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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
252/322

偽神編第7話:かけがえのない絆/Deep Ones Zbrojovka

ピンポーン

次の偽神教施設を襲撃するための準備をしていたスズメの部屋に、チャイムの音が鳴り響く。

「スズメ、何かあったの!?」

扉を開けるとそこに居たのは――カナール、カレル、レオシュにレイ……チーム・ウレテットの4人だった。

「えっと、元気、ですけど……どうしたんですか?」

見るからに心配そうな表情を浮かべる4人に、スズメは(バレた……?)そう思ったが、

「ビックリしたわよ。昨日、遊びに行く約束してたでしょ?」

「風邪でも引いたんじゃないかと心配してたんです……」

「大丈夫なら良かったよ」

三人の言葉を聞いて、別にスズメが偽神教やディープワンと戦っていることを知っているわけではないようだ。

スズメは内心安堵したと同時に、どう言い訳をしようか――考えを巡らせる。

その時。

「スズメくん、俺達に隠し事をしていないか?」

カレルの言葉にスズメはギクりとする。

スズメは思い出していた。

そうだ、カレルは――とても鋭い。

それに意外と――マメだ。

「一昨日だ。このアパート周辺でディープワンの姿を見たという情報が多く流れていた。そして、ディープワンを追いかけるスパロー型の姿もな」

カレルが言ってるのはアナヒトがさらわれた日の話だった。

ディープワンの出現については、スズメもSNSサイトの情報を利用して探し出したほど、人々の目を引いている。

その目撃情報はネットだけではなくテレビニュースでも流れたのだろう。

「そして先日、ドレスデンのスヴェト教施設で爆発事故が起きた――噂話程度だが、その場にスパロー型の装騎がいたとかいなかったとか」

顎に手を当てながら、淡々というカレルの表情は至って冷静、至って真面目。

「何よカレル。スズメがその事件に関係してるっていうの!?」

目を細めてそう言ったカナールだが、それから暫く沈黙し……口を開いた。

「スズメ、怪我してる」

「あっ……」

体にまだ残っている傷跡――それを見てウレテットの表情が目に見えて変わる。

「スズメちゃん!」

スズメの両手を掴むレイの表情は、今にも泣き出しそうだ。

「何があった?」

「それは、その……」

「わ、わたしたちは、仲間です! スズメちゃん!」

「アンタ達に説明したって無駄よ。無駄無駄」

突如、投げかけられた声に、ウレテットの4人は声の場所――スズメの背後へと目を向ける。

「ビェトカさん、来てたんですか」

いつも通り、スズメの部屋の窓から入ってきたビェトカが、トーストをかじりながら立っていた。

「無駄ってどういう意味よ!?」

「ワタシ達は今、偽神教と呼ばれる組織を追ってるのよ」

「偽神教……? 聞いたことないな」

「簡単に言うなら、偽神装騎ディープワン――ソイツらを生み出してる悪の組織よ」

「ディ、ディープワン……スズメちゃんはディープワンと、戦ってるんですか……?」

レイの言葉にスズメもビェトカも首を縦に振る。

「スズメ、事情を説明してあげなさい。その上ではっきり言いなさい。関わるなって」

「……わかりました」

スズメは話した。

昨日、一昨日――二日間の出来事を。

「アナヒトちゃんが……アナヒトちゃんがさらわれた、なんて……嘘でしょ!?」

「こんな嘘吐いて何になるってーの」

「それは……そうだけどっ」

スズメから話を聞いたウレテットの表情は、暗く沈んでいた。

無理もないだろう。

大切な友人がさらわれ、そして一歩間違えれば死に瀕するような戦場に出ているというのに何も知らず、知ったところで何もできない無力感に苛まれていたからだ。

「アンタ達の誰か1人でも、単騎でディープワンを倒せる騎使がいるの? それすら出来ないなら、もうワタシ達に関わらないで。アンタ達にできることは何もないわ」

そして畳みかけられるビェトカのダメ押し。

ウレテットの面々は、これ以上何も言うことができなかった――――ただ一人を除いては。

「俺達にもできることがあるぞ」

「カレル、さん……?」

「我がイェストジャーブ家保有のマスドライヴァーの使用許可、そして、各補給物資の支援、装騎用ドックの提供……俺達ならそれができる。どうだ、魅力的な提案じゃないか?」

