表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
偽神の呼び声編
246/322

偽神編第1話:さらわれたアナヒト/Silný Dagon

圧倒的な存在。

圧倒的な力。

スズメは初めて感じた。

脅威を。

「アナヒト、ちゃん……ッ!」

視界が眩む、世界が揺れる。

スズメは手を伸ばす――遠のく恐怖の背に。

それは30分前に遡る。

ステラソフィア学生寮への引っ越し準備もある程度済み、スズメは夕飯の買い物へと出かけていた。

「今日はアナヒトちゃんの好きなハンバーグカレーにしようかなー」

材料も買い終え、バーリン市内のアパートの前まで来た時だ。

スズメは気づいた――奇妙な機甲装騎の姿に。

「あれはディープ、ワン……!?」

青黒い装甲――どこか生物的なフォルム――それは実地戦で何度か矛を交えたこともある装騎ディープワンの姿だった。

しかし、実地戦で見た凶暴な野生生物のような印象と違い、飼い主を待つ従順な犬のようにかしずいている。

明らかに異常な光景の中、アパートのエントランスから黒いフードに身を包んだ怪しげな人々が出てきた。

そして、その内の1人の手には――――

「アナヒトちゃん!?」

スズメの叫び声に黒ずくめは気づいた。

「スズメ……っ」

アナヒトがスズメへと手を伸ばす。

スズメもアナヒトの元へと一気に駆け寄る。

だが、数人の黒ずくめがスズメを妨害した。

「アナヒトちゃん! アナヒトちゃんアナヒトちゃん!!」

アナヒトを抱えた黒ずくめが、ディープワンに何か指示を出した。

すると、ディープワンはその手にアナヒトを受け取り、その場から走り去る。

「待って! ……っ!! どいてください!!!!」

スズメは腰のホルスターからナイフを抜き取ると、その切っ先を黒ずくめ達に向けた。

黒ずくめが一瞬ひるんだその隙に、スズメはアナヒトをさらった装騎の後を追いかけて駆けだす。

「スパロー、早く来て、早く来て早く来て早く来て」

追いかけてくる黒ずくめをまきながら、やがてスズメは装騎の輸送ポイントに到達――そこで装騎スパロー・パッチワークに乗り換え、本格的にディープワンを追跡した。

スズメはすぐにディープワンの姿を発見することができた。

悪名高いディープワンの姿は多くの人の目を引くため、SNSサイトに多数の情報が上げられていたからだ。

バーリン市郊外、そこでスズメの装騎スパロー・パッチワークとディープワンは相対した。

「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」

ディープワンの右手にはアナヒトの姿――下手な攻撃はできない中、装騎スパローはチェーンブレードを構える。

「待ってて、アナヒトちゃん……!」

装騎スパロー・パッチワークは一気にディープワンへと接近。

その鋭い1撃は、ディープワンの左腕を切り飛ばした。

『Ugggggrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!』

痛みを感じているかのように、悲鳴を上げるディープワン。

「アナヒトちゃんは、返してもらいます!」

続けて、ディープワンの両足を薙ぎ払おうとしたその瞬間――くすんだ霊子の輝きがその場へと叩きこまれる。

咄嗟に身をかわす装騎スパロー・パッチワーク。

スズメは霊子が飛んできた方向へと顔を向けた。

そこには――ディープワンによく似た、だがディープワンと比べがっしりした体つきの、どこかタコを連想させる装騎が立っていた。

「アップデート?」

不意に装騎スパロー・パッチワークのサブディスプレイにそんな表示が浮かぶ。

恐らく、ネットワークから何かの情報をダウンロードしているのだろうということは分かる。

しかし、どうして突然アップデートが始まったのか、スズメには分からなかった。

装騎スパロー・パッチワークのアップデートは一瞬で終わり、メインディスプレイに1つの言葉が表示される。

「偽神装騎……ダゴン」

それがあのタコにも似た機甲装騎の名称だった。

片腕を失くしたディープワンを助けるように現れた偽神装騎ダゴンは、装騎スパロー・パッチワークの前に立ちはだかる。

「アナタの相手をしているヒマはありません!!」

装騎スパロー・パッチワークは一気に限界駆動クリティカル・ドライブへと達した。

「行きます、突貫チャージ――」

『Choooooorrrrrrrrrrrrrr!!』

大気が震えるような振動と共に、偽神装騎ダゴンの口ようになっている部分から、何かが勢いよく吐き出される。

それは強烈な衝撃となって、装騎スパロー・パッチワークを弾き飛ばした。

それだけではない。

「スパローの装甲が……ッ」

吐き出された何かは、粘液のように装騎スパロー・パッチワークにまとわりつき、更にはその装甲をじわじわと溶かす。

警告、警告、警告、警告、ディスプレイが赤く染まる。

「ですが、まだ……」

それでも装騎スパロー・パッチワークは立ち上がり、ウェーブブレードを構えた。

「スパロー、無限インフィニット――」

『Chraaaaaaaaaaaaaaaaa』

偽神装騎ダゴンの腕から伸びた触手が装騎スパロー・パッチワークを叩きつける。

「くぁっ――――!?」

衝撃に頭がクラクラする。

意識が、くすむ。

偽神装騎ダゴンはそれで充分だと思ったのだろうか?

装騎スパロー・パッチワークに背を向けると、その場を去っていった。

「アナヒト、ちゃん……ッ!」

遠のく偽神装騎ダゴンの背を目に、スズメはただその手を伸ばすことしかできなかった。


狭く広大な光の世界。

暗く沈んだその部屋に、1人の少女が居た。

「ついに、始まった――――運命の時が」

少女が眺めるディスプレイに映されたのは、破壊され、動かなくなった装騎スパロー・パッチワークの姿。

「この世界の彼女は、どこまでやってくれるかしら」

どこか楽し気にそう呟くが、少女の表情は少しも変わらない。

白銀の髪を弄びながら、金色の瞳を細める。

「必ず決まって、この日に始まるのね」

少女がそう口にしたその時だけ、その瞳に強い憎しみが宿った――そんな気がした。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