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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
254/322

偽神編第9話:未来を目指す為に/Kdybych nemusela Hrůza

「あー! ったく、本当イライラするわァ!!」

マスドライヴァー・イェストジャーブの管制室。

ビェトカはふかふかのアームチェアに身を埋め、悲鳴のような声を上げた。

「あともうちょっとでぶっ殺せそうだったのに!」

「それより先に、お前がぶっ殺されそうだったぞ」

「肉を切らせて骨を断つ、よ!」

ビェトカの言葉にカレルは怪訝な表情を浮かべる。

「実際、ビェトカが触手を抑え込んでくれなければあの一撃は……」

「そうそうそう、そうなのよ! さっすが相棒! わかってるぅ!」

スズメのフォローにビェトカは気を良くすると、手近にあったスポーツドリンクを飲みほした。

「何にせよ、ビェトカも生きててダゴンへの有効打も見つかりました。喜ばしいことですよ」

「そういう割にはどこか難しそうな顔をしているけど……何か引っかかることでもあるの?」

カナールの言う通り、言葉に反してスズメの表情はどこか暗い。

「アナヒトちゃんの手がかりが、見つからなかったからですか……?」

「それも、あるんだけど……」

スズメは考えていた。

あの偽神装騎ダゴンとの戦いを。

装騎ピトフーイも破壊され、結果的に逃げられたとはいえ確かに偽神装騎ダゴンに対して有効打が決まった。

だが、それもギリギリの差……もし、ビェトカが死んでいたら、自分1人で戦っていたら、もし反応がもっと遅れていたら……。

(最後の一撃……スパローの反応速度がもっと高ければ避けられていた……かもしれない)

全ては“ifもし”。

だが、まだまだ続くこの戦い――いつかこの“もし”が現実になる日がくるかもしれない。

「もっと、強くならないと……」

スズメの呟きは、その場にいる誰もの胸を穿つ。

シンと静まり返った管制室に、ドタバタと激しい足音が近づいて来た。

「ズメちん! スパローを、改造しよっ!!」

扉が開け放たれると同時に、スズメにとってとても聞き馴染みにある声が部屋に響き渡る。

「ロコちん!?」

ロコヴィシュカの姿に、スズメは驚きに目を白黒とさせた。

それもそうだ。

スズメは全く知らなかった――ロコヴィシュカがまさかこの場所にいるとは。

「あー、スズメくん達は作戦で忙しかったから言ってなかったのだが……どうやらロコヴィシュカくんに後をつけられていたようでな……」

「ちょっ、後をつけられてたって!?」

驚きの声を上げたのはビェトカだ。

それもそうだろう。

ここは対偽神教への前進基地――その所在がたかが1女子高生に簡単にバレるようでは偽神教にバレるのも時間の問題だからだ。

「っていうか、ここに来るときはつけられてるような感じはしなかったけど」

「ああ。昼に買い出しに行ったのだが、そのメンバーがつけられてしまってな……」

「買い出しに行ったの誰よ」

「俺様だ」

「アンタか!!」

全く悪びれないカレルに、ビェトカはこめかみをひくつかせながら手に持ったペットボトルを握りつぶす。

「尤も、ロコヴィシュカくんは俺達とスズメくんの関係。そして、スズメくんの家でのやり取りを僅かながらでも知っていたからこそ尾行できたのであって、そういう情報を持たない連中ならば――」

