全力全開-Uletíme do budoucnosti-
「それでは、チーム・ウレテットとチーム・カヲリの試合を始めます!」
リラフィリア機甲学校のいつもの演習場。
スズメの号令によって、その試合は幕を開けた。
「レオシュとレイくんは付かず離れずだ、接敵したらすぐに報告を頼むぞ」
「は、はい!」
チームの先頭を行くのはレオシュのバルディエル型装騎とレイの装騎バイヴ・カハの2騎。
霊子ホログラムで形成された森の中を突き進む。
そして暫く――
「こちらレオシュ、敵装騎発見! あれは……ヴォドチュカだね」
レオシュが確認したのは、カヲリのミーカール型装騎ヴォドチュカ。
「敵は気づいていないみたいだよ。先手を――――うわっ!?」
不意に、レオシュのすぐそばにあった木が弾け飛んだ。
「あっちゃー、外しちゃったかぁ。次弾争点!」
「ミカコ、ワタクシが囮役をしているのよ!? ちゃんと仕留めて頂戴」
「ヘイヘーイ」
ミカコは弾の装填が済んだスナイプライフル・ボロヴィチュカを構え、スコープ機能で再び狙いをつける。
「違った! ヴォドチュカは囮だ!」
「ヴォドチュカを囮にしての遠距離攻撃か……レイくん、FINでつついてくれ」
「わ、わかりました!」
カレルの指示でレイがFINにアズルを供給――小型FINが背後から浮かび上がろうとしたその時だ。
「キャッ!?」
軽い――だが、確かな衝撃が装騎バイヴ・カハの背後を襲った。
「どうした!?」
「は、背後から攻撃されました……! 損傷は軽微、ですけど……」
「っ!! スミレくんか!!」
レイの報告にカレルは合点がいく。
チーム・カヲリはあらかじめスミレを先行させウレテットの位置を確認しチームへと知らせる。
さらにウレテットのアタッカーに対し壁役となるカヲリをぶつけ、カヲリに意識が集中している間に狙撃によって撃破、あるいは隙を作るという作戦だった。
その作戦通り、ミカコの狙撃で隙のできたレオシュにカヲリの装騎ヴォドチュカが体を向ける。
「ティラニカル・スマッシュ!」
「ぐぅっ!」
強烈な魔力の1撃をレオシュは木々に紛れながら必死に回避する。
「レオシュ、位置座標を送る。そこまで下がれ。そうすればミカコくんの狙撃から身を隠せるはずだ」
「うん」
「レイくん、何とかレオシュの援護ができないか?」
「で、でもスミレさんは――」
「カナールが上がってきている。カナールに背を預けろ」
「わ、わかりました!」
「レイちゃん、いくわよ!!」
「はい!」
背中合わせになる装騎バイヴ・カハと装騎ニェムツォヴァー。
「行って、大型FIN!」
「カァ――――ッ!!」
モリガン、ネヴァン、バズヴ――3基の大型FINがレオシュを助けんと宙を駆けた。
大型FINのアズル砲がカヲリの装騎ヴォドチュカを襲う。
FINの砲撃を魔力障壁で防ぎながらカヲリは叫んだ。
「チッ……FINね。ナオ、集中を乱しておやりなさい!」
「も、モチロンです!」
ナオは大きくうなずくとランドセルパックから"ミサイル"を発射する。
「何……この音」
「音、ですか? あっ!」
空中から一気に角度をつけて降り注いでくるミサイル。
その矛先はレイの装騎バイヴ・カハに向けられていた。
「ミサイル!?」
「行って、小型FIN!」
レイは咄嗟にマーハ、ヴァハ、マカを起動、ミサイルを迎撃する。
「くぅ……さすがに、全部、バラバラで動かすのは――――ッ」
だが、全く別のことを同時にするのにはレイの集中力が持たない。
「レイちゃん、ミサイルの迎撃はわたしがやるわ! だから、レオシュを」
「で、ですけど、ここには伏兵が……」
「いいから! いいわよね、カレル?」
「ああ、俺様に考えがある。それとレイくん、すぐにFINの1基を指示する場所に向かわせてくれ」
ナオによるミサイル攻撃に乱され、動きが鈍くなっていたレオシュを援護するFINの動きが再び活発になる。
「ニェムツォヴァーが援護してるのね……」
スミレからの報告を受け取りカヲリは呟いた。
「ナオはもう少し上がってきなさい! ミカコ、ポジションは?」
「狙撃位置についたよ~。厄介なバルディエル――――さっさと沈黙しちゃいなよぉ~」
「うわっ、また狙撃……!」
そして再び始まるミカコが行うレオシュへの狙撃。
「レオシュ、狙撃はどの位置からだ?」」
「真横! 3時の方!」
「フッ、やっぱりそこか」
ミカコがスナイプライフル・ボロヴィチュカを構え、レオシュの装騎バルディエルを撃ち抜かんとしたその時。
ミカコの目の前に1基のFINが姿を現す。
「――っ、FIN!!??」
