リラフィリア編最終話:VÁLČKA
それは終業式が終わった日のことだった。
突如として呼び出されたスズメを待ち構えていたのは、ヴォドニーモスト・カヲリ。
その理由は――
「サエズリ・スズメ――わたくしと、勝負しなさい」
「いいですよ。本気出して良いんですよね?」
「当たり前よ。さぁ、始めるのだわ!」
相対するのは装騎スパロー1,5、そして装騎ヴォドチュカ。
「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」
「さぁ、お覚悟はよろしくて?」
ギャラリーは誰1人として居ない――そんな中、装騎スパローと装騎ヴォドチュカが駆けだした。
まず先手を打ったのは装騎スパロー。
右手に構えたウェーブナイフが装騎ヴォドチュカを捉えんとした瞬間、空間の揺らぎが現れる。
「ティラニカル――」
「ムーンサルト――」
「リベンジ!!」
強烈で鋭い魔力の棘が、装騎スパローを刺し貫かんとする。
だが、その攻撃は予測済み――装騎スパローは身を捻ると跳躍。
「ストライク!!」
装騎ヴォドチュカの背後に、装騎スパローのウェーブナイフの1撃が――――
「それも予想済み」
「当然ですね」
装騎スパローのウェーブナイフと装騎ヴォドチュカの銃剣ライフルの刃がぶつかり合う。
「スパロー・ブレードエッジ!」
全身に刃を纏う装騎スパロー――そして、右足を蹴り上げた。
「ティラニカル・ショット!!」
だがその蹴りを装騎ヴォドチュカは回避――後退しながらバヨネットライフルを構え、魔力銃撃を放つ。
その1撃を、装騎スパローはわずかに身をそらし回避した。
しかし、さらなる通常銃撃が装騎スパローを襲う。
「はぁぁぁああああ!!!」
そんな銃撃の雨の中、装騎スパローは全身のブレードを使い巧みに防御――装騎ヴォドチュカへと駆けた。
「ティラニカル・ウィップ!」
「スィクルムーン・ストライク!」
なぎ払われる魔力の鞭、それを回避しナイフの一撃、しかし刃は届かない。
「ティラニカル・スラッシュだわ!」
「スパロー、レイ・エッジソード!」
「フラァァァアアアアアアアア!!!!」
「はぁぁぁぁああああああああ!!!!」
魔力とアズルがぶつかり合う。
次第に周囲が蒼白く輝き始めた。
「スパロー、限界駆動!!」
「ヴォドチュカ、限界駆動だわ!!」
限界までアズルが高まる。
「スパロー! レイ・エッジ――――」
「ヴォドチュカ! ティラニカル――――」
「大・切・断ぁぁぁああああああああん!!!!」
「パニッシャァァァアアアアアアアアア!!!!」
ゴゥォオオォォオオオオ!!!!!!
激しい衝撃が2騎を中心として大地を抉る。
装騎スパローと装騎ヴォドチュカの両腕から放たれた莫大なアズルがただ蒼く、蒼く世界を染めた。
1対1だからこそできる正面からの全力の戦い。
その轟音は大地を、空気を伝い、気付けばそれに呼ばれた生徒達が集まってきていた。
「無限――」
「駆動!!」
アズルを纏ったウェーブナイフが装騎ヴォドチュカに向かって弾かれる。
だがその1撃を、装騎ヴォドチュカは魔力の障壁で軌道を逸らした。
「ティラニカル・ブライア!!」
正面から向かってくる装騎スパローに、装騎ヴォドチュカは魔力の荊を放つ。
まるで網のように広がる荊。
「くっ、ブレードエッジが!」
その攻撃を防ごうとした装騎スパローの両腕部ブレードエッジが、レイ・エッジ大切断での疲労もあり破壊された。
しかし、ブレードエッジを犠牲にしながらも開けた隙間を巧みに抜ける装騎スパロー。
2騎がすれ違うその瞬間に、装騎スパローは装騎ヴォドチュカの背後へと回り込む。
装騎スパローを背に装騎ヴォドチュカは体を前へと倒す。
勢いで左腕を使い体を支え、逆立ちの姿勢のまま右手に持ったバヨネットライフルで装騎スパローを銃撃。
「っ!」
その1撃が装騎スパローの左肩をかすめた。
だが、それの一瞬後、装騎ヴォドチュカの持つバヨネットライフルが爆散。
「やるわね」
それの一撃は先ほど魔力障壁で弾かれ、地面に突き刺さっていたナイフの一本。