「言い訳しない!!」

相変わらず悠々としているカレルの態度に、終ぞビェトカは握りつぶしたペットボトルをカレルに投げつけた。

「ごめん、ズメちん……わたし、余計なこと、しちゃったよね」

ビェトカとカレルのやり取りを見ていたロコヴィシュカが申し訳そうな表情を浮かべる。

「ううん。ロコちんは私を助けに来てくれたんだよね。嬉しいよ。とても」

スズメの言葉にロコヴィシュカの表情も少し柔らかくなった。

「ところで……スパローを改造って、どういうこと?」

「そうだった。実はズメちんの為にずっと考えていたプランがあってね」

ロコヴィシュカはそう言いながら、カレルから借りていると思しきPAD端末の画面をスズメに見せる。

そこに表示されているのは、様々な装騎スパローの強化案だった。

スズメが考えていたもの、ロコヴィシュカが考えたもの、過去に二人で言い合った他愛のない妄想から、気になる最新技術まで。

それらが机上の空論などではなく、装騎スパローの為に調整された確かなプランとしてそこに示されている。

「この中からまず1つ、装騎スパロー3A(トライアゲイン)に実装するなら……やっぱりコレかな」

「スパロー3Aの、バスタード化!?」

バスタードとは。

まず、機甲装騎は大まかにして2つの分類に分けられる。

電力と霊力セジ蒼魔石ブルエシュトーネに通すことで魔電霊子アズルを生み出し、それを動力源とする機甲装騎。

そして、基本的な原理は同じながら蒼魔石の代わりに赤魔石レットシュトーネを用いる事で赤色魔電霊子マーダーを生み出し動く東洋の装騎――機甲装武。

それらには操縦方法や装甲素材などの違いがあり、それらの技術を混合した機甲装騎こそがバスタード装騎と呼ばれるものだ。

「オーバー・シンクロナイズ操縦はそのままに伝達操縦もできるようにして、リアクターもハイドレンジアリアクターに代えて……」

機甲装武最大の特徴は、「伝達操縦」と呼ばれるその操作方法だろう。

搭乗者の動作を増幅再現する所謂セミ・マスター・スレイブ操縦と呼ばれるものが採用されている機甲装騎に対し、機甲装武の伝達操縦システムは搭乗者の意識を装騎に同調させる。

それによって機甲装騎を自分の体のように、ほぼラグ無しで動かせるようになるのだ。

反面、それに伴う危険も多く、人によっては一瞬意識を同調させただけで恐怖と違和感でピクリとも体を動かすことができなくなることもある。

「アズルリアクターが基礎ベースのハイドレンジアだから、テンションで性能の変化はあまり起きないようにしてるし、ズメちんなら大丈夫だと思うけど……」

さらに、人が乗ってさえいれば安定してアズルを精製できるアズルリアクターと違い、マーダーリアクターは搭乗者の「士気」によって出力が上がり下がりするという性質がある。

