偽神編第6話:偽神という存在/Mstitelky na Nebůhismus
炎に沈んだドレスデンの偽神教施設。
そこからスズメとビェトカはなんとか抜け出すことができていた。
二人の協力者のお陰で。
「貴女達なら来ると思っていました」
「そーそー。いいタイミングぅだったでしょぉ?」
スズメとビェトカを爆発から守ったのは誰だったか――それは天使サンダルフォンとハラリエルのコンビだった。
「今回ばかりは助かったわ」
「はい……ありがとうございます」
「いいんですよぉ~。コチラにもぉ、目論見があってのことですからねぇ」
ハラリエルが右手をヒラヒラさせながら言う。
その言葉にサンダルフォンも頷いた。
「目論見ぃ?」
「はい。私達が何故、貴女達をお待ちしていたのか、ということにも関係があるのですが」
サンダルフォンはいう。
「私達、世界神傘下の天使はこの世界の均衡を守ることが役目なんです。主な仕事は"悪の役割"を持つ聖霊との戦い、そして、この世界に存在してはならないモノの削除です」
「悪の役割を持つ、ねぇ。あのタルウィとかザリクってヤツ等もそーなの?」
「彼女達は――本来はそうなのですが、今はその任を解かれているようで……」
「だぁから、傭兵なんてことをぉやっているんですよぉ」
スズメとビェトカはタルウィが「悪という役割を奪われた」と言っていたことを思い出した。
「こういう事情はこちら側の話なので省きますが……」
「それじゃあ何で来たんですか?」
スズメがズバリと一言。
「確かにね。タルウィ&ザリクが悪の役割を持ってないっていうなら、ソイツらと戦うために来たわけじゃないって事っしょ? ん? てことはつまり……?」
「そのとぉり~。われわれのお仕事はぁ、異物のぉ、ハイジョー!」
「お二方は偽神教の目的をご存じですか?」
サンダルフォンの言葉に、スズメは首を横に振る。
対して、ビェトカが口を開いた。
「ワタシは新世界――つまりまぁ、天国みたいな幸せな世界を目指すために一致団結する組織だって聞いたけど……」
ビェトカの両親は偽神教に入信しており、ビェトカもその勧誘を受けたことがある。
その時にそう聞いたのだろう。
「そうですね。最終目的としては」
ビェトカの言葉にサンダルフォンが頷くが、少し引っかかる物言い。
「偽神教としての目的はぁ、強力な悪魔――偽神をこの世に呼び寄せると言う目的があるんですねぇ」
「偽神……?」
「偽神教の信者達は、存在しない神の名を取ってクトゥルフと呼んでいるわ。問題は、その偽神……」
「異物、なんですか?」
スズメの言葉にサンダルフォンとハラリエルは頷いた。
つまり、彼女達――天使サンダルフォンとハラリエルの目的は偽神教による偽神クトゥルフの降臨を阻止すること。
「なんだけど……」
だがどこか難しい表情のサンダルフォン。
「われわれの基本はぁ、不干渉ぉ。偽神本体が出てくればぁ、話は別ですがぁ」
「だからと言って見過ごす訳にもいかないし……見込みのありそうな人間を手助けすることにしたのです」
「それがワタシ達ってことね。見込みあるわね~」
ビェトカの言葉にスズメは苦笑。
この問題は思っていたよりも重大で壮大な問題だということが分かった。
「だからと言って、特に変わったことをする必要はありません」
「そうですね。例え神が相手でも、私はアナヒトちゃんを――助け出します」
「うん。ワタシも偽神教をぶっ潰す。何も変わらないね」
「ではぁ、さっそくお仕事をぉお願いしますよぉ」
突如、そう言ったハラリエル。
その手に持つ水晶には、真っ白な施設の姿が映っていた。
「偽神教に動き!?」
「偽神教に、とゆーかぁ……偽神教の施設がぁ、襲われちゃってますねぇ」
ハラリエルはそう言いながら、水晶に映った映像を空中に投影する。
バイロイトにある偽神教施設――そこが何者かに襲撃されていた。
「ワタシ達意外にも復讐者が?」
「そのよぉですねぇ」
「バイロイトなら遠くはないですね。行きますか?」
「遠くはないって言っても……」