「確かに……マスドライヴァーが使えれば移動も早くなるし、補給物資も足りてないから魅力的だけど……偽神教にバレればヤバいわよ」

「確かにな。ノーリスクとはいかないだろう。だがな、直接戦うことはできなくても、コレくらいのことはさせて欲しい」

カレルの表情は真剣そのもの。

危険も承知した上で、せめて補給や移動の支援だけでもさせてほしいと強く願っていることがビェトカにも伝わった。

「スズメの友だちって莫迦なのね」

「そうですね。バカみたいに真っ直ぐな人ですよ」

「って莫迦! それじゃあ、カレルはスズメ達を助けられるかもしれないけど、わたし達は何もできてないじゃん!」

纏まりかけたところで、カナールがそう声を上げる。

だが、カナールの言うことももっともだ。

カレルの申し出た内容は全て、カレルとイェストジャーブ家の力を使って果たすこと。

その中に、カナール達ほかのウレテットが行えるようなことは――――。

「いいか、カナール。マスドライヴァーや各施設を貸すことはできるが、その運用をするためのスタッフは動かせない。彼らに危険が及ぶからだ。この問題に、俺達以外の人間を関わらせることはできない。わかるな?」

「それって……?」

「つまり、ボク達がマスドライヴァーのオペレーターをしないといけないって言うことだね」

「そういうことだ」

レオシュの言葉にカレルは頷く。

「スズメくん達以外にも、偽神教と戦ってるヤツもいるのだろ? そういう人間を探し集めたり、それぞれが手に入れた情報を共有するための中枢も必要だ。情報は最強の武器だからな」

