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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:ワケアリの転入生編
230/322

ヨーコソ琴華祭!

11月19日。

その日、リラフィリア機甲学校は多くの人々で賑わっていた。

校門には新たに巨大なアーチが設置され、そこには「琴華祭きんかさい」という文字が。

そう、今日はリラフィリア機甲学校の学園祭。

一般参加者も含め、多数の人々を迎え入れる中、スズメとアナヒト、そしてロコヴィシュカの3人は一緒に出店を楽しんでいた。

「ズメちんのクラスって結構ギリギリまで出し物が決まってなかったみたいだけれど……結局、何になったの?」

「え、ウチのクラス? えっと……その……」

ロコヴィシュカに尋ねられ、スズメはどこか言いよどむ。

「もしかして、ぼったくり喫茶とか……?」

「ステラソフィアじゃないんだから、そういうのじゃないよ~」

それは去年のステラソフィア女学園で行われた学園祭で、スズメ達機甲科1年生が行っていた出店のことである。

「それじゃそれじゃ、合コン喫茶?」

「フレダ先生はクイーン先輩とは違うから……」

ロコヴィシュカはかつてステラソフィアの学園祭であった出来事をスズメから聞いて知っていた。

スズメ達の担任マーキュリアス・フレダ先生――その妹であるクイーンの提案でツバサやヒミコと言った先輩たちが1年生の時に合コン喫茶をしたことがあるという話を。

「えっと、それが……ガチャガチャ、なんだ」

「ガチャガチャ?」

首をかしげるロコヴィシュカの傍で、今まで黙っていたアナヒトが何かを見つけ指をさす。

「ガチャガチャ」

そこにあったのはスズメ達リラフィリア機甲科1組の教室だ。

開け放たれた教室――その中には……カプセルトイ自販機がズラリと並べられていた。

「……ガチャガチャ」

「ガチャガチャ」

呆れるように呟いたロコヴィシュカに、コクリと頷くアナヒト。

2人の様子を見ながら、スズメは苦笑を浮かべている。

「誰が発案したの、コレ……」

「俺様だ!」

まるで待っていたかのように颯爽と登場したのはカレル。

「イェストジャーブさんなんだ」

「尤も、クラスの意見を纏めた結果だが」

機甲科クラスでは学園祭の出し物を決める際、何やらやる気がなく「休憩所にしよう」という意見すら出たようだが、そこを妥協案としてカレルの意見でカプセルトイショップにしようということになったのだ。

