような声と共に、正面の口のようなものがぐわんと開き、風の唸りが閃く。

「スズメッ!!」

装騎スパロー3Aの騎体が揺れる。

それは、装騎ピトフーイDが装騎スパロー3Aを押しのけた衝撃。

偽神装騎ハイドラの放った瞬風は、装騎ピトフーイDの左肩を抉り飛ばした。

飛んで火にいるなんとやら……偽神装騎ハイドラは、その両腕をビェトカへと向ける。

いや、もしかしたら二人一緒に吹き飛ばすつもりかもしれない。

その両腕から風の唸りが放たれる刹那、

「スズメ!!」

「ビェトカ!!」

二人は思わず叫んだ。

その声が大きく反響する。

「B……Bbbbbběeeeaaaaa!!!」

ゴゥォオオオオオウウウウン

震えるような偽神装騎ハイドラの声と共に、風が爆発し地下通路全体を巻き込み暴れ吹いた。

挿絵(By みてみん)

機甲女学園ステラソフィアは本日2017年2月10日で無事3周年を迎えました!

4年目もまたよろしくお願いいたします!

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