アズルを放った衝撃で、ナイフを装騎ヴォドチュカへと弾き飛ばしていたのだ。
「いっけぇぇぇぇえええええええ」
「おいきなさい……ッ!!」
装騎スパローも装騎ヴォドチュカもその手に武器は何もない。
2騎のアズルを、魔力を纏った拳がぶつかり合う。
互い互いに全力の、拳の1撃。
その1撃が、時には胴を抉り、頭部を打ち、拳同士がぶつかり、装騎バトルとは思えない応酬が繰り広げられる。
しかし、互いの強烈な熱を帯びた拳のやり取りは見る者の目を引いた。
もちろん、2人ともただ熱くなって拳を交わしているわけではない。
(あと少し……あと少し角度を変えられれば……)
(もう少しだわ……次の、次の正拳突きで……)
互いに相手を出し抜き、最高の1撃が決められるタイミングをはかっていた。
「来た!」
「きましたわ!」
装騎スパローの打ち出された拳――その一撃に装騎ヴォドチュカが動く。
「ティラニカル・リベンジ!」
鋭い魔力の棘が装騎スパローの右腕を穿った。
だが――右腕だけだ。
「それを、待ってました!」
強烈すぎる魔力の衝撃――右腕を吹き飛ばされた反動で装騎スパローが時計回りに回転する。
「シャープムーン――」
スズメはその反動を利用した。
そのまま装騎スパローの体を勢いよく回転させると、コマのように装騎ヴォドチュカの側面に回り込む。
それと同時に、地面に突き刺さったもう1本のナイフ――スズメはナイフが拾いやすい位置に来るように装騎ヴォドチュカの位置を調整していた――を拾い上げた。
「オービット!!」
ナイフの1撃によって、装騎ヴォドチュカは機能を停止した。
「カヲリ、今までありがとう」
「礼を言われる筋合いはないわ。スズメも、精々頑張りなさい」
「うん!」
握手を交わす2人。
集まってきていたギャラリーから拍手が響く。
「ズルいじゃないか、どうせなら俺達も混ぜてくれれば良かったのに」
「何いい雰囲気の時に首突っ込んでの。無粋極まりない」
そんな中でそう言ったのはカレルだ。
顔をしかめて突っ込みを入れるカナールのほかにもレオシュとレイ、チーム・ウレテットの姿がある。
「すごかったね2人とも」
「ごめんねみんな。でも、私もカヲリと1対1で勝負してみたかったので……」
「ラ、ライバルってヤツですよね。す、素敵です……」
「でもさー、カヲリーダー! せめて最初から観戦させてほしかったなー」
「遺憾」
「ですが、バトルしてるカヲリ様――とても楽しそうでした!」
気付けばミカコ、スミレ、ナオのチーム・カヲリの面々も集まってきていた。
「全く……。それじゃあ今度はチーム戦でもいかが?」
「やるにしても、装騎が直ってからだね」
「これから春休み――バトルの機会はいくらでもあるわ」
「そうだね! じゃあまた、みんなでバトルしましょう!」
その日の夜、スズメたちは"夢"を見る。
1人の少女が望んだ世界の夢を。
その世界を越えた時、夢見る少女は一歩成長する。
「レイちゃん、私たちずっと友達だからね!」
「はいっ」
次回予告
マルクト共和国某所。
「使徒長ジェレミィ、我らが預言者からの託宣があったという報告は……」
「真です、使徒シモーヌ。11の使徒、60の司祭――その総てが整った今、計画を実行に移せと」
「偽りの神の蹂躙、12の使徒、御使いの降臨――書の再現――して、邪悪は?」
堅苦しい使徒シモーヌ言葉に、1人の女性が手を挙げる。
「偽りの神はわたし、司祭ティベリアス・アンドレアが任されておりますわ」
「司祭アンドレア、計画の程は?」
「好調です。あとは贄さえ確保すれば準備は万全かと」
「贄、か。相応しき人材は?」
「1人、人にあらざる程の霊力を秘めた少女を見つけました故――必ずやご期待にそえてみせますわ」
司祭アンドレは使徒長ジェレミィと使徒シモーヌへと深々と一礼。
それを見て今まで黙っていた使徒長ジェレミィは静かに頷くと言った。
「ご苦労。司祭アンドレア、引き続き頼みます。我らが新世界の為に」
『我らが新世界の為に!』
次回、機甲女学園ステラソフィア第3部偽神の呼び声編。
第1話「さらわれたアナヒト/Silný Dagon」
お楽しみに――