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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:ハピネス・イン・スレイヴァリィ編
241/322

夏だ! 海だ! 合宿だぁ!!-Léto! Moře! Trénink Tábor!!-

「夏です!」

「海ねっ!」

「か、海水浴……っ!!」

気付けばすでに夏休み。

わたしたちチーム・ウレテットの5人はカレルさんの提案でロメニア皇国南部の島ジツィリーンへと来ました。

何でも、カレルさんの父親が経営するイェストジャーブ財閥が海外事業を始めるのと一緒にこの島に別荘コテージを購入したらしく、チーム・ウレテットで使わせてもらえることになったんです。

この風光明媚な観光地に来た目的はバカンス、ではなく……

「俺達は遊びに来たんじゃあないぞ。目的を忘れるんじゃない」

「忘れてないわよ! 合宿、でしょ?」

「そうだ」

カナールさんのいう通り、わたしたちチーム・ウレテットはこの場所に合宿のために来たんです。

「でも結局、合宿って名目の旅行なんじゃないのかな? 実際」

「レオシュまでそんなことを言うんじゃない! 旅行と合宿じゃ全然違う。全然違うのだ」

「私、本物の海で泳ぐのって初めてなんですよー! 泳いでも良いですよね?」

「だからスズメくん、これは合宿であって旅行では……」

「良いですかカレルさん。水泳――引いては海水浴というのも立派なトレーニングになるんです。肉体の乱れは装騎の乱れ、という言葉もある通り、装騎技術の向上を目指した合宿の一環として海水浴とはとても理にかなった遊び――もとい、特訓なんですよ!」

「そんな言葉あったっけ……?」

「あはは、聞いたことないね」

首をかしげるカナールさんに、にこやかなレオシュさん。

「いやしかし……そうは言ってもだな」

「スズメちゃんの言う通りよ」

頭を抱えるカレルさんの傍から、もう1人――女性の声が発せられた。

艶やかな長髪に、優し気な笑みを浮かべる大人の女性――――彼女は、

「レミュールさんがそういうのなら……仕方あるまい」

今回チーム・ウレテットが合宿をするにあたり"特別顧問"として呼ばれた女性ブリュンヒルド・レミュールさんだ。

スズメちゃんの師匠だというその女の人は、とても綺麗で、優しさの中にすごい強さを秘めたような女性だった。

「それじゃあ、水着に着替えて準備体操からしましょうか」

『はーい!』

体操も終わり、海に入る準備もバッチリ。

「スズメの水着、ちょっと幼稚ね」

「そんなこと言わないでよ! 確かに選んだ人イザナちゃんの趣味が出てる感じはするけど……」

「と、とてもかわいいですよ! わたしなんて、その、学校指定の水着ですし……」

「どうせなら一緒に水着を買いに行くべきだったわね」

カナールさんは真剣な表情で口元に手を当てる。

スズメちゃんとカナールさんがわたしの水着を選んだらどんな水着になるんだろう……それは確かにちょっと気になった。

「さて、準備もできたし……これからビーチ・フラッグスをやりましょうか」

『えっ!?』

わたしも含めた全員の声が重なる。

「健全な技術は健全な肉体に宿る。海で遊ぶ、というのも特訓なのよ」

と、いうことでどう言うわけなんだろうか――ビーチ・フラッグスをすることになったんです。

砂浜に突き立てられた4つのフラッグ。

それとは反対に顔を向け、砂浜に伏せるわたしたちウレテットの5人。

ほかの海水浴客の視線も浴びながら、

「よーい、ドン!」

レミュールさんの号令一下、わたしたちはフラッグ目指して駆けだした。

最初の結果は……

「はぁはぁ……ふへぇ…………」

いうまでもなく、わたしの脱落だった。

一度砂浜を全力疾走しただけなのに、もう息が上がっている。

スズメちゃんに倣って毎朝のランニングはするようにしていたのに……。

早速脱落したわたしは、再び始められたビーチ・フラッグスを傍から見守ることに。

ここから見ているとスズメちゃんの反射神経、運動能力、どれも他の人とはとびぬけているのが分かる。

「スズメちゃん、すごいなぁ」

「ふふっ、これでも私が育てた子だからね」

「スズメちゃんって小さい頃、どんな子だったんですか……? と、いうか、その……なんでスズメちゃんを」

「特に深い理由はないのよ。たまたまスズメちゃんが近所に住んでて、たまたま出会って、そして、スズメちゃんなら"ナイフダンサー"の名前を継げる。何となくそう思っただけで、ね」

スズメちゃんが旗を手にしてわたしに笑いかけてくる。

次の脱落者はカレルさんだった。

そしてまたレミュールさんが号令をかける。

「スズメちゃんは小さい頃から真っ直ぐな子だったわね。真っ直ぐだから、何でも吸収しちゃって――良くも悪くもね」

「何でも……」

「そこが面白くて装騎を教えてみたらハマっちゃったのよ。アニメを見せたらヒーローとか、特訓とか、そういうのにも影響されちゃって」

「ニャオニャンニャー、ですか?」

「そうそう。今でも好きですものね」

レオシュさんが笑みを浮かべながら戻ってくる。

残ったのはスズメちゃんとカナールさんの2人。

わたしとレミュールさんが話しているのを見たカレルさんが、代わりに号令をかけると、2人は一気に駆けだした。

「わたしも……わたしも、スズメちゃんみたいになりたい、です」

「レイちゃんはスズメちゃんとは違うタイプね」

「で、ですよね……やっぱり、わたしには」

「でも、レイちゃんだってスズメちゃんに並んで、追い越すこともできるかもしれないわ」

レミュールさんの言葉にわたしは驚く。

お世辞、だろうか?