「カプセルトイであれば基本は放置で良いし、たまに商品の確認とかで働いているという“体”を見せることもできる。完璧な案だろう?」

腕を組みながらうんうんと頷くカレルの姿は自信満々だ。

「ちょっとカレル! 商品の確認は終わったから次はクッキングクラブの所に行くわよ!」

「カナールも楽しんでるみたいだね」

「まぁね」

「ガチャガチャを置くだけってカナールさん的には良いんですか?」

こういう不真面目にも見える出し物でも、カナールはストレスを感じていないようで、それを少し不思議に思ったロコヴィシュカが尋ねる。

「まっ、やる気がないやつ無理矢理働かせるのも面倒くさいしね。カプセルトイショップって案もコイツにしてはいい妥協点だと思うわ」

「そうなのですね」

詰まる所、カレルの提案はいろんな意味で機甲科クラスの面々にとってはいい塩梅の案だったようだった。

「あら、サエズリ・スズメ」

カレル・カナールと別れて他の出し物を見に行こうとしていたスズメ達に声をかけたのはラヴィニア。

「あ、ラヴィニア! ハルバートの4人で回ってるの?」

スズメの言葉通り、ラヴィニアの背後にはジェッシィにヴァープノ、シノリアとチーム・ハルバート4人が勢ぞろいしていた。

それも4人とも同じクレープを手に持って仲良さげだ。

「ええ――。ところで、その女の子は誰なの?」

ラヴィニアが示したのはスズメやロコヴィシュカと一緒に回っていたアナヒト。

「この子は私のルームメイトのアナヒトちゃん」

「……アナヒト」

スズメの紹介に、アナヒトはそう名乗りながら小さく礼をする。

「アタシはセケラティッチュ・ラヴィニアよ。よろしくお願いするわ」

「……しくよろ」

アナヒトの礼に応えて、ラヴィニアは恭しく頭を下げた。

その背後で、可愛らしいアナヒトの姿にヴァープノとシノリアにジェッシィまでもが身悶えしている。

「そのクレープ良いな~。アナヒトちゃんも欲しいよね!」

スズメの言葉にアナヒトは頷いた。

その仕草にラヴィニアの背後で「キャー」と声が上がる。

「クッキングクラブが売ってるわよ」

「そういえばカナール達も行くって言ってたなぁ」

「ジュルヴァもいると思うし、行ってみたらいいと思うわよ」

ジュルヴァ――ジュルヴァ・レオシュのことだ。

実は彼、クッキングクラブに所属していたりする。

「わかった! ありがとう、ラヴィニア!」

「……ありがと」

完全に表情が緩んだチーム・ハルバートの面々を後にして、スズメ達3人はクッキングクラブのクレープを買いに向かったのだった。

途中で、ロコヴィシュカたち特技科の展示物を見た後にクッキングクラブが店を出しているという家庭科室にたどり着く。

家庭科室に入ろうとした時、室内から何やら熱い声が聞こえてくる。

「そこ、そこよ。いきなさいナオ! 一気に食べ尽くしなさい!!」

「は、はひっ、1つ食べてはカヲリ様のため! 1つ食べてはカヲリ様のため!!」

「おお……ナオの意外な特技発見」

「流石」

「な、なにをしているんだろう……」

その迫力に入る前からどこか圧倒されてしまうロコヴィシュカ。

「チーム・カヲリの4人? っていうかもしかしてこれって……」

「早食い」

アナヒトのいう通り、そこではチーム・カヲリのナオと、そして他にもリラフィリア生や一般参加者を含めた早食い大会が開かれていた。

「やぁ、スズメちゃん」

そこで待っていたのはメイド服姿のレオシュ。

「レ、レオシュさん、やけに似合ってますね……」

「あはは……ありがと」

そう笑っているレオシュだが、どこか困ったような笑顔だ。

「これは早食いですか?」

「うん。今日明日の13時と16時の2回ずつやってるんだ」

今回のお題はかつ丼。

凄まじい大きさのかつ丼を前に、誰が1番早く間食するかを参加者たちが競っている。

「……参加したかった」

「あ、アナヒトちゃんが……?」

「アナちん、あれすごい量だよ……」

何やら興味を見せるアナヒトに、スズメもロコヴィシュカも苦笑。

「今日はこれで終わりだけど、明日もあるからね」

「スズメ……明日は出る」

「本気!?」

フンと鼻を鳴らし、聞き返すまでもなく本気の様だがどうしても聞き返さずにはいられない。

「あ、明日になったら考えようね」

何と返そうか悩んだ末、スズメはやっとそれだけ声を絞り出した。

「えっと、それでクレープが買えるって聞いてきたんですけど」

「クレープだね。レイちゃん」

「は、はい!」

レオシュに呼ばれて出てきたレイ。

レオシュと同じようなメイド服姿をしている。

「あれ、レイちゃんってクッキングクラブだっけ?」

「ち、違います、けど……よく顔を出してるので、そのお手伝いを……」

「そうなんだ! 入るつもりなの?」

「そ、それはまだ、ちゃんとは、考えてないですけど」

「……クレープ」

雑談をするスズメとレイに、待ちかねたアナヒトが頬を膨らませた。

「も、持ってくるね!」

慌てて奥へと引っ込んだレイは、すぐにクレープを手にして戻ってくる。

「はい」

「ありがとう、レイちゃん!」

「ありがとうございます」

「がとー」

それぞれがクレープを受け取り口に運ぶ。

「美味しいね!」

「あ、ありがとうございますっ!」

ロコヴィシュカとアナヒトも頷きながら一心不乱にクレープを食べ終わった。

「そういえば、カナールとカレルさんは?」

「ああ、2人ならクレープを食べるとさっさと行っちゃったよ」

「す、すっごく楽しそう、でしたよね」

「うん。カナールにそう言ったら絶対怒られるから言わないけどね」

レオシュの言葉にスズメもレイも頷く。

傍から見ると割と良い関係に見えるが、カナールの性格からも周りの人たちは触れずにそっとしていた。

「あ、ズメちん! そろそろスペシャルステージが始まるよ!」

「え、本当!? 行こっ、アナヒトちゃん、ロコちん! じゃあね!」

スズメはレイとレオシュに手早く挨拶すると、スペシャルステージが開かれるというリラフィリアの演習用グラウンドへと足を向けた。

「ナオ、まだ、まだですわぁぁああああああああ」

「カ゛、カ゛ヲ゛リ゛さ゛ま゛ぁ……」

スズメ達が家庭科室を出た背後で断末魔が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

