ラッキー! サプライズ☆クリスマス
「レイちゃんの誕生日、12月24日なんだって!」
放課後、スズメの呼び掛けでレイを除くチーム・ウレテットの4人が集まっていた。
「クリスマスイブじゃない」
「そうなんですよー!」
スズメがウレテットのメンバーを集めたのはそれが理由だった。
スズメが何をしたいのか、それをすぐさま察したカレルが口を開く。
「よし、サプライズをしよう」
「カレルさんならそう言うと思いました! カナールもレオシュさんもいいですよね?」
「当然じゃない!」
「うん、やろう」
と、言うことで12月24日土曜日――クリスマスパーティーを装ったレイへのサプライズバースデーが企画されたのだった。
「しかし、レイくんに誕生日プレゼントか……」
やろうとなったのは良いが、女性に対するプレゼントなど見当もつかないカレルが唸る。
「やはりここは、1分の1レイくんフィギュアでもプレゼントするべきなのか?」
「フィギュアはやめなさい」
「なんだと!?」
ようやく辿り着いた結論を、カナールにあっさり否定されショックを受けるカレル。
「1分の1とか純粋に邪魔なのよ。邪魔!」
「スズメくんなら分かってもらえるだろ!?」
「お金持ちってみんなプレゼントにでっかいフィギュアをプレゼントするものなんですか?」
スズメの言葉にカナールが何かを察した。
「もしかして、スズメも等身大フィギュアをもらったことあるの?」
「等身大というか、1分の3フィギュアですね」
スズメの言葉を聞いた面々に驚愕の表情が浮かぶ。
「1分の3ってつまり3倍だよね。5m近くあるんじゃ……」
「4m半ですねー」
レオシュの言葉に応えながら、SIDパッドに保存された去年の誕生日にプレゼントされた1分の3スズメフィギュアの写真を表示した。
「流石だな」
「うわぁ……」
「すごいね」
「よし分かった。俺様にも1分の3フィギュアを作れというのだな!」
「作るなって言ってんのよ!」
変な気合を入れようとするカレルの頭をカナールが思いっきり叩く。
「では俺は何をすればいい!? この気持ちと金をどこに向ければいい!!??」
「ケーキでも注文してください」
「それだ!!!!」
カレルは手早く自前のPAD端末を取り出すと、ネットで何やら調べ始めた。
「このバカにケーキを任せて大丈夫なのぉ?」
「味と品質は保証できるんじゃないかな。すごい大きいケーキが出てきそうだけどね」
「あとは誕生日プレゼントかぁ」
「レイちゃんが喜びそうなもの、ねぇ……サムゲタン?」
「初日に言ってたね」
レイの転入初日、好きな食べ物を聞かれたレイがそう答えていたのを思い出す。
「とりあえずアレね。スズメを隣に侍らせたら喜びそうよね」
「私を……?」
「すごくスズメちゃんに懐いてるもんね」
「ということで、決定!」
「決定なの!?」
「演出はね。プレゼントは……」
「決まらないなら、無難に寄せ書きとかにする?」
レオシュの提案に、スズメもカナールも頷いた。
「そんじゃ、今のところはそんな感じでやろっか!」
カナールの言葉に、ウレテットの4人は拳を突き出し合い、決行の日を待つ。
クリスマス会当日。
「レイちゃんお待たせっ!」
クリスマス会の会場としてカレルが抑えた国立会館礼式用ホール。
礼式用ホールとは披露宴や舞踏会などの行事全般に使われる広く平坦としたホールだ。
カレルとしては大ホールを借りて盛大にやりたがっていたのだが、カナールに怒られたことで礼式用ホールに落ち着いたという背景があるのは予想できることだろう。
それはさておき、スズメがレイを連れて2人で会場へ来る――それも含め、今回のサプライズの一環だった。
「さっきカレルさんからメールがあって、カナールもレオシュさんも遅れるから先に行っといてだって!」
「え――先に、ですか?」
「うん!」
レイは内心、4人でクリスマス会をするのだからスズメと2人で会場に向かっても意味がないのでは――とは思っていた。
しかし、
「……うん!」
スズメと2人でいる時間が少しでも出来るなら――そんな思いからレイは頷く。
「でもなんで白タキシード着てるんですか……?」
「カレルさんから渡されて……」
白いタキシード姿という目立つ格好のスズメは周囲の視線を受けながらも、機関車で国立会館前駅へ。
スズメとレイの2人は国立会館礼式用ホールの入口へと手をかけた。
扉の向こうは暗がり。
だが突如、強烈な光が2人を照らした。
「キャッ」
眩しさにレイは思わず顔を覆う。
「レイちゃん」
その時、レイの体が僅かに傾き転びそうになるが、スズメがその腕を掴んで支えた。
2人を照らすスポットライトの中、レイの目が段々と慣れてきて周囲の状況がつかめてくる。
「レイちゃん、ハッピーバースデー!!!」
そこに居たのは、チーム・カヲリ、チーム・ハルバート、ロコヴィシュカやアナヒトと言ったスズメの友達から、それ以外のリラフィリア機甲科の生徒に、まさかのチーム・イレギュラーズの姿まであった。
「え、ええ!? ええええ!!??」
予想だにしていない展開に戸惑いが隠せないレイ。
「行こっ」
そんなレイの腕を引き、スズメは目の前に作られた赤い一本道を進み始める。
「えっと、これって……クリスマス会ですか?」
レッドカーペットを歩きながら、驚きより何よりもそんな疑問がレイの頭に過った。
「レイちゃんの誕生日会だよ!」
「その、失礼、なんですけど……どう見ても結婚式にしか……」
「……!!!」
レイの言葉にスズメの目と口が大きく開く。
今回の誕生会の趣向はカレルとカナールが2人で考えたもの。
レイを喜ばせるにはどうしたらいいか――その結果辿り着いたのが乙女の……というかカナールの憧れ披露宴だったのだ!
「誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます、カラスバさん!」
「おめでとー!!」
周囲からレイへと投げかけられる祝いの言葉。
その言葉こそ「誕生日」だが雰囲気としては完全に「結婚式」だった。
「ロコちん……」
何故か目に涙を浮かべてるロコヴィシュカの姿にスズメは苦笑する。
バースデーロード(?)を過ぎ、主役であるレイとその付添人としてスズメはホールの前に設置された席へと腰を下ろした。
「レディース・エーン・ジェントルメン! 今回はチーム・ウレテット主催のクリスマス会――改め、カラスバ・レイくんのバースデイパーティーへのご足労、感謝する!」
司会ということでスーツに身を包んだカレルがマイクを手に前に立つ。
今回はスズメも“準主役”という立ち位置ということもあり、カレルは黒色で一部に金の装飾をあしらった最高級スーツという“地味な”服装だ。
「では、俺様が拘りに拘り抜いて用意したバースデーケーキと共に、レイくんの誕生日を祝おうではないか!」
カレルの言葉にレオシュが何やら荷台を押しながら現れる。
押されるワゴンには身の半分ほどある巨大なケーキの姿。
巨大なケーキが7段積まれ様々なフルーツがあしらわたその天頂にはスズメとレイを模したチョコ細工が飾られ、どう見てもウエディングケーキだ。
「この大型ウエディング――じゃなかったバースデーケーキは本場マスティマ連邦のケーキ屋ソミュア本店の3代目シュナイダー・ローランサンに特注で作ってもらったケーキで、基本としては俺様の好きな春風に誘われた――」
「それじゃあレイちゃん、スズメちゃん、2人でローソクに火をつけて!」
つらつらと話し始めるカレルを無視して、もう1つのマイクを手にしたカナールがそう言った。
「私もですか!?」
「スズメちゃんと一緒に……!」
戸惑うスズメに嬉しそうなレイ。
そんな2人の手に、1本の点火棒が渡される。
「あの、火って、どこに点ければ……?」
「そこのヒモにお願いね」
カナールの言葉に従いレイが点火棒を持ち、その手をスズメが支えた状態でケーキに垂れ下がるヒモへと火をつけた。
その火はヒモを辿って一気にケーキの頂きに至り、そこに差された17本のローソクに火を灯す。
「それじゃ、みんないい? せーのっ」
そしてカナールの号令に従って、バースデーソングが響き渡る。
「誕生日おめでとう!!!!!」
そして一斉に鳴り響いたクラッカー、はじけ飛んだリボンと紙吹雪。
「あ、ありがとうございます……!」
「それじゃあ、ケーキカットもやっちゃいましょ!」
「ケーキカットって完全に結婚式じゃないですかー!!」
「いーじゃんいーじゃん。レイちゃんだって嬉しいでしょ?」
カナールの問いかけに、レイは屈託のない言葉で言った。
「はい!」
「誕生日プレゼントも持ってくるね」
ケーキが切り終えたところで、レオシュはそういうと綺麗にラッピングされたレイの身のため近くある箱をワゴンに乗せて持ってくる。
「誕生日プレゼント……ですか?」
「そうよ。わたしたちチーム・ウレテットからのプレゼント!」
「レイちゃん、開けてみてください!」
スズメに促されるまま、レイは巨大なその箱の封を開け始める。
そこから出てきたのは……
「これは……ナイフ?」
機甲装騎用のナイフだった。
「そうだよ! 私が愛用してたウェーブナイフ!」
長さは1、5m程のウェーブナイフ。
その刃にはスズメ、カナール、カレル、レオシュと言ったチーム・ウレテットメンバーからの寄せ書きが書かれている。
「寄せ書きをプレゼントしようって決まったんだけど、ただの寄せ書きじゃつまらないから私のナイフに書くことになったんだ!」
レイはそっとウェーブナイフへと手を触れた。
チーム・ウレテットのみんなが、スズメがレイのために用意してくれたプレゼント。
こんな誕生日会は初めてだった。
「スズメちゃん……みんな、ありがとう、ございます!」
「どういたしまして」
「さぁ、レイちゃん! ケーキを食べるわよ!」
「ボク、みんなに配ってくるね」
「わたしも手伝うわ」
「あ、カナール、私も……」
「いいからいいから。スズメはレイちゃんと一緒にケーキを味わいなさいって」
席を立とうとするスズメをカナールは抑えつけ席へと戻す。
「でも……」
「これがスズメの役割なんだからちゃんと果たしなさいよ!」
そう言うとカナールはケーキを配りにその場を離れた。
席の周りにも誰もおらず、スズメとレイは2人きり。
「それじゃあケーキ食べよっか」
「は、はい!」
2人で一緒に食べるケーキは、何故だろうかいつもよりも美味しいと――レイはそう感じた。
「と、言うことでレイくん! 誕生日――――っておい! どうして先にケーキを食べているのだ!?」
「アンタの話、長すぎるのよ」
「はい、カレルの分もあるよ」
ちゃんちゃん。