「お世辞じゃないわよ。でも、それにはまず1つ。自分に嘘を吐かないことね」

「自分に、嘘を……わたしは……」

自分に嘘を吐かない。

わたしは自分にどんな嘘を吐いているだろう。

たくさんあるような気もする、でも、全くない気もする。

「目を覚ますのよレイちゃん。それが始まりなのよ。今はまだ、意味が分からないかもしれないけど」

どこか意味深なレミュールさんの言葉。

あれ、こんな感じの言葉……どこかで…………

「わーい、勝った勝ったー!」

「うぅぅうう、装騎も強くて生身でも強い、なんて反則じゃない!」

「1流の騎使は1流の身体を持っているものなんですよ~」

「いい感じで体も温まったと思うし、それじゃあ、海に入りましょうか」

「やったー!」

レミュールさんの許可も貰い、スズメちゃんを筆頭に海へと飛び込んでいくウレテット。

「レイちゃんはいかないの?」

「えっと、いや、その、わたしは……」

「気分転換はできるときにやっておきなさい」

「は、はい……っ」

レミュールさんにそう言われて、わたしもスズメちゃん達の後を追いかけて海に入る。

「ギャァーッ! 目がッ、目がァッ!?」

先頭で海に入ったスズメちゃんが目を抑えながらレミュールさんの元に駆け寄っていった。

「えっ……か、海水って目に、沁みるんですか……?」

「スズメが弱すぎるだけよ。レイちゃんもおいで!」

「そ、そうなんです、か……ちょっと、怖いですね」

それから海で一杯楽しんだ後、カレルさんがオススメだと言うレストランで昼食を食べ、いよいよ本格的な合宿が始まりました。

「はぁ、はぁ……や、やっぱり、装騎に乗らない特訓も多い、ですね……」

「レイちゃん大丈夫?」

「だ、大丈夫、ですっ」

まるで運動部に入ったような気分になってくる。

体育の授業だって苦手なのに、今回の合宿はそれに輪をかけてハードな内容になっていた。

個人個人の能力に合わせてその内容やレベルは調整されているみたいだけど……。

その証拠に、特にレベルの高いスズメちゃんはビシバシしごかれている。

「スズメちゃん、ちょっとサボってたでしょ?」

「うひぇあ~! ラ、ランニングはしてましたよぉ!!」

そういうスズメちゃんは大量のタイヤを体に纏いながら、必死にノミで岩をニャオニャンニャーの形に削らされていた。

「……な、なんの特訓なんだろう」

色々気にはなるけど、わたしにもやることがある。

息を整えると、わたしは砂浜を駆けた。

「夕飯はみんなでカレーを作りましょう!」

「お、お約束と言えば、お約束、ですけど……」

「あはは、普通にコテージのキッチンだから逆に変な感じがするね」

「食材の調達は任せろ!! それ以外はできん!」

「アンタ、キッパリ言うわね……」

「ふふ、良いわね。なんか私も学生に戻ったみたいだわ」

「そういえば、ブリュンヒルドさんはいくつなんですか?」

「ヒ・ミ・ツ」

「ナイフダンサーの活躍時期から年齢を推定することができるのでグハッ!?」

「あらあらカレルくん。女性の年齢を詮索するなんて失礼なことしないわよね?」

「あははは。するしないっていうか、もうできなくなっちゃったね」

カレーを作って、みんなで食べる。

何となく、中学時代の修学旅行を思い出した。

尤も、こんなに楽しい思い出のある旅行ではなかったけれど。

「そういえば、修学旅行って今年だっけ?」

ふとカナールさんがそう口にする。

そうだ、リラフィリア機甲学校の修学旅行は3年生の冬にあるんだ。

「わー、修学旅行ですか! どこに行くんだろ?」

「その内にアンケートとかあるんじゃないかな。どこに行きたいかっていうね」

「ふっ、俺様がスポンサーになって豪勢な修学旅行にしてやろう」

「出しゃばりすぎるのはやめなさいよ」

もし、このメンバーで修学旅行に行ったらきっと、きっと楽しい旅行になるはず。

「行きたいな、修学旅行」

その話を聞いていたレミュールさんが呟いた。

「修学旅行、ねぇ」

「どうしたんですか? お姉さん」

「ううん。あと少しだけは、ね」

「? ……あ、レイちゃん、おかわりする?」

「あっ、ハイ!」

そして夜は男子と女子で部屋を分けて眠ることになっていた。

当然と言えば当然のことだけど。

他愛のない会話で盛り上がった後にそれぞれが眠りにつく。

そんな中、スズメちゃんがポツりといった。

「ねえ、レイちゃん」

「な、なんですか……?」

「最近、なんか、変な感じしない?」

「変な感じ、ですか」

スズメちゃんの言葉にわたしはドキッとする。

変な感じ――違和感――

「なんか、夢を見ているような――」

わたしもよく知っているような感覚。

「レイちゃんはどう?」

「分かる、かもしれません……毎日が楽しくて楽しくて、理想的過ぎて、夢みたいです」

「私も楽しいよ。でも、何か――忘れてる、ような…………」

「何かを、忘れてる……」

(でも、忘れてしまったってことは思い出さなくても良いことなんじゃないかな?)

「で、ですけど、忘れてしまったってことは、思い出さなくても良いこと、なのかも」

「そう、かな」

(ねぇ、この話は終わりにしよう? もう寝よう。夜も遅いよ)

「スズメちゃん、もう寝よう。夜も遅いですし」

「うん。そうだねレイちゃん。おやすみ~」

「はい、おやすみなさい」

わたしは眠りに入りつつあるスズメちゃんの姿を見つめながら、その後を追うように、眠りについた。


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