演習用グラウンドには多数の人だかりがあった。

特設ステージの上には、スズメの見知った少女の姿。

「リラフィリア機甲学校、琴華祭ー!! いぇーい!!」

今、マルクトで大人気のモデル、ヤシダ・エリシュカだ。

「エリンカー!!」

スズメの声援にエリシュカは気付き、手を振ってくる。

「みんなー、入場したときに貰ったガイドについているビンゴカードはあるかーい?」

「あるよぉー!!」

スペシャルステージとは、エリシュカが進行を務めるビンゴ大会だった。

ステージ上には豪華賞品が数々。

中にはイェストジャーブ財閥提供の商品ももちろん置かれている。

「あ、スズメ、さん」

ふとスズメに声をかける黒髪の女子生徒が1人。

スズメはその少女にどこか見覚えがあった。

それは、スズメとラヴィニアの間の一悶着に決着がついた後のことだ。

スズメに謝りに来た女子生徒。

名前は確か――

「アサギさん、でしたっけ?」

「はいっ、アサギ・パジチュカです」

「アサギさんもビンゴするんだね!」

「はいっ、それで、お邪魔じゃなければお隣、いいですか?」

「いいよ! ね、アナヒトちゃん、ロコちん!」

ロコヴィシュカとアナヒトも頷き、やがてビンゴ大会は始まった。

「でも、ビンゴって当たったことないんだよね……リーチまではなんとか行くんだけどなぁ」

「わたしはリーチすらしたことないよ……」

そんな話をしながらも、エリシュカの言う数字に合わせてカードに穴をあけていく。

ロコヴィシュカは“リーチすらしたことない”という言葉通り、持っているカードに書かれた数字が全然呼ばれない。

よしんば呼ばれたとしても、全くバラバラの場所に穴が穿たれるだけだ。

ビンゴも佳境に入り、ビンゴになる人も出てき始める。

「あ、フレダ先生だ」

スズメ達の担任、フレダもこのビンゴに参加していたらしい。

ビンゴしたということでステージ上にその姿を見せる。

ビンゴした人は、ステージ上でクジを引き、出てきた数字に該当する賞品をもらうことができるという。

ウキウキした様子でステージに上がったフレダ先生は、ペアの食器セットをもらい、どこか複雑な表情でステージ上を後にした。

「マーキュリアス先生は独身なんだね」

「そうみたいだね……」

ロコヴィシュカの言った1言がズバリ的を射ていた。

次第に賞品は減っていくが、スズメもアナヒトもロコヴィシュカも――そして、隣のパジチュカもビンゴしそうな様子はない。

「リーチはあるのに……」

「のにー」

「…………」

そうぼやくスズメとアナヒトの傍でロコヴィシュカは無言。

「アサギさんはどう?」

「私も、そこそこです……」

やがて、賞品は残り3つとなった。

なんとなく感じる、最後の予感。

そして、エリシュカが数字を読み上げた。

「Bの15!!」

スズメたちは手元のカードへと目を向ける。

「やったぁー! ノービンゴぉ!!」

「……ダメじゃん」

最早変なテンションになっているスズメに、同じくビンゴにはならなかったアナヒトが突っ込む。

そしてロコヴィシュカは……

「すごーい、ロコちんのカード矢印みたいになってる!」

「ほんと」

何故か、N列の1番目と3番目、G列の1番目と2番目、O列の1番目2番目3番目に穴が開き斜め上を向く矢印のように。

「リーチもないけど……」

「これは逆にすごいよ!」

そんな3人の傍で、パジチュカが声にならない叫びをあげていた。

その雰囲気に気づいたスズメがパジチュカのカードに目を向ける。

「わ、アサギさん、ビンゴだ!」

「う、うん!」

「行ってきなよ!」

「わわわ、わかりました!」

スズメに促されて、パジチュカはステージ上へと走っていく。

やがて、ステージ上には今の数字でビンゴになったというパジチュカも含めた3人の姿が。

「丁度3人かぁー」

複数人が同時に出てきたときは、その全員でジャンケン。

その後、勝った順番にクジを引くという形になる。

パジチュカは見事に一発負け。

だが、人数と賞品の数が同じなので、最後の1個が貰える。

やがてパジチュカは桐の箱に丁寧に入れられた何かを、少し重そうに抱えて戻ってきた。

「アサギさんおかえり~」

「た、ただいま」

「なんかすごそうな賞品……」

「たべもの?」

パジチュカの抱えるソレに興味津々なロコヴィシュカとアナヒト。

「なんかコレ、最高級キャットフード、みたいです」

「キャット、フード……?」

箱を開けると、何やら豪奢なビン。

その蓋にはきちんとキャットフードだということが記されている。

「製造はイェストジャーブ・ファミリア……カレルさんの家ですか」

そう、イェストジャーブ財閥のペット用品部門ファミリアが開発した最高級キャットフード。

それも、ここ最近発売されたばかりという最新商品だった。

“王に相応しい猫に食してもらえるように作らせた”という発案者の言葉とともに、キャットフードに対する情熱がつらつらと書き連ねられた用紙まで入っている。

「あの、スズメさんは――ネコ、飼ってましたよね」

「うん」

「これ、差し上げます……私が持ってても意味ないです、し」

「本当!? それじゃあ、何か代わりに……」

「え、いや、そんなのいいですって!」

「何かあったかな……」

スズメは持ち物をいろいろと探りはじめ、やがて何やら紙のようなヒラヒラしたものを取り出した。

「それじゃあアサギさんには、フニャちんのベストショット写真あげるね!」

それは、スズメの飼いネコ、フニャトの様々な姿が納められた写真の数々。

寝ているフニャト、食べているフニャト、ふんぞり返っているフニャト、フニャトフニャトフニャト。

「あ、ありがとう……もらっておきますね…………」

まさか飼いネコの写真をもらうことになるとは思ってなかったパジチュカはいまいち反応に困るような表情を浮かべながらも、フニャトの写真を受け取った。

「楽しかったねー」

「そうだね~」

琴華祭の日程も終わり、帰路につく3人。

「早食い大会……」

いまだに早食いに対する熱意を捨てきれないアナヒトに苦笑しながらも、楽しそうに3人の住むアパートへと足を運んだ。

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