福売りキープ・ユアセルフ・アライヴ
年も明けてすぐのある日。
「カァ――!!」
「どうしたの……? あ、スズメちゃん」
首都カナンに来ていたレイは、その肩に乗ったカラスの1声をきっかけに、見知った姿を見つけた。
それは、カナンの電気街にあるニャオニャンニャーの専門ショップ、ニャンニャー・ステーション前。
人々が作る列の中に混じったサエズリ・スズメの姿だ。
「な、何してるんですか?」
「あ、レイちゃん!」
スズメの元に近付き、そう声をかけたレイにスズメは明るい笑顔を向ける。
「限定福袋を買いに来たんですよー」
そう言うスズメが視線を向ける先には、ニャオニャンニャーの主人公ニャオ・ニャンのイラストが描かれた一抱えほどある袋が置かれていた。
「福袋、ですか」
「うん!」
スズメの笑顔が眩しい。
それ程までに、この福袋の購入を楽しみにしていたのだとレイは感じる。
「わ、わたしも一緒に待っていいですか……?」
「うん、いいよー」
スズメとレイは福袋の販売開始までしばらく待つ。
気付けば、列に並ぶ人の数が数十人は軽く超えていた。
「わ、す、すごい人の数だね……」
「このショップの年に一度の大イベントだからねー」
やがて、お店の前に店員と思しき女性が姿を見せる。
「年に一度の大イベント! ニャンニャー・ステーション福袋争奪戦に集まってくれてありがとなー!」
やけにハイテンションでそういう店員――フルドリチュカに、集まった客からの歓声が沸き上った。
「限定20セットのこの福袋……! 手に入れたいかー!?」
「手に入れたーい!!」
「ならば戦え! 戦って奪い取れー!! これより、ニャンニャー・ステーション限定福袋争奪戦を始めるぜェ!!」
威勢のいい叫び声が周囲に木霊する中、限定福袋争奪戦とやらの幕が上がる。
場所は変わってニャンニャー・ステーションからそれなりの距離にある屋外演習場へとスズメたちは来ていた。
それぞれ自分の機甲装騎を呼び出し、何やら戦闘モード。
「な、なにがはじまるんですか……?」
初参加であり、何をするのか全く理解できていないレイはスズメに尋ねる。
「サバイバル戦ですよ! 福袋が手に入る残り20人になるまで戦って、戦って、戦いぬくんです!」
「な、なるほど……」
だから、こんなに広い演習場にこれだけの人数が集まり機甲装騎の準備をしているのだ。
「勝負のルールは生き残ること! その為にはチームを組んでも数で叩いても問題ないんですよ! スポーツマンシップに反する行為はNGですけど」
「わりと無茶苦茶なイベントなんですね……」
「それが人気の秘密なんです!」
折角だからということで、レイも自身の装騎バイヴ・カハを呼び出し参加の準備をする。
スズメも装騎スパロー・パッチワークを呼び出しやる気満々。
そして、福袋争奪戦は始まった。
「レイちゃん、いっしょに2人1組組もっか!」
「ス、スズメちゃんとドヴォイツェ、ですか!?」
スズメの言葉にレイは興奮を隠しきれない。
「レイちゃん、敵はすぐに来るよ! サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」
「わ、わたしも行きます!」
スズメのいう通り、敵はすぐに表れた。
「青き革命団が一番槍、参るぅぅうぅうううううう!!!!」
真っ青に染まったウリエル型装騎がウェーブランスを構え、強烈なブースト機動によってレイの装騎バイヴ・カハへと距離を詰める。
「モリガン、ネヴァン、バズヴ!」
「カァ――――――!!」
だが、それより早く装騎バイヴ・カハのFINが3基、起動した。
「世界に、青き革命あれぇぇぇぇええええええええ!!!!!」
三叉する魔電霊子砲を受け、ウリエル型はあっさりその機能を停止する。
「さすがレイちゃん! どんどん行きますよ!」
「は、はい!」
背中合わせになった装騎スパロー・パッチワークと装騎バイヴ・カハは向かってくる敵を次々といなしていく。
「スィクルムーン・ストライク!!」
「え、えっと……バードストライクっ……っていうか……あの、わたしたちすっごい囲まれて、ませんか?」
「私たち有名だからね!」
「あ……」
気づけば、2人を取り囲む装騎装騎装騎。
最早、スズメ・レイ・ドヴォイツェVSその他大勢とでも言うような状態。
「いけぇ!! サエズリ・スズメを倒せー!」
「去年の雪辱、晴らしてやるわよ!」
「忍びの道は……険しい」
装騎スパロー・パッチワークがワイヤーアンカーで引き寄せた敵装騎を盾替わりにして、なんとか凌いでいるが多勢に無勢。
「これくらいが楽しいんですけどね!」
いや、余裕そうだ。
「わ、わたしもスズメちゃんに、ついて、いかなきゃ!」