「え、SNSサイトで、怪しい情報を探したり、見つけた情報を教えたり、とか――そういうのもできます、ね」

「仕方ないわね……分かったわ。やるわよチーム・ウレテット!」

「では早速だ。次の目的地を教えてくれたまえ」


「装騎スパロー、装騎ピトフーイ。クーゲルへの装填完了したよ」

「目的地は、プルゼニ市……該当登録座標なし、き、近似値から修正します」

「目標地点はv4900.1300付近だ。その中で何とか調整してくれ」

「りょ、諒解!」

「マスドライヴァー・イェストジャーブ起動。さぁ、行ってきなさい!!」

イェストジャーブ家保有のマスドライヴァー・イェストジャーブが起動し、弾丸クーゲルに込められたスズメとビェトカとその装騎達が射出される。

暫くの滑空の後、2騎の機甲装騎はマルクト共和国プルゼニ市――その近郊へと着地した。

「ここがプルゼニ市、ですか……」

「確か、ピヴォが有名だったよね。ワタシも飲んでいこうかなぁ」

「まだ飲める年齢じゃないですよ……」

「そうだったそうだった」

冗談を飛ばし合いながらも、向かうは敵の施設。

「そんで、バトロイトに居た偽神教のほとんどがコッチに移動してるって情報は確かなの?」

『確かです。その隙を狙ってバイロイトの施設を襲撃しましたし』

ビェトカの言葉に応えたのは、通信機から響くズィズィの声。

装騎の修理がまだ完全に治らないズィズィとクラリカは、生身で施設に潜入――スズメとビェトカのサポートをしようということだった。

「それにしても、ピヴォ工場に偽装した偽神教の施設だなんて……すごいですね」

「全くだわ。ま、何にせよ行くわよ。ごめんくださーい!!」

間髪入れずに飛び込む装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイ。

周囲の無関係な人々の注目を浴びる前に、一気に施設に突入した。

激しい轟音。

揺れ動き、崩れゆく建物、だが、その中に人はいない。

「ビェトカさん、地下ですね!」

「お約束ぅ!!」

『こちらクラリカ! 工場内に、不自然な一角が』

「どこ?」

「北の一角です。座標データ、送ります!」

クラリカの情報の場所に辿り着いたスズメとビェトカ。

「ジャックポットォ! 地下通路発見!」

お約束通り、地下へと続く道を発見。

装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイはその中へと駆けて行った。

すぐにけたたましく鳴り響くサイレン。

それは当然のものだとは思うのだが、スズメもビェトカも一つ気づく。

「警報? ドレスデンの施設でも流れなかったのに……?」

「なるほどね。ここはかなりの重要施設ってことね……ドレスデンのとはまた違った意味で」

周囲が赤く染まりけたたましい音が鳴り響く中、ガラス窓に挟まれた一直線の通路へと差し掛かった時だ。

『Gurrrrrrrrrchhhhhhhhhhhh』

獣のうめき声と共に、全身を奇妙な液体に濡らしたディープワンの"ようなもの"が姿を現した。

青黒い肌に生物的な見た目の装騎――その姿はディープワンそのものだが、どこか"未熟さ"を感じさせる。

「あれは――」

「ディープワンの成長体よ!」

「成長、体……?」

「そう、成長体。ディープワンっていうのはね、どんどん成長していく装騎なの。アレはまだ若いディープワンよ。昔一度、見たことがあるわ」

『Gyarrrrrrrrrr』

装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイに襲い掛かってくるディープワン成長体。

「スィクルムーン・ストライク!」

「甘き毒を(スラドキー・イェット)」

それを装騎スパロー3Aと、装騎ピトフーイの一撃が呆気なく引き裂いた。

「それにしても、成長体がいるなんて……まさか、ここって」

「ビェトカさん、次が来ます!」

「チッ、スズメ――ワタシはステルスを使うわ。いい?」

「はい! サエズリ・スズメ、スパロー行きます!」

装騎スパロー3Aはブレードエッジを展開し、更に2騎は限界駆動へと達する。

「手早く片付けるよ!」

「スパロー、ムーンレイ・レイン!」

装騎スパロー3Aの全身のブレードエッジがアズルを灯し、そこからアズルの刃がディープワンズ成長体へと伸び、突き刺した。

そして、

死は速やかにスムルト・イェ・リフレ

見えざる装騎ピトフーイの超振動鞭ビッチュの横薙ぎ。

ディープワンズ成長体は断末魔を上げながら、溶けるように消滅していった。

次のディープワンが現れる前に、スズメとビェトカは装騎をさらに駆けさせる。

暫く走ると、奇妙なカプセルのようなものがずらりと並んだ部屋に出た。

「これは……人、ですか?」

その中には、人間と同じくらいの大きさのヒトガタが収められている。

その姿は、ほぼ人間そのものの姿から、どこかディープワンのような海棲生物を思わせるような特徴を持つ人間の姿まで。

それを見て、ビェトカの予感は確信に変わった。

「やっぱりここは――――ディープワン製造工場ッ!!!」

ビェトカの瞳に激しい憎しみが宿る。

「と、言うことはここで……ディープワンを、造ってる?」

「そうよ。そして見たらわかると思うけど……ディープワンの材料は……」

「人間」

今知らされた事実。

だが、スズメは自分でも不思議に思うくらい、驚きも恐怖も感じてはいなかった。

スズメも薄々は気づいていたからだ。

ディープワンの反応を突如示した機甲装騎、ディープワンへと変貌した機甲装騎――そんな事例を実際に目の当たりにしたこともある。

だから、驚いたというよりは寧ろ――――

「合点がいきました」

「こうなった人間は、元には戻せない……人間としての彼らを尊重するなら、今殺してあげるべきね」

人を、殺す。

それは、どうしても赦されないことなのかもしれない。

それで人を救うなんて、ありえないことなのかもしれない。

反面、スズメは自分でも知っている。

「毒を食らわば皿まで、ですね」

スズメは自嘲気味な呟きと共に、レイ・エッジをその腕に纏った。

「ワタシの両親は偽神教に殺された。そう言ったっしょ」

「もしかして、ビェトカさんの両親は――」

「偽神教の信者になって、のめり込んで……最期は、ディープワンにされたわ」

ギリィ……

ビェトカが歯を噛みしめる音が通信越しでも聞こえてくる。

「ヤツらは、生命いのちも、信仰も、教えも利用してバケモノを生み出す……ッ。ワタシはそんなヤツらをぶっ潰したいの、ぶっ殺したいの! どんな罪を背負っても、どんな罰を受けてもッ!」

ビェトカの絶対的な憎悪と決意。

それは、スズメの秘めた決意とはまた違いとても暴力的な響きを持っている。

だが、どんな言葉よりもスズメのビェトカへの信用を深める、とても切実で真っ直ぐな言葉だった。

「ビェトカさん――何としても偽神教を潰しましょう。私はアナヒトちゃんを助けるため」

「ワタシは両親の仇を討つため――ね。そうねスズメ……ついて来なさい!」

「ビェトカさんこそ!」

「さて、早速お出ましね」

挿絵(By みてみん)

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