その為、死地を前にした時に、搭乗者の大きな恐怖が影響となり出力、性能の低下を招くこともあり、使いこなすには強靭な意志が必要ともいわれるのだ。

そして、その両方の特性を盛り込んだのが紫陽花霊子機関ハイドレンジアリアクターと呼ばれるバスタードリアクターだ。

「ロコちん、凄い……いつの間にこんなのを作ってたの?」

「こんなこともあろうかとってね! ズメちんから"機甲装武の実物を見た"って手紙をもらった時から考えてたんだぁ!」

ロコヴィシュカの言葉にスズメは改めて思う。

(やっぱりロコちんは最高のメカニックだ)と。

「スパローのバスタード化はどれくらいで終わりそう?」

「明日の朝にはバッチリ! 期待して待ってて!」

スズメはロコヴィシュカの言葉を信じ、ロコヴィシュカに装騎スパロー3Aを任せることにする。

「さてと……そんじゃあワタシの装騎はどうするかなぁ」

そう、ビェトカの装騎ピトフーイも偽神装騎ダゴンの攻撃で破壊されてしまっていた。

なんとか代わりの装騎を調達したいところだが……。

「アンタんとこ金持ちなんでしょ? 最高級装騎の1騎や2騎、軽く調達できないの?」

「できないことはないが……民間騎ならまだしも、軍用騎となると一朝一夕では難しいぞ」

「使えないわねぇ」

ビェトカがそう吐き捨てた時、「ピロリン」と管制室に軽い音が響き渡る。

「何の音ですか?」

「……電子メールだ」

マスドライヴァー・イェストジャーブの管制コンピュータに突如として届いた一通のメール。

差出人は……

「これね。スズメ達が言ってたのって」

カナールがディスプレイを覗きながら言った一言で、その場にいた全員が理解した。

「まさか、シャダイコンピュータから!?」

スズメがディスプレイを覗きこむと、そのまさか――差出人は「シャダイ」となっていた。

「ほっ、本当に、シャダイコンピュータから、メールが届いてます……」

「そーは言ってもさぁ、ソイツが本当にシャダイなのかも分からないし、そもそも敵かもしれないんでしょ?」

「敵ならスズメに装騎を上げたりしないんじゃないかしら?」

「理由は分からないけど、少なくともロクなヤツじゃないわよ絶対」

「このメール、ビェトカ宛ですね……"新型装騎を贈る"、と」

「まぁ、暫定味方ってことなら認めてあげても良いかな」

「単純すぎるぞ!」

メールの内容にあっさりそんなことを言うビェトカにカレルが思わず突っ込む。

「んで、ワタシの装騎って?」

「私のガレージに贈られてるみたいですね……ちょっと確認してみます」

暫くして、マスドライヴァー・イェストジャーブ基地にあるドックに一騎の機甲装騎が運ばれてきた。

ビェトカが使っていた装騎ピトフーイのカラーリングをなぞり、黒を基調としてオレンジ色のポイントが入った機甲装騎。

「ふーん、PS-S-An1……アナフィエル、ねぇ。Sってことは、サリエルと同じステルス騎?」

「そう見たいです。消費するアズルの量が抑えられてるみたいですけど、基本的にはサリエル型と変わりないようですね」

「じゃあ、サリエル型の改良型みたいなもんかー」

「そうでもないみたいです。アナフィエル型には固有武装があるみたいですよ」

「固有武装!」

最初はどこか不満げな表情を浮かべていたビェトカだが、スズメの言葉に態度が一変。

身を乗り出して、アナフィエル型装騎のスペックを情報を漁り始める。

アナフィエル型装騎の固有武装とは、その両腕に仕込まれた「懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニ」と名付けられたワイヤー武器。

「この懲罰の鞭シェデサーティー・プラメニ……クシエル型装騎の持つ炎の鞭(フォイアパイチェ)の発展型みたいな武器ですね」

炎の鞭(フォイアパイチェ)……?」

「はい。アズル武器は扱いや出力調整が難しいのであまり使われないんですけど、それでもいくつか、アズルを武器に纏わせて攻撃する――という用途で作られた武器があるんです」

その内の一つが、クシエル型装騎の持つ炎の鞭(フォイアパイチェ)

鞭状のワイヤーにアズルを伝わせた見た目が、鞭が炎を纏っているように見えることからそう名付けられた。

しかし、前述のアズル武器の扱い辛さも相まって、クシエル型を使用している人は少ない為、装騎の中でも些かマイナーな装騎だ。

「そう聞くと微妙そうだけど……大丈夫なの?」

「改良型ですし、炎の鞭と違って色々使い方もあるみたいですよ。アクアマリン・システムもあって対ダゴンも想定してるようなスペックです」

「ふーん。スペックとかデータとかはよくわかんないけど、この武器ならダゴンでもぶったたけるってことね」

「そういうことです」

「それだけ解ればOKよ」

一通りの確認が終わったその後だ。

「あのぉ……わたしたちに装騎は、無い、んですよね……?」

おずおずと声を上げたのはクラリカ。

クラリカとズィズィの二人もディープワンとの戦いで装騎が損傷しており、未だ修理中。

この二人も、できるのであればいち早く装騎を手に入れ、戦場に復帰したいと願っていた。

「メールでは触れられてなかったけど、ミカエル型装騎が2騎ガレージに入ってましたから」

「それ使えってことかね? まぁ、無いよりマシじゃん。よかったね」

スズメとビェトカの言葉にクラリカの表情がパッと明るくなった。

一見、普段通り物静かな様子だが、心なしかズィズィの表情も緩んでいるように見える。

「だったら、早速見てみようよズィズィ!」

「まるで玩具をもらった子どもみたいになってますよ」

はしゃぐクラリカを嗜めながら、ズィズィは新たな機甲装騎が手元に来るのを待つ。

「これでなんとか戦力は増強できたわね。問題は、次にどこの施設を狙うかだけど……」

「それなら、ここはどうかな?」

腕組みしながらそう呟いたとき、装騎ドックにレオシュが入って来た。

(そういえばレオシュさんの姿が見えなかったような……)

スズメはふとそう思い出す。

事実、レオシュはカレルから"他の作業"を任されていた。

「この施設は?」

「ここはダゴンを射出したと思えるマスドライヴァー施設だよ」

レオシュが任された仕事――それは、先の作戦で空から降って来た偽神装騎ダゴン。

その軌道から偽神装騎ダゴンが飛び立ったと思われる地点の探索。

コンピュータによる計算などを駆使した結果、レオシュはマジャリナ王国領ヴァルシャヴァ市郊外にある施設からマスドライヴァーによって発射されたと結論づけた。

「ヴァルシャヴァ市……マジャリナ王国の領土、ですね……」

「クラリカたちの……国」

「偽神教はルシリアーナ帝国とも手を組んでたのよ。マルクトに重要拠点を置いてるし、そう考えるとマジャリナに偽神教の施設があるのは何もおかしいことはないじゃない」

どこかショックを受ける二人にビェトカがそう言うが、より影を増す二人の表情にビェトカは頭を掻く。

「ビェトカは励ましてるつもりですからね」

「それは、分かっています……」

スズメのフォローにビェトカはばつが悪そうだ。

「何にせよ、次の手がかりはその施設しかない訳ね。ここはいっちょ、行ってみるしかないんじゃない?」

ビェトカの言葉にクラリカとズィズィも、重々しげにだが首を縦に振る。

そう言うことで次の目的地が決まった。

「次の目的地は――マジャリナ王国、ヴァルシャヴァです!」

挿絵(By みてみん)

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