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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
253/322

偽神編第8話:仇天直下/Účinný Úder

装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイの前に現れたのは、4騎のディープワン。

そして……

「ナニ、あの棘付きディープワン……」

その姿はディープワンにとても近い――しかし、ディープワンに比べると屈強そうな見た目。

全身に鋭い突起物が生え、どこかヒトデを連想する。

『完全体……!』

通信からズィズィのそんな声が漏れた。

「完全体?」

『偽神教に潜入調査していた時に聞いたことがあります。普段よく活動するディープワンは成熟体……ですけど、更にその上のディープワンがいる……と』

「ダゴンは完全体じゃないんですか?」

『ダゴンは私達の知る偽神装騎の中でも驚異的ですし――この流れで言うのなら究極体とでも言うべき偽神装騎なのかもしれませんね』

「ふ~ん、つまりアイツはダゴンより弱いってことね!」

奇妙なディープワンの姿に驚いていたスズメとビェトカだったが、ズィズィの話を聞き、どこか余裕が現れた。

「それならブッ叩くまで!」

「そうですね。行きます!!」

『あくまで此方の推測であって正確な情報は……』

ズィズィの言葉を置き去りにして、限界駆動に達した装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイは3騎のディープワンと2騎の棘付きディープワンとの戦いを始める。

「アイツが完全体だろうが究極体だろうが、戦うことには変わりないのよ」

姿を消した装騎ピトフーイの援護を受けながら、装騎スパロー3Aは手始めにブレードエッジを展開、ディープワンを1騎切り裂いた。

だが、装騎スパロー3Aは残った3騎のディープワンの真っただ中。

『Goaaaaaaaaaaaaaaa』

ここぞとばかりに装騎スパロー3Aの元へ飛び込んでくる3騎のディープワン。

「ビェトカさん!」

「あいよ!」

スズメの号令に従い、ビェトカが超振動鞭ビッチュの超振動機能を切ったまま、装騎スパロー3Aの体を絡めとり――――思いっきり引き戻した。

「アクアマリン・ドライブ!! スパロー、霊光刃来スヴェトロ・シュピチュカ!!」

スズメの言葉に従い、装騎スパロー3Aのアクアマリンシステムが起動する。

限界駆動の無尽供給に、アクアマリン・システムによる更なるアズル供給によって装騎スパロー3Aは本来では扱えないほど莫大すぎるアズルを操ることが可能となった。

そんな"強力すぎるレイ・エッジ"こと、霊光刃来スヴェトロ・シュピチュカが2騎のディープワンを焼き払う。

装騎スパロー3Aの一撃――その後には、塵一つ残らない。

「チィッ、棘付きは無事か!」

しかし、棘付きディープワンだけは装騎スパロー3Aの攻撃で倒せなかったことにビェトカは舌打ち。

「あの威力の霊子砲でも生き残るなんて……しぶといですね。ですけど、無限駆動インフィニットドライブなら!!」

スズメと装騎スパロー3Aを高濃度のアズルが包み込む。

「スズメ、確実に行くなら近接攻撃よ!」

「モチのロンですよ!」

霊光刃来の熱も冷めない中、無限駆動へと達した装騎スパロー3Aは棘付きディープワンに向かって一気に駆けた。

『Urrrrrrrrrrr』

それを迎え撃つように、棘付きディープワンも跳ねる。

「はい残念!」

『Uraraaaa!?』

だが、突如として棘付きディープワンの動きが止まる。

その体には、超振動ワイヤーが巻き付いていた。

「早すぎて見えなかった? 超振動ワイヤーのシーチュよ!」

格好つけたのもつかの間、ビェトカの目は捉えた。

棘付きディープワンを絡めとる超振動ワイヤーが徐々に溶け始めていることに。

「なるほどね、こういう能力はダゴン譲りってことね。でも、パパに遠く及ばないわよ~」

「折角ですし……ダゴンと戦う準備運動にさせてもらいますよ!」

装騎スパロー3Aは両使短剣サモロストを構え、その刃にアズルを纏う。

「スパロー、ムニェシーツ・ジェザチュカ!!」

アズルと超振動――その両方の特性を持ち合わせていると言っても良い、鋭い一撃が棘付きディープワンを引き裂いた。

「ふっ、バッチシ!」

装騎ピトフーイが拳を固めて突き出してくる。

装騎スパロー3Aは、その拳に拳を合わせ、新たな脅威への束の間の勝利に浸った。

それから、ディープワンのプラントを壊しながらさらに奥へと進んでいく。

何度か棘付きディープワン――ディープワン完全体とも矛を交え、それを撃破していった。

そして、柱のようなものがずらりと並ぶ一室に辿り着いた時だ。

『こちら金糸雀きんしじゃく、謎の物体が高速でプルゼニ市へ飛翔中!』

突如入った切羽詰まった様子のカナールからの通信。

『クラリカです! 何かが工場に降って――――』

ゴォオォウン!