レイもFINを操り数の勝る相手を圧倒する。
そんな中、突如として男性の叫ぶような声と共に轟音が鳴り響いた。
「オラオラオラオラ、鳴り響け! 俺のサウンドォ!!!!」
体に響く低音が、装騎越しにも伝わってくる。
その瞬間、周囲の装騎全てを巻き込むようなアズルの雷光がその場にいる騎使の目を眩ませた。
「何ですか!?」
「キャッ」
マイクも全開にして、周囲に曲と声を響かせる漆黒の機甲装騎。
「新進気鋭のロックミュージシャン! ボウジット・コスの歌を聞けェ!!」
その手にはエレキギターを模したバトルライフル・レッドスペシャル:レプリカが握られている。
「BUŘ!!」
一見無茶苦茶。
しかし、その射撃は恐ろしく強烈で凶悪。
通常の電磁誘導投射砲の霊子光をはるかに超えた、激しいアズルの閃きが排気口から吐き出された。
バトルライフル・レッドスペシャル:レプリカは、敢えて派手なアズル光が出るように改造されているのだ。
「激しい歌を歌う黒歌鳥ですねっ」
「どうだ、ロックだろ!?」
「レイちゃん、あのロッカーは厄介ですが、うまく利用できれば」
「露払いもできる……わ、わかりました!」
「な、俺が来たからって逃げるのかァ!?」
装騎スパロー・パッチワークと装騎バイヴ・カハは一気に散開。
敵をかき乱すように一気に駆け回る。
「ワイヤーアンカーを利用すれば、これだけ集まってくれると逆にありがたいですよ!」
スズメはワイヤーアンカーを大勢集まった敵装騎に絡ませ、がんじがらめにした。
そして、装騎スパロー・パッチワークが動きを止めた敵装騎の陰に入ったその時、狙い通りロックミュージシャン・コスの放ったレッドスペシャルの銃撃が敵に命中。
「モリガン、ネヴァン、バズヴは加速補助! マーハ、ヴァハ、マカは攻撃をお願い!」
「カァ――――――!!!!」
対してレイも大型FIN3つをブースター代わりに、そして小型FINで周囲の敵をけん制、敵を撃破する。
装騎スパロー・パッチワークか、装騎バイヴ・カハか、とりあえず手近にいるほうへとバトルライフル・レッドスペシャルをデタラメに撃つロックミュージシャン・コス。
そのデタラメさに反して、ロックミュージシャン・コスは自身に対する他装騎の攻撃を回避し、さらに最小限の反撃で攻撃をしてきた相手の動きを止めるという戦い方からはその実力を感じさせた。
「メチャクチャですけど――――スゴ腕です!」
「ほ、本当です……」
スズメとレイを狙うのに熱くなっているが、それ以外への対応は冷静そのもの。
尤も、そう見えるだけで本人は何も考えていないのかもしれないが。
最早スズメ、レイ、コス以外の装騎はフィールドの障害物、利用物扱い。
起動している、していない――そんなことは関係なく、その場にいる装騎自身と、装騎の攻撃を利用しコスの行動を回避、けん制するスズメとレイ。
そんな2人をただひたすら狙ってレッドスペシャル:レプリカをぶっ放すコス。
かつての福袋争奪戦に、ここまで酷い様相を呈したことがあっただろうか。
「U ČERTA!!」
不意にコスが吐いた悪態。
それは、装騎スパロー・パッチワークのワイヤーアンカーが自らの右足を絡めとっているのを見たコスの叫び。
「捕まえました! レイちゃん!」
「はい!」
「スパロー!」
「バイヴ・カハ!」
「「バインド・スナイ――」」
「しゅぅぅううりょぉぉおおおおおおお!!!!」
〝これで決める!”そう意気込んだスズメとレイを吹き飛ばすようなフルドリチュカの声が響いた。
「生存者の数が20人になりましたァ! これにて、限定福袋争奪戦を終了しまぁあああああす!!!」
フルドリチュカの言葉に、未だ起動状態にある装騎の騎使たちはその手を下す。
スズメやレイ、コスも例外ではない。
「あー、あと1歩だったんですけどねぇ」
「試合終了なら、仕方ない、ですね……」
それから店舗に戻り、生き残った20人は福袋を手に入れることができた。
そんな折、ツンと逆立った髪の毛の男性がスズメたちに声をかけてくる。
「お前らだろ? さっきドヴォイツェ組んでたのって! 最高にロックだったぜ!」
その言葉から、スズメたちはすぐに察した。
彼がロックミュージシャンのコスだと。
パッと見、ニャオニャンニャーなど好きなタイプには見えないが、限定福袋を手に入れることができてどこか満足顔。
「私もロッカーさんとのバトル、楽しかったですよ!」
スズメの言葉にレイも頷く。
「またバトルがしてーぜ。俺の次にロックなお前らとな!」
そう言いながら去っていくコスの後姿を見ながらスズメがつぶやいた。
「どこかカレルさんみたいな人ですね……」
「た、たしかに……」