マスドライヴァーを使えば一瞬だが、機甲装騎で走っていくとなるとやはり時間はかかってしまう。
それでも、行かない訳にもいかないが……。
「大丈夫です。今回は私が運んであげましょう」
サンダルフォンは天使の中でもかなりの高身長を誇ると言われ、地上に立つとその背は天界にも届くという。
霊力で形作られた機甲装騎――機甲装騎神へと変貌した天使サンダルフォンはさらに霊力をかき集め、装騎スパロー3Aと装騎ピトフーイを軽々担ぎ上げられるような巨体となった。
「れっつぅごぉ~」
意気揚々とはしゃぐハラリエルもついでに乗せて、超重装騎神サンダルフォンはバイロイトの偽神教施設へと飛翔した。
偽神教バイロイト支部。
そこでは戦闘が始まっていた。
「あの機甲装騎……結構見た目は変わってますけど」
「間違いないわ。ベロボーグよ」
ディープワンズを相手に、何とかと言った様子だが渡り合っている2騎の機甲装騎。
その見た目はかなりチグハグだがルシリアーナ帝国製装騎ベロボーグに改修を重ねた装騎のようだ。
「ズィズィ、これ以上は無理だよぉ」
「泣き言を言わない! 今までだって戦えた、ならば今だって!」
「そ、そうは言っても……っ」
超振動ナギナタを振り回す装騎ベロボーグaが、その背後で必死にサブマシンガン・カタキリを撃ち放つ装騎ベロボーグbへと檄を飛ばす。
「クラリカ! わたしたちは今まで二人で戦ってきた――自分を信じなさい!」
「う、うん! やぁぁああああああ!!!」
この二人は元マジャリナ王国軍兵のズィズィとクラリカ。
彼女たちは以前、チェンシュトハウにてディープワンと交戦。
自らが所属するバルバラ隊の隊長バルバラと補佐アネスカをディープワンに捕食されていた。
第103話「EATROJECTION」での出来事である。
ディープワンに殺された隊長たちの仇を討つ――そんな思いからこの二人も復讐者となっていた。
「殺された隊長達の為にも――負け、られない!!」
必死にクラリカに檄を飛ばし、必死に戦いながらもズィズィは気づいていた。
もう、自分たちの攻撃がディープワンズに通用しなくなってきていることを。
額に汗が滲む――最悪、なんとかクラリカは、クラリカだけは――――そんな思いがズィズィを焦らせる。
その時だった。
「真打参戦!」
一体のディープワンが強烈な一撃で背部を抉り取られ、機能を停止する。
「な、なに……!?」
「何者ですかっ!?」
突然ディープワンを打倒した、見えない一撃にクラリカもズィズィも驚きの声を上げた。
「そこの二人、援護します!」
更にもう一騎の機甲装騎が手にした霊子剣を振り払い、ディープワンを撃破。
もちろん、誰だが言うまでもないだろう。
ビェトカの装騎ピトフーイと、スズメの装騎スパロー3Aだ。
ディープワンズの目が一気に装騎スパロー3Aへと向けられる。
『Gurrarraarrrrrrrrrrrr』
ディープワンズが雄叫びと共に、右腕を装騎スパロー3Aへと向けた。
その腕から刃のようなものが生え、魔電霊子の光が灯る。
「スパロー、無限駆動!!」
装騎スパロー3Aが蒼を身に纏った瞬間に、ディープワンズの魔電霊子砲が放たれた。
その魔電霊子砲の流れに乗るように、装騎スパロー3Aは両使短剣サモロストとアズルを操るながらクルリと一回転。
「ルナアーク・ミラージュ」
スズメの放つアズルに先導されるように、ディープワンズの魔電霊子砲は円を描き――――ディープワンズの元へと返される。
自らの魔電霊子砲に焼かれるディープワンズだが、まだ機能停止には至らない。
その背後から、見えざる死の毒が迫りくる。
「ポリーベニー・スムルチ……」
装騎ピトフーイの超振動鞭がディープワンズの背部を抉り取り――その機能を停止させた。
「ス、逆折れ……?」
「それに、死毒鳥」
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「助けに来たわよ。復讐者達」
自分たちを助けた2騎の姿を見て、クラリカとズィズィは驚いた表情。
それもそうだ。