驚愕するミカコの目に、強烈な魔電霊子砲の輝きが焼き付いた。
そして、ミカコ騎はその機能を停止する。
「狙撃が止んだ……もしかして、やった?」
「お、おそらくは」
レオシュの疑問にレイは答えた。
まずはミカコ騎の狙撃を封じることができたウレテット。
しかし、いまだに装騎バイヴ・カハに対するミサイル攻撃は続いている。
「ああもうっ、っていうか、こういうミサイルってどういう理由で追いかけてくんのよ!?」
迎撃しても迎撃してもキリがないミサイルに、カナールの苛立ちは絶頂に達していた。
「確かにな――ミサイルはまだ最新武器だ。仕組みが――」
「あっ、カレル、アレだ!」
「アレ……?」
レオシュの叫びにカレルは首をかしげる。
「去年の、ステラソフィアの新歓! スズメちゃんがミサイルを装備した装騎と戦ってたはず」
「ダガーか!!」
「ダガーね!!」
レオシュの通信を聞いていたカレルとカナールが同時のタイミングで合点がいったように叫んだ。
「レイちゃん、一瞬だけミサイルの迎撃をお願いするわ!」
「わ、わかりました……っ」
レイが一時期バックパックに戻し充電していた小型FINを再び展開し、ミサイルを迎撃している間に、カナールは素早く装騎バイヴ・カハの背後へと目を走らせる。
「あった!!」
そこには、最初に装騎バイヴ・カハが受けたスミレからの1撃。
その"置き土産"が突き刺さっていた。
「お返しよ!!」
カナールはそのダガーを抜き去ると、手早く自らの持つ矢へと括り付ける。
そして、カヲリの装騎ヴォドチュカに向けて射た。
マーキングダガーを標的として走っていたミサイルの矛先は、カヲリの方へと変更される。
「チッ……スミレ!」
「御意」
多数のミサイルを魔力障壁で防ぎながら、カヲリは指示を出した。
その指示で、今まで隠れていたスミレのアサリア型装騎がついに姿を現す。
「仕留める」
スミレが狙うのは、一番厄介な装騎バイヴ・カハ。
レオシュを援護しながらレイと、カヲリに一泡吹かせられたと僅かながら油断しているカナール――その隙を付いてその手に持つ超振動クナイを振りかぶる。
「させるかぁぁあああああ!!!!」
「ルニャーク……っ」
あわや装騎バイヴ・カハを捉えんとしたスミレの攻撃を阻んだのは――ブースト移動で一気に上がってきていたカレルの装騎。
「イェストジャーブだッ!!」
カレルは自らの体でスミレを抑え込みながら言った。
「これからの作戦データを送る。だが、各自柔軟に対応しろよ」
「は? アンタ、何を言って――――」
刹那、装騎イェストジャーブのオリエンタルブレードがスミレのアサリア型を貫く。
だが同時に、スミレのクナイが装騎イェストジャーブの急所を1撃――相打ちとなった。
「自分が撃破される前提で作戦立てるなんて……バカじゃないの!?」
「な、なんとかカレルさんに報いましょうっ」
「ええ、行くわよウレテット! 後衛が上がってくる前に、3騎でヴォドチュカを仕留めるわ!」
厄介な狙撃、ミサイル攻撃を食い止め、身を潜めるのが得意なスミレ騎を撃破できたことで、残った3人の動きは一気に活気づく。
元からカヲリの装騎ヴォドチュカと交戦していたレオシュのバルディエ型を先頭に、エッジボウを構えた装騎ニェムツォヴァーと超振動断頭剣を構えたレイの装騎バイヴ・カハが続いた。
「ウレテットにとっての勝機……ワタクシ達にとっては絶体絶命、ね。ですが、だからこそ」
「行くよっ、葬送行進曲!」
レオシュが霊子杖ムソウスイゲツによる連続突きを繰り出そうとした瞬間、
「ティラニカル……リベンジっ」
カヲリの操るピンポイントな魔力衝撃によって、レオシュの持つ霊子杖ムソウスイゲツは炸裂する。
「しまった……っ」
「レ、レオシュさん、援護します!」
そこに向かって飛んでくるレイの放った大型FINの残った2基に、小型FINの3基。
「ティラニカル・プレッシャー……!」
だが突如、周囲の空気が重量を帯び、宙を駆けていた5基のFINも大地へと叩きつけられた。
「ぐっ……体が、重い」
「周りを、重くする、魔術、ですか!?」
「わたしが援護を……!」
唯一、カヲリの効果範囲外にいたカナールの装騎ニェムツォヴァーがエッジボウに矢を番え、射る。
が、
「チッ、やっぱり落とされる!」
もちろん、その矢がカヲリの元へと届く前に、あっけなく大地へと伏した。
「この技で、一体、何を考えているのでしょう……っ?」
「おそらくは足止めだよ。ナオちゃんが来るまでの時間を稼いでいるんだ」
レイの疑問にレオシュが答える。
「なるほど……で、ですから、あの場所から動かないで足止めを……」