突如、激しい音が響き渡る。

装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイのその正面。

舞い上がった埃で視界が霞む中、スズメもビェトカもその存在を感じた。

姿が見えずとも判る、背筋が凍るような圧倒的プレッシャー。

「偽神装騎――ダゴン!」

見ると、偽神装騎ダゴン直上の天井に穴が穿たれ、その穴から光が差し込んでいる。

「まさか、地下ここまで床を溶かしてきたってーの!?」

ビェトカの言葉通り――偽神装騎ダゴンはスズメとビェトカの真上から、自身の分泌する溶解液によって地面を融解させ、一直線に落下してきたのだった。

そのプレッシャーに冷や汗が伝う。

圧倒的な敗北を思い出し、体が震える。

だが、それでも、スズメとビェトカは口元に笑みを浮かべえた。

「まさか本当に、棘付きが準備運動になるなんて――思ってましたけど」

「そうね~。丁度体も温まったところだし……ここいらで決着付けときますか!」

「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」

「ピトフーイのアルジュビェタ――参戦!」

『Choooooooooooooooo!!!!』

偽神装騎ダゴンが、何かを投げつけるように振りかぶる。

それは、砲丸のように球状となった偽神装騎ダゴンの溶解液。

偽神装騎ダゴンの攻撃は、散開した装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイには当たらない。

溶解液の砲丸は柱の一個に命中すると、その柱を跡形もなく溶かしきった。

「フー! 相変わらずすっごい威力ぅ!」

「ですけど、当たらなければどうと言うこともありません!」

装騎スパロー3Aは一気に跳躍。

その足で柱柱を蹴り飛ばし、一気に加速しながら尚且つ変則的な動きを見せる。

装騎スパローが得意とする跳躍戦闘にこの戦場はうってつけだった。

Hraaaaaaa(フラァァァアアア)!!」

装騎ピトフーイもステルス迷彩を起動――その姿を空間に溶け込ませ、偽神装騎ダゴンへ向かって突っ込む。

霊光刃来スヴェトロ・シュピチュカ!」

装騎スパロー3Aは、高速跳躍から偽神装騎ダゴンの背後へ。

そして、ブレードエッジに光を灯すと、無限駆動とアクアマリンドライブの重ね掛けによる、強烈な魔電霊子アズル砲を撃ち放った。

だがその一撃は偽神装騎ダゴンの表面をレアで焼いただけ。

そのダメージも次第に修復していっているのが目に見える。

『Kóchoooooooooooo』

攻撃を受けた偽神装騎ダゴンは、装騎スパロー3Aを素早く察知。

背後の触手から溶解液を飛ばし、装騎スパロー3Aを狙う。

「っ、ホープムーン・バリア!!」

その溶解液をスズメはレイ・エッジを応用したアズル防壁で咄嗟にガード。

「スズメ!」

「ビェトカさん!」

ホープムーン・バリアで偽神装騎ダゴンの溶解液を防ぐ装騎スパローを装騎ピトフーイがワイヤーで引っ張った。

「しっかし、どうやってダメージ与える?」

装騎ピトフーイの位置に気付いた偽神装騎ダゴンが、溶解液を放ってくる中、それを回避しながらビェトカがスズメに尋ねる。

「一つ、試してみたい手があるんです」

「それは?」

「両使短剣サモロストの霊子刃で溶解液を抑え込みながら、実体刃で偽神装騎ダゴンの部位を切り離します」

それはさっき、ディープワン完全体と戦った時にヒントを得、そして今、偽神装騎ダゴンの溶解液をホープムーン・バリアで防ぐことができたと言うことからその戦法を思いついた。

そしてこの戦法は、霊子剣と実体剣その両方の性質を扱うことをあらかじめ想定している両使短剣サモロストだからこそ有効に発揮できる戦い方だった。

「なるほどね……あの溶解液を抑え込めれば普通のディープワンみたいにダメージは入れられる筈……ってことね」

「まだ試行の段階ですけど、これでダメージが通ればまた作戦が考えられます」

「そうね。で、攻撃の隙を一瞬でも作ればいいってわけだ」

「はい」

偽神装騎ダゴンは驚異的だ。

即座に位置を感知する鋭さに、一撃一撃が重い。

あの溶解液など直撃すれば即死は免れない。

「何発かはアズルを使えば防げそうですから良いですけど……」

そして地味に厄介なのが、とても強烈でさらに四方八方への攻撃が可能な触手だった。

「本当……あの触手は隙が無いわ。おぞましい」

「ダゴンは基本的に待ちの姿勢ですし……」

「そうね……押してダメなら引いてみなってか?」

スズメとビェトカは頷き合うと、一気に反転。

自分達が入って来た部屋の入り口へと駆け戻る。

『Chorrrrrr!!!』

それを見た偽神装騎ダゴンは溶解液を投げつけるが、装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイは回避し進んだ。

「さて、来ますかね……」

「来るっしょ。わざわざダゴンを寄越したってことは、ここはそれなりに重要な施設っぽいジャン?」

「一壊ししてきましょうか」

「そう来なくっちゃ!」

施設内を壊しながら走り回る装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイ。

『Chuuuuuuuuuu』

「うおっ、来た来た来た!?」

「次行きましょう!」

『Chooooooo!!!!!』

「心なしか怒ってるように見えますね……」

「そろそろイーかなぁ!」

『Chyuuuuuuuuuo!!!!!』

おいで(ポイヂュ)坊や(ヂーチェ)

