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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:ワケアリの転入生編
229/322

信仰アンダープレッシャー

首都カナンにあるとある喫茶店。

レイと、見知らぬ女性2人がお茶をしていた。

「レイちゃん、久しぶり~! 覚えてる!?」

「うん……ニノちゃん、だよね」

緑色に染められた髪に碧眼が輝くその少女。

名前はニノ。

レイの小学生時代の友人だった。

「こっちはワタシの先輩なんだ」

「ティベリアス・アンドレアですわ。よろしくお願い致します」

そう恭しく礼をするアンドレアは丁寧な物腰で何やら奇妙な安心感を漂わせている。

「ところで本題だけど! レイちゃんはスヴェトって知ってる?」

「……スヴェト?」

「うん! なんて言うのかなぁ……まぁ、サークルみたいなものかな」

「サークル……」

「レイちゃんはこの世界って色々辛いこととか、不条理なこととかが多いと思わない?」

ニノの言葉にレイは静かに頷いた。

実際、レイ自身もそう感じることは沢山あった。

異能者アウトノミアってだけで差別されたり、突然の事故や戦争で色んな人が死んだり、傷を負ったり……こんな世界はあってはならないって、そう感じることもあるよね」

「……うん、確かに、ね」

「そういう苦しみや不条理から解放される方法があるんだ! それがスヴェト――正確には新世界ノヴィー・スヴェトの会って言うんだけど、その教えを守ることなんだよ!」

そう言いながらニノは何やら1冊の本を取り出す。

「これがその会誌なんだけど、ちょっと見て見てよ!」

ニノに薦められ、新世界の為にザ・ノヴェーホ・スヴェタと名付けられた会誌を開いてみる。

“まもなく救世の神が舞い降りる!”や“マルクト神国の崩壊は最終審判の前兆”と言ったアオリと共に、様々な記事やコラム。

それとは別に新世界の会に入った人々の体験談などが綴られていた。

うさん臭さと、どこか内心の恐怖心をあおるような記事の数々にレイもどこか奇妙な不安を感じる。

「スヴェトはね、いずれ平和で苦しみも心配事も無い“新世界”が来るって言うことを信じているサークルなんだ」

「ふぅん」

「スヴェトではその新世界の一員になる為の教えを与えてくれるの。ワタシもスヴェトに入る前は決して良いとは言えない人生だったけど、スヴェトに入って、すっごく世界が輝くようになってきたんだ!」

だが、そう言われてもやや漠然としていて具体的にどういうことがあるのか、レイにはよく分からない。

「スヴェトって、その、新世界――てのに行って、救われることを目指す……んだよね……だったら、その、今の世界では……」

「スヴェトは今の世界での暮らしにも効果があるんだよ! 私が今、すっごく幸せな気分なのもスヴェトのお陰だし、それにスヴェトに入ると色んな所で運が回ってきたり、スヴェトが援助してくれたりするんだぁ!」

「そう、なの?」

「そーなの! ワタシも今、高校の学費はスヴェトから出してもらってるんだ! ウチってあまりお金も無い家でさ、最初はバイトしながら高校に通ってたんだけどとっても大変で……そんな時にスヴェトと出会って!」

そう色々と話をされてもうさん臭さはどうしても消せない。

そこで突然、今まで黙っていたアンドレアが口を開いた。

「レイさんもステラソフィア女学園の生徒が沢山死んだ戦いを知っているでしょう?」

「あ、はい……哀しい、出来事、でした……」

「ああいう悲惨な戦いが起こったのも、この会誌に記されているように新世界の到来が近いからなのです」

「そうそう! つまり、スヴェトに入るなら今がラストチャンスなんだよ!」

そう熱弁するアンドレアとニノにレイはどこか懐疑的な視線を向ける。

それにニノは気づくと言った。

「ねえ、どうして今の世の中には悲惨な出来事が起きちゃったりするか分かる?」

「ううん」

「それはね、この世界には悪魔がいて、その悪魔が色んな邪魔をするからなんだよ!」

「……悪魔」

「悲惨な出来事の裏ではね、色んな悪魔の暗躍があって、その悪魔は常に人々に付き纏っているんだ。もちろん、レイちゃんの傍にもね」

「私の、傍にも?」

「うん、レイちゃんだって色々嫌なことがあるでしょ?」

「……うん」

「それが悪魔の仕業なんだ。でも、スヴェトの教えを実践することでその悪魔を近寄らせなくすることができるの! だから、色々と幸運なことが起こって、色んなことから守られて、そして新世界にも行ける!! とっても最高の教えだと思わない!?」

「ま、まぁね……」

「そうだよね! だから、とりあえず1回だけ! 近くにスヴェトの会館があるから一回だけ行って、簡単な礼拝だけしてみない!?」

そしていよいよ話題はラストスパートへと入ったようだ。

「……えっ」

「10分くらいで終わるから! 1回やってみて、自分に合わないなって思えばやめてもいいしね!」

1回だけなら……そう言う思いと共に、これ以上はヤバいという警鐘も聞こえてくる。

だが、レイはこういう誘いを断れるような性質ではなかった。

それでもレイは勇気を出して口を開く。

「そ、その、今日は……ちょっと、都合が」

「そんなこと言わないでー! これはチャンスなんだよ! 小学校卒業してからロクに会えなかったけど、今日こうやって会えたっていう運命もあるんだし、入らなくても良いから一回試すくらいはやってみようよ!」

「そうです」

ニノの言葉にアンドレアも乗ってくる。

「お時間はとらせません」

グイと迫る2人にレイは押され気味。

「ご、ごめんなさい……っ」

その重圧に耐えきれず、レイは一気に席を立った。

喫茶店を飛び出すレイとその後を追いかけるニノ。

「いこうよ!」

「や、やだよ」

なんとか逃げ切ろうとするレイだが、ついには追いつかれ、その手を掴まれる。

「集会に行ったら絶対『あぁ、行って良かった』ってなるから!」

「やだよ!」

「いこうよー!」

「やだよっ!」

ニノの必死さにレイは屈するどころか逆に変な炎がついた。

普段の彼女ではありえないくらいきっぱりとニノの言葉を否定する。

「い゛、こ゛、お゛、よ゛、ォ」

「や、だ、よ、ォ……」

「ダイナミックエントリィィイイイ!!!」

「ぐふっ!!??」

そこに突如現れた疾風。

強烈な1撃がニノの体を吹き飛ばした。

「ス、スズメさん!」

ニノに飛び蹴りを放ったその正体はスズメ。

「ど、どうして……」

「レイちゃんを無理やり連れて行こうとする、変な人を見つけたからつい……もしかして、友達だった?」

「…………いえ。スズメさん、助かり――ました」

レイの笑顔にスズメはうなずく。

「いこっ、レイちゃん!」

「は、はいっ!」

そのままスズメはレイの手を掴むと一気に駆け出し、その場を後にした。

「……案外、悪くなかった、かも」

レイの呟きは街の喧騒と2人の足音にかき消された。


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