「…………それは違う、とは思うわ」
カナールは言った。
「確かに足止めのためにあのプレッシャーを出しているのはそうね。でも、これだけの強力な魔術……きっとカヲリも抑え込むので精一杯だと思うわ」
「なるほどね。ボクたちは動けない――でも、カヲリも動けない」
「一矢報いるなら……今ね」
「カナールは弓使いだからね」
「文字通り、ですね」
「2人とも余裕そうじゃない。イケそうね」
カナールはそう言うと2本の矢を番える。
「でも、どうするつもり?」
「単純なことよ。下に落ちるなら……上に射ればいいんでしょ?」
カナールはエッジボウから矢を放った。
だが、その矢じりが向くのはカナールの宣言通りの「上」ではなく装騎ヴォドチュカを正面から狙っている。
「ニェメツ流――――陰流星!」
カヲリの装騎ヴォドチュカを正面からとらえようとしたその矢は、再びカヲリの重力圏へと足を踏み入れた。
その瞬間だ。
突如としてその矢じりが閃光を発する。
「目くらまし……ですけど、この程度では…………っ!?」
それと同時に、装騎ヴォドチュカの右肩を1本の矢が貫いた。
その衝撃でカヲリの放っていた重力フィールドが解除される。
「やりますわね……っ」
2本の矢を同時に――それも、正面から放つ矢の陰に重ねて空から敵を射止める隠された矢の1撃――それがニェメツ家の技の1つ"陰流星"だ。
「今だ……っ!」
「い、行きます!」
プレッシャーから解放されたレオシュとレイの装騎。
レイはその手に持った超振動断頭剣をレオシュへと投げ渡すと、
「マーハ、ヴァハ、マカ、ブレスレットモード!」
その右手に小型FINを纏う。
「いっけぇ!」
「い、いきますっ!」
「援護するわよ!」
3人の連携攻撃がカヲリに襲い掛かる刹那。
「ナオ!」
「りょ、諒解ですカヲリ様!」
「!! あれは――ナオの!」
突如として、カヲリの背後からミサイルの一撃が3騎に襲い掛かった。
響き渡る爆音と、目を眩ます爆炎。
魔力障壁で身を守る装騎ヴォドチュカの背後で"ランドセル"を背負ったナオのミカエル型装騎に矢が突き刺さる。
「一瞬前に、勘付かれたわね……カナール!」
その矢は強烈な爆発を起こし、ナオのミカエル型は機能を停止した。
それと同時に、黒煙を突き破って1騎の機甲装騎が飛び出してくる。
「わ、わたしたちはっ、ぜったいに、勝ちたいからッ!」
ナオの襲撃に気づき撃破される前に一矢報いたカナールの装騎ニェムツォヴァー、レイが受けるはずだったミサイルを一身に受けてその機能を停止したレオシュのバルディエル型。
その2騎を背に、レイの装騎バイヴ・カハはその右腕をカヲリの魔力障壁にぶつけた。
装騎バイヴ・カハが放つ強烈なアズルの光と、装騎ヴォドチュカが放つ強烈な空間の歪みがぶつかり合い、激しい青白い光りを周囲に散らす。
「もっと――もっともっともっと……もっとアズルを!」
レイはひたすら装騎の右腕にアズルを供給していく。
やがて、コンピューターが警告を発し、アラームが耳をつんざいた。
右腕に纏った小型FINが焼き付いていき、煙を上げる。
装騎バイヴ・カハの右腕がカヲリの魔力に押し負ける――そう思われた瞬間。
「ネヴァン、バズヴ……お願い!」
「カァ――――!!!」
カヲリの真上から――レオシュのバルディエル型が持っていたはずの超振動断頭剣が、ネヴァン、バズヴと名付けられた2基の大型FINに加速を付けられ、
「ドゥーム……ハンマーっ」
落とされた。
「バトルオーバー!! 勝者は――――チーム・ウレテット!!」
チーム・ウレテットの4人と、チーム・カヲリの4人はそれぞれ握手を交わす。
「本当にあの子たちをここまで引っ張り上げるなんて、見込み以上ね」
フレダ先生を筆頭に、周囲で見ていた生徒達からチーム・ウレテットへの拍手が響く。
「ふっ、よくやったなウレテット。さすがは王者のチームだ!」
「ははは、運命の女神様がついてくれたんだね」
「勝った、のよね」
「は、はい! 勝ちました!」
喜び合うカレル、レオシュ、カナール、レイの横で、スズメとカヲリが並んで話をしていた。
「まさか、あの最弱チームがここまでできるようになるだなんて……スズメ、貴女意外とコーチとか向いてるんじゃないかしら?」
「良いですね! 将来は装騎バトルのコーチにでもなろうかなぁ」
「本気?」
「冗談」
カヲリはその体をウレテットへと向き直す。
そして言った。
「チーム・ウレテット。今日のところは負けを認めてあげるわ。ですけど――次は負けませんわよ」
「ああ、いつでもかかってこい! 俺様達が相手になってやろうじゃないか」