装騎ピトフーイと偽神装騎ダゴンが相対する。

ビェトカの口元に引きつるような笑みが浮かんだ。

「もう一っ走り付き合いなさい!」

走る装騎ピトフーイ。

その後を追う偽神装騎ダゴン。

「ワタシはね、逃げるのは得意なのよ! そして……」

『Kochuu!?』

「罠にかけるのもね!」

装騎ピトフーイと偽神装騎ダゴンの間に突如として現れた超振動ワイヤーで作られた網。

その網が偽神装騎ダゴンを絡めとっていた。

「そして……ワイヤーにアズルを流し込めば…………っ!」

装騎ピトフーイの手からアズルが流れ出し、超振動ワイヤーに流れ込む。

限界駆動によって際限なく送り込まれるアズル。

「これで少しは…………」

だが、限界駆動でも偽神装騎ダゴンの溶解液に耐えうるだけのアズルを流し込むことができない。

偽神装騎ダゴンが体中から滲ませる溶解液で超振動ワイヤーは一気に溶断された。

「チィッ!!」

舌打ちをするビェトカを激しい衝撃が襲う。

偽神装騎ダゴンの触手が装騎ピトフーイに叩きつけられた衝撃だ。

頭が揺れる、視界が揺れる、意識が飛びそうになる、だが、ここで気を失うわけにはいかない。

いや――

「こんの……程度でェ!!」

倒れるはずがない!

『Choooooooo!!!』

偽神装騎ダゴンが溶解液を投げつけてくる。

その一撃が当たれば間違いなく自分は死ぬだろう。

そう思いながらも、ビェトカの心は澄み渡っていた。

いや、ビェトカには確信があったのだ。

「ワタシは――――」

不意に、装騎ピトフーイとビェトカの体を蒼い輝きが包み込む。

「死なない!」

偽神装騎ダゴンが放った溶解液が、アズルの壁で阻まれる。

完全には阻み切れず、飛び散った溶解液が装騎ピトフーイの装甲を削るが全く問題はない。

無限駆動インフィニット・ドライブ!!」

ビェトカの持つ超振動鞭ビッチュにアズルが走る。

「くらえっ、荒れ狂う毒蛇ヴェルカー・サンクツェ!」

超振動鞭ビッチュの先で巨大な拳のように固まったアズルを振り回し、その拳を偽神装騎ダゴンへと叩きつけた。

装騎ピトフーイは踏ん張り、その威力を偽神装騎ダゴンへ一心に向ける。

『Chuhooo』

偽神装騎ダゴンはアズルの拳で叩き飛ばされた。

装騎ピトフーイは偽神装騎ダゴンを叩きつけた衝撃を利用して一回転。

「まだよ! 二撃目ドヴァクラートァ!」

『Chuchuchuchoooooo』

更なる一撃を加えようとした装騎ピトフーイに、偽神装騎ダゴン全身の触手が襲いかかる。

「来た! スズ……」

装騎ピトフーイが偽神装騎ダゴンの触手に貫かれ、通信が途絶えた。

「ビェトカ!!」

ビェトカの指示で身を潜めていたスズメの装騎スパロー3Aが装騎ピトフーイの残骸……その背後から姿をあらわす。

その瞳はただ真っ直ぐに偽神装騎ダゴンを睨む。

スズメの意思に、装騎スパロー3Aの纏うアズルがより一層鋭さを増した。

「ムニェシーツ・アルテミス!!」

装騎スパロー3Aと重なるように、スズメの両腕、両足、そして身体中へと蒼い光の筋が走る。

無限駆動とアクアマリンドライブで生み出された高濃度のアズルを纏った両使短剣サモロストを正面に構え、シープのように偽神装騎ダゴンへ突っ込んだ。

『Choooooo』

装騎スパロー3Aに気が付いた偽神装騎ダゴンが、その触手を向ける中、装騎スパロー3Aはその間を抜けて行く。

その触手は素早く正確だが、いくつかの装騎は装騎ピトフーイに抑え込まれ動かない。

「あと少し…………届けェ!!!!」

装騎スパロー3Aの両使短剣サモロストが偽神装騎ダゴンを貫く。

偽神装騎ダゴンの触手が装騎スパロー3Aの脇腹を抉る。

『Chahuchahuchahuuu⁉︎』

両使短剣サモロストの刃が偽神装騎ダゴンに入った。

強力で高密度のアズルが偽神装騎ダゴンの溶解液を押し退け、その刃が段々と食い込んで行く。

「これで……決めッーーーー!?」

その刃が偽神装騎ダゴンの中枢を貫かんとした瞬間。

激しい、蒸気のような白い煙が偽神装騎ダゴンの体内からすごい勢いで吹き出した。

危険を感じ、その身を引くスパロー3A。

白い煙がスズメの視界を覆う。

そして、その煙が晴れた後……その場に偽神装騎ダゴンの姿は無かった。


挿絵(By みてみん)

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