そもそも、二人とも助けが来ること自体想定していなかっただろう。
「この施設のディープワンはこれくらいみたいですね」
「一旦、この場を離れるわよ。アンタ達も来なさい。話があるわ」
「ズィズィ、どうしよう……」
ビェトカの言葉にズィズィは言った。
「分かりました。あなた方の言う通りにしましょう」
ビェトカの提案で、スズメ達4人はビェトカの隠れ家の一つに集まっていた。
「以前、偽神教の施設に潜り込んだ時に噂話を聞きました。最近、偽神教に敵対している2人組がいると。まさか逆折れの使い手と、あの死毒鳥だとは……」
それぞれの紹介も終わったところで、ズィズィがそう呟く。
マジャリナ王国軍に属していたズィズィとクラリカ――その2人にも「逆折れ」の名と「死毒鳥」の名は轟いていた。
片や、マジャリナ王国屈指の英雄部隊と名高きアールミン隊を撃破したチーム・ブローウィングの一翼にして主力、スパロー。
片や、その名をエヴロペ中に轟かせる最強最悪の傭兵にして、バルバラ・チャパートが壊滅したあの戦いでは同じマジャリナ王国軍として戦っていたピトフーイ。
良くも悪くもその名が轟いている二人――その本人だということで驚きは一入だろう。
「でも、このお二人と一緒なら百人力だよズィズィ!」
ズィズィに反して、その目に希望が灯り活き活きしはじめるクラリカ。
そんなクラリカに、ビェトカが言った。
「だけどね、偽神教のヤツらっていうのはすっごいムカつくヤツらでね。一体どんな罠を仕掛けてくるか分からないのよねー」
「罠、です?」
ビェトカの言葉にクラリカは首を傾げ、意図をよく理解していない。
だが、ビェトカの言葉の裏にあるものを察したズィズィは言った。
「わたし達が信用できない、ということですね」
「そーよ」
「ビェトカさん、私は信用できると……」
「スズメは黙ってて」
擁護しようするスズメを黙らせ、ビェトカは続ける。
「そもそも、なんでアンタ達はその隊長とやらの為に戦ってる訳? 偽神教――ディープワンなんていうとてつもなく厄介な相手とさ」
ビェトカの言葉に、クラリカもズィズィも押し黙った。
クラリカの瞳が目に見えて泳いでいる。
ズィズィは虚空の一か所を見つめたまま口を開かない。
「ワタシ達には教えられないの?」
「…………バルバラ隊長は、クラリカ達のお母さんだったの」
クラリカの言葉に、ズィズィも心を決めた。
「わたし達が所属していたマジャリナ王国軍バルバラ・チャパートは、バルバラ隊長の私設チームだったんです」
バルバラ・チャパートのメンバーは隊長のバルバラに補佐のアネスカ、そしてクラリカとズィズィの4人。
「わたし達は身寄りがないところをバルバラ隊長に拾って頂き、バルバラ隊長と、そしてこのチャパートと一緒に育った……」
「チャパートは、クラリカ達にとって家族で、家で、帰る場所で、帰りたい場所で……」
「わたし達にもっと力があれば、もっと上手く戦えれば、あの時隊長達を……」
ズィズィは拳をギュッと握りしめる。
自分が弱いから、自分達が一番年下だから、あの時逃げなければ、あの時命令に反抗してれば……いろんな思いがズィズィとクラリカの胸を締め付けていた。
そんな思いで戦ってきた。
もっと、強くなりたい。
「よくわかったわ。アンタ達となら、一緒に戦えそうだって」
ビェトカがそういう。
何故か、スズメが安心したように胸をなでおろした。
「ただ、一つだけ。ワタシ達と一緒に戦いたいのなら、持ってる偽神教の情報を全て開示すること。いい?」
「もちろん、私たちが知ってることも全部教えます――よね、ビェトカさん」
「……そりゃそうだけどさ」
ビェトカの言葉にスズメがそう補足すると、ビェトカは何故か困ったような表情を浮かべる。
「あんまり試すと逃げられますよ?」
「はいはいわかったわかった! ワタシの悪い癖よ」
「それじゃ早速、次の計画を立てましょう!」
「感謝します。サエズリ・スズメ」
「うん、ありがとう!」
「なんでスズメばっかり!」
新たな仲間も加わり、復讐者達は次の戦場を目指す。
「待っててね、アナヒトちゃん……」